自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ―United States Route― 作:パラレル・ゲーマー
惑星テラ・ノヴァ。
《Rare Metals Outpost 01》と中央工場(FOB)の中間に位置する、昨日まで赤茶けた荒野だった広大な平原。
そこに突如として、巨大な「青い海」が出現しつつあった。
見渡す限り、どこまでも続く太陽光(ソーラー)パネルの列。
ただし、それはまだ完成していない。
ゲートから数キロ離れた臨時集積場には、地球から運び込まれたばかりの物資が山のように積まれている。
巨大なトレーラー、規格外の貨物コンテナ、忙しく走り回るフォークリフト、そして大量の梱包材。
木箱や強化プラスチックのケースには、はっきりと企業ロゴが印字されている。
【TITAN ENERGY SYSTEMS】
【KAIDO GROUP】
そして、その物資の山の上空。
ブーン。ブーン。ブーン!
羽音のような低いモーター音を響かせながら、数百機の『Construction Robot(建設ロボット)』が空を乱舞していた。
Rare Metalsの入手によって《高度電子工学》と《高性能制御装置》の研究条件が整い、その派生として昨夜解禁されたばかりの施工用ロボットだ。
彼らは地上の作業員(米兵たち)を完全に無視するかのような正確さとスピードで、コンテナからパネル、架台、配線、変圧設備、蓄電設備を次々と掴み出し、空を飛んで予定地へと運んでいく。
ガシャン! ブイィィン! ガシャン!
地上では、先行して配置されたロボットたちが、一切の無駄のない動きで架台を組み立て、パネルを嵌め込み、配線を接続していく。
工藤創一は、ヘビーアーマーではなく、身軽な作業向けの装備でその様子を眺めていた。
片手に持ったタブレットを操作する。
「よし、第一ブロックの基礎完了! 次のブロック、開始!」
創一が画面上で『青写真(ブループリント)』のエリアを指定した瞬間。
数百機のロボットたちが一斉に進路を変更し、新たな建設予定地へと群がっていく。
まるで、意思を持った金属の蜂の群れだ。
数週間前から、テラ・ノヴァの大気、地質、放射環境などを調査するため現地に常駐しているNASAのエミリー・フォスター博士は、本来の環境調査の仕事を完全に忘れ、口を半開きにしてその光景を見上げていた。
「……何なんですか、これは」
「建設ロボットですけど?」
創一が当たり前のように答える。
「それは見れば分かります。私にも視力はあります」
フォスター博士は、震える指で地平線まで続く青いパネルの海を指差した。
「どうして、この規模のメガソーラー発電所が……昨日計画されたばかりなのに、もう物理的な形になり始めているんです?」
「物が来たから?」
創一の素朴な返答に、博士は完全に沈黙した。
昨日のことだ。
レアメタル鉱床の採掘を強行した結果、工場の電力予備率は危険水域である【5.2%】にまで低下した。
もちろん、創一の工場(システム)でも、自前でソーラーパネルを生産することは可能だ。
しかし、今回必要な枚数を自前で生産しようとすると、まず「ソーラーパネルの製造ライン」そのものを大幅に増設しなければならない。そして、その製造ラインを動かすためにも、さらに電力が必要になる。
そこで、創一は極めて合理的な(工場長的な)結論に達した。
『だったら、地球にある完成品のパネルをそのまま持ってきてもらった方が早くない?』
彼はすぐさま、アメリカ側の『バックオフィス』であるノア・マクドウェルへ発注をかけた。
結果。
タイタン・グループと海道グループの生産力、そして米政府の強権的な調達網が本気を出した。
まず押さえられたのは、地球上の倉庫に眠っていた既存在庫と、すぐに出荷可能な最新型の高効率パネル。その第一陣だけでも、軍用輸送機と特急貨物でカリフォルニアのゲート施設へ雪崩れ込み、臨時集積場を埋め尽くしていた。
追加分についても、今後数日から数週間にわたり、生産ラインから順次ゲートへ送り込まれる予定だ。
