チートっぽい能力より、運動神経が欲しい。   作:蓮聴人

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第20話

結局、ろくな手掛かりを得られないまま図書室から出ることになった。

一応夕食までに何か見つけれないかとしてみたが、新たに見つけたのは例の素材とやらの有名な産地だけ。

 

「……謎の島て。もっとなんかいいネーミングできないのかよ」

 

図書館を後にし、食堂までの通路で話す。

 

「謎の島なんだからしょうがないだろ」

 

「名前ぐらいはちゃんと付けろって話なんだよなぁ」

 

「名前を付けた奴が本当にいるのかも怪しいけどね」

 

リサが横から口を挟んだ。

 

「どういうこと?」

 

「だって、地図によって名前が違うんだよ。『謎の島』だったり、『未確認島』だったり、『名称不明領域』だったり」

 

「どれもこれも名前らしくねぇなぁ……ほぼ名無しじゃねぇか」

 

地図によって名前が違う。

それだけ聞くと大したことじゃないように思えるけど、考えてみれば結構変な話だ。

普通、島なんてものは誰かが見つけて、誰かが名前を付けるもんだろ。

 

西インド諸島にしろ、北センチネルにしろ。

勘違いだろうとなんだろうと、名前ぐらい付ける。

 

なのに、この島については名前どころか、誰が最初に見つけたのかすらはっきりしないらしい。

しかも、図書室で見つけた資料には妙な記述がいくつもあった。

 

「そういえば」

 

ハルジートが口を開いた。

 

「その素材が採れるのは、その島だけなんだよね。ちょっと不思議」

 

「確かにそれも変なんだよなぁ。ゆうて木だろ?大体。他のトコにも分布してそうなもんだけど」

 

「謎の島、だからね。有名な話だよ。根も葉もない噂ばかりだけど」

 

「都市伝説って感じだなぁ……異世界にもそういうもんあるもんなのか」

 

「意外と変わらないんだね」

 

ハスールはそんな俺たちの会話を聞きながら、ため息を吐いた。

 

「素材の詳細が分からない以上、産地だけ調べても意味は薄い」

 

ハスールが続ける。

 

「この島なら尚更、ね。学園長について調べてた方がわかりやすい」

 

「お?」

 

思わず顔を上げた。

ハスールがこういう言い方をするとは思ってなかった。

そりゃどんな記述見ても謎、の一文字だけど……

 

「そんな有名なのか?この島」

 

「嫌でも知るよ。()()()()が来る場所だから」

 

テンサイ?天才?天災?

 

「いずれ知ることになるぜ?この学園で…カゴキならなおさら、な」

 

ベックスが口を挟んだ。

なんなら、全員が頭を抱えている。

 

「俺なら尚更?」

 

「無効化持ちだし、よくわかんない杖持ってるしー?そりゃ駆り出されるよねー」

 

「駆り出されるって……災害関連ってことか?」

 

「その方がマシ、だと思う」

 

訳が分からない。テンサイって…天災じゃないのか?

 

そこまで考えて、通路の角を曲がった瞬間、目の前の光景に目を奪われた。

というか、人に。

 

「……またいるよ」

 

小声でつぶやく。

なんせ、少し遠くに待ち構えていたかのようにキイがいた。

こっちに話しかけるでもなく、ただそこにいる。

 

「なにがまたいるんだ?」

 

ハスールが聞いてきた。

 

「いや、キイがいるだろ。通路の真ん中に」

 

ちょっと小声で返す。

流石にハスールと言えど目の前にいるやつを見えない振りするとかはないだろ、と思いつつ。

 

「……ああ、そういうこと」

 

そう言って、ハスールたちは何事もなかったかのように話しを再開する。

いや、話題は変わった。他愛のない雑談。

 

「カゴキも合わせろ」

 

ベックスに小声でそう言われ、なんか俺だけギクシャクしながらキイの隣を通り過ぎた。

一瞬目が合った気がするが……すぐにあっちが目をそらした。

 

「いや、なんなんだよ」

 

キイのいる場所を通り過ぎ、そのまま食堂に入って、飯を取る。

俺が疑問を口に出せたのはその後だった。

 

「普通にキイがいただろ。なんでみんな無視したわけ?」

 

その疑問に、素直にハスールが返してくれた。

 

「光属性の応用。無理やり自分の周りをブラして、見えなくする技術」

 

ハスールが俺を見る。

 

「お前の魔法無効化のせいだろうね。効かないのは」

 

「放出型ってことか」

 

「相手の目の付近まで魔素を弄らないと対策してる人間には十全に機能しない。ボク対策が裏目に出てる」

 

「……自画自賛か?」

 

「正当な判断だけど」

 

……まあ、なるほど。

目の近くまで魔素をいじってるから、逆に俺の範囲に触れたってことか。

だから俺だけが見えている。

 

理屈としては分かる。

分かるけども。

 

「じゃあ、今まで俺がキイを見つけてたのも……」

 

