「仕事ないと暇だなぁ…」
薄い敷布団の上で天井を見上げながら呟いた。
ここは都内にあるボロアパートの一室。
ワンルーム+老朽化+いわく付きの事故物件という激安条件三銃士で御値段なんと月々たった1万円という破格の物件だ。
老朽化といえども内装はそこそこリフォームされていて一般の物件と遜色ないレベルだ。
マキマを殺すというような目標はできたけれども、具体的にどうするかは全く決めていない。
実際デビルハンターという仕事は悪魔やら魔人がいるという前提で成り立つっている職業。
肝心の悪魔がいないと依頼も来ないし街を巡回してもただ徒に歩いたというだけで終わってしまうし、そうすると収入もなくなり食いっぱぐれてしまう。
幸か不幸かデビルハンターは死んでなんぼだ。それ故に高給取りとなっている。
初めて蔓の悪魔を倒したときは報酬が40万もした。
その時は一月20回狩って800万、一年狩って9600万というふうにまさに取らぬ狸の皮算用でデビルハンター最高、デビルハンター最高イェイイェイと昂ぶっていたが、武器人間でない生身のデビルハンターからしてみたらこれでも安月給なのかもしれない。
あれから数回悪魔を狩ったが、能力の上達も悪魔がいないとやはり難しい。
悪魔同様武器人間にとって血液はまさに生命線だ。
体内の血液が少なくなると両手の変身が解除されたり復活が出来なくなる。
まだ成長期で身体が小さくそもそもの血液量が少ない為か、変身は未だ両手しかできない。頭部も多少できるにはできるが、それでも刃が額から僅かに顔を覗かせるだけだ。
「依頼来ないかなぁ」
すると机に置いていた電話が鳴り始めた。
「はいもしもし
田大キヨシ
今使っている偽名だ。
「田大、仕事だ」
「どこらへんで、何の悪魔ですか」
◆◇◆◇
早川アキは先輩である姫野と巡回をしていた。
「やっぱり見つかりませんね」
「だね〜。でもなんにも起こらないのが一番じゃない?平和が一番、ラブ&ピースっていうし」
「そうですけども、でも悪魔を狩らないと仕事なくなりますよ」
「あっ、そうだね」
大通りは真っ昼間という時間帯にもかかわらず珍しく人の行き来が少なかった。
銃の悪魔はどこにいるのだろう。
アキが公安に入り、デビルハンターという職に就いた理由。
彼の家族は彼自身を除いて銃の悪魔に殺された。
ふと目を閉じると、その景色が浮かび上がってきた。
窓の外は見渡す辺りの雪景色。
父と母はいつもタイヨウに構って遊んでくれない。
外に出て、一人で歩いていくとタイヨウがついて来た。
タイヨウがグローブを取りに家へ戻った。
その時、家が吹き飛んだ。
はっと目を見開いた。
辺りには雪はなく、葉を落とし尽くした木々の代わりに天まで届きそうな摩天楼が広がっていた。
「アキ君、大丈夫?」
いつの間にか思い出してしまっていたようだ。
「すいません、少し昔の事を…」
口を開いた瞬間、そう遠くない位置から辺りを憚る轟音が響いてきた。
「何だッ」
音がした方を見上げると、黒い塊がビルのガラスを粉々にしながら下へ下へと落ちていた。
◆◇◆◇
「キェェェェェァァ!」
コウモリ野郎はちと初心者に荷が重すぎないかねぇ!?
相手クソデカいぞ!
しかも飛んでるし!
「アクマノクセニ、ナゼジャマヲスル…」
「キェェェ!」
今は飛んでいるコウモリの悪魔に両手の斧を突き刺し、ノミの如くどうにか張り付いている。
いくら不死身でも高い所は怖い!
こんなの高所恐怖症になるぞ!
なんでデンジ平気だったんだよ!
アドレナリンか!?アドレナリンの所為だな!
