身体の機械化が当たり前な終わり散らした世界で、うすほそ色白実験体を拾ったロートルおっさんは、実験体からなぜかダディと呼ばれる 作:異星人アリエン
ディアナが可愛すぎる。どけっ、俺がお父さんだぞ!
一人の男が廃棄物の山を歩いていた。
腐った卵を何倍にもしたような強烈な腐敗臭に、放置された金属の錆びた臭い。それらが合わさり、空気が重く、黄ばんだ霧までも発生し視界を遮る。
此処はゴミ処理場──ではなく、かつては別の名前があった場所だ。しかし、今は見ての通りゴミ処理場と言っても過言ではない状況になっている。
そんな場所を俺、ダンテ・アイゼンバーグは黒革のコートをなびかせながら歩く。
「企業による不法投棄か。やれやれ、ロクなことをしないな」
かつての世界は滅びた。
力と求心力を失った政府、これを機に力を伸ばそうとする企業、恐怖に暴徒と化した民衆、金儲けに走り始めた裏組織。一度失った均衡は歯止めが効かず、崩れていく。結果、ようやくできた新秩序も歪んだ形で成立した。
それでも人々は生きていく。
最も、昔のように自由と平等が保障された世界でなく、自身で勝ち取る世界へと変貌していた。弱き者は、蹂躙されるだけの世界。そんな世界で生き延びるには自分の腕一本で切り開くしかない。
かつて完全ではないものの平等があった。建前でも、それを口にすることも許された。しかし、今はない。それを口にすれば、疎ましく思ったより強者から
なんて生き辛い世の中になったものだ。昔は良かったなどと、口にすると年寄り臭いがそう思えて仕方ない。
『ちょっと〜。無駄口叩いている暇あったら、さっさと指定箇所に向かってよね。そこらへん、ゴミばっかりであたしほとんど役に立たないんだからさ』
「わかっている」
片耳につけっぱなしのイヤホンから流れる協力者のオペレーターからの言葉に、返事を返す。全く、ノスタルジーに浸る暇すら与えてくれないか。
俺は『ラブ&ピース』と描かれた雑誌を踏み、周囲を歩いていく。その度に、足場が悪くなる。
「ひどい臭いに、足場だ。まともに歩けやしない」
こんな燻んだ世界も、タバコを吸えば幾分かマシだ。だが、今吸えばもし可燃ガスが漂っているものなら、引火する恐れがあるからそれもできない。苛立ちを踏み締める。
さて、現実逃避はこのくらいにするか。
ネオ・アルカディア──理想郷と名を持つ都市。
世界が混沌に満ちて、破綻した中で唯一輝き続ける都市。都市とは言ってはいるが、その実国家以上の権力を持ったメガコーポ企業たちが集う権力の坩堝であり、いまや今の世界の中心だ。
そこにとある話があった。
このゴミ処理場と言われるようになった場所で、夜になると変な音が聞こえるというのだ。それだけならまだしも、音がガシャンガシャンと明らかな足音であり、何か人型のものが動いている。
そしてそれは、《鎧の亡霊》だと。
そして遭遇したものは皆、瀕死で発見されるという。
「アホな話だ。今どき幽霊なんている訳がない。……だが、被害者はいる」
物陰に隠れ、視線の先に居たのは、死屍累々と言っても良い有り様だった。
元々無秩序だったゴミ山は、陥没したり、雪崩が起きたような痕跡で溢れ、その周囲には同じように人が倒れている。おそらくはこの場を根城にしていた《
そしてその中心な佇む、銀色の西洋の甲冑。
件の噂通りの存在がそこにいた。
「実弾……ではないな。ならば、エネルギー弾……でもない。焦げつきが無さすぎる。ならば身体能力をあげる
倒れている者たちは呼吸はしている。死んではいない。
だが、どうやって倒したのかわからない。何せ、あの鎧を見ても銃らしき凶器が見当たらない。にも関わらず、辺りの凹みは明らかに何かをぶつけられた跡だ。
「どうやってこれだけのことを起こしたか、皆目見当もつかんな。あの鎧、ガワだけで中身はオートマタか? どちらにせよ、気付いていない今がチャンスか」
腰のホルダーに手をかけ、銃を抜く。
相手との距離は約20メートルといったところか。
向こうはまだこちらに気付いていない。障害物もない。
問題ない。当たる。
冷静に狙いを定め、引き金に指を掛けて、発砲。
『……!?』
鎧は音に気付いたような素振りをみせたが、弾丸は真っ直ぐ鎧の兜へ吸い込まれるように飛翔、違わずに頭を貫いた。
