自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ―United States Route― 作:パラレル・ゲーマー
【DAY 5 05:47】
【ワシントンD.C.——政府による最初の意図的リーク】
巨大な転換点。
アメリカ合衆国政府は、秘密会議でノア・マクドウェルとエレノア・バーンズが設計した『第二層』の情報公開トリガーを、意図的に、かつ電撃的に引いた。
東部標準時の早朝。
『ニューヨーク・タイムズ』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』などの信頼度の高い全国紙、および『AP通信』、『ロイター』といった大手通信社に対し、ほぼ同時刻に「スクープ」がもたらされた。
異なる「複数の政府高官」からの、完全に一致するリーク情報。
ニュースサイトのトップページに、血を思わせる赤いバナーの【BREAKING(速報)】が躍る。
見出し:
『米政府、“地球外環境”へ接続する安定した移送現象へのアクセスを確保か。軍の極秘展開の目的が判明』
最初、その見出しを見た読者の大半は、文章の意味を理解できなかった。
「…………は?」
「地球外環境(off-Earth environment)?」
「宇宙ってこと? ロケットの話?」
「移送現象(transport phenomenon)って、どういう意味?」
記事の本文には、こう記されていた。
『複数の政府・軍関係者の証言によれば、現在カリフォルニアの極秘施設で行われている軍事活動の目的は、従来の航空宇宙兵器のテストではない。
アメリカ合衆国政府は現在、地球上ではない環境へ物理的に接続する「安定した移送現象」へのアクセスを確保しているという。
関係者によれば、接続先の環境には内部で【TERRA NOVA(テラ・ノヴァ)】という暫定名称が使用されており、現在、科学調査および安全保障上の評価が進められている』
——重要。
この記事には、「政府がその現象(ゲート)を作った」とは一言も書かれていない。「アクセスを確保している」とだけある。
そして「工藤創一」の名前も、「医療用キット」のことも、微塵も触れられていない。
【DAY 5 06:10】
【インターネットの爆発】
記事配信から30分後。
情報が咀嚼され、その意味する所が人類の脳髄に浸透した瞬間。
インターネットという空間が、物理的な熱を持つかのように爆発した。
X(旧Twitter)の世界トレンド:
1位 #STARGATE(スターゲイト)
2位 #TERRANOVA(テラ・ノヴァ)
3位 #USGOVERNMENT(アメリカ政府)
4位 #PORTAL(ポータル)
@SciFi_Junkie_88
「スターゲイト実在してて草」
@Reality_Bites_Hard
>>@SciFi_Junkie_88
草じゃねえよ!!!!!!!!!
マジじゃねえか!! お前の言ってた通りだよ!!
@Nerd_History_Buff
ドラマ『スターゲイトSG-1』、あれSFフィクションじゃなくてドキュメンタリー番組だった説が急浮上。
アメリカ政府、ずっと前からワームホール持ってただろ絶対。
@Area51_Raider
おいアメリカ政府。
エリア51に宇宙人のUFO隠してるとか、そんな可愛いレベルの話じゃなかった。
地球の裏口にどこでもドア作って、別の星に軍隊送り込んでるとか、スケールが違いすぎるだろ。
(ミーム画像が大量に投下される。
ドラマ『スターゲイト』で、巨大なリング状の装置から青い水面のようなポータルが開く画像に、「WE FUCKING TOLD YOU(だから言っただろ)」というテロップがデカデカと貼られたものが爆発的にRTされる)
@Marine_Grunt_Life
おい、陸軍(Army)の連中ズルいぞ! なんでお前らだけ異世界行ってるんだ!
海兵隊(Marines)もテラ・ノヴァに連れて行け!
@Military_Recruiter_Bot
入隊募集の要項に「※異世界勤務(Off-World deployment)あり。パスポート不要」って追記しとけ。
今年の志願兵、過去最高になるぞ。
【TikTok】
@GenZ_Comedy_Central
(動画テキスト:『POV: Army recruiter tells you the deployment is "off-world."(主観視点:陸軍の採用担当官に「配属先は地球外だ」と言われた時)』)
動画内容:リクルーター役の男に書類を渡された若者が、書類を見て目を丸くし、そのままスターウォーズの帝国のマーチのBGMと共に、おもちゃの光線銃を持って砂場へダッシュしていくコメディ動画。
【DAY 5 07:30】
【日本ネットの反応】
日本の深夜〜早朝。
海の向こうからの特大ニュースに、Yahoo!ニュースのコメント欄や匿名掲示板も完全に祭りと化した。
@Anime_Manga_Fan
「異世界、実在」
「アメリカに先に取られてて草」
@Nihon_No_Gaiya
異世界転移は日本の専売特許(お家芸)だろ!
政府何してんの! 早くトラック運転手か社畜をカリフォルニアに送り込め!
@LightNovel_Reader
米軍異世界もの始まった?
これ完全に『ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり』のアメリカ逆輸入版じゃん。
自衛隊じゃなくて米陸軍がチート火力で無双するやつだ。
@SciFi_Naming_Sense
「テラ・ノヴァ(新しい地球)」って名前カッコよすぎない?