創一としては、全量が揃うまで待つ必要などない。
来た分から並べればいいのだから。
創一は、うず高く積まれたコンテナの山を見上げて、感心したように言った。
「いやー……アメリカって、本当に物(パワー)がありますね」
『第一区画、系統への接続完了しました』
イヴの音声が響く。
創一のタブレットの電力グラフで、供給能力のバーがグンと跳ね上がった。
『大型蓄電設備(Accumulator)、充電開始。……現在の電力予備率、二十八・四%まで回復しました』
「おお!」
さらに、ロボットたちが猛烈な速度で施工を続ける。
第二ブロック。第三ブロック。
『電力予備率、三十五・七%』
「余裕ある!」
創一が嬉しそうに叫んだ。
その瞬間、フォスター博士が即座に突っ込んだ。
「その『余裕がある』という言葉を聞くと、本能的な不安を覚えるようになりました」
「なんで?」
創一は不思議そうな顔をした。
◆
一方、地球。
ワシントンD.C.のホワイトハウス。
地下のシチュエーション・ルームでは、定例の最高機密会議が始まろうとしていた。
ロバート・ウォーレン大統領、ダグラス首席補佐官、エレノア・バーンズCIA長官に加え、エネルギー長官、商務長官、国防総省の関係者、そして特別顧問のノア・マクドウェルが円卓に座っている。
今回は「政治と外交」の話ではなく、「工場の実務と拡張計画」が主眼であるため、NASAなどの純粋な科学関係者は正式な会議参加者から外されている。
そして。
大型スクリーンには、テラ・ノヴァ側からリモートで参加している工藤創一の姿が映し出されていた。
「では、始めよう」
大統領が口を開きかけた時。
画面の向こう、創一の背後で。
ブーン! ガシャン! ブイィィン! ガシャン!
数百機のドローンが、凄まじい勢いで飛び交い、何かを組み立て続けているのが見えた。
「…………」
ウォーレン大統領は、しばらくその背景を無言で見つめていた。
「……工藤氏」
『はい!』
「先に聞こう。後ろでは一体、何をやっているんだ?」
創一は振り返り、そして笑顔で画面に向き直った。
『ああ! ソーラーパネル並べてます!』
「……見れば、それくらいは分かる」
大統領が額を押さえ、ダグラスが少しだけ笑いを堪えた。
「第一の議題です。電力問題はどうなりましたか?」
エネルギー長官が、本題に入る。
『あ、はい。昨日のレアメタル採掘のせいで、電気を使いすぎちゃいまして』
「報告では、予備率が五・二%というブラックアウト寸前まで低下していましたね」
『はい!』
「極めて危険な状態です」
『はい!』
「……返事だけはいいな」
ウォーレンが呆れたように言う。
『でも、もう大丈夫ですよ! アメリカからパネルが大量に来たんで!』
創一がタブレットをカメラに向け、現在の稼働状況を見せた。
広大な太陽光発電フィールド。系統制御。大型蓄電設備。
「それは全部、地球製(メイド・イン・アース)なのか?」
大統領が問う。
『ほとんどそうですね。Titan GroupとKaido Groupから大量に融通してもらいました。あと政府側でも調達してくれたんですよね? めちゃくちゃ助かりました!』
創一は、大げさなくらい素直に感謝した。
『俺の工場だけで全部作ってたら、まずソーラーパネルの生産ラインそのものを増設しなきゃいけなかったんですよ。でも、パネルの完成品を持ってきてもらえば、あとは俺のロボットで設置するだけなんで。一気に解決しました』
エネルギー長官が、深く頷いた。
「地球側の既存の設備を、あの異星の環境でそのまま大規模に使用できるというのは、我々にとっても極めて重要なデータです。電圧や周波数の変換はどうしました?」
『変換器(インバータ)の規格を合わせる必要はありましたけど、電気を作るだけなら地球の製品でも普通に使えますよ!』
「発電効率は?」
『現時点の実測では、地球上での定格出力に対して平均九割前後です』
今度はフォスター博士が答えた。
『テラ・ノヴァの主星は地球の太陽と完全に同じではありませんが、現在の観測地点では、市販のシリコン太陽電池と相性の悪いスペクトルではありません』
