キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
後半13分、東総の1年生司令塔・星野慎吾のループシュートが決まり、試合は3 — 3の同点。
瞬く間に追いつきイケイケの東総とは対照的に、2点リードを追いつかれた武蔵中学のイレブンには重苦しい雰囲気が漂っていた。
「大介たちの言う通り、圧倒的な存在感だな……あの星野ってやつは」
本間が額の汗を拭いながら漏らす。ボランチの向井も苦々しく呟いた。
「かといって、村田とカマラからマークを外すわけにはいかないぞ……」
その時、2年生右サイドバックの広瀬拓海がハッキリとした声で口を開いた。
「先輩、星野は……俺たち下級生に任せてくれませんか?」
「拓海、何か作戦はあるのかい?」
翼が尋ねると、広瀬は迷いない瞳で頷いた。
「星野は巧い。それを封じるために、ナトゥレーザと大介でダブルチームに行きます。やつの弱点は『スタミナ』だ! ただ抜かせるんじゃなく、チェイスして時間を稼ぐことでやつの体力を削る! そこで本間先輩たちがボールを奪ったら、俺と正己(左SB)にボールを預けてください。幅を使ってワイドに展開し、ピッチを広く走らせてさらにスタミナを奪います!」
広瀬は最後にGKの相川大和を見つめた。
「大和、カマラと村田さん『以外』のシュートは絶対に止めてくれ!」
後輩の具体的な戦術案と強い意思を聞いた翼は、パーッと顔をほころばせた。
「よしっ! 拓海の作戦で行こう!」
本間もニッと口元を緩める。
「そうだな! 後輩のケツを拭いてやるのも先輩の役目だ」
CBの真田信次が拳を握りしめた。
「よし、村田とカマラは俺と岳人に任せろ!」
沈んでいた武蔵陣営に、一気に勢いと熱が蘇る!
広瀬は隣の川村大介の肩を叩いた。
「大介、星野を絶対に止めて、勝ち越しゴールを奪うぞ。来年もやつと当たるのは俺たちなんだからな!」
「拓海さん……はいっ!!」
武蔵ボールで試合が再開された。
武蔵はワンタッチ、ツータッチの素早いパス交換でピッチを広く使い、ワイドに展開して東総に的を絞らせない。だが東総も、村田とカマラの運動量に引きずられるようにチーム全員で食らいつく。その中には当然、星野の姿もあった。
それを見た立花監督が、ベンチから身を乗り出して叫ぶ。
「慎吾、無駄走りはするな! パスの出し手と次の受け手を見極めろ!」
立花の鋭い指示に、星野はすぐさま思考を切り替え、冷静に武蔵のパスラインを予測した。
翼からナトゥレーザへ渡る横パス。その瞬間の隙を見逃さず、星野が電光石火のインターセプト!
「ナイスカット、慎吾!」
意気上がる東総イレブン。しかし、前線へ展開しようとした星野の眼前に、川村大介が立ちはだかった!
川村の必死のディフェンスに、星野はステップで振り切ろうと動く。何とかかわしたと思った瞬間、背後から戻ってきたナトゥレーザが挟み込むようにカバーに入った!
「ダブルチームか……!?」
呼吸が乱れ始める星野。
(……だが、俺に二人つくということは、他がフリーになるということだ!)
星野は囲まれながらも、空いている味方へダイレクトでパスを散らす。しかし、本命であるカマラと村田には真田信次と井川岳人がピタリと張り付いて仕事をさせない。
パスを受けたMF山下に対し、村田が叫んだ。
「山下、空いてるぞ! 打てっ!」
山下がペナルティエリア外から狙いすましたシュートを放つ! だが——!
バシィッ!!
「カマラと村田以外は打たせない……言った通りだろ!」
武蔵のGK相川大和が完璧な反応で鋭くセーブ! 弾いたボールを拾ったのは、広瀬拓海だった。
広瀬はボールを収めると、そのまま自ら怒涛の縦ドリブルを開始! ペナルティエリアを越えても止まらない果敢な上がりに、面食らった東総ディフェンスが焦ってチェックに寄ってくる。
寄せてくる寸前、広瀬は大きく反対サイドへロングチェンジ!
左サイドを猛烈な勢いで駆け上がってきたのは、同じくサイドバックの真田正己だ!
