『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

11 / 90
第10話「六華、胸に秘めた違和感」

翌日の放課後。

 

旭高校の教室には、いつもの勉強会の準備が整っていた。

 

机を寄せ、五つ子と六華、そして悠飛と風太郎が集まっている。

 

「今日は数学からだ」

 

風太郎が問題集を開く。

 

「えぇー……」

 

四葉が露骨に嫌そうな顔をする。

 

「昨日は武道で頑張ったんだから、今日は休みでもいいんじゃないですか?」

 

「駄目だ」

 

「そんなぁ!」

 

「昨日の武道と勉強は別問題だ」

 

「うぅ……」

 

四葉が机に突っ伏す。

 

その隣で、一花が笑う。

 

「四葉、頑張ろうよ」

 

「一花はいいですよね。数学得意そうですし」

 

「私も得意じゃないよ?」

 

「絶対嘘です!」

 

そんな二人のやり取りを見ながら、六華は静かにノートを開いていた。

 

「……」

 

いつも通り。

 

何も変わらない放課後。

 

五つ子と一緒にいて。

 

悠飛と一緒に勉強をして。

 

笑って。

 

話して。

 

それだけの時間。

 

なのに。

 

六華の胸には、昨日から消えない小さな違和感があった。

 

「……」

 

無意識に、悠飛を見る。

 

悠飛は風太郎と問題を確認している。

 

「この問題、解き方を変えた方が分かりやすいな」

 

「確かに」

 

「風太郎、ここをこうすれば――」

 

「なるほど」

 

二人は自然に会話している。

 

その姿を見て。

 

六華はまた、胸の奥がざわついた。

 

「……何なの?」

 

自分でも分からない。

 

昨日、四葉と悠飛が武道場で一緒に練習していた時にも感じた。

 

一花が悠飛を見つめていた時にも。

 

自分の中に、何か引っかかるものがあった。

 

それは嫉妬なのか。

 

寂しさなのか。

 

それとも――。

 

「六華?」

 

「……え?」

 

顔を上げると、五月がこちらを見ていた。

 

「どうしました?」

 

「何でもない」

 

「そうですか?」

 

「うん」

 

六華は微笑んだ。

 

「ちょっと考え事してただけ」

 

五月は少し心配そうに見つめたが、それ以上は聞かなかった。

 

「何かあったら言ってくださいね」

 

「ありがとう、五月」

 

その優しさに、六華は少しだけ笑う。

 

「うん」

 

しかし。

 

胸の違和感は消えなかった。

 

 

勉強会が始まって一時間。

 

「よし、休憩」

 

風太郎が言った。

 

「やった!」

 

四葉が顔を上げる。

 

「お菓子ありますよ!」

 

「お前は勉強より休憩の方が元気だな」

 

「休憩も大事です!」

 

「否定はしないが……」

 

一花が笑う。

 

「四葉らしいよ」

 

二乃が鞄から飲み物を取り出す。

 

「はい、これ」

 

「ありがとう、二乃!」

 

三玖は参考書を眺めながら呟いた。

 

「もう少しで、この問題終わる」

 

五月は黙々とノートを整理している。

 

そんな中。

 

悠飛が立ち上がった。

 

「飲み物買ってくるけど、何かいる?」

 

「私は紅茶!」

 

「私は炭酸!」

 

「私は……」

 

五人が次々に注文する。

 

六華も口を開こうとした。

 

だが。

 

「……」

 

一瞬、迷った。

 

「六華は?」

 

悠飛がこちらを見る。

 

「え?」

 

「何かいる?」

 

「……ううん」

 

六華は首を振った。

 

「私は大丈夫」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「分かった」

 

悠飛は教室を出ていった。

 

「……」

 

その背中を見送る。

 

なぜか。

 

言ってしまえばよかったと思った。

 

自分も飲み物が欲しい。

 

そんな些細なことなのに。

 

「……」

 

六華は自分の手を見つめた。

 

どうして。

 

こんな小さなことで胸が苦しくなるのだろう。

 

 

「六華」

 

一花が隣に座った。

 

「何?」

 

「最近、何か変じゃない?」

 

「……」

 

六華の心臓が跳ねる。

 

「そう?」

 

「うん」

 

一花は六華の顔を覗き込む。

 

「昨日も今日も、ちょっとぼーっとしてる」

 

「……」

 

「何か悩み事?」

 

「悩みってほどじゃないよ」

 

「じゃあ、何?」

 

六華は答えられなかった。

 

「……分からない」

 

「分からない?」

 

「うん」

 

六華は小さく息を吐く。

 

