キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会の3日目が終了した。本日新たに全国大会への切符を掴み取ったのは、江ノ島中学と明和東中学。そして、準決勝を勝ち上がったのは、武蔵中学と東邦学園の2校であった。
明日迎える最終日は、3位決定戦『東総学院対城星学園』、そして決勝戦『武蔵中学対東邦学園』の2試合が行われる予定となっている。決戦を目前に控え、各校はそれぞれの拠点で静かに準備を進めていた。
【武蔵中学・ミーティングルーム】
暗く落とされた室内のスクリーンに、本日の試合や過去の対戦映像が映し出されている。武蔵の選手とスタッフたちは、東邦イレブン一人ひとりの動きや戦術的変化を食い入るように確認していた。
「やはり最終ラインに松山が入ったことで、守備力が抜群に上がって安定しているな」
本間の分析に、一ノ瀬が言葉を重ねる。
「それだけじゃないぜ。松山が上がるとほとんど得点に結びつけている。戦術眼もさらに進化してやがる」
「なあに!俺たちみたいにオフサイドトラップは使えないだろう!」
真田が威勢よく口を開いた瞬間、スクリーンには東邦が綺麗にオフサイドトラップを成功させる映像が流れた。
「……そりゃやってくるよな」
井川が苦笑いを浮かべ、翼が真剣な眼差しでスクリーンを見つめる。
「攻撃もさすがだよ。新田は相変わらずのスピードだし、今日見せた左足のシュート、威力・スピードともに上がっている」
「そして岬も、ゴールが見えたら躊躇なくシュートを打ってきやがるぜ」
火野が苦々しく言うと、井川も同意するように頷いた。
「パスをすると見せかけて自ら打ってきて、打ってくると思えば味方にパス……ディフェンスからしたら厄介極まりないぜ」
「若島津の守備力も相変わらずだ……」
一ノ瀬が呟くと、真田がフィジカルコーチの浅田へ視線を向けた。
「浅田先生、やつらの筋肉の左右バランスのいびつさはなくなったんですか?」
「完全になくなったとは言えないわ。でも、この前の試合の時のような決定的な攻略法にはならないわね。できても限定的と言ったところかしら」
浅田の回答を受け、本間が腕を組む。
「完全に同じ土俵での戦いか……。そこに日向が戻ってくるとなると……」
「本間の言う通りだ。明日は完全に条件が互角だ」
監督の兵藤が静かに立ち上がり、全員を見回した。
「そして日向にしても、ある程度左右バランスのいびつさは克服しているだけでなく、左右同じ威力のシュートを打ってくると考えていた方がいい」
「それなら、明日はどう戦うんですか?」
一ノ瀬の問いに、兵藤は明確な回答を提示した。
「いくら強力なシュートを持っていようとも、打たせなければ意味がない。だからうちはあえて打たせない!」
「中盤を完全に制する、ということですか?」
翼の言葉に兵藤が力強く頷く。
「そうだ。松山が最終ラインに下がった今、中盤はうちが制することができる。空中戦の競り合いは竜馬が制する。だからセカンドボールを確実に拾って、うちの攻撃回数を増やすんだ!」
「明日は、以前のように松山が中盤に上がってくることはないですか?」
本間の懸念に対し、兵藤は戦術的思考を口にした。
「そこは俺も悩んだ。しかし関東大会での東邦の守備の安定ぶりを見てしまえば、以前のように松山を中盤に上げるという決断はなかなか難しい。それに日向のポストプレイもほぼないはずだ。本当はやりたかったはずだが、筋力バランスの改善が最優先で、そこまでの時間はなかったはずだからな」
兵藤は一旦言葉を切り、言葉を継いだ。
「ただ、シュート力に不安がなくなっているのなら、日向が中盤に下がってボールをもらい、そこから自分で打ってくる可能性はあるぞ」
そして、兵藤は翼とナトゥレーザに厳しい視線を向けた。
「あと、翼、ナトゥレーザ。ドライブシュートは打っても構わんが、若島津は必ず対策を立ててくるぞ。基本は江ノ島の赤城が見せたやり方——ボールが落ちる前に威力を殺しにかかるはずだ。ただ、状況さえ整えばその対策を超えることができる!だから無駄打ちだけは避けるんだ!」
「はい!よし、明日はうちが中盤を制して、攻撃で東邦を圧倒するぞ!」
翼の発破に、武蔵イレブンが威勢よく応じる。
「「「おう!!」」」