『へー』
創一が感心する。
『その「へー」のために、私は三日かけて分光データを取りました』
『ありがとうございます!』
エネルギー長官はさらに尋ねた。
「夜間はどうします?」
『Accumulatorで賄います。昼間の余剰電力を蓄電して、夜間負荷を平準化する構成です』
創一はタブレットに表示された蓄電量を示した。
『今後、工場の負荷が増えるのに合わせて蓄電設備も増やします』
ここが重要だった。
テラ・ノヴァの未知の技術(システム)だけが、工場を育てるわけではない。
地球文明が百年以上かけて成熟させてきた「大量生産品」を物理的に持ち込めば、インフラの構築スピードを劇的に加速させることができるのだ。
『いやー、アメリカの工業力(パワー)を感じますね!』
創一が親指を立てる。
ウォーレン大統領は、少しだけ満足そうに鼻を鳴らした。
「……そうか」
覇権国家のトップとして、自国の産業力が異星の開拓に直接貢献しているという事実は、純粋に誇らしいものだった。
「大統領。顔に出ていますよ」
ダグラスが小声で囁く。
「出していない」
ウォーレンは咳払いをした。
「それで、設置工事にはどの程度の期間がかかる見通しです?」
商務長官が、ビジネスマンの顔で尋ねた。
地球の感覚なら、これだけの規模のメガソーラーを更地に建設するには、整地、架台の基礎工事、パネルの設置、配線などで数ヶ月はかかる。
『今日中には、主要区画の接続は終わりますよ』
沈黙。
「……今日?」
『はい』
「この規模の設備をですか?」
エネルギー長官が目を丸くする。
『だって、パネルはもう到着してるんですから。並べるだけですよ』
画面の端から、フォスター博士の疲れた声が割り込んできた。
『大統領。その説明では、何の説明にもなっていません』
ウォーレンが眉を上げた。
「……NASAは今回の会議から外したはずだが」
『ええ。私は正式な参加者ではありません』
フォスター博士は、創一のすぐ隣から答えた。
『物理的に工藤さんの隣にいるだけです』
『俺が呼んだわけじゃないですよ?』
「……そうか」
『え?』創一が首を傾げる。
◆
ここで、ノア・マクドウェルが静かに口を開いた。
「工藤様」
『なに、ノア君?』
「その件について、地球側の複数の企業から、多数の問い合わせが殺到しております」
『ソーラーパネルの追加注文?』
「いいえ」
ノアは、画面の奥で飛び交う無人機を指した。
「『建設ロボット(Construction Robot)』です」
『そっち?』
「そちらです」
ノアは、現在の地球側の反応を説明した。
創一が「荷下ろしと設置」に使っているロボット群の映像は、ゲート基地で作業している米軍や政府契約業者の目にも当然入っている。
その映像を見たタイタン・グループ、海道グループ、DOE(エネルギー省)、全米のゼネコン、インフラ企業が、一斉に食いついたのだ。
ソーラーパネル自体は、地球にもある。
だが、「工場規模の巨大な施工を、数百機の無人機が『青写真』のデータに従って、ほぼ完全自動で実施する技術」。
これは、完全に次元が違った。
「道路建設、送電線の敷設、災害復旧、工場建設、住宅建設、放射能汚染地域などの危険区域での施工、宇宙開発の拠点構築、そして軍事工兵任務。……あらゆる分野から、『あの技術を使わせてほしい』という問い合わせが来ています」
ウォーレン大統領が、真剣な顔で創一に尋ねた。
「そのロボットは、地球へ持ってこれるのか?」
『持ってこれますよ?』
創一はあっさりと答えた。
会議室が、一瞬静かになる。
『ただ、ロボットだけ箱に詰めて持っていってもダメですよ』
創一は手元のタブレットで図を書きながら説明した。
『あれを動かすには、拠点となるロボポート(Roboport)、専用の充電設備、アイテムを管理する物流ネットワーク(Logistic Network)、ブループリントの制御盤、指定された規格の資材供給コンテナ、故障した時の補修システム。そういうインフラを全部セットで地球側に構築しないと、ただの“空飛ぶ箱”にしかなりませんよ』
