自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ―United States Route―   作:パラレル・ゲーマー

20 / 20
第18話 異世界で標準装備なので、アメリカ軍がお披露目するそうです

 

 惑星テラ・ノヴァ。

 アメリカ合衆国政府との間で「ウラン鉱床探索」の方針が確認されたあの日から、数日が経過していた。

 

 荒野に突如として出現した「青い海」——ソーラーファームの第一期区画は、すでに完成し、工場の電力系統へ莫大なエネルギーを供給し始めていた。

 だが、拡張の勢いは止まらない。

 第二陣、第三陣の地球製パネルが、カリフォルニアのゲートを通じて次々と搬入されている。

 上空では相変わらず数百機の『Construction Robot(建設ロボット)』が飛び交い、太陽光発電区画の増設、新たな大型蓄電設備(Accumulator)の配置、新規の精錬ラインの立ち上げ、鉄道網の複線化工事、そして防衛線の押し上げを、一切の休みなく同時進行で進めている。

 

 その巨大な工場の心臓部、制御室。

 工藤創一は、鉄道のダイヤグラム調整と、新しいレアメタル精錬ラインの流体制御の最適化に頭を悩ませていた。

 

『——マスター。地球側より通信です』

 イヴの音声が、静かな制御室に響いた。

 

「ノア君から?」

『はい』

 

 メインモニターに、ノア・マクドウェルの姿が映し出された。

 だが、彼の背後にあるのは、いつもの重厚なホワイトハウスの執務室や、タイタン・グループの会議室ではない。

 眩しい太陽光と、乾燥した茶色い砂漠。奥に見えるのは、軍事用の無機質な観覧席や格納庫だ。

 

「どこそこ?」

 創一が首を傾げる。

『アリゾナ州です。Yuma Proving Ground(ユマ性能試験場)におります』

「アリゾナ?」

 

 創一は一拍置き、ポンと手を打った。

「……ああ! 今日、『アーマー』のお披露目だっけ!」

『先週、公開計画をご承認いただきました』

「あ、そうだった」

 

 横でタブレットを操作していたフォスター博士が、呆れたように眼鏡を押し上げた。

「本当に覚えていなかったんですか?」

「いや、工場のライン拡張が忙しくて……」

 

 今回、アメリカ政府は《Heavy Armor》について、その存在を隠し続けることをやめた。

 理由は複数ある。

 すでに『OFFWORLDER』と米軍の間に何らかの技術協力関係があることは、世界中から疑われている。米軍の一個大隊規模がテラ・ノヴァへ展開している事実も、物流や衛星情報から完全には隠し通せない。

 そして何より、この超技術の装甲を地球側で試験し、兵士を訓練し、量産体制を支援していくならば、どうしても目撃者は増えてしまう。

 

 中途半端なリークで「アメリカが宇宙人の兵器を隠し持っている」と騒がれるのを待つより、アメリカ政府自身が『何を見せるか』を決定し、堂々と公開する方が、外交・軍事上のイニシアチブを握れる。

 ノアとエレノア・バーンズが主導する、高度な情報戦(カバーストーリー戦略)の一環だ。秘密をゼロにするのではない。真実の『切り取り方』を支配するのだ。

 

「で、何着出すの?」

 創一が尋ねる。

『十二着です』

 

「結構出すね」

『一着だけでは、ただの技術実証用の“試作機”だと思われますから』

 

 ノアは、涼しい顔で極めて重要なことを言った。

『我々が今回世界に見せたいのは、「こういう凄い装備が存在する」ということではありません』

「じゃあ?」

『「すでに、我々の部隊で実戦運用(標準装備)されている」という事実です』

 

「なるほど!」

 創一は感心して頷いた。

 

「ノア君、本当に政治側の工場長みたいになってきましたね」

 フォスター博士が、少し引きつった笑顔で言う。

『……光栄です』

「そこ喜ぶんだ?」

 

  ◆

 場面転換。

 アリゾナ州、Yuma Proving Ground(ユマ性能試験場)。

 

