キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
勝つのはどっち!?
関東大会決勝——武蔵中学対東邦学園の一戦が、超満員の駒沢競技場でついにその時を迎えた。
【武蔵中学・スターティングメンバー】
GK:相川
DF:井川、真田信次、広瀬、真田正巳
MF:大空翼、ナトゥレーザ、川村、本間
FW:火野、一ノ瀬
【東邦学園・スターティングメンバー】
GK:若島津
DF:川辺、松山、古田、今井
MF:岬、沢田、新田、小池
FW:日向、反町
コイントスにより、東邦学園のボールでキックオフとなった。
中央のセンターサークル。ボールは反町から日向へと渡る。
火野は不敵な笑みを浮かべながら、都大会で東邦の弱点とされた日向の左側へと素早く回り込んだ。
だが、日向もまたニヤリと不敵に笑い返した。
「火野、この時を待っていたぜ!」
次の瞬間、日向は早くも左足を大きく引き、激しいシュート体勢へと入る。
「くらえ!これが俺のタイガーショットだ!」
昨夜の「1対5」の対決の際、山本コーチによって命名された日向の新しい武器。日向の左足から放たれたシュートは、凄まじい地鳴りのようなうなりを上げて一直線に武蔵ゴールへと迫った。
武蔵のゴールキーパー相川は即座に反応して身体を躍らせるが、ボールの軌道と速度を見極めた後、途中で追うのを諦めた。
——ガンッ!!
激しい金属音がスタジアム中に響き渡る。
日向のタイガーショットは、武蔵ゴールの右側(武蔵側から見て)のゴールポスト角を直撃していた。あまりの衝撃と威力に、反動でボールの空気が一瞬で抜けて萎んでしまうほどだった。
静まり返った後、スタンドからは怒涛のような驚愕のどよめきが湧き起こった。
「な、なんてシュートだ!日向のやつ……!」
「おい、今のシュート、左足だったぞ!?」
「左側といえば、日向の弱点で都大会の決勝で散々狙われて、無様に芝生の上に転がされていたはずだぞ!」
「都大会の決勝なんてつい最近だぞ!まさかこんな短期間で、あんな強烈なシュートが打てるようになったっていうのか!?」
「勝てる……これなら武蔵に勝てるぞ!」
スタンドの関係者席で見つめる吉良耕三も、渋い表情で腕を組んでいた。
(わしが沖縄で授けようとしていたのは右足のみ……。小次郎め、どうやってあんな強力な左足のシュートが打てるようになったというんじゃ……)
吉良は鋭い視線を東邦ベンチへと向けた。
(まさか、小次郎を腑抜けにしたヘボコーチが授けたとでもいうのか……!?)
スタンド全体が騒然となる中、両チームのベンチは実に対照的なリアクションを見せていた。
あからさまな威嚇である日向の超ロングシュートを見せつけられたにもかかわらず、武蔵の兵藤監督は全てが計算通りと言わんばかりの冷静な表情を保っていた。
「やはり予想通り、わざと外してきたか……」
フィジカルコーチの浅田が感心したように尋ねる。
「監督、なぜそこまで日向君の心理を読むことができるのですか?」
「悪いが、相手の好みや嗜好、癖まで調べ抜き、その上で攻略法を立てるのが監督の仕事だからな」
兵藤は静かに言葉を続けた。
「だから日向の生い立ちまで徹底的に調べさせてもらった。やつは小学生の時から、幼い兄弟を養うために自分のやりたいことを犠牲にしてまで家計を助けるアルバイトをしていた」
「……」
「責任感は人一倍あるが、これまで他人から無条件でかわいがられる経験はあまりなかったはずだ。相手から舐められないため、自分を認めさせるために派手なパフォーマンスを好むのさ。だからわざと強力なシュートを外して『いつでも打てるぞ』と心理戦を仕掛けてきたのさ」
浅田が深く納得したように頷く。
「なるほど……承認欲求が強い子と言えるのですね」
ベンチでそんな分析が行われている間、ピッチ上では破裂したボールの交換が行われていた。その合間を縫って、GKの相川が大声で味方ディフェンス陣に声を張り上げた。
「大丈夫!竜馬さんのシュートに比べれば大したことない!あれなら止めることができる!」
相川は心の中で付け加えた。
(わざと外してみせて、自分の方が格上だと見せかけるなんて手段は、バレーでもよくあった手だ!)
