私、スパイダーマンになりました。   作:毛糸くん345

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スパイダーマンあるある言います

お使いに失敗しがち
バク宙が得意
自己紹介する時の始まり皆だいたい一緒

皆もスパイダーマンあるある思いついたら感想欄に書いてみてね
感想を非ログインユーザーからも受けられるように変えたので是非とも。
(感想の設定今日知ったなんて言えない)


11 スーペリア

第11話

 

 

 

 今日の私は、これまでの人生で一番派手な一日を過ごした。スパイダーマンになって、人を助け、最後には大勢に囲まれて感謝の言葉を貰った

 

 そして夜遅く家に帰ってきた私は――。

 

「遙、私が頼んだものは?」

「…………」

「卵」

「……はい」

「コーヒー」

「…………はい」

「牛乳」

「はい……」

「お菓子」

「…………」

 

 母さんが買い物の中身を一つずつ確認していく。

 

 私は正座した。

 

「……全部無いんだけど?」

「ちょっと……いろいろありまして」

「それで?」

「……ごめんなさい」

 怒られた。帰りが遅くなったことまで含めてしっかりと。

 

 

 

 

 

 その後、ようやく自分の部屋に戻った私はベッドに倒れ込んだ。

「つ……疲れた」

 身体が重い、今日はもう何もしたくない。

 ……とはいえ、あんなことがあった以上、世間がどうなっているのかくらいは確認しておきたい。

 

 私はスマートフォンを取り出し、SNSを開いた。案の定、昼間の地震に関する話題が無数に並んでいる。

 その中でもひときわ勢いがあるのが――私のことだった。

 

 思わず指に力が入る。

 

 そして急上昇ランキングトップの動画に自分の姿を見つけた。

 

「…………………」

嫌な予感がするが、ここまで来たら見るしかない。

諦めて再生する。

 

 

『写真いいですか!?』

『サインください!』

そこには駐車場で避難した人たちに囲まれていた時の私が映っていた。

画面の中の自分はマスク越しでもわかるほど満面の笑みだ。

『はいはい、順番ね! 押さないで〜〜!』

「…………」

 私は無言で画面を見つめた。

 

 ……いや、これは仕方ない。

 人を助けた直後だったし、多少は興奮していたから。

 動画はさらに続く。

『私のことを待ち受けにしてもいいですよ』

「…………」

 

 私はゆっくりとスマートフォンを下ろした。

「こいつは一体何を言ってるんだ……」

ここまでは、…………まだいい。いや、よくはない。

 

でも本当にまずいのは、ここからだった。

動画が切り替わる。

 

マスクを被る前の顔を見られた人たちに向けて私はお願いをしたのだ

 ――私の素顔は他の人には言わないでほしい。写真も動画もできれば広めないでほしい――

……そんな旨を――。

 

そして、私はお願いの締めにいたずら心で余計な事を言ってしまった

『みんなには内緒だよ?』

人さし指を口元に当てながら

 

「――――――――っっっ!!!」

スマートフォンをベッドに放り投げた

「うわああああああああああああああああっ!!」

 

 

 枕を掴み顔を埋める。

足をばたつかせながらベッドの上を転げ回った。

「何が内緒だよおおおおおおおおおおおっ!」

 

 無理。

 本当に無理。

 過去の自分がどうかしてる。

 なんであんな言い方した!?もっと普通に言えたでしょ!

 お願いします、秘密にしてください。でいいじゃん!

 

「いやあああああああああっ!」

枕に顔を押しつけたまま悶絶する。

 

 しかも、これだけじゃない。

数時間前の自分の姿が次から次へと頭に浮かんでくる。

 

 人に囲まれて手を振っていた。

 写真を頼まれれば笑顔で応じていた。

 サインまで書いた。

 調子に乗って軽口も叩いた。

 

 そして最後には――。

「誰か殺してええええええええええええっ!」

 もちろん部屋には誰もいない。

 

「何!? アイドル!? 私アイドルだったの!?」

 違う。

 ちょっと人並外れて顔と頭がよくて運動神経抜群なこと以外はごく普通の高校2年生で――

 それなのになんで私はあんな大勢の前で、

『みんなには内緒だよ?』

「やめろおおおおおおおおおおおっ!」

 

 自分で言った。

全部、自分で言った。

「なんであんなこと言ったあっっっ!」

 枕を抱えて丸くなったかと思えば、今度は頭を壁に打ち付ける。

 

「私!? 誰!? なんであんなに調子乗ってたの!?」

 答えなんて分かっている。

 嬉しかったのだ。

 