 灼熱の乾燥地帯に広がる、米軍最大級の広大な兵器試験場。

 そこに設けられた仮設の観覧席は、一般的な航空ショーや兵器見本市のような大衆向けのものではなかった。

 極めて厳格に選抜された、招待者のみの公開デモ。

 

 米国の主要メディア。軍事・科学の専門誌。

 NATOの高官。ファイブ・アイズ(米英加豪NZ)の諜報関係者。

 日本、韓国、フランス、ドイツなど、主要な同盟国およびパートナー国の代表。

 米議会の軍事委員会関係者、国防産業のトップたち。

 そして、陸軍将来コマンド(Army Futures Command)、特殊作戦軍(SOCOM)、海兵隊、空軍、エネルギー省(DOE)などの米国内部組織。

 

 中国やロシアなどについては、公式の軍事代表を直接現地に呼ぶかは高度な政治判断となるため、あえて現地招待は見送られた。

 その代わり、この公開デモの映像は、高画質のライブストリーミングで全世界へ配信されることになっている。見せたければ、世界中が勝手に見てくれる。

 

 観覧席の正面にある巨大なスクリーンには、星条旗とアメリカ陸軍の旗が掲げられ、今回のイベント名が映し出されていた。

 

【UNITED STATES ARMY】

【ADVANCED INDIVIDUAL PROTECTION SYSTEM : PUBLIC CAPABILITY DEMONSTRATION】

(米国陸軍 次世代個人防護システム:公開能力実証)

 

 もちろん、そこに『OFFWORLDER』や『テラ・ノヴァ』といった言葉は正面からは書かれていない。装備の名称も『Heavy Armored Combat Suit(重装甲戦闘スーツ)』、通称『HACS(ハックス)』といった米軍風の呼称が付けられている。

 だが、現場では誰もその長い正式名称を使っていなかった。ハリントンの部隊でも、工藤創一の工場でも、呼び名は最初から『Heavy Armor』で定着している。

 

 開催の十分前。

 観覧席の裏にある控室では、最終的な公開範囲の確認が行われていた。

 ノア、エレノアCIA長官、国防総省の高官、そして今回デモ部隊を率いるハリントン中佐。

 

「最終確認します」

 エレノアが、冷徹な声でスクリーンを指した。

 

「【公開可】

 ・総重量が100キログラムを超えること。

 ・パワーアシスト機能。

 ・時速40キロメートル超級の機動性。

 ・3メートル級の垂直・跳躍障害物踏破能力。

 ・5.56mmおよび7.62mm弾に対する完全な耐弾性。

 ・12.7mm重機関銃弾に対する高い防護性能。

 ・20mm携行機関砲の単独運用能力。

 ・基本的な生命維持能力(空調等)。

 ・限定的な自己修復機能。

 ・そして……テラ・ノヴァ(作戦区域)で実戦配備済みであること」

 

 続けて、絶対に隠すべきリスト。

 

「【非公開(回答拒否)】

 ・RPG(対戦車火器)の直撃に対する耐久限界。

 ・正確な装甲材質。

 ・ナノマシンの構造および分子レベルの自己修復メカニズム。

 ・対酸性防護の具体的な詳細。

 ・放射線防護の限界値。

 ・正確な筋力上限(リミッターの有無)。

 ・バッテリーの稼働時間。

 ・交戦した『バイター』の詳細な生態データ。

 ・医療用キット(DIVINE DROP)との関連性。

 ・製造レシピ、およびテラ・ノヴァ側の生産能力。

 ・現在、米軍が何着保有しているか」

 

 国防側の高官が頷いた。

「今回、十二着を一度に見せれば、各国の情報機関は少なくとも『十二着以上は安定して運用できる状態にある』と推測するでしょう」

 

「構いません」

 エレノアが冷たく笑う。

「むしろ、実数を誤認させる余地を残すことの方が重要です」

 

 百着あるのか。千着あるのか。

 その上限が分からないからこそ、他国は恐怖する。

 