そんな心の声など知ったこっちゃないという具合に、コウモリが腕を振り、旋回し、速度を上げてどうにか落とそうとしてくる。
腹に爪が直撃し、脇腹から血が流れ出てきた。
それを補うために自分の頭部から出てきた刃でコウモリの皮膚を割き、そこから血を飲む。
例えるなら穴の空いたペットボトルに水を注いで継ぎ足しているかののような光景だ。
「チヲスッテイル!?キモチワルイ!」
油断した隙に右側の羽に斬撃を放つ。
「ギャアァ!」
風圧で傷が広がった羽は傷口からベロンベロンと翻り、使い物にならなくなってしまった。
そこからコウモリはバランスを失い目の前にそびえ立つビルへ一直線に墜落し、その巨体は均一に張られたガラスを粉々に突き破りながら建物に対して垂直落下を行い始めた。
さっきまで飛んでいた位置が地上からおおよそ60メートルで、このビルが50階ほどの超高層建築物。
超有利だけど嫌な条件が派手に揃ってしまった。
つまり垂直落下の速度加速と高度とガラスの破片でコウモリはズタズタのギッタンギッタンの瀕死状態となることは確定だが、同じ状況の自分もタダでは済まなさそうということだ。
「ふ゛さ゛け゛る゛な゛ぁぁぁぁぁ!」
「「アアアアアアアアアアアアアア!!」」
コンクリートにガラスを粉砕する爆音と共に化け物二匹の絶叫デュエットが響き渡った。
コウモリは頭から建物内部の鉄筋コンクリートに直撃し、飛び散るガラスが皮膚にミキサーの刃のように傷をつけてゆき、アスファルトの地面に激突した。
「アァ…ァ…」
不死身とはいえども痛覚が健在なのが玉に瑕だ。
おかげで下半身の骨がぐちゃぐちゃになって脊椎が木っ端微塵になった感覚があるうえに、身体が内側から爆発したように痛い。
片手の腕を捻り、血みどろになりながら再生する。
「痛い…死にそう…」
しかしコウモリも大分瀕死な様だ。ボロボロの頭蓋骨が剥き出しになっている。あれなら空気砲等の大技はしばらく出せなさそうだ。
「動くな。お前、魔人か?」
背後からどこか聞き覚えのある声が投げかけられた。
振り返ると原作よりも少し幼く見える早川アキと姫野が路地に立っていた。
言い訳タイム開始
「待ってくれ、敵ではない」
「じゃあその頭の刃はなんなんだ。そんなのは魔人ぐらいだぞ」
「魔人じゃないが、心臓が悪魔のものになってるからな…」
「はぁ?」
なんとなくきまりが悪いので咳払いをする。
確かにこんな中途半端に刃が出てたら誰でも魔人だと思うよな。
しかもサムライソードの変身途中みたいに斧が先端だけ出てるというのだから絶妙にダサい。
町中のアンケートで訊いたら大半が魔人じゃなくて新手のファッションだと答えそう。
「俺は人間でも悪魔でも魔人でもない。だが敵意はない」
「…そんなの噂でしか聞いたことがないぞ」
我ながら中途半端な変身を解くと、三つの刃が水銀の様に溶けて見た目が完全に普通の人間になった。
「わ~お、すごいね」
姫野が感心した様子で口笛を吹いた。
「よく見たらお前まだ子供じゃないか…」
「小さい頃から悪魔を狩っててね、個人的な事情で」
「その歳でかよ…」
嘘である。
「というか、敵意がないならいいけど、君が誰なのか分からないからね。自己紹介してくれる?」
「田大キヨシ、民間のデビルハンターをしている」
「さっきの悪魔も君が全部やったの?」
首を縦に振る。
「ほんとすごいね」
「所で、お二人も一応自己紹介を」
「あ、そうだね。私は姫野。でこの子は私の後輩、アキ君だよ」
「…よろしく」
完全にここで公安の二人と出会えるとは思わなかったな…
