キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会決勝は、4−3で東邦学園が武蔵中学を降して関東王者となった。
王者の帰還である。東邦学園は再び王者として、約2週間後に始まる全国中学生サッカー大会において、前人未到の三連覇に挑むこととなった。
死闘を終えた両チームには、スタンドから惜しみない拍手が送られていた。そのスタンドの一角に、吉良耕三の姿があった。
(もし、今日も無様な醜態を小次郎がさらしておれば、首に縄をつけてでも沖縄に連れていくつもりだったが……ハットトリックというストライカーとしてこれ以上ない結果を出した以上は無理だろう……悔しいが、東邦のヘボコーチと監督の手腕を認めざるをえまいて……フン、科学的理論に基づいたトレーニング理論か……)
吉良はそう独りごちると、今日は静かに去っていくのであった。
一方、関係者席ではサッカージャーナリストたちが熱く語り合っていた。
「関東大会は、東邦が制したぞ!王者の復活だな!」
「これで全国大会は、東邦が王者として乗り込むことになるな!」
「やはり全国も東邦で決まりか!?」
「そう簡単にはいかないだろう。今日は負けたとはいえ、武蔵も依然強力なチームだ!特に体力に不安のある1年生の沢田を徹底して狙ってくる兵藤監督の勝負に対する執念深さは本物だ!」
「それに強力留学生を擁して九州大会を制した比良戸や、東海大会を制した開催地の南葛中学、武蔵を追い詰めた江ノ島中学……今年は群雄割拠と呼ぶにふさわしい!」
それらの声を聞きながら、日本サッカー協会の片桐宗正は静かに思いを巡らせていた。
(東邦が、武蔵に敗れたことにより、東邦も個々がレベルアップし、今回は雪辱を果たした。そして各地方大会を勝ち抜いた猛者たちが静岡に集うか……。しかし中心は東邦だが、以前のような“東邦一強”の中心ではない。どの学校にも優勝するチャンスがあるということか……)
スタンドの別の場所では、比良戸カルテットの四人——次藤、佐野、ファン・デン・ベルク、ファルクが試合を分析していた。
「最後はやっぱり東邦でしたね」
佐野が呟くと、ファルクが頷く。
「そうだな、東邦の9番のプレイは同じストライカーとして感じるものがあったぜ!それに向こうの9番のテクニックやパワーも要注意だぜ!」
「フッ、安心しろ。もし試合となれば俺とボスで完封してやる」
ファン・デン・ベルクが頼もしく言い放つと、次藤が笑みを浮かべた。
「ワシは、やっぱり翼や松山とやりたいのう!何せ骨のある相手とやるのはたまらんからのう!」
佐野は苦笑いを浮かべる。
「本当、次藤さんの強敵が現れたらテンションが上がるの勘弁してくださいよ!」
「よし、ワシらも比良戸に戻って全国に向けて特訓たい!」
次藤の掛け声とともに、比良戸のメンバーも決意を新たに会場を後にした。
同じくスタンド観戦していた江ノ島中学の面々。マネージャーの江口翔子が叫んだ。
「翼が負けた……!こうしちゃいられねえ……!」
慌てて走り出そうとする翔子を、兄の江口大翔が慌てて呼び止める。
「どこへ行くんだ翔子!」
「決まってんだろ、翼を慰めにいくんだろ!」
「そんなの武蔵の連中に任せておけばいい!俺たちも一度湘南に帰るんだ!」
呆れる大翔に続き、赤城も厳しく声をかける。
「山村、加藤、お前たちもだぞ!」
「ちぇっ、俺が陽子ちゃんを慰めるんだが……」
「マー坊、おめえじゃねえよ、俺だよ」
「何言ってやがる!お前じゃ役不足なんだよ!」
言い争う二人に、赤城の怒号が飛ぶ。
「いつまでやってる!馬鹿者共が!」
怒鳴られた加藤、山村、そして江口翔子は、しぶしぶ帰路につくのであった。
ピッチ上では、激闘を終えた選手たちが互いにエールを交わしていた。
翼が松山に歩み寄る。
「松山君、今回は東邦の執念にやられたよ……」
「フッ、翼、礼は言わんぞ!これでお前との勝負は、1勝1敗だ!次の全国が決着の時だ!」
