俺は二十歳で死ぬらしい。せっかくだから美人な死神を口説こうと思う。


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死神に恋を乞うたバカの話

「貴方は十年後に死にます」

 

「はあ」

 

 

 十歳の誕生日。俺の前に現れたのは見るも美しい死神さんだった。

 

 

「あの」

 

「はい、質問は適宜受け付けます」

 

「俺と結婚してくれませんか」

 

「……はい?」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いいですか。もう一度説明しますよ。貴方は二十歳で死にます。十年後です。そして私が貴方に取り憑く理由ですが、貴方は二十歳以上になると大罪を犯す運命に置かれています。それまで罪を重ねることのないよう潔白の身でしっかり死ねるまで私が監視する、というのが主な目的です」

 

「分かりました。結婚しましょう」

 

 

 死神さんは頭を抱える。はて、何かおかしいことでも言っただろうか。

 

 

「……あのですね。私は死神です。貴方を殺す者なのですよ」

 

「いいな。より燃えてくる」

 

「なんなんですか貴方は……」

 

 

 残された期間は十年。上等だ。それまでにこの死神さんを攻略してみせる。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……」

 

 

 寝て、起きる。昨日見た彼女が虚像ではないことを、目の前の光景が示していた。

 

 

「おはようございます」

 

「おはよう、死神さん」

 

 

 朝から美人さんを見ると気分が良い。俺はよっこらしょと身を起こした。

 

 

「はい、朝ごはん。ちゃんと食べて大きくなるのよ」

 

「あざっす母さん」

 

「ありがとう、でしょ。ああそうそう──死神さんはパン何枚食べる?」

 

「一枚で」

 

 

 死神さんは霊体と実体を行き来できる。加え、認識阻害の術を施してあるため()()()()()()()()()()()()という状態になっている。

 

 

「死神さん、飯食うんだ」

 

「食事は嫌いではないので」

 

「じゃあ今度俺の行きつけのカレー屋行こうよ。超美味いから」

 

「……必要以上に馴れ合うつもりはありません」

 

「パン食いながら言われてもなー。……ごっそさん」

 

 

 食事の後は学校に向かう準備を進める。ハンカチよし、歯ブラシと歯磨き粉よし、後は……

 

 

「そういえばだけど、死神さんはどこまで俺についてくるんだ?」

 

「基本的に二十四時間丸一日取り憑きます」

 

「およよ、プライベートの時間が無い……」

 

 

 泣きまねをしてみたがずっと見張られ続けるのは何気に辛いな。でも美人さんを独占できると考えりゃマシか。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「委員長。ノート運ぶんなら手伝うぜ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 誰かからお礼を言われるのが好きだ。自己肯定感マシマシになるし、何より勝手に満足できる。

 

 

『……貴方は』

 

「ん?どうした死神さん」

 

 

 霊体となっている彼女は少しだけ目を細め、俺を見る。うおっ、すげえ美人……。

 

 

『いつもこうしているのですか』

 

「誰かを手伝うの、結構面白いんだよ。感謝してもらえるし、俺の数少ない楽しみ、みたいな?」

 

「……誰と喋ってるの?」

 

「おっとすまねぇ委員長。死神さん。ちょっとだけ実体化してくれ」

 

『……仕方ありませんね」

 

「ああ、なんだ、死神さんと話してたんだね」

 

 

 うーん、やっぱり便利だな認識阻害の術。俺も使えたら行動範囲が増えるのに。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「今日オレん家遊びにこない?」

 

「いいのか?ならお邪魔させてもらうぜ」

 

 

 小学生の期間は残り少ない。二十歳で死ぬことを含めてもこの時間は大切にしておきたいという考えがあった。

 

 

『……友達、いるんですね』

 

「まあ一応はな。っていうか失礼だな。死神さんは俺を何だと思ってるんだ」

 

『死神相手に求婚する奇矯者』

 

「ぐぬぬ……反論できない」

 

 

 話しながらも掃除の手は緩めず、残すタスクは帰りの会のみとなった。

 

 

「今日のよかった所は──」

 

 

 当番が一日の振り返りをする中、俺は欠伸を噛み殺すのに精一杯。面倒な授業からの解放感も眠気を後押ししていた。

 

 

「「「「「さよーなら!」」」」」

 

 

 挨拶を済ませ、下校になった。さーて、こっからが俺の本領発揮だ!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

「あらまあよく来たわねぇ。お菓子あげようか」

 

「いいんすか!?あざっす!」

 

 

 というわけでやってきた友達ん家。今日は夕飯時までゲームに没頭する予定だ。

 

 

「よっしゃーやるぞー!」

 

「オレの捌きでお前らを裁く……」

 

「今日こそ君たちに勝つからな!」

 

 

 対戦ゲームで肝心なこと。それは必要以上に相手を追い詰めないことだ。下手をこけばそこで友情が失われる。

 

 

『……』

 

 

 ああだのこうだの駄弁りながらゲームに興じる俺を、死神さんはよく分からない表情で見つめていた。なんか変なことでもしたか?