でも逆にチャンスかも知れない。
ポケットから戦闘でくしゃくしゃになったメモ帳とスーツのジャケットからペンを取り出した。
「姫野さん、ちょっと話があるからそこの脇に」
「はぁ?お前何を言ってるんだ。いきなり出てきていきなり話だなんてどういうことだ」
「まあ大丈夫大丈夫。最悪私とアキ君で対処できそうだし。それにほら、攻撃はされてないでしょ。で、その話って何?」
「繰り返すけど別に敵意はないとも。話はいずれアキさんにも話すつもりだけれども、一旦は姫野さんだけに聞いてほしい」
アキが聞こえないぐらいの距離で向き合った。
「まず最初に…」
メモ帳に
『今からこのメモに口にしてはいけないことを書く。それには驚かないでほしい。返事をするときはそれを悟られないようにやってほしい』
と書いて見せる。
「どんな男性がタイプだ?」
「え…?」
適当に訊いたのが姫野先輩以外だったら確実にセクハラ認定される質問になってしまった。
これじゃあ質問に困惑しているのかメモの方に困惑しているのか分からないが、とりあえず頷いてはくれた。
『マキマという女性は公安にいるか?もしいるならその人物をどう思っている?』
「じゃあ質問を変えよう。身長は高いほうが好みか?」
「…ああ、はい」
「逆に身長が高くないとどう思う?」
「…変な感じだなって思う」
メモとペンを渡す。
「もし人のいる所で言いにくいならここに書いてもいいよ」
姫野は頷いた。
そして何か書いたあと、渡されたメモには
『普段は優しいけどどこか不気味な感じがする』
とあった。
「…オーケー。答えてくれてありがとう。じゃあ、岸辺っていう人の公安にいる?その人にもタイプを訊きたいから」
「いるけど、どうやって会うの?」
「普段いる所を教えてくれればありがたい」
「あの人は多分墓地にいると思うけど」
「ありがとう、これで終わりだ。だけどこの質問は誰にも言わないでほしい。じゃあまた今度会ったら」
そう言ってコウモリを解体して、心臓を食らい尽くしてから墓地へ向かった。
◆◇◆◇
一面緑一色に広がる草原の上に、果てしなく続く十字架が規則正しく並んでいた。
一体どれ程のデビルハンターが死んだのだろう。
彼らは死後、天国に行けたのだろうか。
岸辺は一人で無限に広がるかの様な十字架に向かって、こちらに背を向く形で立っていた。
岸辺は狂人の皮を被った常識人だからおおよそ死んだ新人の墓参りにでも来ているのだろう。
「こんにちは」
「誰だお前」
岸辺は振り返らずに返事をした。
「民間デビルハンターの田大キヨシです。せめて返事するときは振り返ってくださいよ。」
「デビルハンターならそんな常識捨てろ。死ぬぞ」
振り返った岸辺はアキとは対照的にちっとも若返っていなかった。無精髭は相変わらずで、目はいつも通り死んだように光が無かった。
例のメモを見せた。
「公安の岸辺隊長ですね。同じデビルハンターとしてアドバイスを頂きたいなと」
『今からこのメモに口にしてはいけないことを書く。それには驚かないでほしい。返事をするときはそれを悟られないようにやってほしい』
メモ帳の言葉を捉えた瞬間、岸辺の瞳孔が少し開いた。
「…何が訊きたい」
『マキマを殺したい』
「どうすれば銃の悪魔を殺せますかね。ざっくりとでもいいのでお願いします」
「無理な願いだな。誰もそいつは殺せない」
『俺は斧の悪魔の武器人間だ。あなたに対し敵意はない』
「まあまあ悪魔は倒してるんですけど、それでもどうですか」
「…詳しい話すぞ、ついて来い」
◆◇◆◇
連れてこられた先は最終決戦の前にデンジとコベニが来ていた地下室だった。
