『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第9話「四葉と悠飛、放課後の武道」

放課後。

 

旭高校の校舎に、部活動へ向かう生徒たちの声が響いていた。

 

運動部の掛け声。

 

吹奏楽部の楽器の音。

 

グラウンドから聞こえる足音。

 

そんな喧騒の中、四葉は教室の窓から校庭を眺めていた。

 

「……」

 

いつもの明るい笑顔が、今日は少しだけ真剣だった。

 

「四葉?」

 

一花が声をかける。

 

「はい?」

 

「どうしたの?」

 

「いえ!」

 

四葉はすぐに笑顔になる。

 

「何でもありません!」

 

「本当に?」

 

「本当です!」

 

一花は少しだけ四葉を見る。

 

「ならいいけど」

 

その時。

 

「四葉」

 

悠飛が声をかけた。

 

「はい!」

 

「帰る準備できたか?」

 

「……」

 

四葉の表情が一気に明るくなる。

 

「もちろんです!」

 

風太郎が教科書を鞄に入れながら尋ねる。

 

「今日は勉強会じゃないのか?」

 

「今日は少し予定がある」

 

悠飛が答える。

 

「四葉と?」

 

「そう」

 

「何をするんだ?」

 

「武道」

 

「武道?」

 

風太郎が目を細める。

 

「そういえば、お前ら昔からやってたな」

 

「昔から?」

 

一花が聞き返す。

 

悠飛は頷く。

 

「四葉とは昔、一緒に武道をやってたんだ」

 

「へえ……」

 

一花が興味深そうに四葉を見る。

 

「何の武道?」

 

「合気道と中国武術です!」

 

四葉が胸を張る。

 

「すごいでしょ!」

 

「……」

 

二乃が呆れた顔をする。

 

「何でそんなもの習ってるのよ」

 

「楽しいからです!」

 

「理由が四葉らしいわね」

 

三玖も少し興味を示す。

 

「中国武術……見てみたい」

 

五月も頷いた。

 

「私もです」

 

六華も静かに手を挙げる。

 

「私も見たい」

 

悠飛が笑う。

 

「じゃあ、みんなで見に来るか?」

 

「いいの?」

 

一花が尋ねる。

 

「ああ」

 

四葉が目を輝かせる。

 

「では、行きましょう!」

 

 

旭高校の武道場。

 

普段は剣道部や柔道部などが使用している施設だが、放課後の一部時間は自主練習にも使うことができる。

 

四葉は道場に入ると、深呼吸した。

 

「……懐かしい」

 

「この学校の道場は初めてだろ?」

 

悠飛が言う。

 

「そうなんですけど」

 

四葉は笑った。

 

「武道場って、どこも同じような匂いがします!」

 

「確かにな」

 

悠飛も笑う。

 

「昔の道場を思い出す」

 

四葉は目を細めた。

 

「私もです」

 

二人の間に。

 

一瞬だけ、幼い頃の記憶が浮かんだ。

 

小さな道場。

 

幼い悠飛。

 

幼い四葉。

 

「悠飛くん!」

 

「何?」

 

「私、もっと強くなりたい!」

 

「じゃあ、一緒に練習しよう」

 

「はい!」

 

「約束だ」

 

「約束!」

 

――。

 

「……」

 

四葉が頭を振る。

 

「どうした?」

 

「昔のことを少し思い出した気がします」

 

「俺も」

 

「不思議ですね」

 

「ああ」

 

二人は顔を見合わせる。

 

 

「まずは準備運動」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

四葉が元気よく返事をする。

 

一花たちは道場の端に座る。

 

「始まったね」

 

一花が言う。

 

「四葉、凄く嬉しそう」

 

二乃も頷く。

 

「昔から好きだったのね」

 

三玖は二人を見ながら言った。

 

「四葉は運動神経がいい」

 

「そうですね」

 

五月も頷く。

 

六華は黙って悠飛を見ていた。

 

悠飛の動き。

 

構え。

 

足の運び。

 

呼吸。

 

そのすべてが自然だった。

 

「……」

 

六華は思う。

 

――やっぱり、凄い。

 

 

準備運動を終える。

 

「まずは合気道から」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

四葉が構える。

 

「力を入れすぎるな」

 

「分かりました!」

 

「相手の動きを感じる」

 

悠飛が手を伸ばす。

 

四葉がその腕を取る。

 

「こう?」

 

「そう」

 

悠飛は軽く身体を回す。

 

四葉の身体が自然に流れる。

 

「わっ!」

 

次の瞬間。

 

四葉は畳の上に転がっていた。

 

「……」

 

一花たちが目を丸くする。

 

「何が起きたの?」

 

二乃が呟く。

 

三玖も驚いている。

 

「力を使ってない……」

 

五月が目を見開く。

 

悠飛が四葉へ手を差し出す。

 