「実戦データについて聞かれた場合は?」

 ハリントンが問う。

 

「『人的損失ゼロ』という結果までは、公開可能です。ただし、敵の具体的能力、個体数、戦術についてはすべて伏せてください」

「了解」

 

 そして、ノアが最後に、最も重要な念押しをした。

 

「皆様。本日のデモにおいて、最も重要なのは。

 絶対に『プロトタイプ(試作品)』という単語を使わないことです」

 

 エレノアは、少しだけ口角を上げた。

「……そうね。承知しているわ」

 

  ◆

 ここで一瞬、ワシントンD.C.のホワイトハウス。

 大統領執務室では、ウォーレン大統領とダグラス首席補佐官が、壁の巨大モニターでユマのライブ中継を見ていた。

 

「……本当に、世界へ見せるんだな」

 ウォーレンが腕を組んで呟く。

 

「大統領ご自身が承認されました」

 ダグラスが静かに返す。

「分かっている」

 

「これを見れば、同盟国も敵国も、世界中が欲しがりますよ」

「すでに欲しがっているさ。医療用キットも、レアメタルも、建設ロボットもな」

 

 ウォーレンは皮肉っぽく笑った。

 アメリカ政府自身も、工藤創一が次々と生み出す《GODTECH》の在庫に溺れ、その扱いに苦心しているのだ。独り占めする重圧を、少しだけ世界にも味わわせる。

 

  ◆

 アリゾナ、Yuma Proving Ground。

 時刻となり、司会を務める米陸軍の少将が、報道陣と各国代表の前に立った。

 

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 

 少将の背後のスクリーンに、Heavy Armorの武骨なシルエットが映し出される。

 

「本日、皆様にご覧いただく装備について、デモンストレーションの前に、最初に一点だけ明確にしておきます」

 

 少将は、観客席をゆっくりと見渡した。

 

「これは、技術実証用のコンセプトモデルではありません」

 

 観客が、少しざわつく。

 

「将来の配備を目的とした、試作装備(プロトタイプ)でもありません」

 

 さらにざわめきが広がる。では、何だというのか。

 

「これは。

 現在、アメリカ軍が『地球外作戦区域』において、実戦運用している装備です」

 

 一気に、空気が変わった。

 記者たちが息を呑み、カメラのシャッター音が爆発的に鳴り響く。

 

「地球外?」

「やはり、OFFWORLDERか……!」

 

「我々が《Terra Nova》と呼称する作戦区域において、現在活動中の戦闘要員が、標準的に使用しているものです」

 少将は淡々と言い切った。

 Terra Novaという名称は、すでにネットの熱狂で周知の事実となっている。「どこか別の世界」という程度の公開は、もはや問題ではなかった。

 

「それでは、ご覧いただきましょう」

 

 ズズズズズ……!

 

 巨大な格納庫のシャッターが、重々しい音を立てて上に開いていく。

 砂埃の向こうから、太陽の光を浴びて現れたのは。

 

 十二名の兵士。

 全員が、全身を鋼鉄の装甲で覆ったHeavy Armorを装着し、整然と二列に並んでいた。

 その中には、かつてテラ・ノヴァでバイターの酸を浴び、その装甲性能に「もう慣れた」と笑ってハリントンに怒鳴られた兵士の姿もある。

 

「…………」

 記者席が、一瞬だけ完全に静まり返った。

 

「一着じゃない」

「十二……?」

 

 軍人や防衛産業の人間ほど、顔つきが変わった。

 ワンオフの特注品ではない。小隊規模で、すでに同一規格のものが揃っている。

 

「次世代個人防護システム。通称、『Heavy Armor』です」

 

 兵士たちが、一斉に前進を開始した。

 ズシン、ズシン。

 ナノアクチュエータによる駆動のため、巨大な機械音(モーターや油圧の音)はほとんどしない。聞こえるのは、100キロ超の質量が大地を踏みしめる地響きだけだ。

 

「……静かすぎる」

 外国の武官が、驚愕の声を漏らした。

 

 性能展示が始まった。

 

