キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会決勝、武蔵中学VS東邦学園の死闘は、2点ビハインドを追う武蔵のキックオフで後半戦を迎えようとしていた。
ピッチへ入る直前、主将の大空翼がメンバーを集めて手短に作戦を指示していた。
「後半は俺たちのボールからスタートだ。ここでまずは1点を返すぞ。……まずセンターサークルで俺がドライブシュートを打つ。だが、これはフェイクだ!ボールはナトゥレーザへ送る」
「俺のドライブシュートもフェイクだな!」
ナトゥレーザが不敵に笑うと、翼は力強く頷いた。
「そうだ!この一連の動きで、日向君や岬君の意識は必ずつられる。仕上げは竜馬だ!ナトゥレーザのパスが来た瞬間にすぐ打てるよう、左足を軸にして回転し、シュート体勢を整えておいてくれ。不意を突いて放たれれば、フェイクの連続で体勢を崩している若島津君は対応できないはずだ!」
副主将の本間が膝を打つ。
「なるほど!相手に自分たちの策がハマったと思わせ、油断を誘うわけだな」
火野が力強くOKサインを作ってみせた。
「了解だ、翼!ナトゥレーザ、パスを頼むぜ!」
「おう、任せろ!」
翼が全員の瞳を見据える。
「よし、まずは1点返そう!」
「「「おう!!」」」
武蔵イレブンがそれぞれのポジションへと散っていく。
センターサークルに入ったのは、翼とFWの一ノ瀬であった。
その陣形を見たスタンドがどよめく。
「武蔵がフォーメーションを変えてきたぞ!」
「翼がトップに入った!2トップから3トップにするのか!?」
「……翼……」
日向が眼光を鋭くし、武蔵ベンチではフィジカルコーチの浅田が兵藤監督へ問いかけた。
「これは監督の指示ですか?」
「いや、俺じゃない。おそらく翼に何か明確な考えがあるのだろう」
それぞれの思惑が交錯する中、後半開始のホイッスルが鳴り響いた。
ボールは一ノ瀬からトップの翼へ。翼はボールを受けるや否や、即座に足を振り上げて強烈なシュート体勢に入った!
東邦主将の松山が叫ぶ!
「若島津、ドライブシュートが来るぞ!」
若島津はゴールラインギリギリまで深々と下がり、迎撃姿勢を整える。
岬も前線の後輩へ指示を飛ばした。
「タケシ、瞬!翼君が打ってきたら身体を張ってシュートの威力を弱めるんだ!」
シュート体勢に入った翼へ、日向がボールを目掛けて猛然とタックルを仕掛けた!
しかし翼はジャンプ一番、そのタックルを鮮やかによけてみせる。着地点を狙って反町がボールを奪いにかかるが、すかさず一ノ瀬が割り込んでこれを阻止した。
着地と同時に、翼は右サイドでフリーになっていたナトゥレーザへ鋭いパスを供給!
ボールを受けたナトゥレーザも、わずかにドリブルしただけで素早く足を振り上げた!
再び松山が叫ぶ!
「奴にもドライブシュートがあるぞ!」
ナトゥレーザへ、岬と沢田が必死の覚悟で寄せていく。
「打たせないよ!」
だが、ナトゥレーザは迫る2人を嘲笑うかのように、横へスルーパスを通した。
そこには、既に左足を軸に身体を回転させ、完全なシュート体勢を整えていた火野竜馬の姿があった!
「もらったぁぁっ!」
火野はパスが届いた瞬間に、右足を爆発的な力で振り抜いた!
放たれたシュートは激しい回転を伴い、滑り込んできた松山の脇元を瞬く間にすり抜け、東邦ゴールへと突き刺さった!
ゴール中央に位置していた守護神・若島津も、あまりの球威と不意を突かれたタイミングに全く反応することができなかった。
「……そんな……今まで見た中で一番力強いシュートだ……!」
若島津が呆然と呟く。
後半3分——火野の劇的な一撃が決まり、3−2!
