かくあるべきか   作:無表情(投稿中)

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前書きに何を書けばいいか分かりませんね。
書きたいことは後書きが書きやすい気がします


第3話

 

何から始めようか…

 

掃除は苦手だ。

 

起きたら顔を洗うように、ご飯を食べたら歯を磨くように、なんとなくやらないと気持ち悪い。

掃除する理由なんてそれだけ。別にやらなくても生きてはいける。

 

そう強がってみたものの、どこかでやらなければいけないのもまた事実。

箒を片手にしぶしぶ取りかかる。

 

掃除の何が嫌だって、まず苦手だし、素直に疲れる。

何より嫌なのは特に得られるものはないところだ。

「疲れて何かをする」というのは何かを得るべき、プラスになるべきだと思う。

働いたらお金を貰える。農作業をしたら作物が収穫できる。

わかりやすいご褒美が待っている。

 

ところが掃除はどうだろう。

マイナスが0になっただけ。

プラスになることはない。全然見合ってないじゃないか。

しかも汚すのは一瞬ときた。

 

とめどなく不満が漏れるが、一応手は動かす。

始めは手より口が動いていたものの、次第に口数は減っていき、代わりに手が動いていく。

 

とうとう口を動かすのを忘れた頃、時計を見ると一時間が経っていた。

あれだけ嫌がっていたのに始めさえすれば意外と集中してできるものだ。我ながら単純である。

 

「掃除完了っと」

 

軽く伸びをしながら、誰に対するでもない独り言をつぶやく。

やろうと思えばまだできる。

ただ、口に出すことで終われると思ったのだ。

どうせまた汚れるのだから、程々で良いだろう。

 

辺りを見回す。

完璧とは言わないまでもだいぶ良くなった。

そこそこ真剣にやったからか、わずかな達成感がある。

まあ、だからといって掃除が好きになるわけもない。やっぱり割に合わない仕事だ。

 

あちこち動き回ったからだろうか。

いつの間にか頭のリボンがずれている。

持ち続けていた箒を壁に立てかけ、慣れた手つきで締め直す。

 

それが楽園の素敵な巫女さんこと博麗霊夢の朝だった。

 

 

 

 

 

木製の戸を開けて家に入る。

古い建物だから仕方ないが、戸の立て付けが悪い。

ところどころで引っかかってしまいガタガタと軋む音が響く。

戸の滑りを良くする妖怪でもいないんだろうか。

 

なかなか大きな音がしたが、小さな同居人たちは目を覚まさなかったようだ。

それもそのはず、今はまだ朝の5時ごろ。

 

私もいつもはこんな早くに起きない。なんなら午前のうちに起きればいいほうだ。

 

湿った土の匂いがする土間を抜け、居間へ。

少し毛羽だった畳に腰を下ろす。

部屋にはそこらに本が散乱している。神社には似つかわしくない光景だ。

そういや、あいつの家もこんな感じだったかな。

 

そんな私らしくない早起きのきっかけはとある作家だった。

 

ある日、人里を訪れると鈴奈庵で熱心に何かを語っている声が聞こえてきた。

 

どうやら小鈴による「アガサクリスQ」という作家の宣伝らしい。

 

涙ぐましい営業努力だ。

思ったのはそれぐらいで、正直特に読む気も起こらなかったが、その後も行く先行く先でアガサクリスQについての話が聞こえてくる。

人里はともかく、妖怪の山や紅魔館でも話が聞こえてくる。果ては地底の連中まで知っているのだから驚いた。

 

いくら娯楽に乏しい幻想郷といえどそこまで話題になっているものはなかなかない。

 

流石に気になったので後日改めて小鈴に尋ねてみることに。

 

そしたら何かのスイッチを入れてしまったらしい。

「目の色が変わる」とはこういうことを言うんだなと呑気なことを考えていたら、勢いそのままに30冊ほど貸し出されてしまった。

 

わざわざ宣伝していたほどだ。大層好きなんだろうと思ってはいたが、想像をはるかに超える熱量だった。

あの目はそこらの妖怪よりよっぽど恐ろしかった。何かに取り憑かれたんじゃないかというほどに。

 

本は比較的読む方だと思う。

何せ幻想郷では数少ない娯楽だ。

 

とはいえ30冊は多すぎる。

あの本の虫ならともかく、そこまで読む気にもなれない。

2〜3冊、軽く目を通したら返そうかと思って読んでみたところ、まんまとドハマり。

 

小鈴のニヤケ顔が浮かんでくるようでちょっと悔しい。

 

気づけば昼と夜の区別がつかなくなるほど読みふけってしまった。

ページをめくる手は止まらず、20冊目を迎えたところで瞼が鉛のように重くなり、そのままノックアウト。

 

乱れ切った体内時計は逆に一周してしまい、こんな健康的な時間に目が覚めてしまった。

 

実際小鈴があの熱量になるのも頷ける面白さだった。

話の筋はそこまで変わらないのに、毎回どんな展開になるのか全く読めなかった。 

 

部屋中に散らばった本を見て、改めてそう思い返す。

まだ10冊ほど読んでいないし、毎日の楽しみが増えた気分だ。

 