【性能①:重量100キロ超の機動性】

「各装備の総重量は、搭載する火器によって異なりますが、100キログラムを超えます」

 司会の言葉に、記者がざわつく。

「しかし、装着者が体感する負荷は、内蔵されたアクチュエータによってほぼ相殺されます」

 

 一人の兵士が、その場で深くスクワットをし、そして軽くジャンプしてみせた。

 着地の衝撃を感じさせない、滑らかな動き。片足立ちも、何でもない。

 

【性能②:時速40キロ超】

 十二人が、スタートラインに並ぶ。

 電子表示がカウントダウンを刻む。

 3。2。1。

 

 ドンッ!

 一斉加速。砂が爆発するように舞い上がる。

 100キロ超の鎧を着た兵士十二人が、まるで自動車のような速度で荒野を駆け抜けていく。

 

 大型モニターに、測定された速度が表示される。

 42km/h。43km/h。

 

「Holy shit……」

 だが、軍人たちは笑わなかった。

「歩兵が、軽車両の速度で機動している」

 それが戦術的に何を意味するのか、痛いほど理解しているからだ。

 

【性能③:3メートル障害物】

 コースの前方に、高さ3メートルのコンクリート壁が立ちはだかる。

 兵士たちは、全く減速しない。

 先頭が、踏み切る。

 

 ドンッ!

 軽々と壁を飛び越える。十二人が連続して宙を舞い、着地する。

 衝撃吸収。姿勢を崩すことなく、そのまま走り続ける。

 

「着地時の衝撃は、外骨格および内部の緩衝機構によって完全に吸収されます」

 実況が淡々と告げる。

「……市街戦の常識が変わるぞ」

 SOCOM(特殊作戦軍)の関係者が、小声で隣の将校に囁いた。

 

【性能④:重量物の除去/人命救助】

 戦闘だけではない。

 模擬瓦礫のセット。数百キロから1トン級のコンクリート塊の下に、ダミーの負傷者が下敷きになっている。

 一人の兵士が、瓦礫の下に手を差し込み、そのまま「フンッ」と持ち上げる。

 別の兵士が、安全にダミーを救出する。

 

「この能力は戦闘任務だけでなく、負傷者救助、障害物除去、災害対応など、幅広い分野での運用が可能です」

 軍事技術だけではなく、人命救助にも役立つ。アメリカ政府の巧みなイメージ戦略だ。

 

 そして。

【性能⑤:防弾性能の限界】

 ここからが、軍事ショーの本番だった。

 

 防弾試験。ただし、有人状態でいきなり撃つのは映像として刺激が強すぎるため、最初はHeavy Armorを装着させたダミー標的が用意された。

 

 5.56mm弾(一般的なアサルトライフル)。

 ダダダッ!

 無傷。傷一つつかない。

 

 7.62mm弾。

 ダダダダッ!

 表面の塗装が剥げ、わずかな傷がつく程度。

 

 そして。

 12.7mm徹甲弾(対物ライフル/重機関銃)。

 観客席の空気が、ピリッと変わる。

 

 バァン!!

 

 Heavy Armorの胸部に、直撃。

 激しい火花が散り、強烈な衝撃波が周囲の砂を巻き上げる。

 しかし。固定された試験体は、微動だにしなかった。

 装甲の胸部が陥没し、損傷しているのが見える。

 

「当装備は、12.7ミリ徹甲弾に対する正面からの防護能力を有します」

 司会が誇らしげに言う。

 

「…………」

 外国の武官たちは、完全に無言だった。

 歩兵が、重機関銃を弾く。悪夢だ。

 

 だが、真の悪夢はここからだった。

 

【自己修復】

 カメラが、胸部の損傷箇所へズームインする。

 しばらくすると。

 陥没した表面が、まるで生き物のようにゆっくりと波打ち、元の形状へと修復していく。

 

「……動いてないか?」

 記者が目を擦る。

「傷が、消えてる……?」

 