「私自身、何が気になってるのか分からないの」

 

「……」

 

一花は何も言わない。

 

六華は続けた。

 

「昨日、四葉と悠飛が武道してたでしょ?」

 

「うん」

 

「二人とも楽しそうだった」

 

「そうだったね」

 

「それを見てたら……」

 

言葉が詰まる。

 

「……嫌だった?」

 

一花が尋ねる。

 

「分からない」

 

六華は俯く。

 

「四葉が悪いわけじゃない。悠飛も悪くない。むしろ二人が一緒にいるのは自然だと思う」

 

「うん」

 

「なのに……」

 

六華は胸元を握る。

 

「胸の奥が、変にざわざわする」

 

一花はしばらく黙っていた。

 

そして。

 

「六華」

 

「何?」

 

「それって、もしかして――」

 

「……」

 

「悠飛くんのことが気になってるんじゃない?」

 

「……!」

 

六華の目が見開かれる。

 

「私が?」

 

「うん」

 

「違う」

 

反射的に否定した。

 

「……」

 

でも。

 

その声は。

 

自分でも驚くほど弱かった。

 

一花は何も言わない。

 

「……違うはず」

 

六華は呟く。

 

「だって、私たちは従姉妹で……」

 

「それは関係ないんじゃない?」

 

「……」

 

「好きになるのに、理由なんて必要ないと思うよ」

 

六華は黙り込んだ。

 

 

その日の帰り道。

 

六華は一人で歩いていた。

 

「……」

 

夕暮れの空。

 

赤く染まる街。

 

その景色を見ていると。

 

ふと。

 

昔の記憶が蘇った。

 

――小さな公園。

 

――幼い五つ子。

 

――そして悠飛。

 

「六華!」

 

誰かが呼ぶ。

 

振り返る。

 

幼い悠飛が笑っている。

 

「一緒に遊ぼう!」

 

「私も?」

 

「もちろん」

 

「でも……」

 

「五つ子と一緒じゃなくていいの?」

 

「みんなで遊べばいいだろ?」

 

「……」

 

小さな六華は。

 

少しだけ嬉しそうに笑っていた。

 

「うん!」

 

――。

 

「……!」

 

六華は立ち止まった。

 

「今の……」

 

頭の中に浮かんだ映像。

 

ずっと忘れていた記憶。

 

「……」

 

もう一度。

 

目を閉じる。

 

すると。

 

また別の光景が浮かぶ。

 

雨の日。

 

傘を持っていなかった六華。

 

そこへ。

 

幼い悠飛が走ってくる。

 

「六華!」

 

「悠飛……?」

 

「これ使って」

 

「でも悠飛は?」

 

「俺は走ればいいから」

 

「そんなの駄目!」

 

「大丈夫!」

 

「……」

 

悠飛は笑っていた。

 

「じゃあ、一緒に入ろう」

 

「……うん」

 

二人で一つの傘に入る。

 

肩が触れる。

 

幼い六華は恥ずかしそうに笑っていた。

 

「……」

 

六華は目を開けた。

 

胸が高鳴っている。

 

「忘れてた……」

 

どうして。

 

こんな大切な記憶を。

 

「……」

 

そして。

 

もう一つ。

 

忘れられない言葉。

 

『大きくなったら、また一緒に遊ぼう』

 

幼い悠飛が言った言葉。

 

六華は胸に手を当てる。

 

「……約束」

 

その言葉だけは。

 

なぜか鮮明に残っていた。

 

 

翌日。

 

教室。

 

「おはよう」

 

悠飛が入ってくる。

 

「おはようございます」

 

六華が答える。

 

「……」

 

悠飛は一瞬、六華を見る。

 

「どうした?」

 

「え?」

 

「昨日から、少し元気ない気がする」

 

「……」

 

六華は驚いた。

 

「分かるの?」

 

「分かるよ」

 

「どうして?」

 

「友達だから」

 

「……」

 

その言葉が。

 

胸に刺さった。

 

嬉しい。

 

でも。

 

それだけでは足りない。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私たちって……」

 

六華は言いかける。

 

「昔から、友達だったのかな?」

 

「……」

 

悠飛は少し考える。

 

「たぶん」

 

「たぶん?」

 

「ああ」

 

「覚えてない?」

 

「全部はな」

 

「私も」

 

六華は苦笑した。

 

「でも、昨日少し思い出した」

 

「何を?」

 

「昔、一緒に雨宿りしたこと」

 

悠飛の目が少し大きくなる。

 

「……あ」

 

「覚えてる?」

 

「少しだけ」

 

