「起立、礼、着席」
「お願いしまーす」
「はい、じゃあ始めるぞー。で、今日の予定だが…」
始まってしまう、今日という日が。
毎日毎日同じ様な日の繰り返しで、次第に神経が弱っていくように感じてしまう。特に今日は気怠げだった。
頬杖をつきながら窓の外の景色を眺めてみた、が、グラウンドの向こうに果てしなく続く違法建築の大群が広がっているだけだった。
「ホームルームも学校なんてなくなってしまえばいいのに」
幸か不幸か、孤児院から子供は小学校から中学まで通えるようになってる。
そんな訳で
ハナミチは今頃どうしているだろうか。
もうかなり前の事なのにふとした瞬間思い出してしまう。
彼はクラムボンを除いた唯一の友達だった。
今はクラムボン以外誰もいない。
だからこの教室にも私の居場所はない。
誰からも私、三鷹アサが嫌いだとか言うことを言われた訳でも耳にした訳でもない。ただ自然とそんな雰囲気を感じてしまう。
彼は私が見た幻か何かだったのだろうか。
時々そう考えてしまう。
でも私の首にはあの時に貰った首飾りが掛けられている。
まるで手で編んだように粗くて、頼もしい黒い紐には何かの金属、それも何かの刃物の破片、に穴が開けられて通されている。
「どこから持ってきたんだろう…」
朝礼の後、ロッカーから教科書を持ってきて再び席に着く。
まだ授業まで時間があるからか、多くの生徒はまだニ、三人のグループを作ってぺちゃくちゃ喋っている。
おそらく「昨日のアニメどうだったー?」とか、「今度のテスト俺勉強してねーわwww」とか話し合ってるんだろうな。
大きい声出すな、うるさいでしょ
「でさー、あれマジヤバくなかった?」
「わかるー!」
「てかさー」
教室の入り口で喋るな
「こっちおいで~!」
「ははっ、おい待てよ〜」
二人の男子が教室の中を走り回ってる
死ね!
◆◇◆◇
ようやく1限目の授業が終わって休憩になった。
「疲れた…」
いつもこんなに授業に体力を使っていただろうか。
「もう嫌…」
席から立ち上がり、そのまま廊下へ出ていった。向かう先は屋上だ。
はぁ、と特大の溜息をついて柵にもたれ掛かる。
授業をサボるなら見晴らしのいい外でしたかったが、この学校は香港の
傍から見たら本当に監獄みたいだ。
2限の始まり共に休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。絶対怒られるだろうがどうせ授業なんて真面目に聞けるわけがない。
いやもしかしたら先生も生徒も私の存在を忘れたまま授業をしているかもしれない。
肩をすくめると柵に首飾りが当たりチャリン、という小気味よい音をたてた。
手持ち無沙汰なまま、踵を返して反対側へ行こうとした時、下から何かが崩れる音と幾つかの悲鳴が聞こえてきた。
「え?」
次第に校舎全体が揺れ、音も大きくなってきた。
柵から顔を出し下を向いてみると、底には悪魔がいた。
高さは校舎の2階ぐらいまであり、さっき私がいた教室に身体を突っ込ませている。ぱっと見た感じでは黒い身体に毛に覆われた羽根が付いているのでコウモリの悪魔か何かだろう。
しかしまずい。ここは屋上だ。
上に注意が向けば私も襲われるかもしれない…
そうなったら逃げるか死ぬかしかない
大急ぎで屋上の扉に駆け込み、階段の部分で息を潜める。
下では依然として悲鳴と建物の崩れる轟音が響いてくる。
どうしようどうしようどうしよう
屋上に戻っても見つかるかもしれないし、でも下へ行ってもまた同じ事だし、玄関口からグラウンドに出るなんてもってのほかだ…
どうしようもない
どこかの小説で読んだだろう台詞が脳を過る。
「板挟みなんですよ」
まさにその通りだ。けど、こっちは命の危機だ。
バサッバサッという不穏な音がこっちの方へ上がってくる。
背後の壁が崩れるのが先か、踊り場から跳んで廊下を全速力で走る。すぐ真後ろでは馬鹿みたいにでかいコウモリが建物を壊しながらこっちに迫って来る。