 大型スクリーンに、そのリアルタイム映像が大写しになる。

「装甲材には、限定的な自己修復能力が備わっています」

 司会は、あくまで平然と読み上げた。

 

「限定的……?」

 国防産業(ロッキードやレイセオンなど)の技術者たちが、真っ青な顔をして頭を抱えた。

「何を使っている? 形状記憶合金のレベルじゃない。材料の質量が増えているように見えるぞ!」

 

 後方の控室でモニターを見ていたエレノアは、特に反応しなかった。狙い通りだ。

 

 ここで、興奮した軍事記者が質問を飛ばした。

「対戦車火器(RPG)への防護能力は!?」

 

「詳細は機密事項です」

「耐えられるのですか!?」

「回答できません」

 

 この回答拒否自体が、答えに見えた。

「……耐える可能性があるのか?」

 各国の軍人たちは、背筋に冷たい汗をかいた。実性能は隠す。それが一番怖い。

 

【最大の見せ場:20mm携行機関砲】

 

 砂漠の射撃レンジに、一人の兵士が進み出た。

 横の専用ラックから、巨大な武器を持ち上げる。片手でも扱えそうだが、実射時には両手で腰だめに構える。

 

「次は、Heavy Armorによる単独での火力支援能力です」

 

 スクリーンに文字が出る。

【20mm PORTABLE AUTOCANNON】

 

 記者席が、再びざわめく。

「Twenty millimeter(20ミリ)?」

「それを“portable(携行用)”と呼ぶのか?」

 

 ハリントン中佐の解説音声が流れる。

「通常の歩兵では、携行しての射撃を全く前提としない火力です。しかしHeavy Armorは全身のナノアクチュエータを利用し、発射反動を装甲フレーム全体へ分散させます」

 

 兵士が、走り始めた。

 20km/h。30km/h。

 標的は、数百メートル先の軽装甲車相当の鉄板。

 

 ドドドンッ!

 

 短いバースト射撃。

 凄まじい反動のはずだが、兵士の身体は全くブレない。

 

 ドドドンッ!

 標的の装甲が貫通され、激しく破砕される。

 

 記者席が、完全に沸騰した。

 兵士は、さらに速度を上げながら撃ち続ける。

 ドドドンッ!

 連続命中。

 

 米海兵隊の関係者が、思わず呟いた。

「I want it.(欲しいな)」

 隣の将校が肩をすくめる。

「Everyone does.(全員、そう思ってるよ)」

 

  ◆

 デモンストレーションが終了し、質疑応答の時間となった。

 当然、最初の質問はこれだ。

 

 記者:

「現在、何着が配備されているのですか?」

 司会:

「具体的な数量は回答できません」

 

 別の記者:

「これは、SOCOMなどの特殊作戦部隊(Tier 1)専用の装備ですか?」

 

 これが、一番大事な質問だった。

 

 司会:

「いいえ」

 

 記者席が、一斉にざわめいた。

 

「テラ・ノヴァに展開する戦闘部隊において、Heavy Armorは任務要件に応じて広く使用されている『標準戦闘装備(Standard Combat Equipment)』です」

 

「“標準”?」

 記者の声が裏返る。

「つまり、一部の特殊部隊だけが使っているわけではない?」

「その理解で結構です」

 

 ここで、会場に最大の衝撃が走った。

 技術そのものよりも、「量産(マスプロダクション)されている」という事実。

 外国軍人の思考は冷徹だ。

 一着だけのワンオフ超兵器なら、罠を張って集中砲火を浴びせれば対策できる。

 だが。十着。百着。一個大隊。

 全員がこれを着ていたら?