悠飛は頭を押さえる。

 

「傘……」

 

「そう」

 

「俺が六華に傘を貸そうとした」

 

「一緒に入ったの」

 

「ああ」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして。

 

自然と笑った。

 

「懐かしいな」

 

「うん」

 

「また思い出せるかもしれない」

 

「そうだね」

 

 

その会話を。

 

少し離れた場所から四葉が見ていた。

 

「……」

 

一花も。

 

「……」

 

そして。

 

風太郎も。

 

「……」

 

風太郎は二人の様子を見ていた。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「お前、昔のこと少しずつ思い出してるのか?」

 

「そうみたいだな」

 

「五つ子もか?」

 

「たぶん」

 

「六華も?」

 

「うん」

 

風太郎は少し考える。

 

「なら、記憶が戻れば何か分かるかもな」

 

「何が?」

 

「さあ」

 

風太郎は肩をすくめた。

 

「俺にも分からん」

 

「変な奴だな」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

二人が笑う。

 

その様子を見て。

 

六華も笑った。

 

――昔も。

 

――今も。

 

悠飛の隣には。

 

自然と笑顔が生まれる。

 

それが。

 

六華には何よりも嬉しかった。

 

 

昼休み。

 

六華は一人で屋上にいた。

 

風に髪が揺れる。

 

「……」

 

胸に手を当てる。

 

昨日からずっと考えていた。

 

一花に言われた言葉。

 

『悠飛くんのことが気になってるんじゃない?』

 

「……」

 

否定できなかった。

 

むしろ。

 

考えれば考えるほど。

 

答えは一つに近づいていく。

 

「私……」

 

六華は空を見上げる。

 

「悠飛のこと……」

 

言葉にするのが怖い。

 

でも。

 

その気持ちは。

 

もう隠せない。

 

「……好きなのかな」

 

風が吹く。

 

髪が揺れる。

 

六華は目を閉じた。

 

思い出す。

 

幼い頃。

 

一緒に遊んだこと。

 

雨の日。

 

傘を分け合ったこと。

 

転んだ時に手を差し伸べてくれたこと。

 

そして。

 

昨日。

 

四葉と悠飛が楽しそうに武道をしていた姿。

 

一花が悠飛に笑いかける姿。

 

そのたびに。

 

胸が苦しくなった。

 

「……」

 

六華は小さく笑う。

 

「そっか」

 

ようやく。

 

自分の気持ちが分かった。

 

「私は……悠飛が好きなんだ」

 

それは。

 

恋だった。

 

 

しかし。

 

六華はまだ誰にも告げない。

 

一花にも。

 

四葉にも。

 

悠飛にも。

 

「……」

 

なぜなら。

 

自分にはまだ。

 

確かめたいことがあったから。

 

幼い頃。

 

悠飛と五つ子と自分が。

 

どんな関係だったのか。

 

そして。

 

どうして自分たちは。

 

大切な記憶を忘れてしまったのか。

 

「……」

 

六華は静かに拳を握る。

 

「知りたい」

 

あの頃。

 

悠飛が自分に向けていた感情。

 

それを。

 

今の自分は知りたい。

 

ただの友達だったのか。

 

それとも――。

 

「……」

 

六華は頬を赤くする。

 

「まさか、ね」

 

まだ分からない。

 

だからこそ。

 

焦らない。

 

今は。

 

胸に秘めておく。

 

 

放課後。

 

勉強会が始まる。

 

「今日は数学の続きだ」

 

風太郎が言う。

 

「はい!」

 

四葉が元気に返事する。

 

一花も席につく。

 

六華もノートを開く。

 

悠飛が笑う。

 

「じゃあ、始めよう」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

昨日までと。

 

何も変わらない。

 

けれど。

 

六華の中では。

 

すべてが変わっていた。

 

悠飛の声。

 

悠飛の笑顔。

 

悠飛が問題を解く姿。

 

その一つ一つが。

 

以前とは違って見える。

 

「……」

 

六華はそっと笑う。

 

今はまだ。

 

言わない。

 

でも。

 

いつか。

 

自分の気持ちを。

 

真正面から伝えたい。

 

その時まで。

 

「……」

 

六華は胸の中で呟いた。

 

――悠飛。

 

――私、あなたのことが好き。

 

その想いを胸に秘めたまま。

 

六華はいつものように。

 

悠飛の隣で勉強を始めた。

 

そして。

 

この小さな違和感こそが。

 

二十年後。

 

大人になった六華が悠飛に向ける。

 

誰よりも強く、真っ直ぐな恋心の原点となるのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。