キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

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ふらの小キャプテン松山の胸中は複雑だった。三杉を失ったショックを引きずったままのチームを倒しての優勝。また岬との会話から東邦学園のスカウトは翼や日向のスペアにすぎないことを知る。しかし、ここで松山の意地が爆発する。自分がスペア扱いであることを承知の上で自分とチームの優勝がフロックでないことを証明するために東邦からのスカウトを受けると岬に伝える。一方翼の様子は?


第9話 大空夫妻の決断

全国小学生サッカー大会の狂騒が過ぎ去り、一週間が経った。

夏の終わりを告げる蝉時雨が、静岡県南葛市の街並みに響いている。

若林邸のプライベートグラウンドでは、汗を拭う若林源三の姿があった。

足の負傷はすでに完治しており、全国大会のピッチに立てなかった悔しさを晴らすかのように、猛烈なセービング練習に打ち込んでいた。

「よし、今日はここまでだ」

ボールを収めた若林に、専属コーチの見上辰夫がタオルを投げ渡す。

「はい! ありがとうございました」

「源三……中学は修哲でそのままサッカーを続けるつもりか?」

「もちろんです! 今回は怪我で全国を逃しましたが、中学では俺が名実ともに日本No.1のゴールキーパーであることを証明してみせますよ。見上さん、引き続き指導をお願いします!」

不敵に笑う若林に対し、見上は複雑な表情で黙り込んだ。知識豊富な彼の頭には、ある大きな決断が浮かんでいた。見上は意を決したように静かに口を開いた。

「……そのことなんだがな、源三。実は俺のところに、西ドイツでのコーチ研修の話が来ているんだ。……俺はその話を受けようと思っている」

「えっ……!? そ、そんな! 見上さんがいなくなったら、俺のコーチは……!」

言葉を失う若林を見つめ、見上はまっすぐな目で告げた。

「だから源三……お前も俺と一緒に、西ドイツへ来ないか?」

「西ドイツに……俺が……?」

日本の枠を飛び出し、世界の頂点・西ドイツへ――。若林源三の胸に、新たな熱い風が吹き荒れようとしていた。

同じ頃、南葛市の大空家の玄関前には、石崎をはじめとする南葛小のメンバーが集まっていた。

「ごめんなさいね……あの子、あれからずっと部屋から出ようとしなくて……」

申し訳なさそうに頭を下げる翼の母・奈津子に対し、石崎は寂しげに頭を掻いた。

「そうですか……。じゃあまた明日来ます。翼によろしく言っておいてください!」

退散していく仲間たちの背中を、奈津子は切ない目で見送った。

家の中では、久しぶりに帰宅した父・広大(こだい)、居候しているロベルト本郷が重苦しい空気の中で話し込んでいた。

「翼は……あれからずっと部屋にこもりきりなのか?」

「ええ……こっちが話しかけても、返事はあっても心がここにあらずという感じで……」

広大は深く溜息をつき、静かに首を振った。

「皮肉なものだな。あんなに大好きなサッカーが、翼をあそこまで追い詰めるとは……」

「すみません、キャプテン(船長)……俺がついていながら、翼をこんな目にあわせてしまって……」

頭を垂れるロベルトに、広大は優しく首を振った。

「ロベルト、君のせいじゃないさ。……奈津子、医者は何て言っているんだ?」

「……身体にはどこにも異常はないって。ただ、精神的に強烈なストレスがかかってしまって、脳が拒絶反応を起こしている状態なの。まずは翼にこれ以上のストレスをかけないことが一番大事だって……」

「となると、しばらくはこの状態が続くわけか……」

夫の言葉を聞き、奈津子は意を決したように二人を見つめた。

「あなた……ロベルト……お願いがあるの。……翼を、今すぐブラジルへ連れて行ってほしいの!」

「「えっ……!?」」

広大とロベルトが思わず声をあげる。奈津子は切痛な想いを言葉に乗せた。

「今のこの日本にいる状況は、あの子にとってあまりにも危険だわ。誰もあの子を知らない遠い土地で、一度サッカーから完全に離れてのんびり過ごすの……。そうすれば、あの子の心にかかったストレスを取り除いてあげられるんじゃないかしら。……もちろん、私も後から同行するわ」

広大は妻の言葉をじっと受け止め、深く思案した。そして力強く頷いた。

「……なるほど。私も今回の休みが終われば、また長期の航海に出る。しばらく家に戻ることはできない。翼にとって忌まわしい記憶が残るこの日本の環境から引き離すのは、良い判断かもしれないな」

広大はロベルトの前に立ち、その両肩を強く掴んだ。

「ロベルト、私からも頼む。息子を……翼を、どうかブラジルへ連れて行ってやってくれないか」

「奈津子さん……キャプテン(船長)……」

ロベルトの胸に、かつて絶望の淵にいた自分を救ってくれた広大の姿が蘇る。ロベルトは固く拳を握り締め、力強く頷いた。

「……分かりました。目の病気(網膜剥離)で選手生命を絶たれ、自暴自棄になっていた俺を救ってくれたのは、キャプテン、あなただ。その息子が絶望の淵に立っているのを救うのは……俺の役目です。翼をブラジルへ連れて行きます!」

「ありがとう、ロベルト……!」

「ですが、ブラジルで翼を受け入れるための生活の準備が必要です。一度俺が先に帰国して、向こうで準備が整ってから連れて行くという形でいいでしょうか?」

「いや」と、広大が静かに遮った。

「翼は、今すぐにでも一緒に連れて行ってくれ。一日たりとも、あの子をこの環境に置いておくのは良くない」

奈津子もそれに同意した。

「そうね。日本での自宅の整理や手続きは私がやるわ。だからロベルト、あなたはひとまず翼を連れて、先にブラジルへ飛んでちょうだい!」

こうして、大空翼のブラジル行きが決定した。

夢を叶えるためでも、プロになるためでもない――ただ傷ついた少年の「心の治療」をするために。

この異例の決断が、大空翼という少年の運命に、そして日本サッカーの未来に何をもたらすのか……この時はまだ、誰も知る由がなかった。

 




心が壊れた翼はブラジルに行くことが決定しました。原作とは違う展開となりました。一方若林は原作通り西ドイツへ!この後どうなるか!
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