 完全に、戦争の話が変わる。

 

  ◆

 ハリントン中佐が、演壇に登った。

 

 記者:

「実戦で使用されたことはありますか?」

 司会:

「その質問には、現地の指揮官から答えてもらいます」

 

「テラ・ノヴァ派遣部隊指揮官、マイケル・ハリントン中佐です」

 制服姿のハリントンが、静かに名乗った。

 

 記者:

「Heavy Armorを、実際の戦闘で使用した?」

「はい」

「敵の攻撃を受けた?」

「何度も」

「結果は?」

 

 ハリントンは、真っ直ぐに記者たちを見た。

 

「これまでの主要な作戦において、私の部隊は全員が生還しています」

 

 会場が、どよめいた。

「死者ゼロ?」

「公開可能な範囲では、それ以上は答えられません」

 これだけで十分だった。

 

 軍事記者:

「では、Heavy Armorを着用した兵士は、実質的に『不死身』なのでしょうか?」

 

 ハリントンは即答した。

「いいえ」

 

 会場が静まる。

 

「私はこの装備の性能を完全に信用しています。ですが、それを着た人間が不死身になったわけではありません。

 装備が強いからこそ、兵士は『自分自身まで強くなった』と錯覚します。

 その錯覚が、戦場では一番危険なのです」

 

 彼は、かつてテラ・ノヴァで部下たちに語った訓示を、公の場でも堂々と述べた。

 

「だからこそ、我々は厳格な訓練と運用プロトコルを徹底しています。機械がどれほど優れていようと、使うのは生身の人間だからです」

 

 この回答は、軍事記者たちから非常に高く評価された。

『アメリカ軍は、ただの超兵器に浮かれているのではなく、ちゃんと運用上のリスク(超人感覚、恐怖の低下、過信)を理解し、統制している』と。

 これもまた、「有能な国家」としてのアメリカの強烈なアピールだった。

 

 そして、核心を突く質問。

「製造元はどこですか?」

「回答できません」

「タイタン・グループですか?」

「回答できません」

「海道グループ?」

「回答できません」

 

「では……《OFFWORLDER》から提供された技術ですか?」

 

 司会は、少しだけ間を置き、完璧な定型文で返した。

 

「米国政府は、個別の技術協力関係についてコメントいたしません」

 

 完璧だった。

 否定しない。肯定もしない。

 世界に、見せたいものだけを見せつけた。

 

 そして、その成功の代償は、デモが終わって数分もしないうちに現れた。

 控室へ戻ったノアの端末が、立て続けに着信を知らせる。

 

「英国から、共同運用についての正式な打診。カナダ、オーストラリア、日本からは供与可能性についての照会。フランスとドイツは、共同開発への参加を求めています」

 ノアが届いたばかりの連絡を読み上げた。

 

「早いわね」

 エレノアが呟く。

「目の前で十二着を見せましたから」

「明日には、NATO加盟国の大半から正式照会が来るでしょう」

「分かっているわ。供与するにしても断るにしても、理由と基準が必要になる」

「今夜中に、回答方針をまとめます」

 

 抑止力と外交上の主導権を手に入れた代わりに、アメリカは自分から新しい同盟管理の難題を作り出した。

 

  ◆

 テラ・ノヴァ。

 工場の制御室にある巨大モニターで、創一はYumaのライブ配信を見ていた。

 

「おー!」

 20ミリ機関砲の射撃シーンを見て、創一は手を叩いた。

「カッコいいな!」

 

「あなたが作ったんですよ」

 フォスター博士がツッコミを入れる。

「そうなんだけど、やっぱり人が着て、ちゃんとフォーメーション組んで使ってる方がカッコよくない?」

 

 その制御室の窓の外では、Construction Robotが凄まじい速度で新しいプラントを建てている。

 つまり、Yumaで世界中が驚愕しているHeavy Armorは。

 創一にとっては、もう「一世代前」に作り終わった日常技術(コモディティ)なのだ。

 

「あれ、もうウチの標準装備だもんなぁ」

『肯定します』

 イヴが答える。

 

 そして創一は、さらっと恐ろしいことを言った。

「そのうち、もっと良いアーマー(次世代機)作りたいな」

「今それを言わないでください」

 フォスター博士が頭を抱える。

 

  ◆

 ホワイトハウス。

 大統領執務室。

 

 デモンストレーションは、これ以上ないほどの大成功を収めた。

「評判は上々です」

 ダグラスが報告する。

 