ただ、どれを読んでいないか忘れてしまった。

整理も兼ねて、まとめて隅に置くことにしよう。

一応借り物なわけで、汚して弁償とか言われても困るし。

 

そこで気づいた。

よく見ると他とは装丁が異なる本が紛れている。随分古そうな本だ。

他と比較しても明らかに違う。

 

手に取ってみる。古そうな見た目とは裏腹に、案外手触りが良い。

表紙は黒く、何も書いていない。

 

中にも何も書いていないようだ。

黒い表紙と対照的な白さだけが広がっている。

 

不思議に思いながら閉じようとしたその時、端の方に一行だけ何かが書かれているのを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「博麗霊夢はこの後儲かる」

 

……変な一文だ。

あいにくこんなのを当てにするほど困窮しちゃいない。

どうせ妖精かなんかのいたずらだろう。

まあ、書いてあることはうれしいけど。

 

そう決めつけて本を置く。するとちゃぶ台の下で何か光るのが見えた。

 

本の内容が頭によぎる。

まさか、と思いつつ手に取ってみる。

 

落ちていたのはビールのフタだった。

 

一瞬でも期待した自分が恥ずかしい。

ここまで仕込んだのなら随分と手の込んだイタズラだ。完全にやられた。

 

怒りなのか残念なのかよくわからない気持ちになっていると、寝室から物音が聞こえてきた。

誰か起きてきたようだ。

やはり建て付けの悪い戸をガタガタと開きながら現れたのは神社の狛犬、高麗野あうんだった。

 

狛犬が寝室で寝るというのもおかしな話ではあるが、一応人型?のため外で寝かすのもなんだか忍びなく、部屋で寝かせることにしている。

 

 

「おはようございます!」

あうんの元気のいい挨拶が響く。

 

「おはよう。朝から元気ね」

「おかげさまで毎日快眠ですよ」

「そりゃどうも。ところで戸の滑りを良くする妖怪とか知らない?」

「なんですかそのピンポイントな妖怪」

 

ダメ元で聞いてみたが、やはり居ないようだ。これで居たら驚きではあるが。

 

「そういえば霊夢さん、昨日こんなものを拾ったんですけど」

 

あうんが小さな何かを手渡してくる。

 

その感触には覚えがあった。

寛永通宝だ。どこかでは1文とも言うらしい。

大した金額ではない。せいぜい菓子が1つ買えるぐらいだし、賽銭としても馴染みがある。

 

ありがとう、と口に出そうとしてふと思い至る。

これは……見方によっては儲かったともいえるのか?

 

いやしかし、こんな少額で儲かったと言えるのか。

目の眩むほどの大金とまでは言わないけど、儲かると言うからにはせめてもう少し額が大きくないといけないんじゃないか。

 

 

「霊夢さん?」

 

何も反応がないのを見かねたのか、不思議そうな顔であうんが問いかけてくる。

 

「ああ、ありがとう……」

 

気の抜けた返事を返す。

聞けば普通に境内で拾ったそうだ。

一応本についても聞いてみたが、更に不思議そうな顔をされただけで特に知っている様子はなかった。

 

ただのいたずらなのだろうか。

にしては良くでき過ぎている気がしなくもない。

 

こういう時あれこれ考えてみるのは好きじゃない。

餅は餅屋だ。小鈴に聞いてみることにしよう。

 

そうと決まれば話は早い。人里に行かなくては。

そう決めて立ち上がろうとした時、ちゃぶ台を見て思わず固まった。

 

開きっぱなしだった本に、先程までなかったはずの一文が増えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「博麗霊夢はひかれる」




今まではこの先どうなるんだ?というフックが少なかったように思うのでそこを意識した3話です。
初手の魔理沙かと思ったら霊夢という軽い叙述トリック的なのもやってみたかったので挑戦してみました。

没案や設定をこちらに載せても面白いんじゃないかと思ったので書いておきます。
幻想郷では造幣局がないので通貨が発行されず、貨幣制度が曖昧。
その為物々交換や古銭で代用している
という設定があります。その為の寛永通宝でした。
その下りを話に盛り込もうとしたんですが完全に蛇足となってしまったので割愛。
他にも東方鈴奈庵の小鈴や天空璋のあうんなど前提知識が必要なものも数多くあり、こちらも説明を加えるべきか迷いましたが二次創作ということでこれもまた割愛。

博麗神社の間取りはこちらを参考にしました。
博麗神社の間取り図(主に東方三月精より) – Ewig Leere
玄関に鍵をかけても縁側から簡単に入れてしまう。防犯意識も何もあったもんじゃない。
まあ、盗むものなんて何もないけど……
悲しくなってきた。
という描写を挟もうとして消しました。

情景描写を多くすると説明がくどくなってしまいますが、少なすぎてもイメージが伝わりづらく…
少なくとも最大の理解者である自分が脳内で想像できるような描写をしていきたいなと考えています。自分すらよく分からなかったら伝わるはずがないですからね。
遅筆かつ稚拙な文章ですが楽しんでくれた方が居ましたら幸いです。
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