アメリカ政府、こういう時のネーミングセンスだけは本当にガチで中二病だよな。
(※この段階では、まだ誰も、その「テラ・ノヴァ」の事実上の支配者が、日本の元システムエンジニア・工藤創一であることを知らない。日本ネットは完全に「蚊帳の外からのお祭り騒ぎ」を楽しんでいた)
【DAY 5 09:00】
【世界のメディアの反応】
各国の主要メディアも、この「公式リーク」に一斉に飛びついた。
英国『BBC』:
「米国、“非地球環境”へのアクセスを確保と報じられる。ワシントンは公式な確認を避けるも、沈黙が憶測を呼ぶ」
フランス『ル・モンド』:
「人類史上最大の科学的発見を、米国が独占するのか。欧州宇宙機関(ESA)の幹部は『国際的な共有と透明性』を強く要求」
ドイツ『シュピーゲル』:
「未知の環境への無思慮な軍事介入。新たな環境破壊と生態系汚染の危機。我々は地球での失敗を別の星でも繰り返すのか」
中国『環球時報(政府系論説)』:
「米側から漏れ出た報道は、全く検証不能であり、国際社会を欺くための情報戦(プロパガンダ)の可能性が高い。仮に事実であれば、宇宙空間の平和利用を定める国際法に対する重大な挑戦である」
しかし、各国の軍事・安全保障分析家たちは、より冷徹な見方をしていた。
「仮にこれが事実なら、第二次世界大戦における核兵器開発(マンハッタン計画)以来の、最大の戦略環境変化(パラダイムシフト)だ。アメリカは、地球上の地政学的制約を完全に無視できる『後背地』を手に入れたことになる」
韓国『中央日報』:
「消えた米軍大隊、在韓米軍の再編・配置転換とは無関係と判明」
(※ここで、DAY 1の「韓国ローテ説」が正式に外れたと、ネットの軍事オタクたちが回収する)
【DAY 5 11:00】
【ホワイトハウス、否定しない】
朝の報道を受け、ホワイトハウスの定例記者会見室(ジェームズ・S・ブレイディ・プレスブリーフィングルーム)は、通路まで記者が溢れかえる異常事態となっていた。
カメラのフラッシュが瞬き、怒号のような質問が飛び交う。
記者(最前列):
「報道官! 今朝のワシントン・ポスト等による報道は事実ですか!?」
報道官(表情を硬く保ったまま、原稿に目を落として):
「……政府が、非地球環境(off-Earth environment)への安定したアクセスを確保しているという点については、大筋で正確です」
記者室が、一瞬の静寂の後、爆発したような騒然とした空気に包まれる。
記者:
「ポータルですか!? テレポートですか!?」
報道官:
「その用語についてはコメントしません」
記者:
「ワームホールですか!?」
報道官:
「当該現象の物理学的分類については、現在、NASAを含む専門機関が評価中です」
記者:
「接続先は、別の惑星(Planet)ですか!?」
報道官:
「……現在評価中です」
記者:
「『TERRA NOVA』という名称は事実ですか!?」
報道官:
(ほんの数秒の間を置き)「……プロジェクトの内部で使用されている、暫定名称です」
【X(Twitter)/会見の実況タイムライン】
@Press_Room_Watcher
「大筋で正確です」キタアアアアアアアアアアア!!!!
@SciFi_Junkie_88
政府が「テラ・ノヴァ」を公式確認したぞ!!!!
マジで別の星に行ってる!!! アメリカ政府が異世界への扉を持ってる!!!!
【DAY 5 11:17】
【「生命は?」】
記者室の喧騒が最高潮に達した時。
一人のベテラン科学記者が、鋭い声で質問を投げた。
この一言で、部屋の空気が一回、スッと静かになる。
ベテラン記者:
「……生命は、存在しますか?」
報道官は、手元のバインダーの資料をめくり、用意された回答(カバーストーリーのライン)を確認した。
そして、淡々と、しかし決定的な一言を発した。
報道官:
「はい」
記者室。
一瞬。本当に、呼吸音すら聞こえないほど静かになる。
記者(震える声で):
「……今、はいと、おっしゃいましたか?」
報道官:
「はい。現地環境において、生命活動(Biological activity)が確認されています」
【X(Twitter)/タイムラインの完全停止と爆発】
@Ordinary_Citizen
「…………」
@Movie_Geek_LA
「…………マジかよ」
@Tin_Foil_Hat_Bob
「エイリアンいるじゃん!!!!!!!!!!」
「地球外生命体、公式確認きたぞおおおおおおおおお!!!」
【DAY 5 11:20】
【政府が慌てて線引き】
報道官は、記者たちがパニックを起こして「宇宙戦争勃発か!?」という記事を打つ前に、慌てて釘を刺した。
報道官:
「誤解のないように申し添えます。現時点で、技術文明を有する『知的地球外生命体(Intelligent extraterrestrial life)』の存在は、確認されていません」
【ネットの反応】
@Conspiracy_Truth
「“知的”は確認されてない???」
「言い換えると、知的じゃない生物はウジャウジャいるってことだろ!!」
@Biology_Nerd
「植物? 微生物? 苔みたいなやつ?」
@Dinosaur_Kid
「動物!? 恐竜!? ゴジラ!?」
@Science_Comm_Bot(科学系啓蒙アカウント)
みんな落ち着いてください。
「alien life(地球外生命)」と「intelligent alien life(知的地球外生命)」をごっちゃにしないでください。
火星でバクテリアの化石が見つかっても前者に該当します。緑の小人(リトル・グリーン・メン)がレーザー銃を撃ってくるわけではありません。
@General_Public_Reply
>>@Science_Comm_Bot
どっちもエイリアンだろ!!
地球の外に生きてるモノがいるってだけで、人類の歴史の教科書が全部書き直しなんだよ!!
