キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会決勝、武蔵中学VS東邦学園の熱戦はいよいよ試合後半の中盤から終盤へと差し掛かろうとしていた。
スコアは3−2。東邦学園の1点リード。
スタンドから固唾を呑んで戦況を見つめていた武蔵のマネージャー・青葉弥生に、漠然とした不安が襲いかかる。
(何……この胸騒ぎは……?)
「翼君……」
一方、武蔵のベンチでは兵藤監督がベンチへ下がった広瀬の様子を確かめながら、渋い表情を浮かべていた。
(広瀬が予想以上に消耗していたな。それだけ新田のスピードが驚異的ということか……。むしろ、ここまでよく抑え込んだと言うべきか。だが……)
広瀬との交代でピッチに入った山本に対し、勢いに乗る東邦のスピードスター・新田がスローインのボールを要求した。
「俺にボールをくれ!こんな奴(山本)、簡単にブチ抜いてやるぜ!」
新田は要求通りにボールを受け取ると、得意の鋭い加速で山本を振り切ろうと仕掛けた!
だが——抜けない!
「……!!」
不敵な笑みを浮かべる兵藤監督が呟く。
(山本は攻撃力こそ広瀬に敵わないが、純粋な守備力だけなら広瀬以上……いや、チームでもトップクラスだぜ)
山本は攻めあぐねる新田の足元から鋭くボールを蹴り出した。そのこぼれ球を、CBの真田が素早く拾い上げる。
「山本、ナイスだ!三杉さんにも褒められたその守備力は健在だな!」
真田はボールを右サイドの本間へ展開。ボールを受けた本間が、一気に右サイドを駆け上がる!
不意を突かれた東邦の陣形。ボランチの沢田タケシが必死に体力を振り絞って追いすがるが、疲弊した身体ではチェックに入ることができない。本間はそのまま東邦陣内深くへと侵入していった。
立ち塞がったのは東邦の古田。
しかし本間はそこから大きく足を振り抜き、逆サイドへ大迫力のサイドチェンジ!
左サイドでボールを受けたナトゥレーザは、前線を走る火野の動きを見極め、極上のスルーパスを送るべくタイミングを推し量る。
東邦主将の松山は、ここで一気にオフサイドトラップを仕掛けるべく、最終ラインへ鋭いサインを送った!
「今だ!」
松山の声に応じ、東邦のディフェンスラインが一斉に押し上がる!
しかし——副審の旗も上がることはなく、主審の笛も鳴らない!
疲労困憊の沢田が松山のサインを見落とし、一人だけラインに残っていたのだ!
松山が顔を蒼白にして叫ぶ!
「しまった!!」
ナトゥレーザのスルーパスに完璧なタイミングで反応したのは、武蔵のキャプテン・大空翼!
オフサイドを完全に抜け出した翼は、飛び出してきた守護神・若島津の動きを極限の冷静さで見切り、鮮やかにかわす!そして無人の東邦ゴールへと優しくボールを流し込んだ!
後半24分——3−3!
劇的な同点ゴールが決まり、試合はついに振り出しへと戻った!
歓喜に沸き立つ武蔵イレブン、沸き返るベンチ!
そして超満員のスタンドでも、江ノ島中学の面々が大熱狂していた。
「キャーッ!翼、かっこいいーッ!」
江口翔子が甲高い声を上げると、横の江口大翔が困惑しながら宥める。
「翔子、頼むからもう少し抑えてくれ……」
「陽子さーん!俺の声が届いていますかーっ!?」
今度は山村が大声を張り上げ、加藤が即座に突っ込む。
「馬ー鹿、お前なんかの声じゃ届かねーよ!見てろ……うぉぉぉぉぉーっ!陽子さーん!」
「てめえの野太い声に陽子さんがびっくりするだろ!」
「何だと!?」
くだらないことで争い出す2人のやり取りを見て、藤原が苦笑混じりに副主将の赤城へ話しかけた。
「ハハハ、赤城さん、武蔵が追いつきましたね。残り時間を考えたら延長戦もあり得ますかね?」
赤城が腕を組み、鋭い眼光でピッチを見つめる。
「お互いの実力を考えたら、十分あり得るだろうな。……これだけお互いに消耗していれば、ここからの選手交代が勝敗の鍵になるぞ」
同点に追いつかれ、重苦しい空気が漂う東邦学園。
松山が沢田の元へと駆け寄り、そこへ東邦イレブンが集まってきた。
肩を激しく上下させ、顔を伏せる沢田。
「キャプテン……すみません……自分がサインを見逃してしまって……」
その限界を超えた後輩の姿を見た日向が、松山に向かって詰め寄った。
「松山!いつまでタケシを引っ張り続けるつもりだ!タケシはもう明らかに限界だぞ!」
しかし、松山は時計に目をやり、キッパリと言い放った。
「タケシは……決勝点を上げてから交代する!」
「何……!?」
「みんな、延長戦は考えるな!残り時間で勝負を決めるぞ!」
副主将の岬が瞳を輝かせる。
「松山……“あれ”を使うのかい?」
「ああ、そうだ!できれば全国大会で武蔵と当たるときまで取っておきたかったが……俺たちは王者東邦だ!同じ相手に二度の敗北はない!だからここで使う!」
松山は言葉を強めた。
「都大会のときは、ドライブシュートを初見で披露されて俺たちは対応できなかった。だから逆に“あれ”を使うのも初見だ!奴らだって絶対に対応できない!」
話の意図を察した日向に、岬が優しく笑いかけた。
「小次郎、僕たちが秘密裏に準備してきた特訓の成果を出すときが来たよ。大丈夫、小次郎のストライカーとしての役目は何も変わらないからね!」
松山が再び全員を見渡し、力強く命じた。
「いいか、“あれ”を使えば俺たちの体力も激しく消耗する。武蔵にしのぎ切られて延長に持ち込まれたら負けだ!絶対にここで仕留めるぞ!タイミングは俺が出す!」
「「「おう!!」」」
松山の檄によって、東邦イレブンが再びそれぞれのポジションへと戻っていく。
試合は残すところ僅かとなり、いよいよ決着の終盤へ。
先に勝ち越しの決勝ゴールを奪い取るのは東邦学園か、武蔵中学か?
それとも決着は延長戦へと持ち込まれるのか?
それぞれの意地とプライドが激突する、運命の刻が迫ろうとしていた——。
いよいよ松山のいう“あれ”が発動します!
次の投稿は12時です。