「ここならマキマの盗聴も無い。自由に喋ってもいいぞ」
「ありがとうございます。では単刀直入に言いましょう。俺はマキマを殺したい」
「それは俺も同じだ。マキマが人類の味方じゃ無くなったら、俺も反旗を翻すつもりだ。だが、お前はなぜマキマを殺したい?目的は何だ…と訊きたいところだが、それは何だ」
岸辺が俺が抱えているコウモリの悪魔の死体を指差した。
「これか、コウモリの悪魔の死体」
「…なぜ持ってる?復活しないだろうな」
「復活なんてそんな、心臓は食い尽くしたから。持ってきてるのはうちの会社が証拠無しだと報酬貰えないってだけ」
「墓場で言ったことを撤回しよう。お前が真のデビルハンターだ」
なんか狂人認定された。
「とにかく、なぜマキマを殺す目的は何だ?」
「ざっくりというと、なんとなくですかね」
「なんとなくでマキマ殺すのか…」
なんかドン引きされた。
「正確に言うと、マキマが目的を達成する過程で犠牲として特定の人物の尊厳、幸福、人生を破壊するのが気に食わないから。寧ろ、マキマの考えには一部共感する面もある。あとマキマって普通に可愛いし、ただ単純に顔が整ってるだとかじゃなくてその謎に包まれたような性格と合わせて好き。体型も極端に痩せてるとか太ってるとかじゃなくて理想的で、思想の面でもそんなユートピアを実現するという目的が自分のともかなり似通ってるなって。正直その誰かを利用するとかが唯一の嫌いな点かなと」
「えぇ…」
「それでもやっぱりその人物を護りたいから、俺はマキマを殺したい」
「お前過去最高に適正あるぞ、1000点だ」
まじか。
「…とにかく言いたい事は分かった。本当に知っているなら、マキマの目的を教えてくれ」
思っていた通りやっぱり訊くよね。
「良いですが、俺の言ってる事が本当だとも限らないじゃないですか。実際俺が岸辺隊長を試す為のスパイで、裏切るつもりなら殺すとか」
「たとえそうでも」
岸辺はウイスキーの入った瓶を呷った。
「試すしかないんだよ、たとえ毒だろうが」
「まあ、俺もあなたも互いに信頼できる義理も確信もないですからね」
「そうだな」
「話を戻すと、マキマの目的はチェンソーマンを利用し人類にとって都合の悪い概念を消す事です。」
「詳しく話せ」
「チェンソーの悪魔、則ちチェンソーマンにはある能力がある。チェンソーマンが食べた悪魔の名前はその概念から消えてしまう。既に色々食べられたそうだが。ナチス、アーノロン症候群、第二次世界大戦、租啞、エイズ、比尾山大噴火、核兵器。だが思い出せる人はほとんどいない。マキマか俺ぐらいだろう。なぜならチェンソーマンが食べてしまったから」
「ナチス…?」
「人なら誰しもが持っていた第六感、子供の精神を壊すとある星の光、生命が寿命を迎えると死の他にあった4つの結末。どれも記憶からは消え去ってしまった。」
珍しく、岸辺が困惑した顔をしていた。
「スケールがデカすぎだ…」
「別に完全に信頼しなくても大丈夫ですけど、大体こんな感じって事です」
「…じゃあ、なぜお前はそれを知っているんだ。記憶から消えたはずだろう?」
「それは…また今度ということで」
「というか結局お前は俺に何をしてほしいんだ?」
「岸辺隊長にはまず現時点で公安のデビルハンターが死なないようにするのと、マキマの能力に関する情報を持ってきてほしいです。これは等価交換です。俺があなたに協力し、あなたが俺に協力する。岸辺隊長、一緒にマキマを殺しましょう」
アキと姫野先輩はアキが姫野の元バディにガムをくっつけたぐらいの時期を想定してる。