【DAY 5 12:05】
【Facebook/非公開グループ『Army Wives Support Network(陸軍妻のサポートネットワーク)』】
投稿者:Sarah_M
今朝のニュースを見ました。
何を書けばいいのか、まだ分かりません。
夫がどこにいるのか、政府から正式に知らされたわけではありません。
でも、あの日あの人が「国外には行かないから心配するな」と言った顔を、ずっと思い出しています。
コメント(842件):
Amanda_J_Smith
サラ。今は何も決めつけず、待ちましょう。
でも、あなたが一人じゃないことだけは覚えていて。
Emily_T
私も同じです。
ニュースを見てから、ずっと手が震えています。
【DAY 5 12:32】
【X(Twitter)/三日前に「物流のブラックホール」を発見した本人】
@Logistics_Hound
三日前、俺は「あの兵士たちは、俺たちの見えない『どこか』にいる」と書いた。
俺が想定していたのは、巨大な地下施設とか秘密トンネルとか、そういうものだった。
別の惑星とは言ってない。
……で、一つ質問がある。
テラ・ノヴァで数百人の兵士が生活しているなら、排水と廃棄物はどう処理してる?
地球側へ持ち帰っていないなら、向こうで処理していることになる。
人類最初の異世界進出で、最初にやることが不法投棄、だけは勘弁してくれ。
@Environmental_Sci_Girl
>>@Logistics_Hound
世界がひっくり返った日に、そこ気にするの!?
@Logistics_Hound
俺の専門だ。
【DAY 5 13:40】
【科学界が発狂】
政治やオカルト界隈が騒ぐ中、最も狂乱していたのは、世界中のアカデミア(学術界)だった。
@Astro_Biology_Prof(大学の宇宙生物学教授)
「データを公開してくれ!! 頼む!! 一枚の顕微鏡写真でもいい!!
アミノ酸のキラリティ(光学異性)は地球と同じ左手型なのか!?
DNAなのか!? そもそも炭素ベースの生命体なのか!?」
@Planetary_Science_Doc(惑星科学者)
「生命より、大気組成のデータを!! 重力は!? 恒星のスペクトル型は!?
『安定したアクセス』ということは、居住可能領域(ハビタブルゾーン)の惑星に直接繋がっているということか!?」
@Quantum_Physics_Lab(物理学者)
「いや、生命とか岩石とかどうでもいい。
『ゲート(移送現象)』の原理を見せろ!! 相対性理論がひっくり返るぞ!!」
@Geologist_Angry
「黙れ! まず岩をよこせ!! 地質構造が分かれば惑星の成り立ちが分かるんだ!!」
【ネットの反応】
@Observer_X
「科学者たちの欲望(リビドー)が凄まじいwww」
「全員ヨダレ垂らしてホワイトハウスの門を叩き割りに行きそうな勢い」
【DAY 5 18:00】
【「スターゲイト実在」が完全に一般常識化】
夕方。アメリカの主要ネットワーク(CNN、FOX、ABCなど)が、一斉にテレビ特番を組んだ。
見出し:
『STARGATE: WHAT DO WE KNOW?(スターゲイト:我々は何を知っているのか?)』
「スターゲイト」はあくまでネットのミームであり、政府の正式名称ではない。
だが、メディアも大衆も、もう世界がその現象を「スターゲイト」と呼んでいた。
街頭インタビューの様子が流れる。
「怖いですね。あっちから変なウイルスとか、エイリアンが入ってこないか心配です」
「行きたい! 俺も軍隊に志願して、テラ・ノヴァの探検隊に入りたいよ!」
「絶対に行きたくない。地球の税金を使って、見知らぬ星を荒らすべきじゃないわ」
「あっちの土地、買えるの? 不動産投資のチャンスじゃん」
@Travel_Vlogger_Dude(旅行系YouTuber)
「テラ・ノヴァ観光(スペース・ツーリズム)はいつ解禁される!?
イーロン・マスク、早く民間用のゲート作ってくれ!!」
(※当然、この時点では民間人が行けるような状況ではない)
【DAY 6 07:10】
【第二の政府リーク:「すでに戦っていた」】
一夜明け、興奮冷めやらぬ世界に対し、アメリカ政府は「次の一手」——第三層への伏線となる情報を流した。
大手通信社による独占スクープ。
見出し:
『米軍、TERRA NOVAで未知の“敵性生物”とすでに交戦。大隊規模の派遣理由が明らかに』
記事抜粋:
『匿名の国防当局者によれば、カリフォルニアのゲートを経由してテラ・ノヴァへ展開した米陸軍の先遣部隊は、すでに現地で未知の生命体と軍事的な交戦を経験しているという。
関係者によると、少なくとも32体の「敵意を持った大型生物(Hostile biological entities)」が米軍の拠点へ接近し、攻撃を試みた。
米軍は防衛戦闘を行い、全個体を排除(殲滅)した。
この戦闘による、米軍側の死傷者はゼロである』
【ネットの反応】
@Peace_Lover_00
「…………」
「ちょっと待って。昨日『生命がいます』って発表したばかりだよね?」
「もう戦争してんじゃねえか!!!」
@Anti_War_Activist
「人類は本当に愚かだ。未知の生命と接触した最初の行動が『対話』ではなく『32匹殺しました』って。恥を知れ!」
@Mil_Tech_Watcher
「待て待て、左派は落ち着け。
記事をよく読め。『敵軍(Enemy force)』じゃない。『Hostile fauna(敵性動物相)』だ。
知的文明と戦争してるんじゃなくて、狂暴なエイリアン・ビーストに襲われたから、自己防衛で【害獣駆除】しただけみたいなニュアンスだぞ」
@Normal_Dude_Reply
「知的じゃない凶暴な宇宙生物が、群れで米軍の基地に襲いかかってきた……?」
「完全に『SPACE BUGS(宇宙昆虫)』じゃねーか!!」
【DAY 6 07:31】
【Facebook/非公開グループ『Army Wives Support Network』】
投稿者:Sarah_M
