『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
放課後。
旭高校の校舎に、部活動へ向かう生徒たちの声が響いていた。
運動部の掛け声。
吹奏楽部の楽器の音。
グラウンドから聞こえる足音。
そんな喧騒の中、四葉は教室の窓から校庭を眺めていた。
「……」
いつもの明るい笑顔が、今日は少しだけ真剣だった。
「四葉?」
一花が声をかける。
「はい?」
「どうしたの?」
「いえ!」
四葉はすぐに笑顔になる。
「何でもありません!」
「本当に?」
「本当です!」
一花は少しだけ四葉を見る。
「ならいいけど」
その時。
「四葉」
悠飛が声をかけた。
「はい!」
「帰る準備できたか?」
「……」
四葉の表情が一気に明るくなる。
「もちろんです!」
風太郎が教科書を鞄に入れながら尋ねる。
「今日は勉強会じゃないのか?」
「今日は少し予定がある」
悠飛が答える。
「四葉と?」
「そう」
「何をするんだ?」
「武道」
「武道?」
風太郎が目を細める。
「そういえば、お前ら昔からやってたな」
「昔から?」
一花が聞き返す。
悠飛は頷く。
「四葉とは昔、一緒に武道をやってたんだ」
「へえ……」
一花が興味深そうに四葉を見る。
「何の武道?」
「合気道と中国武術です!」
四葉が胸を張る。
「すごいでしょ!」
「……」
二乃が呆れた顔をする。
「何でそんなもの習ってるのよ」
「楽しいからです!」
「理由が四葉らしいわね」
三玖も少し興味を示す。
「中国武術……見てみたい」
五月も頷いた。
「私もです」
六華も静かに手を挙げる。
「私も見たい」
悠飛が笑う。
「じゃあ、みんなで見に来るか?」
「いいの?」
一花が尋ねる。
「ああ」
四葉が目を輝かせる。
「では、行きましょう!」
◇
旭高校の武道場。
普段は剣道部や柔道部などが使用している施設だが、放課後の一部時間は自主練習にも使うことができる。
四葉は道場に入ると、深呼吸した。
「……懐かしい」
「この学校の道場は初めてだろ?」
悠飛が言う。
「そうなんですけど」
四葉は笑った。
「武道場って、どこも同じような匂いがします!」
「確かにな」
悠飛も笑う。
「昔の道場を思い出す」
四葉は目を細めた。
「私もです」
二人の間に。
一瞬だけ、幼い頃の記憶が浮かんだ。
小さな道場。
幼い悠飛。
幼い四葉。
「悠飛くん!」
「何?」
「私、もっと強くなりたい!」
「じゃあ、一緒に練習しよう」
「はい!」
「約束だ」
「約束!」
――。
「……」
四葉が頭を振る。
「どうした?」
「昔のことを少し思い出した気がします」
「俺も」
「不思議ですね」
「ああ」
二人は顔を見合わせる。
◇
「まずは準備運動」
悠飛が言う。
「はい!」
四葉が元気よく返事をする。
一花たちは道場の端に座る。
「始まったね」
一花が言う。
「四葉、凄く嬉しそう」
二乃も頷く。
「昔から好きだったのね」
三玖は二人を見ながら言った。
「四葉は運動神経がいい」
「そうですね」
五月も頷く。
六華は黙って悠飛を見ていた。
悠飛の動き。
構え。
足の運び。
呼吸。
そのすべてが自然だった。
「……」
六華は思う。
――やっぱり、凄い。
◇
準備運動を終える。
「まずは合気道から」
悠飛が言う。
「はい!」
四葉が構える。
「力を入れすぎるな」
「分かりました!」
「相手の動きを感じる」
悠飛が手を伸ばす。
四葉がその腕を取る。
「こう?」
「そう」
悠飛は軽く身体を回す。
四葉の身体が自然に流れる。
「わっ!」
次の瞬間。
四葉は畳の上に転がっていた。
「……」
一花たちが目を丸くする。
「何が起きたの?」
二乃が呟く。
三玖も驚いている。
「力を使ってない……」