「そういうことだろうな」

 

「本人は隠れてるつもりなのか」

 

「そう言っちゃうと可哀そうだけどねー……カゴキの噂、結構捻じ曲がって伝わっちゃってるから」

 

「捻じ曲がって?」

 

リサの言葉に反応する。

学園長は、この前噂は尾鰭背鰭ついて、と言っていたが……

 

「そー。一番有力なのは手に触れた魔法を消滅させる…だったっけ?」

 

「俺は半径十メートルの魔法を消滅させるとか聞いたな」

 

「魔術師だけに強い、なんていうのもあるね。まあ…皆噂は好きだから」

 

尾鰭背鰭が付き過ぎだろ。

一番ひでぇのは半径十メートルか?んなチートじゃねぇんだよ。

 

「有力なのは手に触れた…ってことは、キイもそれを信じてるってことか?」

 

「だろうね。まさか隠蔽の技術を無効化されるとは考えてないんだろ。強すぎる技術は信じらない。いや、信じたくないんだろ」

 

ハスールはだいぶキイに対しては辛辣だった。

もしかしたら、俺が来る前にずっと決闘を挑まれてたのが嫌だったのかもしれない。

 

「ただ、あそこでバレるのは面倒だったから」

 

「だから見えない振りしてたってことか」

 

教えてほしかったんだが?

いや、本人いる前で言えないっていうのもあるだろうけどさ。

 

「……まあ、いいか」

 

「何が?」

 

「いや、こっちの話」

 

俺は適当に流して、夕食を口に運んだ。

それにしても、今までのことを思い返してみる。

 

話しかけてくるわけでもない。

近づいてくるわけでもない。

 

ただ、ふと気づいて見てみると、いる。

俺からすれば、普通に丸見えだったわけだが。

 

「……なんか、悪いことしてる気分になってきた」

 

「何が?」

 

ハルジートが首を傾げる。

 

「いや、本人は隠れてるつもりなんだろ? それを毎回見つけてるわけだから」

 

「別にいいんじゃない?」

 

リサがスープを飲みながら言った。

 

「キイが勝手に隠れてるんだし」

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

「むしろ、カゴキが黙ってみてるわけだし」

 

「……それもそうか」

 

そう言って、俺は食事に戻った。

少しだけ気になって、食堂の入口を見る。

 

そこには誰もいない。

さっきまでいたはずのキイの姿もなかった。

 

「……消えた?」

 

「帰ったんじゃない?」

 

「そうかな」

 

なんとなく、腑に落ちなかった。

けれど、それ以上考えても仕方がない。

俺はそのまま夕食を食べ終えた。

 

 

◇◇◇◇

 

その頃、食堂の外。

誰もいない廊下に、キイは立っていた。

 

魔素を操り、自分の姿を周囲の認識からずらす。

完璧な隠蔽。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……なんで」

 

小さく呟く。

今日も。昨日も。その前も。

あいつだけは、こちらを見ていた。

 

最初は偶然だと思っていた。

次は、何かを感じ取っているのかと思った。

 

「魔法が……効いてない?」

 

そんなはずはない。

彼の能力について聞いた話では、触れた魔法を消すだけ。

 

少なくとも、そう聞いている。

だったら、自分の隠蔽が見破られる理由なんてない。

 

「……」

 

食堂の中から、笑い声が聞こえる。

雑多な声。その中にカゴキの声も混じっている。

 

「ハスール」

 

その名前が聞こえた瞬間。

キイは、ほんの少しだけ眉を寄せた。

 

さっきまでの会話を思い出す。

カゴキはハスールに何の疑いもなく話しかけていた。

ハスールも、当然のように答えていた。

 

二人の間には。

自分の知らない時間がある。

自分の知らない会話がある。

自分の知らない関係がある。

 

「……」

 

キイは何も言わず、その場を離れた。

誰にも見つからないまま。

 

 

◇◇◇◇

 

 

俺等が部屋に戻ってから。

別に何をするでもなく、というかすることもなくハスールがシャワーを終えるのを待っている途中に、色々と考えていた。

 

杖のこと、学園長のこと、謎の島のこと、キイのこと。

あの四人は、好奇心で調べている感じがする。

俺とは違って。

 

「……まあ、元の世界じゃ俺もそうなんだろうけど、さ」

 

世界は不思議に満ちている。そりゃ当たり前だ。科学全盛の現代日本だろうがなんだろうが、不思議でいっぱい過ぎる。

テストで満点なんか取れたことないし、スマホが使える原理なんざ知ったこっちゃない。

 

多分、そんな感じ。

 

元々高校にいたとき、俺も校長について調べたことなんかない。

世界の島々についてなんて、自由研究でもやったことなんてない。

俺のことを見てくる生徒?はは、俺のファンなんじゃねぇの?