「米軍側の死傷者はゼロ」
この一文を、朝から何度も読み返しています。
夫がその先遣部隊にいるのか、誰も確認してくれません。
でも今は、この一文を信じます。
コメント(1,946件)
【DAY 6 07:35】
【『スターシップ・トゥルーパーズ』祭り】
この「宇宙のバグ(虫)と米軍が交戦した」という情報が、ネット民の特定の琴線にクリティカルヒットした。
X(Twitter)やRedditは、映画『スターシップ・トゥルーパーズ』のミームで溢れ返った。
[画像:主人公が銃を構えて「I'M DOING MY PART!(俺も戦うぞ!)」と言っている有名なシーンの改変コラ画像]
@Memes_Warfare
[画像:米陸軍の入隊募集ポスターのパロディ]
『JOIN THE ARMY(陸軍に入ろう)』
『FIGHT BUGS ON ANOTHER WORLD(別の星で虫と戦え!)』
@Army_Grunt_Life(現役兵士のアカウント)
「昨日まで『中東行き怖い、撃たれたくない』とか言ってた俺の部隊の新兵ども。
今朝のニュース見た瞬間、『テラ・ノヴァ配属希望出せますか!? エイリアンの頭ぶっ飛ばしたいッス!』って言い出しててワロタ。
お前ら、相手が人間じゃないと急にイキるのやめろ」
【DAY 6 09:15】
【「32対0っておかしくない?」】
お祭り騒ぎの中、一部の軍事専門家たちが、記事の「別の部分」に注目し始めていた。
@Tactical_Analyst_HQ
「みんなエイリアンの話で盛り上がっているが、軍事的な観点から見て、この記事の最も重要なポイントは『交戦したこと』じゃない。
『損害ゼロ(Zero casualties)』だ」
@Mil_Tech_Watcher
「言われてみれば、確かに。
相手の武器も動きも生態も分からない未知生物。しかも32体という『群れ』での奇襲。
記事の断片には『腐食性の酸攻撃(Acid-based attacks)を仕掛けてきた』という関係者の証言もある。
それを受けて、負傷者ゼロ? かすり傷一つなし?」
@Armor_Nerd_99
「酸を食らって、負傷ゼロ?
既存のケブラー防弾チョッキ(IOTV)やセラミックプレートじゃ、物理的防御はできても化学的腐食は防げないぞ。皮膚まで一瞬で溶かされる。
CBRN(対化学兵器)用の分厚い防護服を着て戦闘したのか? いや、それだと動きが鈍って乱戦じゃ不利だ」
そこへ、別の国防関係筋からの新たなリーク(もちろん、政府が意図的に流した情報)が投下された。
「現地では、兵士の生存率を飛躍的に高める『新型の個人装甲(New personal armor system)』が実戦投入されていた」
名称。
『HEAVY ARMOR(ヘビーアーマー)』
【ネットの反応】
@Nerd_Humor_Bot
「名前、そのまますぎるだろwww」
「もっと『マークX・タクティカル・エクソスケルトン』みたいなカッコイイ名前にしろよ!」
【DAY 6 13:00】
【ヘビーアーマー伝説の広がり】
名称はダサかったが、そこから漏れ伝わってくる『ヘビーアーマー』のスペックは、常軌を逸していた。
未確認情報として流れる噂:
・総重量100kg超の全身鋼鉄装甲。
・ナノモーターによるパワーアシストで、時速40kmで疾走可能。
・人間が「立ったまま」大口径火器(12.7mmや無反動砲)を連射可能。反動なし。
・強酸を浴びても、表面のコーティングが弾き、さらに「自己修復」する。
【YouTube/軍事系解説チャンネル『Defense Tactics Network』】
ホスト:
「……信じられないスペックです。
もし、このネットで囁かれている未確認情報が全て本当なら……これは『歩兵装備』ではありません。
人間の形をした、歩くIFV(歩兵戦闘車)です」
(※奇しくも、ホワイトハウスの秘密会議で国防総省が下した評価と、完全に一致していた)
【コメント欄】
User_A:完全に『Fallout』のパワーアーマーじゃん!
User_B:『Halo』のスパルタンアーマーだろ!
User_C:『Warhammer 40k』のスペースマリーン実用化しやがった!! 米軍おそるべし!!
User_D:一家に一台欲しい。通勤ラッシュも強行突破できそう。
だが、オタクたちが熱狂する一方で、業界関係者たちの間には「ある疑問」が強く浮上し始めていた。
「——誰が、作ったんだ?」
【DAY 6 16:20】
【「その装備、アメリカ製なの?」】
防衛産業の動向を専門に追うジャーナリストたちが、一斉に動き出した。
ロッキード・マーティン、ボーイング、レイセオン、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマン……。
アメリカを代表する大手軍需企業に対し、「ヘビーアーマーの開発に関与しているか?」と取材をかけたのだ。
結果。
誰も、そのような装備を開発・納入した記録を持っていなかった。
@Defense_News_Reporter
大手軍需各社は「ノーコメント」を貫いている。
通常、DARPA(国防高等研究計画局)などの極秘プロジェクトであっても、部品の納入や試作段階で何らかの予算の動きや、企業の関与の痕跡(人材の移動など)が残るものだ。
だが、この『ヘビーアーマー』に関しては、アメリカの防衛産業のどこを探しても、完全に「無から湧いて出た」としか思えないほど、開発の痕跡が存在しない。
【ネットの反応】
@Patriot_Eagle
「国家の最高機密だからだろ。絶対に漏れないように、地下の秘密研究所で政府が直接作ってたんだよ」
@Tech_Observer_Zero
「>>@Patriot_Eagle
それにしても、技術のジャンプが大きすぎる。
数ヶ月前まで、アメリカ軍のパワードスーツ開発は『荷物運び用の外骨格(エクソスケルトン)』がせいぜいで、電源問題(バッテリーが数時間しか持たない)で実用化を断念してたんだぞ。
それがいきなり、自己修復機能付きの完全装甲だと?