だから、ちょっと……いや、かなり舞い上がっていた。

「……それにしたって限度があるでしょ!もっとこう……クールに! 颯爽と! 『これからも任せてください』とか言って帰る予定だったのにいっっ!」

 

 実際の私は、写真だのサインだのに嬉々として応じていた。

 

フラッシュバックが襲ってくる。

『私と握手したい人ーー!』

『はい、チーズ!』

『後ろの方の人もどうぞーーー。』

 

「――――――――――っ!!」

 

 枕の中で声にならない悲鳴を上げる。

「忘れろ……! 全員、今すぐ忘れろ……!」

もちろん、そんな願いが通じるはずもない。

 恐る恐るスマートフォンを拾い、リプ欄を開く。

 

 そこには――。

 

《・「みんなには内緒だよ?」←wwwww

・自己顕示欲丸出しで草ですよ

・多分高校生だろ許してやれ

・めっちゃいい子じゃん

・サインまで書いてる

・切り抜かれるだろうなと思ったら案の定切り抜かれてら

・この動画だけで一生擦れる、俺も握手してぇ

・こういう子なら応援したくなる

・普通にいい子そう

・感動しました、応援してます

・スパイダーマンの癖に喋り過ぎでは?》

 

「は…ははっ…終わった……私の人生ここで終わりなんだ…」

 私は力なくベッドに沈んだ。

「…………いや待って。これ、明日になったらもっと見られるんじゃ……」

 想像した瞬間、再び顔が熱くなる。

「いやあああああああああっ!」

 

 再び枕に顔を突っ込む。もう何度目か分からない。

それからしばらくの間、私はベッドの上で一人過去の自分と戦い続けた。

「…………もうやだ」

 やがて、声を出す気力すらなくなった。

 散々暴れ回ったせいでさすがに心も身体も限界だった。頭の中ではまだ黒歴史の自分が騒いでいる。

 けれど、それすら次第にぼんやりしてきた。

「……もう、なにも……考えられない……」

 

 そう呟いて私は布団に潜り込んだ。

「……明日の私、頑張って……」

最後にそんな無責任な言葉を残して、私は気絶するように眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

――夢を見ていた。

 

 夕暮れ前のショッピングモール。

 

 大勢の人に囲まれて私は手を振っている。

「こっち向いてー!」

「バク宙やって!」

そんな注文を受けた私は5メートル近い高さまで跳びあがり空中で身体を捻り10回転。

 

 着地。

 

 周囲から、一斉に歓声が上がる。

…………。思い出すだけで恥ずかしい。

 

 

 そんな騒ぎから少し離れたところでふと別のことを思い出した。

 

 ――監視カメラ。

 

 モールの中には当然それが無数にある。

私はファンサをした後、人目を避けながら店の責任者を探す。

やがて、従業員に指示を出している男性を見つけた。

 

「すみません」

「はい?」

「このお店の責任者の方ですか?」

「ええ。私が店長ですけど……」

 

 店長が、私のマスクへ目を向ける。

「ああ……」

「少しお話ししてもいいですか?」

「もちろんですよ」

 

 店長は周囲を確認してから、少し離れた場所へ私を案内した。

 

「それで……私に何か御用ですか?」

「……その、さっきまでのことなんですけど」

「さっきの?」

「私がここで人助けしたときの映像って」

すぐに察したようだった。

 

「監視カメラのことですか」

「……はい」

 店長は少し考えるように黙ってから、静かに口を開いた。

「その映像は警察や消防に提出することになると思います」

 

「……ですよね」

 やっぱりそうなる。

覚悟はしていたつもりだったけれど、真正面から言われると背中がすっと冷たくなる。

 

 私は意を決してマスクへ手をかけゆっくりとそれを外す。頼みごとをするのならそれが礼儀だ。

 店長は目を丸くした。

「っ!……女子高生…くらい…ですか」

「はい。えっと」

 

 変に取り繕っても仕方がない。

「その映像、もし可能なら……消してもらえないでしょうか」

 

 店長はしばらく黙っていた。

夕暮れの光の中で、彼の表情は少しずつ複雑な色に変わっていった。困惑と、驚きと、それから何か別のもの。

 

 私は頭を下げた。

「勝手なお願いなのは分かってます。でも、時間が欲しいんです。」

 

 沈黙がやけに長く感じられた。

 

「……いや」

店長がゆっくりと口を開いた。

「正直に言うとね」

「はい」

「うちの店員も、今日君に何人も助けられてるんだ」

 

 私は顔を上げた。

 

「レジの人たちも、倉庫にいたパートさんも。他のみんなも今日のことですごく感謝してる」

「……」

「だから――」

 