 

 

「なあ、死神さんもやろうぜ。コントローラー余ってるんだし」

 

 

 俺が提案すると彼女は戸惑う様子を見せた。そんな頓珍漢な立案でもないだろうに。

 

 

「死神さん?お前誰のこと言ってんだ?」

 

「あー、説明するより見てもらった方が早いな……。というわけだから、実体化してくれ死神さん。いっちょやろうぜ」

 

『……分かりました」

 

「ああ!死神さんってお前んちの死神のことか!」

 

「そゆこと。一番負けた奴はお菓子買ってくるってことで、どうだ?」

 

「いいな。けど死神はこのゲーム初めてなんだろ?」

 

「……私はよく″見て″きたので、心配はご無用です」

 

「よし、始めっか」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「どういうつもりなんですか」

 

「主語が無いと分からないぞ、死神さん」

 

「貴方、わざと負けましたよね」

 

「分かっちゃったかー……。でもアイツらにバレてないなら万々歳だな」

 

「答えてください。どういうつもりなんですか」

 

 

 俺はゲームが上手い。その気になれば無双することだってできる。しかし負けというものは中々に取り扱いが難しい。場合によっては心を折ってしまう危険性もある。

 

 

「菓子のチョイスは俺の方が優れてるから。とりあえずこれで納得してくれ」

 

「……本当に貴方は変わってますね」

 

「お、惚れた?なら結婚しようぜ」

 

「冗談は休み休み言ってください」

 

「ちぇー」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 小学生時代ってのは早いもんで、もう修学旅行の時期。

 

 そして待ちに待った自由時間。俺は友達と食べ歩きに勤しんでいた。

 

 

「もぐもぐ……おー、これ美味っ。死神さんも食ってみろよ」

 

『……再三再四言いますけど、将来自分を殺す相手に施しを与えるのはどうかと思いますよ』

 

「それでも長い間一緒にいる相手だろ?仲良くしてえよ俺は。っつーわけだから、ほれ」

 

 

 串焼きを差し出す。死神さんはおずおずと受け取った。

 

 

「……美味しいですね」

 

「だろ?」

 

 

 今回、食べ歩き資金は普段の小遣いとは別に出ている。俺には欲しいゲームもおもちゃも無いが、一つやりたいことがあったのでいつもは貯金していた。

 

 

「たまにはいいな、こういうのも」

 

 

 誰に向けたわけでもない言葉だが、友達は得心したように俺を見る。そんな風に夜風に吹かれながら歩いていると、その声は聞こえた。

 

 

「おかーさーん!!」

 

「この感じ……迷子か?」

 

 

 声の方へ足を運びかけた俺の肩を、友達が引き止める。

 

 

「おいおい、まさか行く気か?オレたちの自由時間もうすぐ終わりなんだぞ?」

 

「んー……悪い。お前ら先に帰っててくれ。先生には俺が暴走したって言ってくれていいから」

 

「あ、ちょっ、待てよ!」

 

 

 俺は駆けだした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 声の主は俺たちより小さい少年だった。恐らく園児。

 

 

「よう少年、どうしたんだ」

 

「おかーさんが……いなくてぇっ……!」

 

「そーかー、お母さんとはぐれちゃったかー。じゃあ俺が一緒に探すよ」

 

 

 屋外だったため迷子センターは無く、少年の手を引きながらそこいらに呼びかけた。その辺の地理に明るいわけでもなかったから逆に俺が迷子になりかけたが、数十分後には親と遭遇できた。

 

 

「ありがとうね……!本当にありがとう……!」

 

「いいっすいいっす。そんな大したことしたわけでもないんで」

 

「おにーちゃんありがとー!」

 

「おう。今度ははぐれるなよ」

 

 

 さて、怒られる準備をしておくか。

 

 

『……』

 

「どうしたんだよ死神さん。そんな伏し目になって」

 

『……いえ』

 

 

 ?何をそんな言いたげにしているのだろう。……って、まずは俺の心配だな。はー、怒鳴られるのは嫌だなぁ……。

 