技術の進化には『階段』がある。それを5段飛ばしで実現するのは、不可能だ」
そして、一つの「新仮説」が、不気味な説得力を持ってネット上で囁かれ始めた。
@SciFi_Junkie_88
「……おい、まさか。
そのヘビーアーマーって、アメリカが作ったんじゃないんじゃ……?」
「ゲートの向こう(テラ・ノヴァ)で、見つけた技術なんじゃないか?」
【DAY 6 21:40】
【日本人男性の噂】
事態が複雑化する中、海外匿名掲示板(4chan)の片隅に、一つの奇妙な書き込みが投下された。
自称・テラ・ノヴァに派遣された米軍関係者の友人、を名乗る匿名アカウント。
Anonymous (ID: xY7z9Qp2)
「酒場で飲んでたツレ(現役の陸軍兵士)から聞いた話なんだけど。
テラ・ノヴァの基地の奥に、一人だけ『日本人っぽい男』がいるらしい」
最初は、誰も信じなかった。
Anonymous (ID: bB4k1Lm9)
「はいはい、嘘乙。
米軍の最高機密の最前線基地に、アメリカ国籍じゃない民間人の日本人がいるわけねーだろ。
アニメの見過ぎだ」
だが、別のアカウント(これも自称・軍関係者の家族)が、証言を補強した。
Anonymous (ID: pP9x3Ew2)
「いや、うちの夫も同じこと言ってた。
軍人じゃない。迷彩服じゃなくて、変な私服(というか普段着?)を着てて、年齢は30代くらい。
しかも、基地の設備やタレットの配置について、米軍の将校(中佐クラス)が、その日本人に『確認』を取ってるらしい。
さらにヤバいのは、例の『ヘビーアーマー』も、その男が関係してる(あるいは彼が管理している)らしいって噂だ」
【X(Twitter)/ネット探偵たちの暴走】
@OSINT_Hawk_Eyes
「テラ・ノヴァに、謎の日本人がいる?」
「米軍が彼に指示を仰ぎ、彼がオーバーテクノロジーの装甲を管理している?」
「JAPANESE ENGINEER(日本人技術者)?」
ここ。
この一瞬だけ、ネットの推理は真実(工藤創一という元SEの存在)へと、極めて危険なほど肉薄した。
この噂は、太平洋を越えて日本側のネットにも飛び火した。
@Nihon_No_Gaiya
「え? なにそれ。テラ・ノヴァに日本人がいるの?」
「誰?」
「JAXAの研究者? トヨタのエンジニア?」
「まさか、本物の『異世界転移したなろう主人公』が実在するのか?w」
だが、工藤の「元SE」という具体的な経歴や本名までは、まだ届かない。
しかし、この噂の広がりは、創一の身元を伏せたいアメリカ政府にとって極めて危険な兆候だった。
【DAY 6 23:50】
【反論と混乱】
だが、軍事掲示板のリアリストたちが、この噂を火消し(という名の論理的否定)にかかった。
u/Logical_Thinker
「日本人研究者が一人現地にいたから何だっていうんだよ。
NASAにだって優秀な日系人の研究者はゴロゴロいるだろ。そのうちの一人が現場の主任やってるだけじゃねえの?」
u/Geo_Politics_Nerd
「あるいは、アメリカが単独でやってるんじゃなくて、日本政府との極秘の『共同プロジェクト』なのかもしれない。
ほら、日本は最近、南鳥島で深海採掘とか変な技術発表してたろ? ああいう技術力の高い同盟国から、専門家を派遣してもらってるんだよ」
この噂を受け、日本の主要メディアが日本政府の官房長官会見で質問を飛ばした。
記者:
「ネット上で、アメリカの極秘プロジェクト(テラ・ノヴァ)に、日本人の技術者が関与しているという噂が出ていますが、日本政府として把握していますか?」
官房長官(不快そうな顔で):
「日本政府として、米国政府から当該計画について正式な説明を受けておりません。ネット上の未確認情報についてコメントすることは控えさせていただきます」
日本政府が「正式な説明を受けていない」と明言したことで、かえってネットの混乱は広がった。
アメリカが作ったのか?
日本が絡んでいるのか?
それとも、エイリアンの遺物なのか?
すべての謎が飽和点に達しようとしていた。
【DAY 7 06:31】
【最後の爆弾——《OFFWORLDER》】
そして、運命の七日目。
世界の情報戦の歴史に永遠に刻まれるであろう、決定的な「意図的リーク」が投下された。
ダークウェブの掲示板から始まり、そこからX(Twitter)の告発系アカウントへと転載された、一枚の画像。
それは、アメリカ国防総省から関連企業(タイタン・グループ系のダミー会社)へ発注されたと思われる、極秘文書のスキャン画像だった。
文書の大部分は黒塗りで隠されている。
政府機関名、プロジェクト番号、調達資材の詳細などは全て伏せ字(REDACTED)。
だが、たった一箇所だけ。
黒塗りを免れた(ように見せかけた)項目があった。
COOPERATING ENTITY(協力主体)
SANITIZED IDENTIFIER: OFFWORLDER(無害化された識別名:オフワールダー)
@Truth_Seeker_Dave
“What the hell is OFFWORLDER?”
(オフワールダーって、一体何なんだ!?)