 ウォーレン大統領は、映像の中で堂々と並ぶ十二人のHeavy Armorを見つめていた。

「そうか」

 

「大統領」

「何だ」

「また顔に出ていますよ」

 

「……出していない」

 

 だが、今回は前回よりもさらに、アメリカのトップとしての確かな『誇り』があった。

 

「工藤氏がもたらした技術であっても。

 あそこで、命を懸けて戦っているのは、我々の兵士(アメリカン・ソルジャー)だ」

 

  ◆

 世界側。

 北京。人民解放軍と国家安全部の合同会議室。

 

 Yumaの映像が再生されている。

 12.7mmの直撃。20mmの走り撃ち。自己修復。

 

 将軍の一人が、苛立たしげに映像を停止させた。

「これは、本当にアメリカ軍の“標準装備”なのか?」

 

「米国政府は、そう公表しています」情報担当の幹部が答える。

「何着ある?」

「不明です」

「月産能力は?」

「不明です」

「製造施設は?」

「不明です」

「原材料は?」

「不明です」

 

「では、何が分かっているんだ!」

 将軍が机を叩く。

 

「……すでに実戦配備されている、ということだけです」

 幹部が冷や汗を拭いながら答える。

 

「OFFWORLDER本人の特定は?」

「……進展ありません」

「まだか」

「米国側が、意図的に複数のもっともらしい情報層を作っています。接触先を追うほど、別の答えへ誘導されます」

 

 将軍は、しばらく黙ってから低く言った。

「《神の雫》を与えている“神”を探せ。あの命令は変わらん」

「はい」

 

 一同は沈黙した。

 だが、ここで中国はバカな結論(今すぐスパイを送って盗み出せ、など)には行かなかった。

 むしろ、アーマーの本体性能よりも「量産能力」の背後にある意味を重く見た。

 

「十二着を出したのは、十二着しかないからではない。

『十二着を公開しても痛くも痒くもない程度には、大量に持っている』というメッセージだ」

 

 さらに。

「そして、これが本当に標準装備なら。

 米国が異星(テラ・ノヴァ)で戦っている相手は、これを必要とするほど危険だということでもある」

 

 これこそが重要だった。

 世界が初めて、バイター(Biter)という未知の敵の「本当の危険性」を逆算し始めたのだ。

 

  ◆

 日本のネットも、海外の掲示板も、この公開デモでお祭り騒ぎになっていた。

 

 @DefenseNerd

「WAIT.

 20mm? WALKING???(20ミリ? 歩きながら??)」

 

 @FormerInfantry

「あれを『歩兵』と呼ぶなら、俺が昔やってた仕事は一体何だったんだ」

 

 @HaloFan

「US Army finally unlocked power armor.(アメリカ軍、ついにパワーアーマーをアンロック)」

 

 だが、その熱狂の中で、一人のユーザーが極めて冷静な指摘をしていた。

 

 u/Boring_Truth

「皆アーマーばかり見てるけど、『標準装備』って言葉の方が100倍ヤバい。

 一着作れたんじゃない。量産ラインがあるってことだ」

 

「これを必要とするTerra Novaって、一体何と戦ってるんだ?」

 その不穏な疑問が、ネットの海に静かに広がり始めていた。

 

  ◆

 世界がHeavy Armorに驚愕し、議論を交わしている頃。

 

 テラ・ノヴァ。夜。

 ソーラーファームの巨大な蓄電池が、昼間に貯め込んだ電力を吐き出している。

 巨大工場の煌々とした照明。絶え間なく走る列車。飛び交うConstruction Robot。

 青く光る電力線が、荒野を照らす。

 

 創一は、Yumaの配信タブを閉じた。

 

「いやー、面白かった!」

「世界中、大騒ぎですよ」フォスター博士が呆れる。

「でしょうね」

 

 創一は、すぐにホログラムマップへと戻った。

 視線の先は、まだ探索されていない真っ黒な領域(Fog of War)。

 目的は、ウランの探索だ。

 