ベンチの兵藤が思わず唸る。
「相川のやつめ、さすが他競技で日本一になっただけのことはあるな。日向の心理戦を完璧に読み切り、即座に返してくるとは」
相川の言葉を聞いた火野が、日向に向かってせせら笑った。
「ふっ、だとよ!1年生に言われてるぜ、お前!」
「何だと……舐めやがって……!」
激昂しかける日向に対し、東邦ベンチの北詰監督は険しい表情を浮かべていた。
「山本コーチ、日向の筋力バランスの改善には成功したが、敵を侮る悪い癖までは改善できなかったようだな」
「はい……申し訳ありません」
申し訳なさそうに頭を下げる山本に対し、大沢が穏やかに割って入った。
「そう言うな、北詰さん。あれが日向の長所であり、短所でもある」
「わかっていますよ、大沢さん。山本コーチも謝る必要はない。ただ、日向本人には釘を刺さないとな」
「その必要はなさそうだぜ、北詰さん。現に“ピッチの監督”と“メンタルコーチ”が日向の元に向かってるぜ」
大沢の言葉に北詰がピッチへ視線を戻すと、そこには怒りを露わにした松山と、落ち着いた表情の岬が日向へと歩み寄る姿があった。
日向の目の前に立った松山は、厳しい眼光で日向を鋭く見据え、毅然とした強い調子で言葉を叩きつけた。
「日向!北詰監督が試合前に言ったことを忘れたのか!相手を侮るなと!」
松山の気迫に、日向はハッとして息を飲んだ。東邦イレブンにも緊張が走る。
「なぜ、わざとシュートを外した!俺たちは前の試合で武蔵に負けているんだぞ!お前の傲慢なプレイのせいで、俺たちは貴重な先制の1点を損したんだ!切り札は最後まで取っておくから切り札なんだぞ!」
一切の甘えを許さない松山の真剣な怒声と凛とした気迫に、火野もニヤリと笑って日向を煽る。
「お前んとこのキャプテンは、勝負の厳しさをよく分かってやがるぜ」
松山の真っ直ぐな眼差しと芯のある叱咤を受け、日向は己の慢心を強く恥じた。
「……すまない、松山。特訓がうまくいって調子に乗りすぎていた……」
「言葉の謝罪はいらない!日向、プレイでそれを証明しろ!」
松山の妥協なき姿勢を受け、日向の瞳の奥に静かな、しかし激しい覚醒の炎が宿った。
そこへ、岬が穏やかな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
「大丈夫だ、小次郎。いいシュートだったよ。次は決めてくれよ!」
「……岬……!」
ベンチからその光景を見つめていた北詰監督は、感慨深そうに3年前の出来事を思い出していた。
「3年前、翼ではなく松山と岬を獲得した時は『掘り出し物』程度の認識だったが……今ではあの時二人を獲得できたことを心から感謝するよ、大沢さん」
その頃、武蔵の陣営でも翼が仲間たちに向かって力強く声をかけていた。
「試合はこれからだぞ!気を引き締めるんだ、みんな!」
「「「おう!!」」」
仕掛けられた心理戦、そしてそれを乗り越えた両チームの絆。
関東大会決勝は、まだ始まったばかりであった。
日向得意のセンターサークルからの超ロングシュートの顛末でした。原作を読んでいて思っていたのは、日向はちょいちょいわざとシュートを外したりして“格上感”を引き出していましたが、ちゃんとその時に決めていたら試合に勝っていたんじゃないの?と常々疑問に思うことがあったので描きました。まあ原作は日向がチームのトップで誰も突っ込めない展開でしたが…
本日の投稿は終了です。明日は3話予約投稿しておきます。お付き合いいただけるとうれしいです。