 店長は、少しだけ困ったように笑った。

「消せとは、口が裂けても言えない。それは職務上まずいから」

 

「そう……ですよね」

「ただ」

 

 店長は、続けた。

「提出するデータの整理には、ちょっと時間がかかりそうだなあ、と」

「……え?」

「うちもかなり被災してるからね。バックアップも、確認も、ちゃんと順番にやらないと。あるいは一部の記録が破損してるかもしれないし」

 

 私はその言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

「……それって」

「さあ、何のことだか」

 

 店長はわざとらしく肩をすくめてみせた。

「私は業務が忙しいとしか言ってないよ」

「……ありがとうございます」

 

「礼はいらないよ。助けてもらったのは、こっちなんだから」

彼は穏やかに笑ってそう言った。

 

 

 

そうして――ピピピピ、ピピピピ。

 

目覚ましの音が聞こえてくる。

「……ん…………うるさい……」

 重たいまぶたを開く。

しばらくぼんやり天井を見つめてから、のそのそと起き上がった。

そこでさっきまで見ていた夢を思い出す。

「……店長さん、いい人だったな」

 

 

 朝からSNSを眺めていた。

 

 昨日のスパイダー騒ぎはまだ全然収まっていない。新しい動画兼黒歴史は次々に投稿されているし、目撃情報も被災した人たちの感想も山のようにある。

 

 それに応じて、ネットの特定班も一ヶ月ぶりに元気そうだった。

 

 ところがその手の様子を確認していく内に、そんな生温い感想では済まなくなってきた。

『スパイダーマンの出現前後における監視カメラ映像を募集。提供者には謝礼をお支払いします』

 

「…………えぇ」

思わず声が出た。

 

 他にも私の服装や体型、声、わずかに覗いた素肌から何かしらを探ろうと様々な、本当に様々な紳士的な議論がとても盛んになっていて

「……執念がキモすぎる」

 こんな奴ら、直接会って文句を言うくらいしてもいいんじゃないか。

 家を突き止めて、軽く脅して――。

「……いや、ダメダメ」

 何を考えてるんだ、私は。

力を手に入れてから、この手の発想に対する抵抗が妙に薄くなっている気がする。

 

 

 私は小さく首を振り、画面に視線を戻した。

 

 投稿を追っていくと、ショッピングモール周辺だけではなく、最寄り駅やそこへ向かう道路の映像まで集めているらしい。ここまでやっているなら、何が分かっていてもおかしくない。

 

 ところが、投稿の結論は妙だった。

『現時点では、スパイダーマンの出現経路を特定できなかった』

『スパイダーマン候補は複数人いるけれど、確度は低い』

 

「……なんで?」

確かに、私は店長や被災した人たちに映像を公開しないでほしいと頼んだ。でも、マスクを被った瞬間が分からないことと私の足取りが分からないことは別の話じゃないか。

 

 画面を見つめたまま、別の可能性を考えた。

 

 もしかしたら、何か掴んでいるけれど、あえて公表していないのかもしれない。わざともったいぶって世間の反応を見ているとか、あるいは私と直接コンタクトを取りたいから、まだ手の内を明かしていないとか。

「……?うーん、どれも違う気がする」

 どれも一応は理由になりそうなのに、妙に引っかかる。

 

 別の特定班や考察サイトも覗いてみると、相当な人数がそれぞれ別の角度から追っていた。

 

 なのに、誰も私に繋がる手掛かりを掴めていない。

 

「……そんなわけないでしょ」

 昨日の私は普通に駅から歩いている。

 地震の時に着替える余裕も無かったからスパイダーマン中と同じ私服のままだし、途中には監視カメラだっていくらでもあったはずだ。家まで遡れるか、身元を判明できるかはともかくとして、少なくとも『この女、怪しくない?』くらいの手掛かりは出てきてもいい。

 

 

 なのに、実際に並んでいるのは下水道を通っただの、屋上を移動しただの、そんな説ばかりだった

 

 何故か、みんなが同じところで手を止めている。まるで、私だけが抜け落ちたみたいに。

 

「これ以上は実際の映像を確認しなきゃ分かんない……か」

 

 確認したいのは、駅前からショッピングモールまでの監視カメラの映像だ。昨日の私は、駅を出てから普通に歩いている。

 なら、その間の映像を順番に追っていけば、私がどのように映っているのか確かめられる。

 

 「でも、そんな映像どこで――――。」

 ふと思い出した。

 

テレビで言っていた。今回の地震はショッピングモール周辺のみで発生した過去に例のない極小規模で不可解な点が多い。故に、震災対応、身元不明の超人への対処の為にショッピングモール最寄りの警察署に急ごしらえの「臨時対策室」ができている――――と。