 ねぐらに向かって歩いていく俺と死神さん。俺は叱られる恐怖を前に緊張していたため、言葉は無かった。

 

 

『……焼け石に水かもしれませんが、私からも訳を話しますよ』

 

「おお!そいつぁありがたい!」

 

 

 そんなやりとりをしていると本日の宿泊所に到着。予想通り、俺は教師陣に叱られたのだった。

 

 

「はー、疲れたぁ」

 

「お疲れー」

 

 

 一時間こってり絞られ、寝室に帰室。友達は俺を哀れむように迎えた。

 

 それからはトランプや枕投げをしたり、消灯後もどれだけ起きていられるか試したりなど、最後の小学生時代を満喫した。いやー、楽しかったな……。

 

 

「死神さん」

 

『なんですか』

 

「俺のこと、どう思ってる?」

 

『ただの仕事相手としか思っていません』

 

「そりゃ手厳しい。じゃ、もっと頑張らないとな」

 

『…………貴方は』

 

「ん?」

 

『バカなんですね、貴方は』

 

「ははっ、まあな」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ただの変わり者かと思っていた。しかし彼は、ここぞという場面で手を差し伸べる。そうするだけの善性がある。

 

 ……本当にこの人が、大罪を犯すのか?仮に罪が被せられるとして、どんな内容になる?

 

 死神をやっていくに当たって大切な心得は必要以上に深入りしないこと。しかし、この予言は何かの過ちかもしれない。それらを知るためにも、彼を見ることを止めてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 中学生になれば周囲の環境が一新される。加えて、成長期の到来や複雑化する勉強、人間関係など、人生の中でかなり濃密な時間を過ごすことになる。

 

 そんな俺だが、相変わらず気楽に毎日を過ごしていた。俺は約八年後に死ぬらしいが、今一つ現実味が無い。

 

 

「おれん家で勉強しようぜー」

 

「いいぜ」

 

 

 俺は友達のみならず、あらゆる環境に恵まれていた。両親も、部活動の先輩も、非常によくしてくれる。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「やあ、いらっしゃい。いつもウチのによくしてくれてありがとうね」

 

「ははっ、世話になってるのは俺っすから」

 

 

 俺は本当に恵まれている。勤勉な友達の勉強会に付き合うことで学年トップクラスの成績を維持できている。

 

 

『…………』

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「お邪魔しましたー」

 

「また来いよー」

 

 

 手を振り、友達宅を後にする。勉強中死神さんからずっと見られるのはもう慣れてしまった。

 

 空を仰ぐと、もう夜が近づいていた。今日の晩飯はなんだろう。

 

 

「……待って……!お願い、待って!」

 

「ん?」

 

 

 どこかから困ったような声が聞こえる。なら、首を突っ込むのが俺流だ。

 

 

「ハァッ、ハァッ……お願いだから帰ってきて……!」

 

「どうしたんすか?」

 

「うわあっ!?」

 

 

 よほど集中していたのか、俺が背後から声をかけるとその婦人は慌てふためいた。ん?あの動物は……

 

 

「……ひょっとして、逃げられちゃった感じっすか」

 

「……ええ。恥ずかしいことにね」

 

 

 猫がいた。察するにこの婦人の飼い猫なのだろう。よし、いっちょ頑張るか。

 

 

「おーい、猫ー、チュールやるから逃げんなー」

 

 

 チュールという言葉に反応は示したがすげなく逃げる。そう対応されるとこちらも意地になるぜ。

 

 

「ハァッ、ハァッ、待てー!」

 

 

 入り組んだ住宅地は入れない場所が多く、目標をロストする危険性があった。

 

 

「死神さん、霊体なら壁すり抜けられるだろ。探してくれねぇか」

 

『私の仕事は貴方の監視です。貴方から目を離すわけにはいきません』

 

「融通利かねえな……!」

 

 

 まあ俺がやってることは自己満足。誰かを巻き込むのは気が引ける。それに、死神さんには死神さんの役目がある。俺は再び駆けだした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いててて……傷に染みる……」

 

 

 公園の水道で顔を洗う。

 

 結論から言うと、猫を捕まえることはできた。しかし顔を思いっきり引っかかれてしまったのだ。

 

 

『……貴方のそれは生まれつきなのですか』

 

「何の話?」

 

『どうして痛い思いをしてまで誰かを助けようとするのですか』

 

「それが好きだから。……としか言えないな」

 

『マゾヒストということですか』

 

「いやいや、痛いのはなるべく避けたいよ。でもなんか、進む先に痛みが待ってたとしても救われた人がいると思ったら嬉しくてな」

 

