キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

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武蔵VS東邦は、武蔵が先制するも東邦が反撃し、3点を奪い2点リードで前半を終えるのであった。


第92話 それぞれの思い

関東大会決勝は前半が終了し、3−1と東邦学園が2点リードのままハーフタイムを迎えた。

ロッカールームへと戻る東邦学園のムードは、極めて明るく熱を帯びていた。

「よし!前半を終えて2点リードだ!このままのペースで武蔵に雪辱を果たすぞ!」

小池たちが拳を握り締めると、岬も日向に笑顔を向けた。

「ナイスシュート、小次郎。一時はどうなるかと思ったけれど、もう大丈夫そうだね」

「ああ、任せろ。今は形よりも“ゴール”という結果が出せればそれでいい!」

選手同士で前向きな言葉が飛び交う。しかし、そこに相手である武蔵中学を軽んじるような慢心は微塵もなかった。

そこへ北詰監督が静かに歩み寄り、全員を見渡した。

「前半、よく戦った。あの武蔵を相手に2点のリードは上出来だ。……されど、敵は武蔵だぞ。2点リードしているからと守りに入れば、あっという間にやられる。もう一度、0−0のスタートだと思って後半に臨むんだ」

「「はい!」」

「若島津、武蔵は後半、追いつくために遠目からでもどんどんシュートを打ってくるぞ。火野、翼、ナトゥレーザのシュート対策はできているのか?」

指名された若島津が、冷静な表情で答える。

「火野のシュートに関しては、日向さんのシュートよりも早く動き出せばなんとか対応できると思います。翼とナトゥレーザのドライブシュート対策ですが……江ノ島中の赤城が取った手法と同じく、一度ボールの威力を押し殺してからセービングに入ります。ですが、本気のシュートをまだ受けていない以上、止められる確率は五分五分です」

その言葉を聞いた松山が、すかさず声を張り上げた。

「大丈夫だ、若島津!俺がコースを限定させて、あいつらに完璧な体勢で打たせはしない!」

「松山だけに任せないよ!僕たち中盤も同じだ!」

岬が続き、さらに日向も力強く言い放った。

「俺たち前線もだぞ、反町。あいつらに楽なプレーなんかさせるかよ!」

そのやり取りを黙って見ていた北詰監督は、チームの決定的な変化を確信していた。

(普段は松山の叱咤だけであったが、今では周りが自発的に声を出して課題を指摘し合えている。これは自我の衝突ではない。一人ひとりが自らの課題を正しく認識し、それを克服するために意見を交わせる組織へと脱皮したのだ)

北詰は深く頷き、力強く締めくくった。

「よし。チームとしての総合力はうちが上だぞ。後半、それをピッチ上で証明してこい!」

「「「おう!!」」」

一方、超満員の駒沢競技場のスタンドでも、様々な思惑が交錯していた。

関係者席の片桐は、眼下のピッチを見つめながら独りごちた。

「東邦が2点リードか……。この結果は何より日向の覚醒が大きい。都大会の屈辱を晴らすべく猛特訓を重ねたが、それでも火野に及ばず絶望の淵に立たされた。だがそれによって己の現状をすべて受け入れ、チームの勝利のためだけに自らを捧げられるようになったのだ。そして日向不在の中でおのおのが鍛え上げられたことで、個々のレベルも引き上がっている。……翼、兵藤監督、この強固になった東邦をどう攻略するつもりだ?」

少し離れた席では、吉良耕三が渋い顔で腕を組んでいた。

「小次郎のやつ、見事じゃ。わしが沖縄の海で与えようとしていたもの以上の武器を、自力で掴み取ったようだな。……まあ、わし以外の手によってというのが少々気に入らんがな」