 

 

 やるなら、今しかない。

 

 私は少し考えた。

 警察署に忍び込んで、捜査資料を覗く。文字にするとかなりまずい。

 

「……まあ、でも……バレるのなんて時間の問題だし。見つかったら……まあ、そのとき考えよ」

 

その夜、私は久しぶりのパーカーを羽織って窓から外に出た。

「……確かめるだけ〜♪。中身を見るだけ〜それだけだから〜犯罪じゃないない♫♬」

 監視カメラに映る私を探す、なんて妙なことをする日が来るとは思わなかった。

 

 でも、こういうのは嫌いじゃない。

誰にも知られずに入り込んで、必要なものだけ確認して、何事もなかったように帰ってくる。

 気分はスパイ映画の主人公。

「……なんかワクワクしてきた」

 

 

 

 

 そして深夜、監視カメラを避けながら目標の警察署へやって来た。

 

 もちろん、正面玄関から入るつもりはない。守衛もいるし、防犯カメラもある。私は建物の裏手へ回り、非常階段の近くまで移動した。

 カメラの死角を選び壁を伝い、周囲を確認しながら窓から中を覗き込む。深夜だと言うのに殆どの部屋には大量の職員が残っていた。

 いくら私が天井を這えるといっても、さすがにこの人数はバレそうだ。

 

 しばらく様子を見ていると、一人の職員がパソコンにログインするところが見えた。

 

 指の動きをじっと追って、IDとパスワードを暗記する。

 

 ……よし。

 

 その後、隙を見計らって私は適当な窓から建物の中へ入り込んだ。廊下を進み、時折やって来る職員を天井の角に隠れてやり過ごす。

 

 警察署ということもあって監視カメラは相当な数があったが、それに映り込むようなヘマは勿論しない。

 だって、監視カメラは天井を撮らないから。

 

 

「昨日のスパイダーマン、すごかったよな」

「マンじゃなくてウーマンじゃないかしら」

「……残業代と深夜手当出るかな」

「知らん」

 

 

 私のせいで深夜勤務…申し訳ない

 

 そんなやり取りを聞き流しながら、私は順調に人気の少ない部屋を探しだした。

 

 資料室。

 

 扉にはカードリーダーが付いているが中にいる職員は1人だけだ。私は気配を確認すると、扉を軽くノックする。

 

「……?」

 不審がった職員が扉を開け、廊下を覗く。

その瞬間、私はその上を通り抜けて部屋の中へ入る。

 そこからしばらく物陰に隠れ、職員が去るのを確認してからパソコンの前に座った。

 

 さっき覚えたIDとパスワードを入力すると無事にログインできた。共有フォルダには無数のデータがあるが………

「日付からして……、この辺りかな?」

 フォルダを開く。

 中には駅や、電車、ショッピングモール周辺の監視カメラ、一部のドラレコ映像が入っていた。

 

「うへぇ、たった一日でこの量……さすが日本の警察。コレなら明後日にでもバレるよ」

持ってきたUSBメモリを差し込み、それらしいデータを一通りコピーする。

 

 

 幸い、職員が戻ってくる前にコピーは終わった。

 USBを抜きすぐに部屋を出る。来たときと同じように天井を這い、誰にも見つからないよう非常階段まで戻った。

 

 窓から外へ出て壁を降りる。地面に着いたところで、私はようやく息を吐いた。

「……ふう」

 ポケットの中のUSBメモリを手の内で確かめる。あとはこれを確認するだけだ。

 

 

 

 

 家に帰るとパソコンにUSBを差し込み資料を開いた。

確認するのは私がショッピングモールに向かって歩いていた時間帯だ。

 

 ショッピングモールへ向かう道。

 最寄りの駅構内。

 車のドライブレコーダー。

 近隣の店舗

 

 並べた動画ファイルを、私が歩いていた時間に合わせ一つずつ再生していく。

 

 人が歩いている。

 車が走っている。

 電車が駅へ入って、また出ていく。

 

 

 どれも、なんてことのない映像だった。……ここまでは。

 

「……あれ?」

 映像を止めた。

 

 少しだけ巻き戻して、もう一度再生する。

私が歩いていたはずの時間、人も電車も動いている。

画面の隅に表示された時刻だってちゃんと進んでいる。

 

 なのに。

 

 私だけがいない。あるいは、私が立っていたはずの場所を別の人が何事もなかったように通り過ぎていく。

 

「……え?」

思わず、画面に顔を近づける。

 

 見間違いか機材のミスに違いない。そう思い別のカメラの映像を開く。

 