最初の反応は、当然「偽物(フェイク)」扱いだった。
@Skeptic_Realist
「はいはい、Photoshop乙。
こんな厨二病みたいな識別名、政府の公式文書で使うわけないだろ。SCP財団の真似事かよ」
だが、文書検証勢(フォント、様式、管理番号の体系、メタデータ、同時期の別資料との照合を行うガチの専門家たち)が解析を行った結果。
@Doc_Verification_Team
「……マジか。
偽造の痕跡が見当たらない。
フォントのカーニング、ペンタゴン特有の書式フォーマット、黒塗りマーカーのデジタル処理層。すべてが正規の軍用ドキュメントの様式と完全に一致している。
少なくとも、様式自体は『本物』に見えるぞ」
【DAY 7 07:05】
【単語の意味に気づく】
英語圏のネイティブスピーカーたちは、その単語の持つ意味を反芻し、そして凍りついた。
OFF-WORLD-ER。
地球外の世界に属する者。
地球外世界から、来た者。
@SciFi_Junkie_88
「…………待て」
@UFO_Watcher_Truth
「おい、これ……。
ただの技術提供者(Engineer)とかじゃないぞ。
『地球外の者』って……宇宙人(エイリアン)のコードネームじゃねえか!?」
そして。
世界二度目の、そして最大の爆発が起きた。
【DAY 7 07:20】
【全情報が一本につながる】
これまでの断片的な情報が、ネットの集合知(という名の妄想力)によって、一つの壮大なストーリーへと組み上げられていく。
米軍一個大隊が消えた。
+
NASAの宇宙生物学者の動員。
+
スターゲイト(移送現象)の存在。
+
TERRA NOVA(非地球環境)。
+
未知の敵性生命体との交戦。
+
地球の常識を超えた異常な装甲技術(ヘビーアーマー)。
+
OFFWORLDER(地球外の協力者)。
↓
@Master_Theory
「結論が出た。
アメリカ政府は、ただゲートを見つけて向こう側を探索してるだけじゃない。
【すでに、向こう側の“誰か(知的生命体)”と接触し、協力関係(同盟)を結んでいる】んだよ!」
@Truth_Eagle_Patriot
「アメリカ軍が、エイリアンの技術提供を受けて、ヘビーアーマーを作ったってことか!?
だからアメリカの軍需産業に開発の痕跡がなかったんだ!」
@Area51_Raider
「オフワールダーが俺たちに技術を渡し、その見返りとして、アメリカ軍がオフワールダーの代わりに現地の『害虫(バイター)』を駆除してやってるんだ!
利害が一致した異星間同盟だ!!」
これが、数時間のうちに世界中のネットにおける「ほぼ主流説」として定着してしまった。
【DAY 7 08:10】
【昨日の「日本人」が再発掘される】
ここが、秘密会議でノアが仕掛けた「目眩まし」が最も美しく(コメディのように)機能した瞬間だった。
昨日まで、「テラ・ノヴァに日本人の技術者がいるらしい」と噂されていた。
今日、「OFFWORLDERという地球外の協力者がいる」という情報が出た。
ネット民の脳内処理:
「あ」
「まさか」
@Anime_Fan_USA
「OFFWORLDERって、人間型(ヒューマノイド)なのか?」
@Manga_Reader_X
「もしかして、日本人に擬態してる?」
@SciFi_Junkie_88
「擬態っていうか、アバターだろ!
宇宙人が、地球側(あるいは地球人)とコミュニケーションを取るために、アメリカ人が親しみやすい(かつ警戒されにくい)『無害な日本人のSE』の姿をした代理身体(バイオロイド)を作って、それに意識をダウンロードして活動してるんだよ!」
誰か(極めて常識的な人間)がツッコミを入れる。
@Normal_Dude_Reply
「いや、普通に考えて、ただの日本人の天才技術者なんじゃないの?」
すぐさま反論が飛ぶ。
@SciFi_Junkie_88
「>>@Normal_Dude_Reply
じゃあなんで政府の公式コードネームが『OFFWORLDER(地球外の者)』なんだよ!
ただの日本人なら『JAPANESE ENGINEER』でいいだろ!
わざわざそんな名前をつけるってことは、中身は地球人じゃないんだよ!」
「そりゃそうだ」
「確かに」
「天才日本人説、論破完了」
正解だけが、見事に多数決で負けた。
【DAY 7 09:30】
【日本ネット、最高潮】
海の向こうでの「宇宙人=日本人アバター説」の広がりは、日本のネット民を腹を抱えて笑わせた。
@Nihon_No_Gaiya
「宇宙人、日本人に擬態説wwww」
「なんでわざわざ日本人選んだんだよww」
「そりゃ宇宙人もアニメ見たんだろ。秋葉原行きたいんだよ」
「地球の代表として、まずは日本にコンタクトを取ってきたってことか。胸熱だな」
【5ちゃんねる:ニュース速報+】
「オフワールダーさん、日本語ペラペラ説」
「昼飯に寿司とか牛丼食ってそう」
「アメリカのMRE(戦闘糧食)食わされてキレてそう」
本物(工藤創一)は東京都出身であり、実際に作業の合間にカップラーメンを啜ったりしている。
腹の底から笑える、壮大なすれ違いコントが完成していた。
【DAY 7 11:00】
【ホワイトハウス記者会見】
ワシントンD.C.。
ホワイトハウスの記者室は、過去最大級の人口密度となっていた。
もはや国内政治部の記者だけでなく、科学部、国際部、さらにはオカルト雑誌の記者までが紛れ込んでいる。
記者(最前列):
「レベッカ・ヘイル報道官! ネット上で流出している政府文書の『OFFWORLDER』とは、一体何者ですか!?」
報道官(鉄仮面の如く無表情で):
「個別の機密識別名(コードネーム)について、コメントはいたしません」
記者:
「人間ですか!?」
報道官:
「コメントしません」
記者:
「地球外生命体(Alien)ですか!?」
報道官:
「……コメントしません」
記者:
「アメリカ政府と、技術協力関係にある存在ですか!?」
報道官:
「進行中の機密活動について、回答はいたしません」
冷静な記者:
「報道官。では、『OFFWORLDER』という存在そのものは、否定しないのですね?」
報道官(少しだけ間を置き):
「……先ほどの回答以上に、私から申し上げることはありません」
【X(Twitter)/会見実況タイムライン】