五月が目を見開く。
悠飛が四葉へ手を差し出す。
「大丈夫?」
「はい!」
四葉は手を取る。
「もう一回!」
「いいぞ」
再び構える。
今度は四葉が悠飛の動きを読む。
「……」
「いい」
悠飛が言う。
「そのまま」
四葉が踏み込む。
しかし。
悠飛は半歩だけ下がった。
四葉の手が空を切る。
「……!」
「焦るな」
「はい!」
「相手を見ろ」
「はい!」
四葉が再び動く。
何度も。
何度も。
やがて。
「……!」
四葉の動きが変わった。
悠飛が少し笑う。
「今のだ」
「え?」
「今の動き」
「できました?」
「ああ」
四葉は嬉しそうに笑った。
「やった!」
◇
「次は中国武術」
悠飛が構えを変える。
空気が変わった。
「……」
一花が息を呑む。
先ほどまでの柔らかな動きとは違う。
鋭い。
無駄がない。
「悠飛くんって……」
一花が呟く。
「本当に武道ができるんだ」
「できるってレベルじゃない」
風太郎が言った。
「昔から凄かった」
「風太郎、知ってるの?」
「昔、一緒に練習してたからな」
「へえ」
四葉が構える。
「悠飛くん!」
「来い」
「はい!」
四葉が踏み込む。
蹴り。
拳。
体重移動。
悠飛はそれをすべてかわす。
「速い!」
三玖が驚く。
「四葉も速いけど……」
五月が続ける。
「悠飛さんは余裕があります」
「そうね」
二乃が呟く。
「まるで全部分かってるみたい」
実際。
悠飛は四葉の動きを見切っていた。
拳が来る。
避ける。
蹴り。
受け流す。
踏み込み。
身体を回す。
そして。
「ここだ」
悠飛が四葉の肩に軽く触れる。
四葉の身体が流れる。
「わっ!」
倒れそうになった四葉を。
悠飛が支える。
「大丈夫か?」
「はい!」
四葉は笑っていた。
「楽しい!」
「そうか」
「もっとやりたいです!」
「なら続けよう」
◇
一時間後。
「はぁ……」
四葉は畳に座り込んでいた。
「疲れました!」
「よく頑張った」
悠飛がタオルを渡す。
「ありがとうございます!」
四葉はタオルで汗を拭く。
「悠飛くんも疲れないんですか?」
「多少は」
「全然そう見えません」
「慣れてるから」
四葉は悠飛を見る。
「……昔もそうでした」
「何が?」
「私が疲れても、悠飛くんは平気だった」
「……」
悠飛も少し黙る。
「覚えてるのか?」
「全部じゃないです」
四葉は自分の胸に手を当てる。
「でも、少しずつ思い出してます」
「俺もだ」
「じゃあ……」
四葉が笑う。
「昔の約束も思い出せるかもしれませんね」
「そうだな」
◇
道場の端。
一花たちが二人を見ていた。
「……」
一花は少し複雑な表情をしている。
「四葉、楽しそう」
二乃が言う。
「昔から一緒にやってたんだもんね」
三玖が呟く。
「二人の距離、近い」
「……」
六華は何も言わない。
けれど。
四葉を見る目は少しだけ寂しそうだった。
「六華?」
五月が声をかける。
「何?」
「どうしました?」
「……何でもない」
六華は笑った。
「ただ、昔のことを思い出してた」
「昔?」
「うん」
六華は目を閉じる。
幼い頃。
五つ子と一緒に。
悠飛と一緒に。
遊んだ日々。
「……」
しかし。
なぜか。
自分だけが一歩後ろにいたような気がする。
五つ子は五人。
自分は従姉妹。
だから。
いつも少しだけ距離があった。
「……」
六華は悠飛を見る。
――今度は。
その距離を埋めたい。
そんな思いが。
胸の奥に生まれていた。
◇
「悠飛くん!」
四葉が呼ぶ。
「ん?」
「もう一回だけ!」
「まだやるのか?」
「はい!」
「分かった」
二人が再び向き合う。
四葉が構える。
悠飛も構える。
「今度は一本取ります!」
「簡単には取らせないぞ」
「絶対です!」
四葉が走る。
一歩。
二歩。
三歩。