 同じ時間。

 同じ場所。

 今度は、別の角度から撮られた映像だ。

 

 

 そこでも――。

 

 同様に私だけが消えていた。

「…………」

 

 しばらく、何も言えなかった。

こんなこと私にはできない。いや、地震から僅か1日足らずの間にこんな細工をするなんて不可能だ。

 

 じゃあ――。

「……誰がこんなことをしたの?」

 

 

 

 そして翌日、月曜日の朝

 

 

 結局、一睡もできないまま家を出ることになった。

見間違いではないか、CGによる加工がされていないか。等々いくつもの視点から一晩中調べたけれど、何も分からなかった。

 

 これだけ調べても何の取っ掛かりも掴めない。その事実に自信をなくしそうになる。

 

 

 

 ……それより学校だ。

「おはよっ!!」

「昨日のニュース見た?」

「見た見た!」

 

 予想通りだった。

教室のあちこちで、地震とスパイダーの話題が飛び交っている。

 

「やっぱりすごかったよな」

「動画見た?」

「見た。あのウェブ、どうなってんの?」

「日本に本物のスパイダーマンがいるってこと?」

「でも女子高生なんでしょ?」

 

 そんな声を聞きながら私は自分の席へ向かった。

 その途中でふと視線を感じた。純子がこっちを見ている。しかも、妙にじっと。

 

「……?」

私が見返すと、純子は何も言わずに目を逸らした。

 

 ……なんだろう。

 

 まあいいか。今は、それどころじゃない……眠すぎる。

 

 

 いくら超人とはいえ徹夜はキツイ。

 私は机に突っ伏した。

 

 ZZZZZZZZZZZZZZ……

 

 地獄からの使者、スパイダー……

 

 ZZZZZZ……

 

 ZZZZ……

 

「遙」

「……ん?」

 

 誰かに肩を揺すられて、私はゆっくり顔を上げた。

「起きて。もうホームルーム始まってるよ」

「……純子?」

「そう」

「……おはよう」

「おはようじゃないよ。寝すぎ」

「昨日、ちょっと寝るのが遅くて……」

 

 

 私は重たい頭を上げた。

いつの間にか、教室はすっかり静かになっている。

担任が教壇に立っていた。

 

「お、起きたか」

「……すみません」

「まあいいさ。ちょうど先生から話してもらうところだからな」

「先生?」

 

 私は顔を上げた。

 

 担任の横に見慣れない男が立っている。

 

 二十代後半だろうか。整えられたおかっぱの髪。落ち着いた服装。自信に満ちた表情。

 真面目そうでハンサムな外国人教師がそこにいた。

 

 ……誰?

 

 私が首を傾げていると、純子が小声で教えてくれた。

「アメリカからやってきた人で科学の先生なんだって。あと、副担任もやるらしいよ」

「ああ……」

 

 なるほど。どうやら私はその紹介を丸ごと寝過ごしたらしい。

でもなぜだろう、彼の顔をみていると頭がムズムズする。

 

「……さて」

 教壇に手を置く。

「私もこれから君たちのことを少しずつ知っていきたいと思う」

そう言って彼は教室を見渡す。

 

 その視線が、私のところで止まった。

……さっきまで寝ていたのだから目につくのも当然か。

 

「飛騨 遙くん……だったね」

 

「……はい」

 そこで、彼は出席簿を開いた。

「……君のことは先生たちからよく聞いているよ…。優秀だそうだ………だが、怠け者とも」

 

 

「あ〜〜……反省してます」

教室から笑いが起こる。

「おいおい、本人も認めたぞ」

 

 昨日は世界中から注目されていたというのに、今日は朝から担任と新任教師に怠け者扱いされている。

どうしてこうなった。

 

 彼はそんな私を見てどこか懐かしむような顔をしていた。

「優秀なだけではダメだ。努力をしないと」

 その言葉には妙な重みがあった。

冗談でも説教でもない。何かを本気で信じている人間の言葉。

「知性とは特権ではなく、授かり物だ。人類のために使わなければ」

 

「……はい」

私の返事に先生は満足したように頷き黒板へ向き直る。

 

 

 

「では聞いていなかった者もいるようなのでもう一度だけ。

 

私の名前はトリバー、トリバー・エリオット。

 

以後よろしく頼む」

 




週一投稿したかったのに繁忙期入ったせいで遅れてしまった。申し訳ねぇ

ちなみに前話で発生した地震での死者は遥が頑張ったこともありゼロでした。
普通の地震じゃなくてマルチバースな地震なので揺れの範囲はとても狭いです。

最後に出たトリバー・エリオットですが、
これはもちろん偽名です。

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