『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

13 / 90
第12話「風太郎の分析、悠飛の直感」

放課後。

 

旭高校の空き教室には、今日も机を寄せた即席の「勉強会場」ができていた。

 

黒板には風太郎が書いた今日の予定。

 

『数学――90分』

 

『英語――60分』

 

『国語――45分』

 

その横には、悠飛が付け加えた一文。

 

『休憩――ちゃんと取ること』

 

「……」

 

四葉が黒板を見上げる。

 

「悠飛さん、休憩をちゃんと予定に入れてくれてる!」

 

「当然だろ」

 

「さすが悠飛さん!」

 

「褒めるところ、そこなのか?」

 

風太郎が呆れた顔をする。

 

「勉強は長時間やればいいってものじゃない。集中力が落ちた状態で続けても効率が悪いからな」

 

悠飛が答える。

 

「風太郎の予定表は効率重視。俺はそこに全員が続けられるペースを加える。それだけだ」

 

「……なるほど」

 

五月が感心したように頷く。

 

「お二人は、本当に考え方が違いますね」

 

「そうだな」

 

風太郎が腕を組む。

 

「俺は数字を見る。悠飛は人を見る」

 

「人を見る?」

 

三玖が首を傾げる。

 

「成績だけじゃなく、集中力や性格、得意不得意まで見ているってこと」

 

風太郎が説明する。

 

「だから、同じ問題でも五人に違う教え方をする」

 

「……」

 

六華は悠飛を見る。

 

確かに。

 

悠飛は一人一人への接し方が違う。

 

四葉には、まず自信を持たせる。

 

三玖には、興味のある話題から理解させる。

 

五月には、知識をさらに深める。

 

二乃には、答えを与えず、自分で解けるように導く。

 

一花には、集中力が切れないように会話を挟む。

 

そして――。

 

「六華」

 

「え?」

 

突然、悠飛に呼ばれた。

 

「今日、少し眠そうだな」

 

「……!」

 

六華は目を見開いた。

 

「分かる?」

 

「目の動きが少し遅い」

 

「……」

 

風太郎が横から口を挟む。

 

「それだけじゃない」

 

「風太郎?」

 

「昨日よりノートを書く速度が遅い。しかも同じところを二度見している」

 

「……」

 

六華は唖然とした。

 

「二人とも……よく見てるね」

 

風太郎は当然のように言う。

 

「観察は分析の基本だ」

 

悠飛は笑った。

 

「俺はそこまで細かく考えてないけどな」

 

「じゃあ、どうして分かった?」

 

「何となく」

 

「……」

 

風太郎が黙る。

 

「それが一番腹立つんだよ」

 

「なんでだ?」

 

「お前の『何となく』が、妙に当たるからだ」

 

教室に笑い声が起こった。

 

 

勉強会が始まる。

 

最初の科目は数学。

 

風太郎が問題を配る。

 

「昨日と同じ範囲だ。今日は少し難しくする」

 

「……」

 

五人の顔が一斉に曇った。

 

「そんな顔するな」

 

「だって難しいんですよね?」

 

四葉が言う。

 

「ああ」

 

「即答!」

 

「でも、昨日までの問題が解けていれば十分対応できる」

 

悠飛が続ける。

 

「一問目は全員解いてみよう。分からなかったら途中まででもいい」

 

「はい」

 

全員が問題に向き合う。

 

教室が静かになった。

 

鉛筆の音だけが響く。

 

悠飛は立ち上がり、全員の机を順番に見ていく。

 

風太郎も同じように答案を確認していた。

 

しかし。

 

二人の見方は明らかに違っていた。

 

風太郎は答案を見る。

 

正解か。

 

不正解か。

 

途中式。

 

計算ミス。

 

理解度。

 

一方、悠飛は生徒の顔を見る。

 

手の動き。

 

視線。

 

鉛筆を止めるタイミング。

 

問題文を読む速度。

 

そして――。

 

「……」

 

悠飛が二乃の机の前で止まった。

 

二乃は黙々と計算している。

 

「……」

 

悠飛は何も言わずに立ち去った。

 

次に三玖。

 

「……」

 

三玖は問題文を読んでいる。

 

だが、鉛筆が動いていない。

 

悠飛は三玖の机に近づいた。

 

「三玖」

 

「……うん」

 

「その問題、歴史の問題みたいに考えてみたら?」

 

「歴史?」

 

「条件を時系列で整理する感じ」

 

「……」

 

三玖は問題文をもう一度読む。

 