「その点についても、彼らには説明しました」
ノアが言う。
「うん」
「それでも欲しいそうです。インフラ投資をしてでも」
『まあ、人間がやるより何百倍も速くて便利ですもんねー』
創一の軽い言葉に、ウォーレンは頭を抱えることはなかった。むしろ、強い興味を持っていた。
建設ロボットは、直接的な殺傷兵器ではない。しかし、社会のインフラ構築速度を劇的に変える可能性がある。
ただし、安易に地球へ出せば。
建設労働者の雇用、物流、災害対応マニュアル、軍事工兵のドクトリン、そして既存の産業構造のすべてに、甚大な影響を及ぼす。
「その件は、別途ワーキンググループを立ち上げて検討する」
ウォーレンが結論を出した。
「今ここで、簡単に決める話ではない」
「賢明です」
エレノアが同意する。
『俺は、貸すくらいなら別にいいですけど?』
「だから、今は決めないと言っている」大統領がピシャリと制す。
『はーい』
地球側の社会を根底から変えかねない『政治爆弾』が、一つ保留された瞬間だった。
◆
「では、次に——」
大統領が議事を進めようとした時。
『あ、大統領!』
創一が突然、画面越しに手を挙げた。
「……何だ?」
『俺の方から、今後の予定について相談したいんです!』
ウォーレンは、微かに嫌な予感を覚えた。
「今後の予定?」
『はい!』
創一は、テラ・ノヴァのホログラムマップを画面に共有した。
【CENTRAL FACTORY(中央工場)】
【RARE METALS OUTPOST 01】
【OIL FIELD(油田)】
【SOLAR FIELD(太陽光発電エリア)】
【RAIL NETWORK(鉄道網)】
【FOB(米軍前線基地)】
色々作ってきたように見えるが、惑星全体から見れば、彼らが占有しているのはまだ「点」に過ぎない。
『ここから当分の間、俺は基地をひたすら拡大します!』
「ひたすら?」
『ひたすら、です!』
創一は、これから数週間から数ヶ月にわたる開発計画のロードマップを提示した。
『1.中央工場の拡張。
現在の数倍の規模にします。精錬、化学プラント、電子回路の量産ライン、組立機、そして各種の研究施設(ラボ)を根本から作り直します』
『2.資源アウトポストの増設。
鉄、銅、石炭、石油、Rare Metals、その他これから見つかる新資源の鉱山を、どんどん増やします』
『3.鉄道網の拡張。
単線部分をすべて複線化し、待避線を設け、巨大な貨物ターミナル駅を作り、信号システムを完璧に組み上げます』
『4.電力設備の増強。
Solar Farmの拡張、蓄電池の追加、安定した送電網の構築』
『5.防衛線の押し上げ。
広域レーダーの設置、防壁の拡張、自動タレットの弾薬補給網の自動化』
『6.Construction Robotの量産。
人間の手による施工(手作業)を極限まで減らします』
創一は、嬉しそうに締めくくった。
『つまり、しばらくの間は「新しい凄いオーバーテクノロジーを一個作る」というよりも。
今の工場そのものを、ひたすら物理的に太らせる(スケールアップさせる)フェーズに入ります!』
これは非常に重要な宣言だった。
「期間は?」
ウォーレンが問う。
創一は少し考えた。
『まず、数週間。状況を見ながらですが、数ヶ月くらいはこの「工場拡張フェーズ」が続くって感じですかね』
ここで、ハリントン中佐が通信に割り込んできた。
『軍としても、その方針を全面的に支持します』
「理由は?」
『工業圏の拡張は、すなわち我々の守備範囲の拡大を意味します。しかし、建設ロボットや自動防衛設備が増えれば、米軍の兵士を単純な警備任務から外し、より戦略的な任務(探索やバイターの巣の事前破壊)へ回すことができます』
ハリントンは、モニターの創一を見た。
『ただし。工場の拡張速度と、防衛範囲の構築は、必ず同期(シンクロ)させてください』
『はい』
『工場だけを先に遠くへ伸ばして、後から「兵士の皆さん、守りに来てください」と追いつけと言うのは、無しですよ』