「……!」
悠飛が構える。
四葉は途中で動きを変えた。
「!」
悠飛が驚く。
「今のは……」
四葉が笑う。
「フェイントです!」
「やるな」
「えへへ!」
悠飛は笑った。
「じゃあ、こっちも本気で行く」
「はい!」
二人の動きが加速する。
道場に足音が響く。
「すごい……」
一花が呟く。
「まるで映画みたい」
「一花、それ違う」
二乃が突っ込む。
三玖は真剣に二人を見る。
五月も。
六華も。
そして。
風太郎は腕を組んでいた。
「……あいつら、昔から変わらないな」
「風太郎くん?」
一花が聞く。
「悠飛と四葉」
「そうなの?」
「ああ」
風太郎は昔を思い出す。
幼い悠飛。
幼い四葉。
二人はいつも競い合っていた。
どちらが速いか。
どちらが強いか。
どちらが先に技を覚えるか。
そのたびに。
悠飛は四葉を励ましていた。
「負けてもいい」
「でも、諦めるな」
「もう一回やろう」
その言葉を。
四葉はずっと覚えていた。
◇
「……はぁ」
最後。
四葉が畳に座り込む。
「今日も勝てませんでした!」
「惜しかった」
「本当ですか?」
「ああ」
「じゃあ、次は勝ちます!」
「楽しみにしてる」
四葉が笑う。
「約束です!」
「約束」
悠飛は拳を差し出す。
四葉も拳を合わせる。
「絶対ですよ!」
「ああ」
その光景を。
一花が見ていた。
「……」
胸の奥が。
少しだけざわつく。
――私も。
悠飛くんと、こんな思い出を作れたら。
そんな考えが浮かんだ。
一花は自分でも驚いた。
「……」
そして。
六華も同じ光景を見ていた。
しかし。
六華の気持ちは少し違う。
――昔は。
――私も一緒にいた。
だから。
「……」
六華は静かに笑った。
「私も負けない」
誰にも聞こえない声で呟く。
◇
帰り道。
夕日が街を染める。
四葉は悠飛の隣を歩いていた。
「今日は楽しかったです!」
「俺も楽しかった」
「またやりましょう!」
「ああ」
「今度はもっと上手くなります!」
「楽しみにしてる」
四葉は嬉しそうに笑う。
「悠飛くん」
「ん?」
「私……」
四葉は少しだけ立ち止まる。
「昔のこと、もっと思い出したいです」
「俺も」
「五つ子のみんなと、六華ちゃんと……悠飛くん」
「ああ」
「昔、みんなで何してたんでしょうね?」
「さあ」
悠飛は空を見る。
「でも、きっと楽しかったんだと思う」
「どうして?」
「今こうして一緒にいるのが楽しいから」
「……!」
四葉の顔が赤くなる。
「そ、そうですね!」
悠飛は気づかない。
ただ。
昔と同じように。
優しく笑っている。
◇
その夜。
四葉はベッドの上で昔のアルバムを眺めていた。
写真の中には。
幼い五つ子。
そして。
幼い悠飛。
六華。
「……」
四葉は写真を指でなぞる。
「悠飛くん……」
昔から。
自分を励ましてくれた。
転んだ時。
泣いた時。
負けた時。
いつも。
「大丈夫」
そう言ってくれた。
「……」
胸が温かくなる。
「やっぱり」
四葉は小さく笑った。
「悠飛くんは、私のヒーローです」
それは。
昔から変わらない気持ち。
ただ。
今はまだ。
それが恋なのか。
四葉自身にも分からない。
◇
翌朝。
教室。
「おはよう!」
四葉が元気よく悠飛へ声をかける。
「おはよう」
「今日も頑張りましょう!」
「ああ」
その会話を。
一花が見ていた。
六華も。
三人の間に。
まだ言葉にはできない感情が芽生えていく。
一花は。
「気になる男の子」として。
四葉は。
「自分のヒーロー」として。
六華は。
「昔から忘れられない男の子」として。
それぞれの想いを。
少しずつ強くしていく。
そして。
誰も知らない。
この三人の想いが。
二十年後の同窓会で。
大きな恋の火花となって再び燃え上がることを――。