『感謝が欲しいということですか』

 

「いや?俺のこれは一から十まで自己満足だし」

 

『……貴方が、分かりません』

 

「俺だって俺のこと全部は理解してないよ。皆そうやってどこかで折り合いつけて生きてる。人間なんてそんなもんだよ」

 

『…………』

 

 

 帰ったら絆創膏貼らねえとなぁ……。そう思いながら辿る帰路は少しだけ短く感じた。

 

 

「母さーん、今日の晩飯何ー?」

 

「今日はメンチカツ──ってどうしたのその顔」

 

「ちょっと猫に引っかかれてな」

 

「そ。死神さん、手洗ってきちゃって」

 

「はい」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハァッ、ハァッ、よし、行けー!」

 

「ナイスパス!」

 

 

 一年から三年生まで混ざり合ったチームで行う紅白戦。この結果で俺のスタメン入りが決まる。

 

 俺はどうやら耳がいいらしい。迫り来る足音で味方と敵の距離を確認できる。

 

 俺が放った絶好のキラーパス。FWは無事点を取ってくれた。

 

 

「いいパスだなーお前!まだ一年なんだろ?どっかサッカークラブに入ってたのか?」

 

「いんや、中学からっす」

 

 

 俺が選んだ部活動はサッカー。実力で判断される分容赦がなく、ヒリついた勝負を味わえる。

 

 

『楽しいですか』

 

「え?」

 

 

 練習途中、不意に死神さんから話しかけられた。小学生時代は素っ気なかったのに中学入学から時たま声をかけられるようになった。

 

 

「死神さんもやってみるか?ボール蹴って汗流すの気持ちいいぞ?」

 

『私は素人なので』

 

「そりゃ残念。ま、やりたくなったらいつでも言ってくれ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いただきまーす!」

 

「いただきます」

 

 

 母さんお手製の料理が食卓に並ぶ。父さんと母さん、そして俺と死神さんの四人で食べるのがすっかり習慣づいていた。

 

 

「むぐむぐ……タコス美味ー!な、死神さんもそう思うだろ?」

 

「確かにこれは……美味しい……」

 

 

 この幸福な食卓もいずれは終わりを迎える。一回一回、噛み締めるように味わう。

 

 ……?そういえば、

 

 

「そーいえばだけど死神さん、どうして朝食と夕食の時は実体化してるんだ?」

 

「……ご飯食べるの、好きなので」

 

「ふふ、おかわりもいいわよ死神さん」

 

「エビフライ食うか?」

 

「ずりぃよ父さん。いつも俺にはくれないくせして」

 

「お前は遠慮なしにがっつくだろ」

 

 

 ……初めて死神さんの嗜好を知られた気がする。なんか嬉しいな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 さてさて、時が流れるのは早いものでもう中二。タイムリミットまで後七年。

 

 

「カウンター行くぞ!前線上がれ!」

 

 

 とにかくサッカーが楽しかった。練習さえも楽しめるポテンシャルが俺にはあったようだ。

 

 

「ふぃー、疲れた……」

 

「お疲れ。後はオレらに任せろ」

 

 

 役割を果たし選手交代。フィールドに立っている時も死神さんが視界の端にチラついたが今となっては慣れたもの。

 

 

「死神さんから見て俺はどうだった?」

 

『私は素人なので細かい部分は知りません』

 

「つれないなぁ。感想の一つくれたっていいじゃんか」

 

『……まあ、かっこよかったですよ』

 

「……。……!?」

 

『何を驚いているのですか。感想を求めたのは貴方でしょう』

 

「いや……直に褒められると、結構……照れるもんだな。……ついでに結婚してくれないか?」

 

『寝言は寝て言ってください』

 

「つれないなぁ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「こんにちはー」

 

「おう、君か。部活帰りか?」

 

「そうなんすよー。もう腹ぺこで」

 

 

 行きつけの超美味いカレー屋。将来やりたいことのために貯金は継続しているが、たまに両親から『外で食べてきて』と小遣いとは別のお金を貰う時がある。そういう場合は大抵この店に来ていた。

 

 

「一kgカレーお願いしやす。死神さんは?」

 

「チキンカレー、四百gで」

 

「はいよー」

 

 

 必要以上に馴れ合わないと言っていた死神さんが一緒に飯を食ってくれる。それだけで生まれてきてよかったと思う。

 

 

「なあ死神さん。死神の仕事始めてどれくらい経ってるんだ?」

 

「数百年程度ですが、こうしてマンツーマンで監視するのは初めてです。いつもは大抵誰かが亡くなる直前に派遣されますから」

 