一般客席からもどよめきが絶えない。

「東邦、強ぇぇーっ!」

「関東王者は東邦で決まりだな!」

「岬がこの試合でもゴールを決めたぞ!翼と完全に互角じゃないか!?」

「王者は王者でも、やっぱり都王者より全国王者の方が一枚上だったか!」

そうした観客の雑音が、江ノ島中学の面々が陣取る一角にも聞こえていた。

「私の翼(自称)が、東邦の軟弱野郎(岬)と同じなわけないだろ!」

江口翔子が憤慨すると、山村も同調する。

「そうだ!陽子ちゃんの武蔵が負けるわけがないんだ!」

「そーだそーだ!颯、ちょっとあいつら締めてこようぜ!」

加藤が拳を握り締めると、颯もニヤリと笑った。

「そーだな、いっちょやってやるか」

不穏な動きを察知した顧問の瀧本が、即座にふたりを叱り飛ばした。

「颯!雅人!スポーツに暴力を持ち込んだらダメだ!スポーツの借りはスポーツで返すんだ!」

「まあ見てなって。翼さんがこのままで終わるわけがないんだからさ」

藤原が泰然とした態度で笑うと、山村と加藤はバツの悪そうな顔を浮かべた。

「……彰さん……」

江口がスタンドに向かって大声を張り上げた。

「俺たちは翼を信じて、スタンドから武蔵を全力で応援するぞ!」

また別の一角では、九州大会を制して視察に訪れていた比良戸カルテット——次藤洋、佐野満、ファン・デン・ベルク、ファルクの4人が戦況を見つめていた。

「3−1……さすが王者・東邦ですね」

佐野の言葉に、巨漢の次藤が不敵に笑う。

「フッ、倒しがいのある相手たい」

「俺は……リードしているチームよりも、追い詰められているチームの方が気になるな。特に9番(火野)、10番(翼)、14番(ナトゥレーザ)がね」

ファン・デン・ベルクが静かに呟くと、ファルクも深く同意した。

「ああ。あの3人は俺たちと同じように、“サッカーの本場”の空気を身に纏っている気がするぜ」

「9番の火野はウルグアイ、10番の翼と14番のナトゥレーザはブラジル帰りです」

佐野の解説に、ファルクが眼光を鋭くする。

「なるほどな……となると、この試合はまだまだもつれるぞ」

「九州大会を制してすぐ東京に来た甲斐があったというものたい!……だが、全国で優勝するのは俺たち比良戸たい!」

その頃、緊張感が漂う武蔵中学のベンチ。

「クソッ、やられたぜ!」

真田信次が悔しげに汗を拭うと、本間が冷静に課題を口にした。

「少しチェックが遅れているな。後半はもう少し早く動いてみよう」

「俺も前線から激しくプレスを仕掛ける。それを見てコースを限定してくれ」

一ノ瀬が提案すると、右SBの広瀬も言葉を重ねた。

「前半は東邦の変幻自在な動きに翻弄されたが、後半はやり返そう。ファウルをもらってセットプレーからチャンスを作るのはどうだろうか?」

だが、真田正巳は首を横に振った。

「いや、後半はナトゥレーザや翼キャプテン、竜馬さんにどんどんシュートを打ってもらって仕留めるべきだ」

武蔵もまた、東邦同様に選手同士で活発に意見を戦わせていた。

頃合いを見計らい、兵藤監督が静かに口を開いた。

「前半はいいようにやられてしまったな。……だが、やられっぱなしで終わるお前たちではないだろう?」

真田信次が即座に立ち上がった。

「当たり前だ!相手がどこだろうと、勝つのは俺たちだ!」

兵藤の唇に、ニヤリと笑みが浮かぶ。

「上等だ。後半はこちらが敵より早く動き、ピッチを圧倒するぞ」

「しかし監督、東邦の守りは固いですよ」

本間の懸念に対し、兵藤は冷徹な分析を提示した。

「確かに固い。だが松山は元々守備力が高かったとはいえ、センターバックへのコンバートから日が浅い。松山と周囲の連携に一瞬のズレが生じることもある。そこが狙い目だ。広瀬の言う通り、ファウルを誘ってセットプレーからのチャンスも積極的に狙っていくぞ」

兵藤はさらに言葉を強めた。

「翼、ナトゥレーザ、遠慮なく仕掛けろ。前半、相手はお前たちの対応で手一杯だったはずだ。特に1年生の沢田を徹底的に狙うんだ。いくら明和FC時代に吉良耕三に鍛えられたとはいえ、半年前まではまだ小学生だ。やつを限界まで疲れさせるんだ!」

「監督、それを言うならうちの大介や正巳も1年生ですが……」

一ノ瀬が苦笑いすると、真田信次が胸を叩いた。

「なあに、正巳は俺の弟だ!やわな鍛え方はしてねえよ、根性で乗り切るさ!」

兵藤は苦笑しつつ、表情を引き締めた。

「信次の戯言はともかく、うちも不測の事態に備えるぞ。ベンチメンバー全員、いつでもピッチに出られるよう準備を怠るな!」

「「はい!!」」

「監督!後半はドライブシュートを打っていいんだろ!?」

ナトゥレーザが身を乗り出すと、兵藤は頷いた。

「ああ、構わん。ただし、いつも言っているように無駄打ちだけは絶対にするなよ」

兵藤は最後に主将の大空翼を見つめた。

「後半はうちのキックオフからスタートだ。翼、センターサークルから無理にシュートを放って士気を上げようなどと考えるなよ。うちの士気はそんな演出をしなくても十分に高い。むしろ打つと見せかけて敵を安心させてやるんだ。自分の策がハマったと相手が過信した瞬間こそ、最も大きな隙が生まれる」

翼は力強い瞳で答えた。

「分かりました!……よし、みんな行こう!」

翼の掛け声とともに、武蔵イレブンが一斉にピッチへと飛び出していく。

翼も続こうとしたその時、ベンチ脇から声がかかった。

「翼君!」

振り向くと、マネージャーの青葉弥生が立っていた。

「どうしたんだい、弥生ちゃん?」

弥生は三杉淳の残した『三杉ノート』を胸に強く抱きしめ、不安げに唇を噛んでいた。

「私……何だかすごく不安で……」

翼は優しく、しかし揺るぎない笑顔を浮かべて答えた。

「大丈夫だよ。三杉君と一緒に見守っていてくれよ!」

翼は力強く足を踏み出し、緑の芝生へと駆け出していった。

「翼君……」

弥生は伸びていく翼の背中を見つめながら、最後まで言葉にできなかった想いを胸の底に沈めた。

(……この試合……負けそうな気がする……)

それぞれの信念、策略、そして胸に秘めた予感を乗せて——運命の後半戦が、今まさに始まろうとしていた。

 




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