「さて」

 創一は指を鳴らした。

「工場広げよう」

 

「切り替え、早すぎません?」

「だってアーマーは、もう作ったし」

 

 このスケール差だ。

 世界が「人類史上最強の歩兵装備だ!!」と熱狂している時。

 創一にとっては、「もう作り終わった、過去の装備」でしかない。

 

『マスター。北西方向への探索ドローン群より、新規データを受信しました』

 イヴの報告。

 

「ウラン?」

『現時点では不明です』

 

「じゃあ、見に行こう!」

 

 Yumaの砂漠で、世界が過去の技術に熱狂している一方。

 工藤創一は、もう次の資源を探して、未知の領域へと足を踏み出していた。




ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TCG能力《創世札典》を手に入れた俺、一日一マナから現代社会を攻略する~治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います~(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

都内のシステム関連企業で主任として働く、三十六歳の会社員・門倉啓介。▼仕事も収入も安定し、独身ゆえに貯金もそれなり。大きな不満はないものの、同じ毎日を繰り返しながら少しずつ疲れていく人生を送っていた。▼そんな休日の朝、啓介は突然、TCGのルールで現実を変える異能《創世札典/GENESIS DECK》を手に入れる。▼最初の土地カードは、彼が暮らす賃貸マンション…


総合評価:1324/評価:7.62/連載:37話/更新日時:2026年08月25日(火) 19:48 小説情報

祖父の遺品整理をしていたら封印AIが起動したので、地球中の異星遺産を回収して成り上がる(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

三十五歳、売れないフリーライターの久世恒一は、親に頼まれて東京にある祖父・久世宗玄の家を整理することになる。▼変人扱いされていた祖父の家で彼が見つけたのは、封印された異星文明の管理AI《イヴ》と、現代ではチート級の価値を持つ超技術だった。▼最初の遺産《セル・チューナー》は、地球のバッテリーを桁違いの高性能品へ変質させる基幹技術。▼スマホは一ヶ月充電不要。死に…


総合評価:2615/評価:7.96/連載:49話/更新日時:2026年05月26日(火) 21:44 小説情報

元ITエンジニアの俺、祖先の召喚術から召喚プログラムを組み上げて神も悪魔も従える(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

祖父の死に際、元ITエンジニアの御門悠真は、自分が「召喚師の家系」の末裔だと知らされる。▼御門家は、かつて神も悪魔も妖も精霊も呼び出した、万能召喚術の本家本元だった。▼だが、万能であるがゆえに術式はあまりにも複雑化し、始祖以降は衰退の一途を辿る。▼火だけを呼ぶ家、水神だけを祀る家、鬼だけを使う家――分家たちは属性や対象を絞ることで生き残った。▼一方、万能に固…


総合評価:1708/評価:8.47/連載:16話/更新日時:2026年06月15日(月) 17:23 小説情報

銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ブラック企業で心身をすり減らした元社畜は、並行世界の地球軌道上に浮かぶ完全ステルス要塞〈サイト・アオ〉で目を覚ました。▼彼の新たな肉体は、銀河帝国の最高権力者のスペアとして培養された完全無欠のクローン「ティアナ・レグリア」。神のごとき超能力と超絶テクノロジーを行使し、広大な銀河での大冒険すら早々に「クリア」してしまった彼は決意する。▼「宇宙の覇権とか面倒くさ…


総合評価:2418/評価:6.8/連載:184話/更新日時:2026年08月17日(月) 17:36 小説情報

賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

フリーランスのWebデザイナーとして、都心のマンションで静かな日々を送る橘栞(たちばな しおり)。彼女の趣味は、複雑なルールのゲームを解析し、最適解を導き出すこと。そんな彼女の日常は、ある日、目の前に現れた【スキル『賢者の石』を入手しました】というウィンドウによって、静かに終わりを告げる。▼万物を対価(コスト)に変え、新たな能力を獲得できるその力に、栞は恐怖…


総合評価:5462/評価:7.04/連載:280話/更新日時:2026年06月16日(火) 20:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>