終わりだ。
俺の愛銃、『ヘスペル』──六発装填の
専用の弾丸も合わさり、防弾盾すら貫く威力だ。あんな骨董品と言って良い代物の鎧なんて、薄い鉄板のように貫ける。
現にやつも、カランカランと頭の部分が地面に
「なに……!?」
俺は確かに頭を撃ち抜いた。実際に鎧は頭の側面を貫通している。倒れるのであれば、足からでないとおかしい。しかし、奴は二本足で立っている。そして、身体がこちらを向いた。
明らかな異常事態。しかし動揺を押し殺す。既に鎧はこちらに向かって走ってきていた。
冷静に照準を合わせ、足を撃つ。
銃弾は確実に膝部分、関節を貫いた。関節部が破砕音と共に砕け散る。普通なら倒れるはずのその体勢が崩れない。片足だけで、よろけることなく立っている。
その光景に思ったよりも面倒臭い相手だと舌打ちする。
オートマタではあり得ない。
中身が機械ならば、関節を貫かれた時点で自重に耐えきれず崩れ落ちる。そして、さっきの光景から見て考えられるのは一つ。
「
かつて世界を
空想であった超常の力を扱う
その言葉を肯定するように、鎧の周囲の廃棄物が浮かび上がる。
大小様々な石ころから、巨大な電柱、はたまた何かもわからない残骸まで。その全てが、俺に向かって飛んできた。
「ぐっ!? 舐めるなよ……。この程度の修羅場、いくつ潜ってきたと思っている!」
身体を翻し、すぐさまその場から退避する。
嵐のように着弾する瓦礫の弾。周辺にあった凹んだ跡は、これが正体か。俺は、後方に飛び退き、小石に身体をぶつけられつつも冷静に発砲した。
『!?』
まさか躱されながら撃たれるとは思わなかったのだろう。
鎧は咄嗟に両手を前に突き出す。胴体を弾が貫く前に、
「なるほど。わかってきた」
鎧はすぐさまブンブン腕を振ると、たくさんの瓦礫が飛んでくる。ただ、焦っているのか最初ほどの大きなモノではなかった。壁を背にして、様子を伺う。
奴は攻撃をした時に咄嗟に
それはつまり、攻撃を喰らうとまずいという認識があるからだ。単に鎧を遠隔操作しているだけなら、あの手の動きは必要じゃない。
つまり、あの鎧の中に居るのは間違いない。だが、さっきのように弾を止められたら意味がない。やるなら防ぐことのできない0距離射撃か、あるいは。
「
奴の動きを見て、わかった。攻撃時、鎧は止めた弾が地面に落っこちた。つまり、攻撃と防御は同時にできない。
俺は足元の近くにあった、缶詰を見る。
そのまま拾い上げ、確認する。中身あり。消費期限とっくに過ぎている。内容物は魚。問題なし。
「いける」
物陰から飛び出すと同時に、缶詰を鎧の頭上へと投げる。
鎧は咄嗟に腕をあげると同時に、近くで静止した。
『……?』
しかし、投げられたのがただの缶詰だとわかったのか、困惑したように固まる。
「命取りだな」
俺はすぐさま、銃を構える。
鎧はすぐに周辺の瓦礫を浮かべ始めた。俺の狙いは鎧、ではなく宙の缶詰を撃った。
それも中心ではなく、端っこを。それも、ちょうど中身が漏れるように。缶詰はそのまま中身を撒き散らしながら、そのまま頭のあった位置に
「此処がゴミ処理場で幸いした。こんなモノまであるとはな」
『……? ……〜〜〜〜ッ!!!?』
暫し固まった鎧だが、すぐにバタバタと暴れ始めた。のたうちまわり、パニックを起こしているようだ。
俺がしたことは極めて単純。奴の鎧の穴から、
また弾を止められたら敵わない。出てきたところを近距離で、それもダメなら口に銃をぶっ込んで撃つだけだ。それで終わりだ。
銃を構える。
やがて鎧が膝から崩れ落ちた。さて、どんな面をしているのか。
そんな面持ちで待っていた俺の目に映ったのは、予想だにしない人物であった。
「う……ぁ…………」
「こども……だと?」
それは真っ白な少女だった。
肌も、髪も、何もかもがシミひとつがないくらいに真っ白な少女。しかしそれは 外に出ないからとかではなく、色素そのものを失ったかのような白さだ。だからこそ、腕や足のそこかしこに打たれていた
予想外の中身。
あまりに神秘的、あるいは異様とも言える光景に銃口を下げる。
「う……!? く、くさっ……!」
そして、漂ってきた異臭に思わず顔を顰めるのだった。