「……あ」

 

鉛筆が動き始めた。

 

「できそう」

 

「やってみろ」

 

「うん」

 

悠飛が離れる。

 

風太郎がその様子を見ていた。

 

「……」

 

「どうした?」

 

悠飛が聞く。

 

「いや」

 

風太郎は腕を組む。

 

「やっぱりお前は変だな」

 

「またか?」

 

「三玖が何で詰まってるか、答案を見る前に分かっただろ」

 

「表情で分かった」

 

「普通は分からん」

 

「そうか?」

 

「そうだ」

 

風太郎はため息をついた。

 

「お前の直感は、もはや特技の域を超えてる」

 

「褒めてる?」

 

「半分はな」

 

 

その頃。

 

一花は問題を解いていた。

 

「……」

 

しかし。

 

数分経っても。

 

一花の手が止まっている。

 

悠飛が近づく。

 

「一花」

 

「ん?」

 

「眠い?」

 

「……ちょっとだけ」

 

「昨日遅くまで仕事?」

 

「うん」

 

一花は笑った。

 

「学校が終わった後に撮影があってね」

 

「大変だな」

 

「でも楽しいよ」

 

「ならいいけど」

 

悠飛は一花の机を指差した。

 

「今日は英語を先にやった方がいいかもしれない」

 

「どうして?」

 

「数学は集中力が必要だから」

 

「……」

 

一花は少し驚いた。

 

「私のこと、ちゃんと見てるんだね」

 

「勉強会だからな」

 

「それだけ?」

 

「それ以外に何かあるのか?」

 

「ふふ」

 

一花は笑う。

 

「秘密」

 

「?」

 

一花は再び問題集に向かった。

 

「じゃあ、頑張ろうかな」

 

「そうしてくれ」

 

悠飛が離れる。

 

一花はその背中を見つめる。

 

「……」

 

小さく呟いた。

 

「そういうところなんだよね」

 

好きになってしまった理由。

 

本人は。

 

きっと気づいていない。

 

 

「四葉」

 

「はい!」

 

「その問題、答えは合ってる」

 

「本当ですか!」

 

「ただし」

 

「ただし?」

 

「途中式がめちゃくちゃだ」

 

「えっ」

 

四葉が答案を見る。

 

「……本当だ」

 

「答えが合っているのはすごい」

 

悠飛は笑う。

 

「でも、試験では途中式も丁寧に書こう」

 

「はい!」

 

「四葉は感覚で解く力が強い」

 

「感覚?」

 

「うん」

 

「それっていいことですか?」

 

「武器になる」

 

「!」

 

四葉の目が輝く。

 

「本当ですか?」

 

「ああ。ただし、感覚だけに頼ると難しい問題で止まる」

 

「……」

 

「だから、今は感覚に理屈を足しているところだ」

 

「なるほど!」

 

四葉は嬉しそうに頷いた。

 

「私、もっと頑張ります!」

 

「その調子」

 

「はい!」

 

少し離れたところから、そのやり取りを見ていた風太郎が呟く。

 

「……四葉には、ああいう教え方が合ってるな」

 

「だろ?」

 

悠飛が答える。

 

「お前も分かってきたじゃないか」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

「良い影響だったってことだな」

 

「……調子に乗るな」

 

 

五月の机。

 

問題集には、ほとんど赤ペンが入っていない。

 

「五月は安定してるな」

 

風太郎が言う。

 

「ありがとうございます」

 

「でも」

 

悠飛が続ける。

 

「正解しているからって、理解しているとは限らない」

 

「……」

 

五月が顔を上げる。

 

「どういう意味ですか?」

 

「解答を覚えているだけかもしれない」

 

「そんなことは――」

 

「じゃあ、この問題」

 

悠飛は別の紙に問題を書いた。

 

「数字と条件を少し変えてみた」

 

五月が解く。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

五月の手が止まった。

 

「これは……」

 

「さっきと同じ考え方で解ける」

 

「……」

 

五月は考え込む。

 

やがて。

 

「分かりました」

 

答えを書く。

 

悠飛が確認する。

 

「正解」

 

「……!」

 

五月がほっと息を吐く。

 

「ありがとうございます」

 

「今のが大事なんだ」

 

「はい」

 

五月は頷く。

 

「覚えるだけではなく、使えるようにする」

 

「そう」

 

「……」

 

五月は少し笑った。

 

「悠飛さんは、本当に教えるのが上手ですね」

 

「ありがとう」

 