「大丈夫?」

 

「はい!」

 

四葉は手を取る。

 

「もう一回!」

 

「いいぞ」

 

再び構える。

 

今度は四葉が悠飛の動きを読む。

 

「……」

 

「いい」

 

悠飛が言う。

 

「そのまま」

 

四葉が踏み込む。

 

しかし。

 

悠飛は半歩だけ下がった。

 

四葉の手が空を切る。

 

「……!」

 

「焦るな」

 

「はい!」

 

「相手を見ろ」

 

「はい!」

 

四葉が再び動く。

 

何度も。

 

何度も。

 

やがて。

 

「……!」

 

四葉の動きが変わった。

 

悠飛が少し笑う。

 

「今のだ」

 

「え?」

 

「今の動き」

 

「できました?」

 

「ああ」

 

四葉は嬉しそうに笑った。

 

「やった!」

 

 

「次は中国武術」

 

悠飛が構えを変える。

 

空気が変わった。

 

「……」

 

一花が息を呑む。

 

先ほどまでの柔らかな動きとは違う。

 

鋭い。

 

無駄がない。

 

「悠飛くんって……」

 

一花が呟く。

 

「本当に武道ができるんだ」

 

「できるってレベルじゃない」

 

風太郎が言った。

 

「昔から凄かった」

 

「風太郎、知ってるの?」

 

「昔、一緒に練習してたからな」

 

「へえ」

 

四葉が構える。

 

「悠飛くん!」

 

「来い」

 

「はい!」

 

四葉が踏み込む。

 

蹴り。

 

拳。

 

体重移動。

 

悠飛はそれをすべてかわす。

 

「速い!」

 

三玖が驚く。

 

「四葉も速いけど……」

 

五月が続ける。

 

「悠飛さんは余裕があります」

 

「そうね」

 

二乃が呟く。

 

「まるで全部分かってるみたい」

 

実際。

 

悠飛は四葉の動きを見切っていた。

 

拳が来る。

 

避ける。

 

蹴り。

 

受け流す。

 

踏み込み。

 

身体を回す。

 

そして。

 

「ここだ」

 

悠飛が四葉の肩に軽く触れる。

 

四葉の身体が流れる。

 

「わっ!」

 

倒れそうになった四葉を。

 

悠飛が支える。

 

「大丈夫か?」

 

「はい!」

 

四葉は笑っていた。

 

「楽しい!」

 

「そうか」

 

「もっとやりたいです!」

 

「なら続けよう」

 

 

一時間後。

 

「はぁ……」

 

四葉は畳に座り込んでいた。

 

「疲れました!」

 

「よく頑張った」

 

悠飛がタオルを渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

四葉はタオルで汗を拭く。

 

「悠飛くんも疲れないんですか?」

 

「多少は」

 

「全然そう見えません」

 

「慣れてるから」

 

四葉は悠飛を見る。

 

「……昔もそうでした」

 

「何が?」

 

「私が疲れても、悠飛くんは平気だった」

 

「……」

 

悠飛も少し黙る。

 

「覚えてるのか?」

 

「全部じゃないです」

 

四葉は自分の胸に手を当てる。

 

「でも、少しずつ思い出してます」

 

「俺もだ」

 

「じゃあ……」

 

四葉が笑う。

 

「昔の約束も思い出せるかもしれませんね」

 

「そうだな」

 

 

道場の端。

 

一花たちが二人を見ていた。

 

「……」

 

一花は少し複雑な表情をしている。

 

「四葉、楽しそう」

 

二乃が言う。

 

「昔から一緒にやってたんだもんね」

 

三玖が呟く。

 

「二人の距離、近い」

 

「……」

 

六華は何も言わない。

 

けれど。

 

四葉を見る目は少しだけ寂しそうだった。

 

「六華?」

 

五月が声をかける。

 

「何?」

 

「どうしました?」

 

「……何でもない」

 

六華は笑った。

 

「ただ、昔のことを思い出してた」

 

「昔?」

 

「うん」

 

六華は目を閉じる。

 

幼い頃。

 

五つ子と一緒に。

 

悠飛と一緒に。

 

遊んだ日々。

 

「……」

 

しかし。

 

なぜか。

 

自分だけが一歩後ろにいたような気がする。

 

五つ子は五人。

 

自分は従姉妹。

 

だから。

 

いつも少しだけ距離があった。

 

「……」

 

六華は悠飛を見る。

 

――今度は。

 

その距離を埋めたい。

 

そんな思いが。

 

胸の奥に生まれていた。

 

 

「悠飛くん!」

 

四葉が呼ぶ。

 

「ん?」

 

「もう一回だけ!」

 

「まだやるのか?」

 

「はい!」

 

「分かった」

 

二人が再び向き合う。

 

四葉が構える。

 

悠飛も構える。

 

「今度は一本取ります!」

 