『……はい』
『今、不自然な間がありましたね?』
フォスター博士が突っ込む。
『気をつけます!』
◆
「分かった」
ウォーレン大統領は頷いた。
「では、その巨大な工業基盤を作り上げた先には、何がある?」
創一はニヤッと笑い、技術ツリーを操作した。
現在地点から、さらに右側の深い階層へとスクロールしていく。
そこに輝くアイコン。
【NUCLEAR POWER】
『原子炉です!』
会議室は、今回は凍りつかなかった。
「……原子炉か」
『はい!』
「まあ、あるか」
『あります!』
ウォーレンは、少しだけ肩をすくめた。
「良いのではないか?」
「大統領」
ダグラスが呆れたように言う。
「随分と慣れましたね」
「五億トンの異星の鉱山の話をした翌日に、今度は原子炉で驚けと言われても困る」
大統領の言葉に、会議室に少しだけ笑いが起きた。
「それに、原子力ならば我々人類もすでに実用化して使っている。まだ理解できる範囲の技術だ。ブラックボックスのナノマシンよりは遥かにマシだ」
『そのずっと先の技術には、反物質(Antimatter)とかもありますけど』
創一が何気なく言った。
会議室が、静まり返った。
「…………」
ウォーレンは、目を閉じた。
「今は、聞かなかったことにする」
『はーい』
エレノアは手元の端末に確実に記録を残し、ノアも記憶に刻み込んだが、大統領だけはあえて忘れることを選んだ。
◆
エネルギー長官が、現実的な質問を投げた。
「原子炉を目標とするのであれば、当然、燃料はどうする予定です?」
『ウランですよね』
「はい」
「テラ・ノヴァの地下にあるのか?」
ウォーレンが問う。
『これから探します!』
一拍。
「まだ見つけていないのか?」
『はい! まだです!』
「なら、地球から持っていけばいいのではないか?」
大統領が、極めて単純な解決策を提示した。
『ああ、最終手段はそれですね!』
ここが、アメリカ合衆国がバックオフィスについていることの最大の強みだった。
ウランという物質自体は、地球上で未知のものでも、入手不可能なものでもない。アメリカ政府が本気を出せば、国家備蓄の中からいくらでも調達できる。
「原子炉の燃料用として適切な形状・濃縮度で供給すること自体は、技術的にも政治的にも可能です」
エネルギー長官が保証する。
『でも、できればテラ・ノヴァで見つけたいんですよね』
「なぜだ?」
創一は、当たり前の顔で言った。
『だって、ずっと外から輸入し続けるの、面倒じゃないですか』
一拍。
『……工場長的には、正論ですね』
フォスター博士がぼそりと言う。
『でしょ? 原料の採掘から燃料の加工、そして廃棄物の処理まで、現地で全部自動で回せるようにしたいんですよ。
ゲート輸送は便利ですけど、何でもかんでも地球頼みにすると、そのうち物流のラインが詰まる(ボトルネックになる)んで』
「なるほど」
ウォーレンは理解した。
「結論。まずテラ・ノヴァで探せ。どうしても見つからなければ、こちらから供給する。それで行こう」
『ありがとうございます!』
ここで、エネルギー長官が一つだけ釘を刺した。
「大統領。一点だけよろしいですか」
「何だ?」
「ウラン鉱石そのものの供給については問題ありません。しかし、工藤氏が将来的に、あの工場で独自の『核濃縮工程(Uranium Enrichment)』へ進むのであれば——」
『ああ、遠心分離機とかですよね』
創一が答える。
「事前に、必ず政府へ連絡してください」
『いいですよ?』
創一の返事は、あまりにも軽かった。
『発電用ですし、爆弾作って地球に持ってくる予定なんてないですから』
「工藤氏。疑っているわけではありません」
国防側の高官が、真剣な顔で言う。
「ただ、ウラン濃縮施設というものは、存在そのものが第一級の国家安全保障案件になります。我々も、それを把握していないわけにはいかないのです」
『分かりました。作る前に必ず連絡します』
「それで十分だ」
ウォーレンが話をまとめた。
揉めない。誰も創一を犯罪者やテロリスト扱いして縛り付けようとはしない。