「将来、先生になったら――」

 

「五月」

 

風太郎が割って入った。

 

「こいつは先生になる予定はない」

 

「そうなんですか?」

 

「俺は――」

 

悠飛は少し考え。

 

「誰かに何かを教えること自体は好きだけど、教師になるかどうかは考えたことないな」

 

「そうですか」

 

五月は残念そうな顔をした。

 

「少しもったいない気がします」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

その言葉を。

 

六華は黙って聞いていた。

 

 

休憩時間。

 

「ふぅ……」

 

四葉が机に突っ伏した。

 

「疲れました!」

 

「まだ半分だぞ」

 

風太郎が言う。

 

「えぇ……」

 

「四葉」

 

悠飛が声をかける。

 

「休憩はちゃんと取れ」

 

「はい!」

 

「でも、休憩が終わったら戻る」

 

「分かってます!」

 

四葉が笑う。

 

一花は飲み物を飲みながら、風太郎に話しかけた。

 

「風太郎くん」

 

「何だ?」

 

「悠飛くんって、昔からあんな感じだったの?」

 

「どんな感じだ?」

 

「人のことをよく見てるところ」

 

風太郎は少し考えた。

 

「昔からだ」

 

「やっぱり?」

 

「ただ、昔は今ほど自覚的じゃなかった」

 

「……」

 

一花が悠飛を見る。

 

悠飛は六華と何か話している。

 

「じゃあ、風太郎くんは?」

 

「俺?」

 

「悠飛くんとは長い付き合いなんだよね」

 

「ああ」

 

「どうして友達になったの?」

 

風太郎は少し笑った。

 

「俺が困っていた時、こいつが何も聞かずに助けてきた」

 

「へえ」

 

「金持ちの息子なのに、妙に偉そうじゃなかった」

 

「それは確かに」

 

「むしろ、俺が遠慮していると怒る」

 

「悠飛くんらしいね」

 

風太郎は続けた。

 

「それからだな」

 

「……」

 

一花は微笑んだ。

 

「いい友達だね」

 

「ああ」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「俺にとっては、最高の友人だ」

 

 

休憩が終わる。

 

再び勉強が始まった。

 

今度は英語。

 

風太郎が問題を配る。

 

「長文読解」

 

「……」

 

五人が嫌そうな顔をする。

 

「英語は苦手か?」

 

悠飛が聞く。

 

「ちょっと……」

 

四葉が手を上げる。

 

「私も」

 

二乃も。

 

「私も」

 

五月。

 

「私は読めますが、速度が……」

 

三玖。

 

「単語が……」

 

一花。

 

「私はまあまあ」

 

六華。

 

「私は普通かな」

 

悠飛は少し考える。

 

「じゃあ、全員同じやり方はやめよう」

 

風太郎が顔を上げる。

 

「何?」

 

「五人の弱点が違う」

 

「具体的には?」

 

「四葉は文章全体の意味を掴むのは早い。でも細かい単語を見落とす」

 

「……」

 

四葉が頷く。

 

「二乃は単語力はある。でも文章を全部正確に訳そうとして時間がかかる」

 

「なるほど」

 

「三玖は単語で止まる。五月は正確だけど慎重すぎる。一花は読めるけど集中力が問題」

 

「……」

 

一花が苦笑する。

 

「ばれてる」

 

「六華は?」

 

風太郎が尋ねる。

 

悠飛は六華を見る。

 

「六華は……」

 

「……」

 

少し考える。

 

「理解はできている。でも、自信がない」

 

「……!」

 

六華の表情が固まった。

 

「どうして?」

 

「答えを書く直前に一度迷うから」

 

「……」

 

図星だった。

 

「正解できる問題でも、自分の答えを疑っている」

 

悠飛は言った。

 

「だから、六華は知識より自信の方が課題だと思う」

 

六華は黙った。

 

「……そうかも」

 

小さく答える。

 

風太郎が腕を組む。

 

「なるほど」

 

「風太郎?」

 

「俺なら答案を見てから判断する」

 

「俺は答案を書く前を見る」

 

「……」

 

「どこで迷ってるかを見れば、答案を見る前でもある程度分かる」

 

「だから直感か」

 

「ああ」

 

悠飛が頷く。

 

「分析と直感」

 

風太郎が言う。

 

「相性がいいな」

 

「そうか?」

 

「俺が地図を作る。お前が道を選ぶ」

 

「いい例えだな」

 

「だろ?」

 

二人は笑った。

 