「……質問しといてなんだけど、俺に教えていい情報なのか?」

 

「こちらの規則で、被亡者の質問には適宜答えるという決まりがありますから」

 

「はいカレー一kgとチキンカレー四百g。ごゆっくり!」

 

「食べようぜ」

 

「ええ。では、いただきます」

 

 

 これだけ食って二千円未満だもんなぁ。採算取れてるのか?この店……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はー、疲れた……。さっさと帰るか……ん?」

 

 

 繰り返し言うようだが、俺は耳がいい。部活動終わりの疲弊した状態でもその声は伝わってきた。

 

 

「──、──!」

 

「────、──!」

 

「この感じ……喧嘩か?」

 

 

 一対一ならまだいい。しかし多勢に無勢なんてことになってたら見過ごせない。声の方向──体育館裏にやってくると、彼女たちはいた。

 

 

「目障りなのよアンタ。とっとと消えてくれない?」

 

「あの人に告られて振るなんて、いいご身分ねぇっ!」

 

「ぁぐ……っ」

 

 

 同じクラスの少女が女子たちにボコられている!俺はその場に飛び出した──

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……ごめん、母さん」

 

「守ろうとしたんでしょ?暴力に走ったのはよくないけど、私はアンタを誇りに思う」

 

 

 俺は古風な人間だ。場を収めるため、そしてされた分のお返しとしてリンチしていた女子たちをぶん殴った。『今度同じことしたら退学になってでも骨を折る』と脅し、更にPTAと教師陣を巻き込んだため同じようなケースは起こらないだろう。……いじめが陰湿化しないか心配だが、その時は潔く俺が奴らの骨をブチ折る。

 

 俺に下された処分が一週間の自宅謹慎程度で済んだ理由としては、いじめ被害者の女子が懸命に訴えたのが大きい。お互い持ちつ持たれつってヤツか?

 

 そんなこんなで、濃厚な中二生活は終わっていった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 中三になり、タイムリミットまで後六年となっても俺の日常は変わらなかった。

 

 周囲は来たる受験や中体連に向けて躍動する日々。俺は勉強癖がついてたため勉学では悩まなかった。

 

 というわけだから相変わらず困っている輩がいれば勝手に首を突っ込んでいる。全ては俺が気持ちよくなりたいだけの偽善だが、それで救われる誰かがいるのなら責められはしないだろう。

 

 

「応援団長、やりたいやついるか」

 

 

 俺が通う学校は春に体育祭を行う。シーズンに突入し、面倒な役割を押しつけ合うクラスが散見された。

 

 特段目立ちたいわけでも声を出したいわけでもなかったが周りがやりたがらないなら仕方ない。俺は挙手した。

 

 

『どうして立候補したのですか』

 

「だって皆嫌がってるじゃん。ならしょうがないよ」

 

『貴方が面倒事を背負わなければいけないなんて決まりはないでしょう』

 

「なんだよ死神さん。心配してくれんのか?なら結婚しようぜ」

 

『またそうやって誤魔化して……』

 

 

 自分が変わっている自覚はある。だがこれが俺だ。俺の信念は、誰にも曲げられるもんじゃない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ゲホッ、ゲホッ、あ゛ー、喉ガラッガラ」

 

 

 腹から声を出すように心がけてはいるが応援練習はそこそこにキツかった。

 

 

「今日の゛夕飯なんだ゛ろなー」

 

「今日はチキン南蛮らしいですよ」

 

「マジ?いつ知ったの死神さん」

 

「朝、貴方のお母様が仰っていましたから」

 

 

 ……なんか、いいな。こういうの。

 

 

「……ふ」

 

「何がおかしいのですか」

 

「いやー、こういうの家族らしくていいなって思って」

 

「………………私は、貴方を殺すのですよ」

 

「知ってるよ。その上でいいなって感じた」

 

「………………」

 

 

 死神さんは難しい表情を浮かべる。もっと気軽に仕事させてやりたいが、そこは部外者が踏み入っていい領域じゃない。俺は夕暮れ空を見上げた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ゲホッ、ゲホッ……よし、ミッションコンプリート」

 

 

 体育祭本番。俺は八面六臂の大活躍でクラス対抗リレーの一位の座に輝いた。応援もこなした分疲弊しまくったが、まあこれもヨシということで。

 

 

「お疲れ、応援団長」

 

「おう。あんたもサポートありがとな」

 

 

 俺にスポドリを差し出すのは以前リンチに遭っていたクラスメイト。あれからなんか知らんが距離が縮まっていた。

 

 

「かっこよかったよ」

 

「そうかぁ?ま、あんたがそう言ってくれんなら頑張った甲斐はあったな」

 

『…………』

 

「ん?どうしたんだよ死神さん」

 

 

 死神さんは胸を抑えるように佇んでいた。死神にも体調不良とかあんのか?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「プレス!」

 

「そこ詰めろっ!」

 

 

 体育祭が終わり息つく間もなく中体連。泣いても笑ってもこれが最後。

 

 アディショナルタイムは残り一分。点差は二。恐らくこれが中学ラストプレーになる。なら俺は──自分を解放する!