@Press_Room_Watcher
「否定しなかった!!!!!!!!!!!!!」
「宇宙人の存在、実質的に肯定キタアアアアアアア!!」
@FactCheck_Truth
「いや、何も肯定してないぞ! 『コメントしない』って言っただけだ!」
だが、冷静な記者の声など、もはや誰の耳にも届かなかった。
【DAY 7 12:20】
【大手ニュース速報】
大手ニュースネットワーク(CNN、FOXなど)も、この熱狂に完全に飲み込まれた。
画面には「BREAKING NEWS」の文字。
見出し:
『ホワイトハウス、“OFFWORLDER”について否定せず。地球外協力者の存在疑惑深まる』
見出しだけで、事態はさらに悪化した。
テレビのニュース番組では、背景に紫色の惑星(テラ・ノヴァ)のイメージ画像が置かれ、その手前に「謎の人型シルエット(頭が大きく目が黒い、典型的なグレイ型エイリアン)」のCGがデカデカと表示されている。
キャスター:
「WHO IS THE OFFWORLDER?(オフワールダーとは何者なのか?)」
【DAY 7 14:00】
【世界のOFFWORLDER予想大会】
大手ネットメディアが、読者参加型のアンケート(投票)を実施した。
『OFFWORLDERの正体は?』
・人型の地球外生命体(ヒューマノイド・エイリアン) 31%
・異次元文明の使者 22%
・超高度なAI(人工知能) 17%
・宇宙人が操る遠隔操作アバター 12%
・その他(オカルトなど) 10%
・ただの人間の協力者 8%
正解(普通の人間)は、わずか8%の超少数派だった。
コメント欄:
「普通の人間だったら一番つまらないだろ。夢を見させろ」
「人間が、あんなスターゲイトとかヘビーアーマーを作れるわけがない。宇宙人以外あり得ない」
【DAY 7 16:00】
【科学界の反応がOFFWORLDERへ移る】
科学者たちの狂乱も、岩石や大気から、「異星人」へとシフトした。
@Linguistics_Prof(言語学教授)
「アメリカ政府は、知的存在との接触(ファースト・コンタクト)の手順を独占しているのか!?
彼らの言語体系はどうなっているんだ!? 数学を共通言語として用いたのか、それともテレパシーか!?」
@Astro_Biology_Doc
「文化は!? 彼らの生化学的構造は人類と互換性があるのか!?」
実際には、言語体系は「日本語」であり、文化は「残業嫌いの元社畜」、生化学的構造は「完全に地球人」なのだが、そんなことは知る由もない。全てが無意味な考察だった。
【DAY 7 17:00】
【宗教・哲学系メディア】
意外なことに、宗教界の指導者たちは比較的冷静だった。
高位聖職者のコメント:
「地球外に神の被造物が存在していたとしても、それは神学を自動的に否定するものではない。神の愛は宇宙全体に及ぶものである」
一部の新興宗教や終末論者は「最後の審判だ!」と騒いだり、「宇宙人を崇拝せよ」とカルト化し始めたりしたが、一般のネット民からは冷たい視線を浴びていた。
「まだ宇宙人って確定したわけじゃないから落ち着け」
【DAY 7 18:20】
【市場・企業】
ウォール街の反応は、極めて現金だった。
宇宙開発、防衛産業、新素材、バイオテクノロジー、そして物流関連の株価が、1日のうちに乱高下(ジェットコースター)を繰り返した。
経済番組のアンカー:
「正直に申し上げます。何に投資すれば正解なのか、今はウォール街の誰にも分かりません!」
「もし、地球外資源へのアクセスと、オフワールダーからの技術提供が本物であるならば、既存の資源価格体系(石油や貴金属の価値)そのものの崩壊を考えなければなりません」
ただし、この時点ではまだ、テラ・ノヴァから具体的な資源(油田やレアメタルなど)が大量に持ち込まれているという確証はない。市場は「期待と恐怖」の噂だけで暴れていた。
【DAY 7 20:00】
【「テラ・ノヴァへ行きたい」】
夜になり、一般人の関心は「未知への恐怖」から、「自分たちの生活にどう影響するのか」という現実的(かつ能天気な)方向へシフトし始めていた。
「ねえ、テラ・ノヴァって移住できるの?」
「土地買えるかな? まだ誰も所有権主張してないなら、西部のゴールドラッシュみたいに早い者勝ちじゃね?」
「向こうで仕事ある? 工場とか建設の求人出てる?」
最も被害を受けたのは、米軍の採用担当(Recruiter)たちだった。
彼らのSNSアカウントには、若者たちから信じられない数のダイレクトメッセージが殺到した。
「OFFWORLD deployment(地球外配属)ありますか?」
「陸軍に入ったら、テラ・ノヴァに行けますか?」
「ヘビーアーマー着たいです!」
採用担当の公式回答:
「個別の配属先について、入隊前に保証することはできません。(※頼むから落ち着いてくれ)」
ネット上には、新たなミームが誕生していた。
[画像:米軍の星条旗ポスター]
『JOIN THE ARMY(軍に入ろう)』
『GET ISEKAI'D(異世界転生しようぜ)』
【DAY 7 22:00】
【まとめ系動画:「この一週間で何が起きた?」】
YouTubeの人気ニュース解説チャンネル(登録者500万人)が、怒涛の一週間を振り返るライブ配信を開始した。
解説者:
「皆さん、落ち着いて聞いてください。
我々が生きているこの一週間、世界で何が起きたか。時系列で整理しましょう。
一週間前。米軍の一個大隊が、カリフォルニアの閉鎖基地へ消えました。
↓
NASAの科学者が合流しました。
↓
基地が、大量の物資を飲み込む『物流のブラックホール』であることが判明しました。
↓
政府が『地球外移送現象(スターゲイト)』へのアクセスを公式に認めました。
↓
接続先は『TERRA NOVA』と呼ばれ、生命の存在が確認されました。
↓
米軍がすでに、酸を吐く未知のエイリアン(害虫)と戦争をしていました。
↓
米軍は『ヘビーアーマー』と呼ばれる、既存技術を無視した無敵のパワードスーツを装備していました。
↓
現地の基地を仕切る『日本人らしき男性』の目撃談が出ました。
↓
極秘文書から、技術提供者である『OFFWORLDER』というコードネームが発掘されました。
↓
そして今、世界中が『アメリカは宇宙人と同盟を結んだ』と確信しています。
……どうですか、皆さん?