同じ頃、東邦学園の合宿所でも武蔵中学に対する対策ミーティングが行われていた。
「翼のやつは、相変わらずのプレイだぜ」
松山が口を開くと、岬が深く頷く。
「そうだね。それよりは周りのプレイヤーだよ。翼君を囮に使いながら自分たちで得点を挙げて、攻撃のバリエーションを増やしている」
「東総戦の勝ち越しゴールは、下級生だけで取っているからな」
松山の指摘を受け、沢田が珍しく感情を剥き出しにして悔しさを滲ませた。
「大介のやつ、左足だけでなく右足の精度も高くなっている……!」
「松山の言う通りだ。武蔵は大空翼のワンマンチームではないということだ」
監督の北詰が重々しく言うと、隣の大沢が問いかけた。
「北詰さん、では明日はどう戦う?」
「明日は、日向を使う!日向と反町のツートップだ。新田は中盤の左サイドに入れ。松木、今日はご苦労だった。だが明日は総力戦だ。ベンチメンバーもいつでも出られるように準備を怠るなよ」
「「「はい!」」」
北詰は部員の顔を一人ひとり見つめ、頷いた。
「明日の試合だが、武蔵の方が中盤のメンバー構成でうちより分があると見ている。だからこそ、明日は中盤での攻防が鍵となる」
「監督、それなら俺をボランチに起用してください!俺が入れば武蔵に遅れは取りません!」
身を乗り出す松山に、北詰は苦笑いを浮かべた。
「松山、お前は俺の言いたいことを先に言うやつだな。それは俺も考えた。だが大沢さんのおかげでお前が最終ラインに入ってからうちの守備力が格段に向上した。それを捨てて中盤での勝負に出るのはリスクが大きすぎる」
北詰は言葉を強めた。
「だからこそ、岬、沢田、新田、小池。お前たちが連動してセカンドボールを拾い、うちの攻撃チャンスを増やすんだ。特に新田、お前のスピードはうちの最大の武器であり、向こうにとっても脅威となる。ピッチを動き回って相手にペースを握らせるな!」
視線をそれぞれに向ける。
「沢田、向こうの川村にやられ放しか?小池、お前のボール奪取力は本間に負けてないぞ。そして岬、翼やナトゥレーザのように試合を決めるプレイヤーになれ!」
指名された4人がきっぱりと返答する。
「「「「はい!」」」」
松山が納得したように頷いた。
「なるほど、俺は最終ラインで火野の競り合いに負けないようにするってことか……。それだけでうちのチャンスが増えるわけですね」
「そうだ」
北詰は珍しく穏やかな笑顔を見せた。
しかし、その傍らで日向小次郎だけは「火野」の名を聞いた瞬間、鋭く厳しい表情へと変わっていた。
「……火野……!」
その反応を見逃さなかった北詰が声をかける。
「中盤が作ったチャンスを決めるのが反町、日向、お前たちだぞ!日向、お前の特訓の成果は先ほど見せてもらった」
ミーティング直前、グラウンドにおいて「日向対岬・松山・新田・反町・若島津」の1対5による実戦形式が行われていた。日向は九十九里で体得した圧倒的なタイガーショットを放ち、5人をねじ伏せて勝利を収めていたのだった。
「あのシュートで、お前が受けた屈辱を明日の試合にぶつけるんだ」
「北詰監督……」
日向は静かに息を吐くと、不敵な笑みを浮かべた。
「よし、明日は俺にパスをどんどん回してくれ。俺がどんな場所からでも決めてやるぜ!」
日向の頼もしい宣言に、東邦の室内が一気に活気と熱気に包まれる。
だが、松山だけは冷静な表情のまま北詰と大沢へ向き直った。
「北詰監督、大沢コーチ。もし明日の試合、それでももつれるようなことがあれば……“例のやつ”を使ってもいいですか?」
大沢が目を見張る。
「“あれ”を使うか!できれば全国まで取っておきたいんだがな……」
北詰はしばらく腕を組み、深く思案した後に決断を下した。
「松山、うちは前回武蔵に負けている。今回はチャレンジャーだ。出し惜しみしている場合じゃないな。よかろう、その場面が来たら使え!」
「わかりました。俺も“あれ”は全国で使いたいんで、今回は使わない展開になることを願っています」
こうして夜が更けるまで両校の戦力分析と綿密なシミュレーションは続き、運命の決戦の朝を迎えるのであった。
関東大会決勝に向けて両校のミーティングの様子を描きました。
松山の言う“あれ”は決勝で披露されるのか!?
※明日は3話投稿です。お付き合いいただけるとうれしいです。