 

 

「今だ!ロングパス!」

 

 

 味方から放り込まれた最高のパスをトラップし、その勢いでゴールに蹴り込む。

 

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

 吠えた。これが俺の、ベストプレー。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「どうよ死神さん。俺決めたぞ」

 

『……悪くなかったんじゃないですか』

 

「クックック、やっぱり死神さんに褒められると気分上がるなぁ!」

 

『……変わり者ですよ、本当に』

 

 

 全国大会までは行けなかったがやりたいプレーができた。それだけでこの三年間は価値がある。

 

 

「ほら死神さん、肉焼けたし実体化しろよ。一緒に食おうぜ」

 

「……では」

 

「おー、本当に出てきた死神。お前いっつも死神と一緒にいるんだろ?いいなー、オレもそういう相手ほしいよ」

 

「あんたは恋人いるじゃねーかよ」

 

「そうだけどさぁ……」

 

 

 チームメイトとの、最後の焼き肉。俺はじっくりとその時間を咀嚼した。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

「俺の番号は……あっ!!あった!!あったぜ死神さん!!」

 

「……あ、私の番号もある」

 

「おっ、あんたも合格したクチか。これからもよろしくな」

 

「……うん」

 

 

 長く接すると、彼という人間の美徳がよく分かる。いずれ殺す相手に情など抱くわけにはいかないと自制してみてもその輝きは強く。

 

 以前彼が助けた女子生徒は、彼と同じ高校に通う。彼女は彼に少なからず思いを寄せているから、いい相手となるだろう。願わくは私から心を離してほしい。私では、彼の気持ちに応えることはできない。

 

 しかし、どんな幸せを掴んでも私は彼を殺す。彼女もまた苦しむだろう。

 

 何故私はこの人を殺さなくてはならない?大罪を犯すからというのが主な理由だが、この人がどんな罪を犯すというの?

 

 少なくとも私は間違えた。『この人を殺したくない』。そう、思わされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 高一。タイムリミットまで後五年。部活動は中学と同じサッカー。

 

 勉強面やサッカーの技術で壁にぶち当たらないか内心ヒヤヒヤしていたが、杞憂だった。相変わらず成績はトップ。部活でも一年にしてスタメン入り決定。

 

 実を言うと二十歳で死ぬことが確定しているのだから中卒でさっさと働きに行った方がいいのではとも考えたが、同中のクラスメイト(以前リンチされてた人)がやけに同じ高校へ通いたいと言っていたため根負けした俺は進学した。それに、せっかくの青春を味わわず死ぬのは寂しいしな。

 

 勉強を頑張ったお陰で民度のいい高校に通えた。それもまた嬉しかった。

 

 

「ねえ、今日も勉強してく?」

 

「いいのか?ここんとこ毎日あんたの家にお邪魔してるのに」

 

「お母さんたちも認めてくれてるから、むしろ来てほしいな」

 

「そんならいいが……迷惑だったらすぐに言ってくれよ」

 

 

 部活で汗を流した後は同中のクラスメイトの家にお邪魔する。シャワーまで使わせてもらってるからマジで頭が上がらない。たまに夕飯食わせてもらうこともあるし。

 

 まあまずはサッカーに集中。俺はグラウンドに向かって歩き出した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふー、つっかれた……」

 

「お疲れ様。はいこれ、タオル」

 

「おー、ありがとう。気が利くなぁ」

 

 

 同中のクラスメイトはサッカー部のマネージャーになっている。既に複数人の部員が彼女に告っているが、呆気なく撃沈。

 

 

「なあお前。あの子とはどういう関係なんだ」

 

 

 俺にそう尋ねるのは先輩。どういう関係って聞かれてもなー……。

 

 

「ただのクラスメイトっすよ」

 

「……可哀想に」

 

「可哀想……って、何がっすか?」

 

 

 先輩は首を振るばかりで何も答えてくれなかった。可哀想な人を放っておきたくなかったからその後もいくらか問い詰めたが、先輩はやはり口をつぐんだまま。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「それじゃ、お邪魔しましたー!あざっしたー!」