「そうだね……。そして俺たちが勝って日本一に三杉君、俺たちみんなの夢を叶える!」
「お前たちの目標はわかった。だが俺たちも全国三連覇を譲るわけにはいかない!」
翼と松山は、固い握手を交わして別れた。
一方、岬はナトゥレーザと言葉を交わしていた。
「岬、楽しかったよ。今回は負けたけど次は勝つからな」
「ナトゥレーザ君、僕も楽しかったよ。でも次も勝つのは僕だよ!」
そして、日向と火野も激しく火花を散らしていた。
「おい、火野、今回お前は2点、俺はハットトリック、ゴール数は俺の勝ちだ!次はゴール数だけでなく内容もお前を圧倒してやる!」
「それはこっちのセリフだ!次の試合はこれまでの試合以上に完膚なきまでにお前を叩きのめしてやるぜ!」
「上等だ!」
火野と日向は、互いに一歩も引かず激しく睨み合った。
こうして関東大会は閉会式を迎え、無事に幕を閉じた。
最後のミーティングを終え、着替えを済ませて帰路につくため、武蔵中学のイレブンは全員集合していた。
「あれ、翼は?」
ナトゥレーザが周囲を見回すと、本間が答える。
「翼君ならすぐに来るって言っていたよ」
「よし、なら俺が呼んでくる!」
「翼君ならマネージャーが呼びに行ったから大丈夫だよ!」
「えー、俺もいく!」
飛び出そうとするナトゥレーザを、兄のカリオが制した。
「ナトゥレーザ、いいんだ」
「……わかったよ、兄ちゃん……」
その頃、翼は一人ロッカールームに残っていた。
すでに帰る準備はできていたが、そこから立ち去ることができなかった。一人で試合を振り返る翼の脳裏には、クリアボールに執念で飛び込む日向、そして最後まで自分を必死にマークし続けた松山の姿が鮮明に浮かんでいた。
(勝利への執念が、俺になかった……)
知らず知らずのうちに、翼の頬を熱い涙が伝わっていく。
そこへ、様子を見に青葉弥生が現れた。
「……翼君……」
泣いている姿を見られた翼は、あわてて必死に取り繕う。
「あっ、これは目にゴミが入っちゃって……」
「……負けちゃったね……」
弥生はそう言うと、あの「雪崩攻撃」について書かれていた三杉ノートのページを開き、翼に差し出した。
「私のせいなんだ……私がキャプテンの残したノートをちゃんと見ていて、私がみんなに伝えることができていれば、対策を立てることができたの!」
溢れ出す罪悪感に、弥生も声を上げて泣き出してしまう。
その姿を見た翼は、優しく言った。
「……弥生ちゃん……。ううん、それは違うよ!今日は俺たちが受けに回ってしまったからだし、チームが勝てないのはキャプテンである俺の責任だから!」
「それは違うわ、チームは翼君のものじゃない!みんなのものよ!だから自分一人だけで責任を背負わないで!私にも……私にも翼君のつらさや悲しみを背負わせて!」
「……ありがとう弥生ちゃん。その通りだよ……。3年前、初めて三杉君に負けて敗北を知り、そこから立ち上がった。そして今日、松山君や岬君たちに負けて悔しいよ。次は勝ちたい。だから今は……今はこのまま俺を支えていてほしい」
翼は弥生の胸に飛び込み、悔し涙を流した。弥生はそんな翼をそっと優しく受け止めるのだった。
ほどなくして翼と弥生もみんなと合流し、全員で学校への帰路についた。
関東大会では、東邦に雪辱を許すこととなった武蔵中学。全国大会で三度、東邦と雌雄を決することになるのだろうか!?
間もなく、全国大会が始まる!
関東王者は東邦学園でした。翼と弥生の展開は原作には当然ありませんが、一緒に過ごす時間が長く献身的に尽くしていたらそういう雰囲気になるのかなと…かといって中澤早苗が翼を想い続け、翼の帰国を知り武蔵中学に合流する展開は純愛というよりはちょっと“重い”し“怖い”と思います。だから中澤は南葛で翼の再会を期待しながらサッカー部のマネージャーをしている設定です。
※本日の投稿はこれで終わりです。明日も3話予約投稿します。お付き合いいただけるとうれしいです。
※本日はこれで終わりです。