 

勉強会も終盤。

 

六華は問題を解いていた。

 

しかし。

 

悠飛に言われた言葉が頭から離れない。

 

『自信がない』

 

確かにそうだった。

 

自分は。

 

何かを決める時。

 

いつも一歩引いてしまう。

 

五つ子の従姉妹。

 

五人と一緒に育った少女。

 

五人ほど目立つわけではない。

 

五人ほど積極的でもない。

 

だから。

 

昔から。

 

少し離れたところにいた。

 

それが自分の居場所だと思っていた。

 

けれど。

 

「……」

 

悠飛を見る。

 

彼は今。

 

四葉の質問に答えている。

 

「そこはこう考える」

 

「なるほど!」

 

「じゃあ、次は一人でやってみろ」

 

「はい!」

 

「……」

 

六華は思う。

 

自分も。

 

もっと前に出ていいのではないか。

 

もっと。

 

自分の気持ちに正直になっていいのではないか。

 

「……」

 

その時。

 

悠飛がこちらを見る。

 

「六華」

 

「はい」

 

「その問題、正解」

 

「……え?」

 

「自信持っていいぞ」

 

「……」

 

六華は答案を見る。

 

確かに。

 

正解だった。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

悠飛が笑う。

 

その瞬間。

 

六華の胸の奥で。

 

何かが決まった。

 

――私は。

 

――この人の隣に立ちたい。

 

従姉妹たちの後ろではなく。

 

誰かの影でもなく。

 

自分自身として。

 

 

勉強会終了。

 

「今日も疲れましたー!」

 

四葉が伸びをする。

 

「でも、楽しかったです!」

 

「それなら良かった」

 

悠飛が笑う。

 

「明日もやるぞ」

 

「はい!」

 

「……」

 

五人が返事をする。

 

六華も。

 

「うん」

 

帰り道。

 

風太郎と悠飛が並んで歩く。

 

「なあ」

 

風太郎が言った。

 

「何だ?」

 

「今日の五人、どうだった?」

 

「昨日より良くなってる」

 

「そうか」

 

「少しずつだけどな」

 

「それなら十分だ」

 

風太郎は空を見る。

 

「成績はすぐには変わらない」

 

「ああ」

 

「でも、習慣が変われば成績も変わる」

 

「その通り」

 

「……」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「お前がいて助かってる」

 

「友達だからな」

 

「そういうところだ」

 

「何が?」

 

「……何でもない」

 

風太郎は笑った。

 

 

その少し後ろ。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人が並んで歩いている。

 

「今日も頑張ったね」

 

一花が言う。

 

「はい!」

 

四葉が答える。

 

「六華は?」

 

「うん」

 

六華は笑った。

 

「今日は少しだけ、自信が持てた気がする」

 

「それなら良かった」

 

一花が微笑む。

 

四葉も頷く。

 

「私も悠飛さんに言われて、もっと頑張ろうって思いました!」

 

「……」

 

六華は二人を見る。

 

一花。

 

四葉。

 

そして自分。

 

まだ誰も。

 

自分の想いを口にしていない。

 

けれど。

 

それぞれの心の中には。

 

少しずつ。

 

同じ一人の少年の存在が大きくなっていた。

 

「……ねえ」

 

一花が言う。

 

「何?」

 

四葉と六華が振り向く。

 

「これからも、ずっと一緒に勉強会できたらいいね」

 

「はい!」

 

「うん」

 

三人は笑った。

 

その先頭では。

 

悠飛と風太郎が歩いている。

 

風太郎は、五人の成績表を頭の中で整理していた。

 

「次は英語を重点的に……」

 

一方。

 

悠飛は振り返った。

 

「……」

 

六人の少女たちを見る。

 

そして。

 

なぜか胸の奥に、温かなものを感じた。

 

理由は分からない。

 

ただ。

 

「この時間、ずっと続けばいいな」

 

そんな直感だけが。

 

悠飛の胸に残った。

 

風太郎の「分析」。

 

悠飛の「直感」。

 

二人の異なる才能は。

 

やがて。

 

五つ子たちの人生を大きく変えていくことになる。

 

そしてその中心には。

 

まだ誰も気づいていない。

 

幼い頃から続く、不思議な縁があった。

 

忘れていた記憶。

 

失われた約束。

 

そして。

 

いつか再び思い出すことになる――。

 

「あの日」の記憶が。

 

静かに。

 

彼らの青春の奥底で。

 

目を覚まし始めていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。