 

「うん。また来てね」

 

 

 クラスメイト宅から出ると辺りは暗くなっていた。街灯と月明かりを頼りに、帰路を急ぐ。

 

 

「なあ死神さん」

 

『はい』

 

「マネージャーが可哀想ってどういう意味か知ってる?」

 

『……貴方は、本当に分からないのですか?』

 

「うん。だけど、あいつにはいつも世話になってるから、何か悩みがあるなら解決したい」

 

『…………ハァ…………』

 

 

 死神さんはそれはもう深いため息をついた。呆れも混じっているかのような嘆息だった。

 

 

『彼女は、貴方に恋慕を募らせています』

 

「……へ?」

 

『マネージャーになったのは恐らく……というより確実に、貴方と関係を進展させるためです。中学時代からその気配はありました』

 

「あいつが……俺に、惚れてる?」

 

『はい』

 

「マジで?」

 

『マジです』

 

「……スゥ~~~~……困ったな」

 

 

 こういう場合はどうすればいい?俺が元凶の悩み事なんて今まで解決してこなかったもんなぁ……。

 

 そんな高一の、夏だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 時は流れ高校二年生。来る日も来る日も勉強と部活に追われていた。タイムリミットまで後四年。

 

 マネージャーから俺に対する気持ちを俺は察することができない。それは単に俺が鈍感野郎なのもそうだが、そもそも彼女を恋愛的な目で見たことがないから。

 

 どうしたもんかな、なんて勘考を巡らせていると、ついにその時がやってきた。

 

 

《部活が終わったら校舎裏に来てください》

 

「これは……とうとう、そういうことか」

 

 

 靴箱に入っていた手紙を読むと、丁寧な書き方でそれだけしたためられていた。考えるまでもなく彼女からだ。

 

 で、部活終わりに校舎裏に向かうと、案の定マネージャーがいて。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 俺は耳がいい。背後で野次馬のサッカー部員たちが俺らを見張っていることに気がついていた。……多分、″これ″を伝えたらあいつらにどやされる。

 

 

「……私、あの時あなたに助けられてからずっと、あなたのことが好き。だから……付き合ってください」

 

「ごめん。俺には、胸に決めてる相手がいるから」

 

「…………死神さん?」

 

「ああ」

 

「そっ……か。っ……悔しい、なあ……」

 

「でも俺、あんたにいつも助けられてた。だからこれからも何かあったら言ってくれ。いつでも助けに行く」

 

「……うん。ありがとう」

 

 

 その後。案の定隠れていた部員たちにもみくちゃにされた。一部私怨入ってた。

 

 そして帰り道。黙って監視していた死神さんは重い口を開いた。

 

 

『本当にこれでよかったのですか』

 

「ああ。ていうか、仮に俺が彼女に惚れてたとしても、後四年で死ぬんだしおいそれとオッケーできない」

 

 

 死神さんは悲しげに瞳を揺らす。

 

 

『……では、あの子のことを好きか嫌いかで言ったらどうなのですか』

 

「んまあ好きだけど、俺は死神さんが一番だから」

 

『……バカ、だ。バカですよ、貴方……』

 

 

 痛むような表情。うーん、死神さんにそんな顔させたくなかったな……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 時が経つのは早いな。もう高三だ。タイムリミットまで後三年。

 

 皆将来に向けて指針を定めている。対する俺は残り三年の命。まあ死ぬまでは働くつもりだ。

 

 そんな風に、流れるように毎日を過ごしていたが、

 

 ──楽しかった。今日までの人生は、何物にも代え難い宝物だ。

 

 

「おーいメイクするよー」

 

「おー、今行くー」

 

 

 そんな楽しい学生生活の最後の享楽、文化祭。俺たちのクラスは男子女装、女子男装の執事&メイド喫茶。

 

 

「だっははは!お前女装似合わねえー!」

 

「うっせえ」

 

 

 俺の女装姿は大層笑われた。お客さんにも笑われた。でも一つ嬉しいことは、マネージャーも笑ってくれたこと。やっぱり人って笑ってる方がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 運命とは、なんて残酷なのだろう。

 

 大罪を犯す運命にある。それだけで、若人の命が奪われようとしている。

 

 運命は変えられるのではないか、と一縷の望みをかけてみても私に課せられる仕事は変わらない。

 

 彼を殺す。いつもの仕事と同じ。そう何度も自分に言い聞かせる毎日。それでも、それでも……

 