 

「次、入れよ」

 

ハスールにそう言われて、思考が戻る。

 

「おう」

 

それだけ返して俺は風呂場に向かった。

 

 

◇◇◇

 

 

風呂から上がって、部屋に戻る。

いつも通り、ハスールはすでに寝る準備を終わらせていた。

 

「…なんか、悩んでる?」

 

「別に…悩んでるって程でもねぇけど。……なんか、意外だな。お前、俺が悩んでてもどうでもいいとか言いそうだったし」

 

「ボクを何だと思ってるわけ?」

 

「主席」

 

そういうことではないな、と思いつつ。

 

「……なんかなぁ。蚊帳の外っつうか…俺だけ、蚊に刺されてるっつぅか」

 

「お前だけが異端って?」

 

「そうそう」

 

生死とか、将来とか。

懸かってるのが俺だけで。

 

「そんなの、最初からそうだろ」

 

「そりゃな。ただなぁ…ちょっと落ち着いてきたんだよ。最初は異端がかっこいいとか、思ってたんだけどさ」

 

「阿呆だね」

 

「うるせぇ。……徐々に馴染んだ分、異端なのが嫌になってきた」

 

最初は、帰る場所がここになったのが変に思った。

次に、それに慣れて楽しく思えてきた。

今は、慣れた分転移してきたのがおかしく思えてきた。

 

「……出自、か」

 

ハスールがぼそっと呟いた。

 

「異端なら、ボクだってそうだろ」

 

「お前はこの世界に元からいただろ…?」

 

「でも異端者。其れに違いはないんだ」

 

それでも納得できない。

ハスールが何を言いたいのか、わからない。

 

「俺にとっては、全部死活問題なんだよ。杖も、キイのことにしても」

 

ハスールは、すぐには返事をしなかった。

いつものように即答されると思っていたから、少し意外だった。

 

しばらくして、ハスールが口を開く。

 

「キイのことは、別に死活問題じゃないだろ」

 

「そこだけ切り取るなよ」

 

「じゃあ何が死活問題なんだ」

 

「……」

 

言われてみると、上手く説明できない。

キイが何者なのか。

なぜ俺を見ているのか。

俺の魔法無効化がどういうものなのか。

それを知ることが、直接的に俺の生死に関わるわけじゃない。

 

でも。

知らないことが怖い。

 

「……分からん」

 

「そう」

 

俺はベッドに腰を下ろした。

天井を見る。

 

「でも、杖は死活問題だろ」

 

ハスールは黙ってうなずいた。

 

「魔法が使えない俺が、身体能力まで杖頼りだったら……」

 

そこで一度言葉を切る。

 

「もしあれが壊れたら、俺はどうなる?」

 

ハスールは答えなかった。

だから俺は続ける。

 

「謎の島だってそうだ。俺の知らないところで、俺に関係するものがどんどん出てくる」

 

「……」

 

「学園長だってそう。何考えてるか分からないし」

 

「それはボクも分からない」

 

「キイだってそうだ」

 

「それもボクには分からない」

 

「……まあ、それもそうか」

 

他人のことなんざ、知ってるはずもない。

 

「でもさ」

 

俺は天井を見たまま言った。

 

「俺が元の世界にいたときは、こんなこと考えたことなかったんだよ」

 

「……」

 

「知らないことがあっても、別に困らなかった」

 

スマホがどうやって動いているのか知らなくても、スマホは使えた。

電気がどうやって家まで届いているのか知らなくても、スイッチを押せば明かりがついた。

学校の先生が何を考えているのか知らなくても、授業は受けられた。

世界のどこかにある島の名前なんて、知る必要すらなかった。

 

「でも今は、知らないことがそのまま俺に向かってくる」

 

言葉にすると、妙にしっくりきた。

そうなんだ。俺以外は別に知らなくてもいいこと。

それが、俺にとって無視できない。

 

「……なるほど」

 

ハスールが呟く。

 

「だから、お前は不安なのか」

 

「たぶん」

 

「じゃあ解決」

 

「……してねぇだろ」

 

なんでそんなことになった?

 

「知らないなら、知ればいいだろ」

 

「そんな簡単に──」

 

「できる」

 

言い切った。

煽りでも、誇張でもなく。

真剣に。

 

「ボクがいる」

 

「…っは。なんだそれ」

 

滅茶苦茶、面白かった。

腹の底から突き抜けてくるみたいに。

 

「お前にとって死活問題なら、ボクにとっても死活問題だ」

 

「んな一蓮托生みたいな関係だったっけ?」

 

「実験体がストレスで死んだら研究者名乗れないだろ」

 

「扱いが相変わらずひでぇな!」

 

でも。

綺麗な言葉で言われるより、断然信じられた。

こいつにとって俺のことは、一番どうでもよくて、一番大切なんだ。

 

「安心しろ。この世のすべてから守ってあげる。ボクのために」

 

「じゃあ俺もお前の盾になってやるよ。俺のために」

 

結局、そのまま寝た。

全く問題は解決してない。

ただ、悩みは解決した。

 

「…なんか、あんがと」

 

「なにもしてない」

 

こんな会話で。

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