死にたくない
「あっ」
ああ、そうだった。
私はいつもだいじなとこでコケるんだ。
幼稚園の時には同級生の子の誕生日会でケーキを持ったままコケてしまったし、運動会の時には自分の組が1位の時に盛大にコケてしまった。
そしてあの時も
「お母さああああぁぁぁん!」
ごめんお母さん。
私、長生きできないや。
すぐ後ろで私の死神が待っている。
最期にまた会いたかったな。
キリスト教徒が縋る祈りのロザリオの様に、私は最期に首飾りを握り締めた。
よくアスリート選手だとかは集中したりするとゾーンに入って時間が遅く感じられるとか聞くけど、私もこれから死ぬ0.01秒ぐらいの瞬間がゆっくりに感じられた。
視界の端からナイフみたいに鋭い牙が飛んできた。
ああ、つまらない人生だったな
「生きたいなら身体を貰うぞ」
暗闇の中で声が聞こえてきた。
私が私じゃなくなっていく様な感覚と共に、意識が薄れていった。
◆◇◆◇
「こいつはコウモリか」
牙を両手で掴み、その悪魔の口をこじ開けた。
確かにこれくらいの年の少女ならコウモリの悪魔に即殺されるだろう。寧ろ良くやった方だ。
目の前の悪魔は喋ろうとしてるのか威嚇しようとしてるのかよく分からない声で叫んだ。
「悪いが肩慣らし死んでくれ」
「人間が悪魔になっただと…?」
困惑の混じった声で答えた。
「まあいい、どちらにせよお前は前菜にしてくれる」
「我を前菜如きで済まそうとするとは舐められたものだな」
コウモリが動く前に横の瓦礫の山に飛びついた。
「瓦礫、剣!」
瓦礫の山が柄の長い大剣に変形し、刃の部分は光を反射していた。
「奇妙な技を…!」
「遅い!」
まずコウモリの喉を斬り裂き、振ってきた右腕を躱した。
コウモリは翼を広げこちらを外へ吹き飛ばしたが、着地できた。
周りを見るとどうやら中庭で、菜園のトマトだかが目に着いた。
「トマト、手榴弾!」
武器化は本来、武器に変化させる物への思い入れや罪悪感がある程威力は強まる物だからこれぐらいならそこそこしか破壊できないが、まあ私の物じゃないし全部使ってもいいか。
ダイナマイトを爆破したようにコウモリは校庭の反対側へ吹っ飛んでいった。
…そんなに大切なのかこのトマト。
「貴様ァ…何者だ…!」
「我は戦争の悪魔だ」
「貴様の様な悪魔に…負けるわけには…!」
コウモリが校庭の木を引き抜き何本も投げてきた。
しかし所詮は只の木。刃物には勝てない。
学校設立からずっと生徒を見守ってきたであろう巨木は豆腐を斬るようにバラバラになった。
コウモリは勝てないと悟りでもしたのだろうか翼を広げ空へと羽ばたいて行ってしまった。
「おい、待てっ…!」
この少女の身体には負担が大きかったのだろうか。身体が重く感じ、こけてしまった。
◆◇◆◇
校門の前に黒いスーツを着た二人の男女が立っている。
二人とももう50メートル先には飛んでいるであろうコウモリの悪魔を見上げている。
「先輩、どうします。やりますか?」
青色がかった髪で、後ろに小さめの髷をしている男性が言った。
彼は右手は中指、薬指、そして親指をくっつけて人差し指と小指はそのまま立てていた。
「いや、大丈夫。あそこまで飛ばれたら正直やりづらいし、それに私たちのやることは学校の人達の安全確保だからね。」
もう片方の、眼帯をして緑色の髪を肩まで伸ばした女性が返事をした。
「まず学校内の安全確認と生徒と教師の避難を優先しようか」
「はい、分かりました」
投稿が大幅に遅くなって申し訳ございません…
本当に面目ありません…
自分の中では週一、二ぐらいで投稿しようかなと考えていたんですが、いつの間にかこんなに遅くなってニヶ月以上も空いてしまいました。
この小説を楽しみにしてくださっていた皆様には本当に申し訳ありません。
週一を目標としますのでどうかご容赦ください。
それではまたお会いしましょう。