 ……生きていてほしかった。十年の歳月は私には抱えきれない荷物を背負わせている。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで俺は卒業し働きに出る。就職先はよくあるパソコン業務。

 

 とはいえ猶予はそこまで無い。俺の命は残り二年分しかないのだ。

 

 

「ふー……」

 

 

 夜景は残業の副産物、なんてよく言うが俺は実際にその一部となっていた。

 

 ドライアイ気味の眼を揉み、画面に向かう。今日分の仕事が終わり、ようやくタイムカードを切った。

 

 俺の計画は誕生日の一ヶ月前まで働き、後はずっとやりたかったことをやる、という内容になっている。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「後一年半ぐらいだなー。なあ死神さん。俺本当に死ぬのか?」

 

「……はい」

 

 

 いつかのように家族と食卓を囲むことはなくなったが、それでも死神さんは俺と食事を共にしてくれた。

 

 

「ま、俺より若くして亡くなる人もいるし、二十歳まで生きられたなら上々だな」

 

「……死は怖くないのですか」

 

「うんにゃ、実感が湧かないってのもあるけど、俺はなんか死ぬことをどっかで望んでるらしくてな」

 

 

 母さんと父さんから聞いた話だが、幼少期の俺は簡単に命を放り出そうとして何回も危ない目に遭ってきたらしい。その罰と考えれば死神さんに送ってもらえるのは贅沢かもしれない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「フー!旅行の時間だァー!」

 

『……貴方という人は』

 

 

 電車内から見える、移り行く景色。後一ヶ月で死ぬ俺の心臓(エンジン)を昂らせていた。

 

 この一ヶ月のためにずっと貯金をしていた。両親に遺してやれないのは申し訳ないが、俺は俺らしく命を全うする。

 

 それからは、

 

 

「うおー!この肉美味えー!ほらほら、死神さんも食ってみろよ!」

 

「では一つ、いただきます」

 

 

 やりたいことをやり、食べたいものを食べ、見たいものを見、

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……死神さん卓球強すぎ……」

 

「伊達に数百年働いてませんから」

 

 

 贅を尽くし、最良を尽くし、灯火を尽くして、

 

 

「おー、綺麗な海だ……」

 

『…………』

 

 

 最期に訪れたのは、海辺の町だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「なあ死神さん、タイムリミットまで後何分だ?」

 

『……後、三分程』

 

「そっかー。じゃ、そろそろ頼む」

 

『……はい」

 

 

 死神さんが鎌を顕現させる。おー、ホントに命を刈り取る形してる。

 

 

「死神さん、一つ頼みがある」

 

「……なんですか」

 

「俺のことは忘れてくれ」

 

「……!……ッ、なんッで、今になって……!」

 

「ごめん。でも、死神さんを縛りつけたくないから」

 

「遅すぎますよ!貴方の所為で、貴方が私に染み入ったのに……!」

 

「死神さん」

 

「……なんですか」

 

「俺のこと、どう思ってる?」

 

「──好きに、決まってるじゃないですか」

 

 

 消え入るような声だったけど、確かに聞こえた。

 

 

「そうか……あぁ……いい人生だった」

 

 

 俺が消えても、想いは消えない。それが分かってるならもう、十分だった。

 

 

「……いきますよ」

 

「ああ」

 

 

 光が、見える。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 それを両手で、慈しむように包み込む。何百年と繰り返してきた、命への作法。

 

 

「……さようなら」

 

 

 彼から刈り取った魂を輪廻の渦にそっと注ぐ。これをもって、十年がかりの仕事が終わる。

 

 

「お疲れ死神ちゃん。初めてのマンツーマン監視にしては上々だったよ」

 

 

 そう言うのは、私を彼の元へ派遣させた

 

 

「──神様」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……一つ教えてください。彼が犯す筈だった罪は何なのですか?」

 

 

 これだけはどうしても聞きたかった。仕事と折り合いをつけるためにも。

 

 

「彼はね、放っておいたら神を口説こうとするんだよ。それ自体はいいんだけど、あの子のスキルだと神がコロッと落ちちゃうんだよ」

 

「……そこで私がスケープゴートになったと」

 

「いやーごめんね?君のお陰で結末が変わったから、ご褒美として死神辞めて来世で彼と結ばれることもできるけど、どうする?」

 

「……死神は、辞めません。これが私の仕事ですから」

 

 

 それに、私には約束が残っている。きちんと処理すべき仕事が。

 

 

『俺のことは忘れてくれ』

 

 

 ええ、忘れます。忘れますとも。この仕事がなくなる、その日までに。

 


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