しかし、政府として記録と把握はする。このくらいの距離感が、互いにとって最適だった。
◆
会議の終了間際。
モニターの背景で、ロボットたちが激しく飛び回っている。
『——マスター。第六区画、施工完了しました』
イヴの報告。
『お!』
電力グラフが、さらに大きく跳ね上がる。
『電力予備率、四十七・八%』
『ほぼ半分余ってる!』
創一の声が弾む。
『何を増設するつもりですか?』
フォスター博士が即座に警戒する。
『まだ何も言ってないじゃないですか!』
『昨日のレアメタルの惨劇を見ていますから』
ウォーレン大統領は、少しだけ笑った。
「工藤様」
ノアが声をかける。
『なに?』
「建設ロボット(Construction Robot)の地球側への提供の件については、各企業の要望をまとめた上で、後ほど私から資料をお送りします。ご検討ください」
『了解!』
「ノア」
ウォーレンが低く呼んだ。
「はい」
「工藤氏が『貸せますよ』と軽く言ったからといって、そのまま我々の頭越しに、タイタンの契約書を作るなよ」
ノアは、少しだけ間を置いた。
「……承知いたしました」
「今の間は何だ?」
「何でもありません」
エレノアだけが、口元を隠して少し笑った。
「ではまとめる」
ウォーレンが本日の議事録を確認する。
「当面の間、Solar Farmの拡張を継続。
工業基盤を、数週間から数ヶ月かけて拡大させるフェーズに入る。
資源のアウトポスト、鉄道、防衛網を並行して拡大。
Construction Robotの地球導入の可能性については、別途ワーキンググループで検討。
ウラン鉱床を、テラ・ノヴァで探索。見つからない場合は米国から供給。
濃縮設備へ進む場合は事前通知を義務付ける。
長期目標は——Nuclear Power(原子力発電)。
……異論は?」
『ないです!』
「では進めてくれ」
『はい!』
通信が切れた。
◆
ホワイトハウスの重苦しい空気が消え、テラ・ノヴァの乾いた風が頬を撫でる。
創一の周囲には、どこまでも続く青いソーラーパネルの海と、飛び交う建設ロボット、そして遠くを走る貨物列車の姿があった。
「よーし。じゃあ次は、工場を広げながら、ウランも探そうか」
『了解しました、マスター』
イヴが、広域資源スキャンを実行し、その範囲を最大まで拡張する。
鉄。銅。石炭。石油。Rare Metals。
様々な資源のアイコンが、マップ上に点在している。
創一は、結果を待った。
ピコン。
『一次走査、完了しました』
「あった?」
一拍。
『現在の走査範囲内に、採算性の高いウラン鉱床は確認されませんでした』
「…………」
創一の肩が落ちる。
背後では、ブーン、ガシャン、とソーラーパネルが増え続けている。
「どうしました?」
フォスター博士が尋ねる。
「ウラン、ないって」
「そうですか。では、地球から持ってくればいいのでは?」
「大統領にも同じこと言われたけどさ」
創一は、地平線の彼方を見つめた。
「でも、なんか負けた気がするんだよなぁ……」
「誰と戦ってるんですか?」
「物流と?」
そこで、イヴが助言した。
『探索範囲の拡大を推奨します』
「だよね!」
創一はマップを開いた。
現在、ドローンやレーダーで探索済みの範囲。
その外側は、まだ何も見えない『真っ暗な霧(Fog of War)』に覆われている。
「じゃあ、もっと遠くまで見に行こう!」
アメリカ合衆国大統領は、必要ならウランを供給すると約束してくれた。
世界最強の国家が後ろ盾になってくれるなら、それで話は終わる。普通なら。
だが。
工藤創一にとって、外(地球)から資源を買う(輸入する)ということは。
自分の工場の中に、まだ完全に自動化しきれていない「解決していない物流問題」を残すということだった。それはゲーマーとしてのプライドが許さない。
そして、テラ・ノヴァの地図には。
まだ、人類が一度も見たことのない未知の領域の方が、圧倒的に広く残されていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!