「簡単には取らせないぞ」

 

「絶対です!」

 

四葉が走る。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

「……!」

 

悠飛が構える。

 

四葉は途中で動きを変えた。

 

「!」

 

悠飛が驚く。

 

「今のは……」

 

四葉が笑う。

 

「フェイントです!」

 

「やるな」

 

「えへへ!」

 

悠飛は笑った。

 

「じゃあ、こっちも本気で行く」

 

「はい!」

 

二人の動きが加速する。

 

道場に足音が響く。

 

「すごい……」

 

一花が呟く。

 

「まるで映画みたい」

 

「一花、それ違う」

 

二乃が突っ込む。

 

三玖は真剣に二人を見る。

 

五月も。

 

六華も。

 

そして。

 

風太郎は腕を組んでいた。

 

「……あいつら、昔から変わらないな」

 

「風太郎くん?」

 

一花が聞く。

 

「悠飛と四葉」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

風太郎は昔を思い出す。

 

幼い悠飛。

 

幼い四葉。

 

二人はいつも競い合っていた。

 

どちらが速いか。

 

どちらが強いか。

 

どちらが先に技を覚えるか。

 

そのたびに。

 

悠飛は四葉を励ましていた。

 

「負けてもいい」

 

「でも、諦めるな」

 

「もう一回やろう」

 

その言葉を。

 

四葉はずっと覚えていた。

 

 

「……はぁ」

 

最後。

 

四葉が畳に座り込む。

 

「今日も勝てませんでした!」

 

「惜しかった」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、次は勝ちます!」

 

「楽しみにしてる」

 

四葉が笑う。

 

「約束です!」

 

「約束」

 

悠飛は拳を差し出す。

 

四葉も拳を合わせる。

 

「絶対ですよ!」

 

「ああ」

 

その光景を。

 

一花が見ていた。

 

「……」

 

胸の奥が。

 

少しだけざわつく。

 

――私も。

 

悠飛くんと、こんな思い出を作れたら。

 

そんな考えが浮かんだ。

 

一花は自分でも驚いた。

 

「……」

 

そして。

 

六華も同じ光景を見ていた。

 

しかし。

 

六華の気持ちは少し違う。

 

――昔は。

 

――私も一緒にいた。

 

だから。

 

「……」

 

六華は静かに笑った。

 

「私も負けない」

 

誰にも聞こえない声で呟く。

 

 

帰り道。

 

夕日が街を染める。

 

四葉は悠飛の隣を歩いていた。

 

「今日は楽しかったです!」

 

「俺も楽しかった」

 

「またやりましょう!」

 

「ああ」

 

「今度はもっと上手くなります!」

 

「楽しみにしてる」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私……」

 

四葉は少しだけ立ち止まる。

 

「昔のこと、もっと思い出したいです」

 

「俺も」

 

「五つ子のみんなと、六華ちゃんと……悠飛くん」

 

「ああ」

 

「昔、みんなで何してたんでしょうね?」

 

「さあ」

 

悠飛は空を見る。

 

「でも、きっと楽しかったんだと思う」

 

「どうして?」

 

「今こうして一緒にいるのが楽しいから」

 

「……!」

 

四葉の顔が赤くなる。

 

「そ、そうですね!」

 

悠飛は気づかない。

 

ただ。

 

昔と同じように。

 

優しく笑っている。

 

 

その夜。

 

四葉はベッドの上で昔のアルバムを眺めていた。

 

写真の中には。

 

幼い五つ子。

 

そして。

 

幼い悠飛。

 

六華。

 

「……」

 

四葉は写真を指でなぞる。

 

「悠飛くん……」

 

昔から。

 

自分を励ましてくれた。

 

転んだ時。

 

泣いた時。

 

負けた時。

 

いつも。

 

「大丈夫」

 

そう言ってくれた。

 

「……」

 

胸が温かくなる。

 

「やっぱり」

 

四葉は小さく笑った。

 

「悠飛くんは、私のヒーローです」

 

それは。

 

昔から変わらない気持ち。

 

ただ。

 

今はまだ。

 

それが恋なのか。

 

四葉自身にも分からない。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

「おはよう!」

 

四葉が元気よく悠飛へ声をかける。

 

「おはよう」

 

「今日も頑張りましょう!」

 

「ああ」

 

その会話を。

 

一花が見ていた。

 

六華も。

 

三人の間に。

 

まだ言葉にはできない感情が芽生えていく。

 

一花は。

 

「気になる男の子」として。

 

四葉は。

 

「自分のヒーロー」として。

 

六華は。

 

「昔から忘れられない男の子」として。

 

それぞれの想いを。

 

少しずつ強くしていく。

 

そして。

 

誰も知らない。

 

この三人の想いが。

 

二十年後の同窓会で。

 

大きな恋の火花となって再び燃え上がることを――。

 

 

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