キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会決勝は、前半15分に大きく動いた。
武蔵中学のエースストライカー・火野竜馬の圧倒的な一撃、「ドラゴンシュート」。その凄まじい破壊力によって武蔵が先制点を奪い取った。
しかし、この先制ゴールは、単なる1点以上の計り知れない心理的衝撃を東邦学園イレブンに与えていた。
守護神の若島津健が、自分の手に残る激痛に耐えながら俯く。
「スピード、威力ともに……火野の方が日向さんより上だ……」
沢田タケシも絶望に打ちひしがれた表情を浮かべた。
「そんな……日向さんが必死の思いで開発したタイガーショットを、火野さんのシュートが上回るなんて……」
新田や岬も言葉を失い、静かに日向の背中を見つめていた。
(……日向さん……)
(……小次郎……)
そして、普段は厳しくチームを鼓舞する主将の松山光でさえも、この瞬間ばかりは日向に安易な声をかけることができずにいた。
ピッチ中央で佇む日向小次郎は、ただじっと足元を見つめ、東邦学園に入学してからの年月を振り返っていた。
1年目——期待のストライカーとして周囲の期待に応えるべくがむしゃらにゴールを重ね、自身初となる日本一の歓喜を味わった日。
2年目——主力を担う絶対的なエースとしてチームを牽引し、見事に全国2連覇を達成した日。
そして3年目——誰もが偉業となる3連覇を期待し、順風満帆に突き進むはずだった。しかし、その誇りは1人の男——火野竜馬によって粉々に打ち砕かれた。都大会決勝、何度芝生の上に転がされたことか。怒りで我を忘れた果てに突きつけられた、屈辱のレッドカード。試合後に恩師である吉良耕三から浴びせられた怒号と失望の言葉。
そうしたあらゆる屈辱を乗り越え、山本コーチによる壮絶な指導に耐え抜いて手にした渾身の新しい武器。これなら火野に勝てる——そう信じて放った渾身のシュートは1年生キーパーの相川に受け止められ、挙げ句の果てに宿敵は自分を遥かに凌駕する威力のシュートを引っ提げて目の前に立ちはだかっていた。
日向の脳裏に、自分をあざ笑う火野の不敵な顔が鮮明に浮かび上がる。
激しい悔しさと怒りで、日向の肩がワナワナと震えた。
(勝てないのであれば……このまま試合を放棄するか……!)
一瞬、弱音とも言える極論が日向の脳裏をよぎった。
その時であった。
「顔を上げるんだ、日向!そして周りをよく見るんだ!」
松山の力強い声がピッチに響いた。
松山に促されるように、日向はゆっくりと頭を上げ、周囲を見渡した。
そこには、自分を心から慕い、不安そうに自分を見つめる沢田タケシがいた。明和FCの時代から自分を信じて追いかけてきた若島津健がいた。生意気な言動を見せながらも、裏では人一倍の努力を重ねてきた新田瞬がいた。かつてしのぎを削り、再び同じチームで肩を並べるかけがえのない戦友・岬太郎がいた。そして、最初に自分に敗北を味あわせ、東邦に入ってからは抜群のリーダーシップと人格でチームを束ねてきた主将・松山光がいた。
視線をベンチへ向けると、自分を心配そうに見守る控えの部員たち、自分を東邦学園へと招き入れてくれた大沢コーチ、二人三脚で血の滲む特訓に付き合ってくれた山本コーチ、そしてどんな時も自分を温かく、時に厳しく信頼し続けてくれる北詰監督の姿があった。
さらにスタンドを見上げれば、声を枯らして必死に応援を続ける東邦学園サッカー部の部員たち。そして、その中央に誇らしげに掲げられた巨大な横断幕の文字が、日向の目に飛び込んできた。
——『全国三連覇』——
「うぉぉぉぉぉぉぉーーっっ!!」
日向の胸の奥底から、魂を揺さぶる猛虎の咆哮が沸き上がった!
「日向さん!」
「小次郎!」
「日向!」
不意の叫びに、沢田、若島津、新田、そして岬と松山が目を見開く。
日向は己の胸の中で、溢れ出る想いを噛み締めていた。
(悔しいが……スピード、パワー、テクニック……現時点で俺は火野に勝てない!……だが!だが……!!)
日向は鋭い眼光で松山と岬を見据えた。
「全国三連覇だけは、絶対に譲れないんだ!」
「日向……!」
松山が息をのむ。日向は覚悟を決めた表情で岬に向き直った。
「岬、すまない!あの距離からじゃ、俺のシュートは向こうのキーパーに止められる。もっとゴール近くまで侵入して打ちたい……!だから、中でパスをくれ!」
かつてのエゴを捨て、チームの勝利のために頭を下げる日向の姿に、岬は胸を打たれ、力強く頷いた。
「……小次郎……分かったよ!」
松山も不敵な笑みを浮かべ、全員に向かって叫んだ。
「よし!時間はまだたっぷりある!慌てる時間じゃないぞ。じっくりつないで、まずは同点にするぞ!」
「「「おう!!」」」
ベンチでその光景を見つめていた北詰監督が、静かに感無量の呟きを漏らした。
「壁を越えたか……日向」
一方、武蔵中学のベンチでは、兵藤監督が渋い表情で腕を組んでいた。
「チッ……眠っていた虎が目覚めたか!ここからの東邦は、これまで以上にやっかいだぞ!」
武蔵イレブンもまた、日向の変化を敏感に察知していた。
ナトゥレーザがボールを見つめたまま呟く。
「翼、嵐が来るぞ!」
「そうだな……だけど俺たちも、勝利は譲れない!」
翼も力強い瞳で東邦陣内を見据え、一歩も引かぬ姿勢を見せる。
己の弱点を自ら受け入れ、やるべきことを確認した日向。
1点を追う王者・東邦学園の、真の反撃がここから始まろうとしていた。
タイガーショットよりさらに上の威力であるドラゴンシュートを身につけていた火野に対して自らの敗北を感じとったた日向。そこから立ち直る方法として自らの現状を受け入れながらも絶対譲れないものを見つけるのが必要です。それが“全国三連覇”です!“スラムダンク”の山王戦で河田兄に全く歯が立たなかった赤木と同じような展開になっていましたが、日向ならやりそうな感じなので描きました。
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