『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
放課後。
旭高校のチャイムが鳴った。
「終わったー!」
教室中から、部活動へ向かう生徒たちの声が上がる。
そんな中。
一人だけ、帰り支度をしているようで、まったく帰る気配のない少女がいた。
「……」
中野一花。
机の上には教科書。
ノート。
筆箱。
そして、昨日の勉強会で使った問題集。
「一花」
声をかけてきたのは四葉だった。
「今日も勉強会ですよね!」
「うん」
一花は笑う。
「今日は全員集合でしょ?」
「もちろんです!」
四葉は元気よく頷いた。
「二乃も三玖も五月も、もう向かってると思います!」
「六華も?」
「はい!」
「そっか」
一花は鞄を肩にかける。
「じゃあ、私たちも行こうか」
「はい!」
二人が教室を出る。
その後ろから。
「待って」
三玖が追いついてきた。
「三玖」
「……今日は数学」
「そうだね」
「昨日、悠飛が教えてくれたところ、もう一回やりたい」
「真面目だね」
「……一花もやる?」
「もちろん」
三人で廊下を歩く。
すると。
「お待たせしました」
五月がやってきた。
「五月!」
四葉が手を振る。
「今日も頑張りましょう!」
「はい」
五月は眼鏡を直すような仕草をして、真面目な顔で頷いた。
「ところで、二乃は?」
「まだ」
一花が答える。
「どうせギリギリまで来ないんじゃない?」
「二乃らしい」
三玖が呟いた。
その時。
「誰がギリギリまで来ないって?」
後ろから声がした。
「二乃!」
四葉が振り返る。
二乃は鞄を肩にかけ、少し不機嫌そうな顔をしていた。
「ちゃんと来たじゃない」
「遅いですよ」
五月が言う。
「五分程度でしょ」
「その五分が大切なんだ」
風太郎の声。
「……」
全員が振り返る。
「風太郎」
「勉強会の時間は決まってる。遅刻するな」
「はいはい」
二乃が適当に返す。
「それより」
二乃は辺りを見回す。
「悠飛は?」
「もう先に行ってるよ」
一花が答える。
「六華も一緒」
「……」
二乃は一瞬だけ黙った。
「そう」
そして。
何気ない顔をして歩き出した。
「行きましょ」
◇
勉強会の場所は、旭高校の空き教室だった。
机を並べれば、全員で勉強できる程度の広さがある。
教室に入ると。
「お、来たか」
悠飛が顔を上げた。
その隣には六華。
「全員集合だな」
「遅れてごめんね」
一花が言う。
「大丈夫」
悠飛は笑う。
「まだ始めたばかりだから」
「今日は何から?」
五月が尋ねる。
風太郎が黒板に予定を書く。
「数学、英語、国語。それから昨日の復習」
「結構ありますね……」
四葉が固まる。
「安心しろ」
悠飛が言う。
「ちゃんと休憩も入れる」
「本当ですか!」
「本当」
「よかった!」
「ただし、休憩までちゃんと勉強したらな」
「はい!」
四葉が元気よく返事をする。
二乃が呆れた顔をする。
「子供じゃないんだから」
「二乃だって昨日休憩になった瞬間、一番最初にお菓子取ってたじゃん」
「うっ……」
「図星ですね」
五月が微笑む。
「五月まで!」
教室に笑い声が広がった。
◇
「まずは数学」
風太郎が問題を配る。
「今日は全員同じ問題を解いてもらう」
「同じ?」
三玖が尋ねる。
「ああ」
風太郎は頷く。
「それぞれどこでつまずくか確認したい」
悠飛も黒板の前に立つ。
「分からないところがあれば遠慮なく聞いてくれ」
「先生みたい」
一花が笑う。
「だから俺は先生じゃないって」
「でも教え方上手だよ?」
「悠飛は昔からそうだった」
風太郎が言う。
「分からない奴に教えるのが上手い」
「へえ」
二乃が悠飛を見る。
「意外」
「どういう意味だ?」
「もっと自分だけで突っ走るタイプかと思ってた」
「それは風太郎だろ」
「おい」
風太郎が睨む。
悠飛は笑った。
「俺は一緒に進む方が好きなんだ」
「……」
その言葉に。
六華が少しだけ目を細めた。
――昔も。
同じことを言っていた。
『一緒にやろう』
幼い頃の悠飛の声が。
また頭の中に浮かぶ。
「……」
六華は小さく笑った。
◇
問題を解き始めて二十分。
「……」
四葉の手が止まった。
「……」
三玖も。
五月は順調。
一花はまずまず。
二乃は苦戦。
「……」
悠飛が様子を見る。
「四葉」
「はい!」
「そこ、計算間違ってる」
「え?」
四葉が答案を見る。
「本当だ!」
「途中式は合ってる」
「じゃあ、どうして……」
「符号」
「……」
四葉が固まる。
「またやっちゃいました!」
「落ち着いてやれば大丈夫」
「はい!」
四葉が解き直す。
「……」
今度は正解。
「できた!」
「正解」
「やった!」
四葉が拳を握る。
その姿を見て。
一花は微笑む。
「四葉、本当に嬉しそう」
「はい!」
「悠飛に褒めてもらうの、そんなに嬉しい?」
「……!」
四葉の顔が赤くなる。
「そ、それは……」
「ふふ」
一花は笑った。
「分かりやすいね」
「一花!」
◇
一方。
二乃は問題集を睨んでいた。
「……」
「二乃」
悠飛が声をかける。
「何?」
「そこ、難しく考えすぎてる」
「え?」
悠飛は隣の空欄を指す。
「この問題、最初から全部解こうとしなくていい」
「……」
「条件を一つずつ整理する」
悠飛はノートに簡単な図を書く。
「こうすると分かりやすい」