武蔵学園があっという間に1点差へと詰め寄った!
火野が放ったこの回転シュートは、後に“トルネードシュート”と呼ばれることとなるが、火野自身がこの技術を完全に意図して使いこなせるようになるのは、まだ少し先の話である。
ベンチでその軌道を見届けていた兵藤監督が、深く感嘆した。
(すごい……。竜馬はいつも腰の開きが早いため、球に力が完全に伝わりきらない欠点があった。だが今の打ち方ならば、体幹の回転力を完璧にボールへ伝えることができる。もっとも今のは状況が生んだ偶然の産物。竜馬自身がそのメカニズムに気づくのはもう少し先か……)
そうした背景を知らない観客席は大熱狂に包まれていた。
「おい見たか!?なんて破壊力だ!」
「火野のシュートであっという間に1点差だぞ!」
「やっぱり奴がこの年代ナンバーワンのストライカーだ!」
東邦の松山が悔しげに歯噛みする。
「翼のヤツ……!俺たちが『士気を上げるためにセンターサークルから必殺シュートを打ってくる』と警戒する心理を、逆手にとってきたというのか……!?」
しかし、岬が冷静に松山の肩を叩いた。
「仕方ないさ、松山。もし最初から読んでいたとしても、火野君のあのシュートを止めるのは至難の業だよ」
日向も険しい表情のまま、ブレない声で追従した。
「岬の言う通りだ。切り替えよう。火野のヤツが派手なシュートを決めても1点、俺たちがチームプレイで崩して取っても同じ1点だ。最後に奴らより多く点を取っていれば、俺たちの勝ちだ!」
「……日向……」
松山は胸の内で日向の精神的成長に感服していた。
(同じストライカーとして、火野の圧倒的な力を見せつけられて誰よりも悔しいのはお前のはずなのに……)
松山は即座に表情を引き締め、全員に向かって叫んだ。
「よし、もう一度切り替えるぞ!俺たちは俺たちのサッカーを貫くだけだ!」
「「「おう!!」」」
東邦ボールでのリスタート。
しかし、火野のゴールによって完全に勢いに乗った武蔵のプレッシングは極めて激しかった。
武蔵の一ノ瀬が、ボールを保持した沢田タケシへ猛烈にプレッシャーをかける。沢田が一ノ瀬をかわそうとするが、一ノ瀬は執拗に身体を寄せて離れない。
「くっ……!」
「タケシ!」
異変を感じ取った岬が即座にフォローに入り、沢田は岬へパスを逃がした。
岬は素早く左サイドの俊足・新田を使おうとパスを出すが、この弾道を読んでいた大空翼が鮮やかにインターセプト!
そのまま翼が高速ドリブルで持ち上がる。追いすがる新田、立ち塞がる小池。翼は激突する直前の極限の間合いでそれらをかわし、左サイドへボールを展開した。
オーバーラップしてきた真田正巳が、ダイレクトで質の高いクロスを供給!
ペナルティエリア内では火野が松山を引きつけ、その手前に飛び込んできた一ノ瀬が全身でヘディングシュートを放つ!
しかし、守護神・若島津が意地を見せた!
「舐めるなっ!!」
横飛び一閃のセービングで、見事にこの至近距離のシュートをキャッチしてみせる!
「来い、若島津!」
日向が前線で叫び、若島津は日向目掛けて鋭いパントキックを放った。
だが、このロングボールが日向へ届く手前で、武蔵のCB井川が圧倒的な跳躍力でクリア!
こぼれ球を拾った武蔵の川村が、すかさず前線のナトゥレーザへ預ける。ボールを受けたナトゥレーザは、巧みなステップで沢田を抜きにかかった。沢田は対応が一歩遅れ、思わず手を使ってナトゥレーザを倒してしまい、ファウルを取られた。
ピッチに笛が鳴り響き、プレーが止まる。
沢田は膝に手をつき、荒い息を吐いていた。
その様子を後方から見ていた松山が、武蔵の意図に気づいて戦慄する。
(まさか……翼、いや武蔵全体が、意識してタケシの体力を削りに来ているのか……!?)