一週間前なら、こんな話をした人間は、確実にアルミホイル帽子を被った陰謀論者(Qアノン)扱いされて、精神科を勧められていたでしょう。
ところが現在、その情報の大部分を、アメリカ合衆国政府自身が『否定していません』」
【ライブチャットのコメント】
「2026年、濃すぎるだろ」
「まだ四か月以上残ってるぞ」
「歴史の教科書、今年だけで100ページくらい増えそう」
◆終盤
【世界最大の掲示板スレ】
Redditのフロントページ。
最も勢いのあるスレッドが、伝説的な書き込み数(10万件超)を記録しつつあった。
タイトル:
[MEGATHREAD] Everything we know about TERRA NOVA and OFFWORLDER
(【総合メガスレッド】テラ・ノヴァとOFFWORLDERについて、現在判明していることの全て)
【テンプレ(まとめ)】
■確定事項(事実)
・米政府は非地球環境へのアクセスを確保。
・暫定名称『TERRA NOVA』。
・生物は存在する。知的文明は「確認されていない」。
・米軍が敵性生物32体と交戦。米軍側死傷者0。
■信頼性の高い未確認情報
・新型個人装甲『ヘビーアーマー』の投入。
・大隊規模の派遣と、NASA科学者の多数関与。
■未確認の噂・推測
・現地に日本人男性らしき姿。
・OFFWORLDERが知的地球外存在である。
・OFFWORLDERが、ゲートやアーマーの技術提供者である。
・米政府が、既に異文明と秘密裏に外交関係を構築している。
スレッドの書き込み:
u/Logic_Guy
「ちょっと待って。“知的文明は確認されていない”って政府は言ってるのに、OFFWORLDER(宇宙人)がいるのは矛盾してないか?」
u/Lore_Master
「だから、OFFWORLDERが『TERRA NOVAの出身』とは限らないだろ。
テラ・ノヴァはただの未開の星で、彼ら(宇宙人)も俺たちと同じように、別の世界からポータルを通ってやって来たんだよ」
u/Universe_Brain
「つまり、多次元宇宙の交差点(ハブ)みたいな場所ってことか! そこで米軍と宇宙人が出会って、同盟を組んだんだな!」
世界観が、ネット民の妄想力によって勝手に、そして壮大に拡張されていく。
◆非常に重要な「正解レス」
そんな狂乱のメガスレッドの、はるか奥底。
何万という書き込みの波に埋もれ、評価(Upvote)がわずか『4』しかついていない、誰の目にも留まらない一つのレスがあった。
u/Boring_Truth
「いや、お前ら映画の見過ぎだろ。
OFFWORLDERって、単に『地球人の技術協力者(日本人?)』に、政府の広報担当が付けた『ミスリード用のダサいコードネーム』なんじゃないの?
宇宙人とかじゃなくて、ただの凄い発明家の人間だよ、多分」
その極めて退屈な、しかし100%の「正解」を突いたレスに対し、数件の嘲笑的な返信がぶら下がっていた。
「>>u/Boring_Truth
そんなダサいオチあるかよwww お前はハリウッドで脚本書けないな」
「無理あるわ。スターゲイト開けてパワードスーツ作る人間が、普通の『地球人の人間』なわけないだろ」
「逆張りの陰謀論乙。素直に宇宙人の存在を認めろよ」
正解者が、逆に陰謀論者扱いされて冷笑される。
ノア・マクドウェルとアメリカ政府が仕掛けた「情報の欺瞞」は、完璧なまでに機能していた。
◆ラスト
「OFFWORLDERとは何者なのか?」
そして現在。
世界最大のニュースサイトのトップページには、象徴的なバナー画像が掲げられている。
不気味な黒い人型シルエット。
その背後には、星々が瞬く紫色の空(テラ・ノヴァ)。
見出し:
『WHO — OR WHAT — IS THE OFFWORLDER?』
(《OFFWORLDER》とは、“誰”なのか。それとも“何”なのか?)
本文にはこうある。
『アメリカ政府は答えない。軍も答えない。NASAも答えない。
だが、その存在を否定する者も、誰もいない。』
X(Twitter)の世界トレンドは、完全に一つのテーマに支配されていた。
1位 #OFFWORLDER
2位 #TERRA_NOVA
3位 #STARGATE
4位 #ALIEN_CONTACT
5位 #SPACE_BUGS
タイムラインの最後に流れてきた、ある匿名の投稿。
「で、結局OFFWORLDERって何者なんだよ?」
そのたった一行の問いかけに対し、数秒の間に返信が1万件を超え、雪崩のように通知がリフレッシュされていく。
エイリアンだ。神だ。AIだ。未来人だ。
誰も、正解には辿り着かない。
なお、この時点で世界中の何億人もの人間が《OFFWORLDER》の正体について熱狂的に議論していたが、「東京都出身の元システムエンジニア」という正解を真面目に主張する者は、ほぼ誰もいなかった。