「……なるほど」
二乃の目が少し見開かれる。
「これなら……」
「やってみて」
「……」
二乃が計算する。
「……できた」
「正解」
「……」
二乃は少し嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「……」
二乃は少しだけ悠飛を見る。
「ねえ」
「ん?」
「悠飛って、どうしてそんなに勉強できるの?」
「昔から好きだったから」
「それだけ?」
「それだけ」
「……変なの」
二乃は小さく笑った。
◇
三玖は歴史の参考書を開いていた。
「悠飛」
「ん?」
「ここ」
三玖が指差す。
「この人物、どうしてこういう行動をしたの?」
「いい質問だな」
悠飛は三玖の隣に座る。
「単純に覚えるより、時代背景を考えると分かりやすい」
「時代背景?」
「ああ」
悠飛は関連する出来事を順番に説明していく。
三玖は真剣に聞いている。
「……なるほど」
「歴史は暗記だけじゃない」
「うん」
三玖はノートに書き込む。
「悠飛の説明、分かりやすい」
「そうか?」
「うん」
三玖が少しだけ笑った。
「また教えて」
「もちろん」
「……ありがとう」
◇
五月は黙々と問題を解いていた。
「五月は順調だな」
悠飛が言う。
「はい」
「分からないところは?」
「ありません」
「さすが」
「いえ」
五月は首を振る。
「私は勉強することが好きですから」
「そうだったな」
「ですが……」
五月は少しだけ視線を落とす。
「皆さんと一緒に勉強するのも楽しいです」
「それは良かった」
悠飛が笑う。
五月も微笑む。
「はい」
その光景を。
六華が見ていた。
――悠飛は。
誰に対しても優しい。
だからこそ。
自分だけ特別なのか。
そうではないのか。
分からない。
「……」
胸の奥に。
また小さな違和感が生まれる。
◇
一時間後。
「休憩!」
風太郎が宣言した。
「やったー!」
四葉が両手を上げる。
「お菓子!」
「さっきも食べただろ」
「別腹です!」
「何の別腹だ」
「勉強腹です!」
「意味が分からん」
笑い声が起きる。
悠飛は飲み物を配る。
「はい」
「ありがとう!」
四葉が受け取る。
「一花」
「ありがとう」
「二乃」
「ありがと」
「三玖」
「ありがとう」
「五月」
「ありがとうございます」
「六華」
「……ありがとう」
六華は飲み物を受け取った。
「どういたしまして」
悠飛が笑う。
「……」
その笑顔に。
六華の胸がまた高鳴った。
「……」
――やっぱり。
私は。
悠飛が好きなんだ。
そう思う。
しかし。
今はまだ。
誰にも言わない。
◇
休憩時間。
一花が悠飛の隣に座った。
「ねえ、悠飛くん」
「ん?」
「私、昨日より数学できるようになったと思わない?」
「思う」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、ご褒美ほしい」
「ご褒美?」
「うん」
一花が笑う。
「何がいい?」
「それは考え中」
「難しいな」
「ふふ」
少し離れたところ。
四葉が二人を見ていた。
「……」
六華も。
「……」
二人の視線が一瞬重なる。
「……」
どちらも何も言わない。
ただ。
心の中に。
同じような感情を抱いていた。
◇
「じゃあ、後半始めるぞ」
風太郎が言う。
「はい!」
全員が席に戻る。
悠飛も。
そして。
六華も。
ノートを開く。
「六華」
悠飛が声をかけた。
「何?」
「さっきから少し考え込んでるけど、大丈夫か?」
「……」
六華は少し驚いた。
「分かる?」
「何となく」
「……」
六華は笑う。
「大丈夫」
「無理するなよ」
「うん」
「何かあったら言ってくれ」
「……ありがとう」
悠飛は自分の席へ戻る。
六華はその背中を見つめた。
――やっぱり。
この人は。
昔から変わらない。
◇
夕方。
勉強会が終わった。
「今日はよく頑張ったな」
悠飛が言う。
「はい!」
四葉が笑う。
「明日もやります!」
「おう」
「私も」
三玖が言う。
五月も頷く。
「私も参加します」
二乃も鞄を持つ。
「……仕方ないから付き合ってあげる」
「二乃、素直じゃないね」
一花が笑う。
「うるさい」
六華も立ち上がる。
「じゃあ、帰ろう」
「そうだな」
悠飛が頷く。
「明日も同じ時間で」
「了解!」
◇
校門を出る。
夕暮れの空。
六人の少女と二人の少年が歩いていく。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
そして。
悠飛と風太郎。
まだ始まったばかりの高校生活。
まだ誰も。
未来がどうなるのか知らない。
ただ。
一つだけ確かなことがある。
この放課後の勉強会は。
成績を上げるためだけのものではなかった。
一緒に笑い。
一緒に悩み。
時にはぶつかり。
少しずつ互いを知っていく。
それは。
幼い頃に忘れてしまった絆を。
もう一度、結び直していく時間でもあった。
そして。
悠飛を中心に。
一花。
四葉。
六華。
三人の恋心もまた。
静かに。
しかし確実に。
動き始めていた。
「明日も楽しみですね!」
四葉の明るい声が。
夕暮れの街に響いた。
悠飛は笑う。
「そうだな」
その言葉に。
一花も。
四葉も。
六華も。
それぞれ違う意味で胸を高鳴らせながら。
「うん」
と答えた。
青春の日々は。
まだ始まったばかりだった。