星野も必死のバックランで正己を止めようと動くが、ナトゥレーザと川村がピタリと並走して圧力をかけ続ける。星野は二人をかわせないばかりか、体力だけが急速に削られていく。
ハーフラインを越え、ボールは再び右サイドの広瀬へ。広瀬はさらに敵陣深くへ侵入する。
最終ラインで待ち構える“千葉の頭脳”里見の指示が東総ディフェンスへ飛んだ。
(もし中に切れ込んできたら、俺が止める。だから……!)
「翼と火野から目を離すな!」
広瀬が右足を振り抜く。選択したのはクロス!
だが、そのボールは少し精度を欠き、中央の火野も翼も触ることができない。そのまま左サイドのゴールラインを割るかと思われた……その瞬間!
猛烈なオーバーラップを続けていた左SBの真田正己がギリギリで追いつき、ダイレクトでマイナスのクロスを折り返した!
里見が驚愕で目を見開く。
「なっ……! 最初からこれを狙っていたのか!?」
里見が叫ぶと同時に、クロスの先へ走り込んできたナトゥレーザをブロックすべく東総のDF陣が一斉にカバーへ走る。
しかし、ナトゥレーザはニコリと笑うと、ダイレクトで横へ優しくボールを流した。
「引っかかったね♪」
そこへ——星野を完全に振り切り、フリーでバイタルエリアへ走り込んできたのは、同じ1年生の川村大介!
川村は飛び出してくるキーパーの位置を冷静に見極めると、右足で優しくボールをすくい上げた。
綺麗なアーチを描いたボールが、ゴールキーパーの伸ばした手の上を越えて、吸い込まれるようにゴール左隅へと揺れた!
後半24分:武蔵 4 — 3 東総!!
武蔵が怒濤の攻勢で再び勝ち越し!!
翼や火野といった3年生の個の力ではなく、広瀬、正己、相川、川村、ナトゥレーザという1・2年生たちの連動と意地で奪い取った、価値ある勝ち越しゴール!
「大介ぇーっ!!」「拓海! ナイス組みたてだ!!」
抱き合って歓喜を爆発させる武蔵の下級生たち!
武蔵ベンチでは、フィジカルコーチの浅田ユリが胸を打たれて目を潤ませていた。
「あの子たち、すごい……! 1、2年生だけで、あの東総から勝ち越し点を奪うなんて……!」
兵藤監督が深く、満足そうに頷く。
「普段の広瀬は大人しいが、やつの戦術眼は確かだ。星野を動かしてスタミナを削る方法を自分で考えついたんだろう。それをピッチ上で完璧に実行できる川村たちも大したものだよ」
「下の世代が、頼もしく育っていますね……」
「そうだ。……だがな浅田ちゃん、それを可能にしているのは、3年生たちが背中で手本を見せ続けているからだ。翼たち試合に出ている者はもちろん、ベンチにいる者も含めて全員な」
兵藤監督の視線の先には、怪我で出場できない一ノ瀬や、控えGKの田沢たちが、声を枯らしてピッチの仲間へ声援を送り続ける姿があった。
「勝たせたい……絶対に勝ちたいですね、監督!」
「ああ……っ!!」
一方、勝ち越されて意気消沈する東総イレブン。
度重なるスプリントとダブルチームの圧力により、星野慎吾は両手を膝につき、肩で激しく息を乱していた。
そんな星野の背中に、主将の村田が力強く手を置く。
「慎吾、すまん……俺たちがフォローしきれなかった。今は少し休め。もう一度、俺たちにチャンスが来る! そのための道を、俺たちが作るからな!」
「キャプテン……」
村田は荒い息を吐きながら、隣の巨漢へ笑いかけた。
「カマラ、まだやれるな!?」
カマラがギラリと野獣の目を光らせ、白い歯をこぼす。
「もちろんでーす!」
「ヒーローってのは、ここからが強いんだ! 行くぞ、みんな!!」
「おうっ!!」
1・2年生の躍動で再びリードを奪った武蔵中学。
満身創痍の東総が見せる最後の執念。激闘の準決勝第一試合は、いよいよラストのクライマックスへ——!
次回は12時頃に投稿します。お付き合いいただけるとうれしいです。