ナトゥレーザのフリーキックは正確に火野の元へ通るが、松山が執念で身体を寄せ、完璧なポストプレイを許さない。こぼれ球を一ノ瀬が狙うも、シュートはわずかにクロスバーの上へと外れた。
若島津のゴールキックで再開されるが、日向へのハイボールは再び武蔵の井川が競り勝つ。
東邦ベンチの大沢コーチが苦々しく呟いた。
「ハイボールの競り合いは井川が一枚上か……。準決勝で東総のカマラに仕事をさせなかった実力は本物だな。ポストプレイの技術を完全に習得しているわけではない日向には、少々荷が重いか……」
競り落とされたこぼれ球を拾ったのは、またしてもナトゥレーザであった。ナトゥレーザは再び沢田に対して1対1を仕掛ける。
疲弊した沢田は足が追いつかず、またしてもナトゥレーザをファウルで止めるしかなかった。
東邦ベンチで、山本コーチが耐えかねて声を上げた。
「監督!沢田はもう限界です!松木ならいつでも出られます!」
しかし、北詰監督は深く苦渋の表情を浮かべながら、山本へ言い返した。
「分かっている。だが……“あれ”を仕掛けるには、沢田の存在が不可欠なのだ……!」
監督の固い決意に、山本コーチは押し黙るしかなかった。
ピッチ上では、沢田の肩が激しく上下している。
「タケシ、よくやったよ、お前は。……後はこちらに任せろ!」
日向が声をかけるが、沢田はハァハァと荒い息を吐きながら頭を振った。
「ハァ……ハァ……日向さん……自分は、まだやれます……!」
「タケシ……」
松山も前に歩み寄り、日向と沢田を見つめた。
「そうだ、日向。タケシの交代はまだ早い!タケシは“あれ”を成功させるために必要なんだ。……つらいと思うが、耐えてくれタケシ!」
「はいっ……!」
「岬、反町!タケシが抜かれた後のカバーを徹底してくれ。日向、タケシの負担を減らすには、お前が前線で圧倒的な存在感を見せるのが一番なんだ!」
「分かったよ、任せろ。俺のゴールでタケシを楽にさせて誘ってやる!」
直後の武蔵のフリーキック。火野が打点の高いヘディングで狙うも、松山の巧みなアプローチによってボールはわずかにゴールポストの横へと外れた。
若島津からのゴールキック。この競り合いも井川が競り勝つが、体勢が崩れてコントロールを失う。
そのこぼれ球に反応した東邦の新田がボールを拾い、疾風のごとき高速ドリブルを開始!
武蔵の右SB広瀬が必死で食らいつき、間一髪でボールをサイドラインの外へ押し出した。しかし、その代償として広瀬は右足を抱えたままピッチの上に座り込み、動けなくなってしまう。
駆け寄って状態を確認したフィジカルコーチの浅田が、兵藤監督へ報告した。
「どうやら足がつったみたいね。まだやれそうだけどじきに限界が来るわ」
兵藤監督は迷うことなく即座に指示を出した。
「中田先生、山本の準備は行けるか!?」
「はい、いつでも大丈夫です!」
「広瀬!次のプレーが切れたら山本と交代だ!」
広瀬は唇を噛み締めながら、「……はい」と小さく頷いた。
そして次のプレーが途切れたタイミングで、武蔵が動く。痛みを堪える広瀬に代わり、背番号13の山本がピッチへと投入された。
限界を迎えつつも戦術のために選手交代を行わない東邦学園と、トラブルに対して即座にフレッシュな選手を投入した武蔵中学。
この決断の差が吉と出るのはどちらなのか——。
運命の関東大会決勝は、まもなく後半20分を迎えようとしてい!
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