『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第13話「少しずつ上がる成績」

五月中旬。

 

黒薔薇女学院から旭高校へ転校してきてから、一か月近くが経過していた。

 

最初は戸惑いばかりだった五つ子たちも、少しずつ新しい環境に慣れ始めていた。

 

そして放課後。

 

いつもの空き教室。

 

「よし」

 

風太郎が答案用紙を机に並べた。

 

「今日は確認テストの結果を返す」

 

その言葉に。

 

五つ子たちの顔が一斉に強張る。

 

「うっ……」

 

「来た……」

 

「怖い……」

 

四葉、三玖、二乃がそれぞれ違う反応を見せる。

 

一花は苦笑し、五月は静かに背筋を伸ばした。

 

六華も少し緊張した表情を浮かべている。

 

悠飛は後ろの机に腰掛けながら笑った。

 

「そんなに緊張することか?」

 

「しますよ!」

 

四葉が即答した。

 

「点数を見る時は、いつだって緊張します!」

 

「それは正しい反応だな」

 

風太郎が頷く。

 

「だが今回は安心しろ」

 

「え?」

 

「全員、前回より上がっている」

 

教室が静まり返った。

 

「……え?」

 

一花が目を瞬かせる。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

風太郎は答案を配り始めた。

 

「まず一花」

 

「はい」

 

答案を受け取った一花が目を見開く。

 

「えっ」

 

「どうした?」

 

悠飛が聞く。

 

「前より十八点上がってる」

 

「おお」

 

「すごいじゃないか」

 

一花は自分の答案を見つめた。

 

「本当に上がってる……」

 

どこか信じられない表情だった。

 

続いて。

 

「二乃」

 

「はいはい」

 

受け取った二乃が固まる。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「二十点」

 

「ん?」

 

「二十点も上がってるんだけど」

 

「それは良かったな」

 

悠飛が笑う。

 

二乃は答案を見つめたまま呟く。

 

「勉強会って本当に効果あるのね……」

 

「だから言っただろ」

 

風太郎が答えた。

 

「積み重ねは裏切らない」

 

次は三玖。

 

「三玖」

 

「うん」

 

答案を見る。

 

「……」

 

「どうだ?」

 

「歴史、八十五点」

 

「おお」

 

悠飛が拍手する。

 

「すごいな」

 

三玖は少しだけ照れた。

 

「……嬉しい」

 

その笑顔はとても柔らかかった。

 

続いて五月。

 

「五月」

 

「はい」

 

五月は落ち着いた様子で答案を見る。

 

しかし。

 

次の瞬間。

 

「……!」

 

珍しく驚いた顔になった。

 

「どうした?」

 

「英語が九十点です」

 

「おめでとう」

 

悠飛が笑う。

 

五月は答案を見つめた。

 

「初めてです……」

 

「努力の成果だな」

 

五月は静かに頷いた。

 

「はい」

 

最後は――。

 

「四葉」

 

「は、はい!」

 

まるで裁判の判決を待つ被告人のような顔で前へ出る。

 

風太郎が答案を渡した。

 

「……」

 

四葉が固まる。

 

「……」

 

さらに固まる。

 

「……」

 

そして。

 

「やったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

教室中に叫び声が響いた。

 

「赤点じゃない!」

 

「おお」

 

悠飛が笑う。

 

「よく頑張ったな」

 

「悠飛さん!」

 

四葉の目が潤む。

 

「私、やりました!」

 

「見れば分かる」

 

「本当にやりました!」

 

「二回言わなくても分かる」

 

教室が笑いに包まれた。

 

 

勉強会が始まった頃。

 

五つ子たちの成績は壊滅的だった。

 

勉強習慣そのものがなかった。

 

授業内容も理解できていなかった。

 

だが。

 

今は違う。

 

毎日の積み重ね。

 

放課後の勉強会。

 

風太郎の分析。

 

悠飛の指導。

 

そして何より。

 

本人たちの努力。

 

それらが少しずつ結果になり始めていた。

 

「やっぱり数字になると嬉しいな」

 

一花が言った。

 

「うん」

 

三玖も頷く。

 

「勉強、前より楽しい」

 

「私もです」

 

五月が続く。

 

二乃は答案を眺めながら呟く。

 

「認めるしかないわね」

 

「何を?」

 

悠飛が聞く。

 

「私たち、ちゃんと成長してる」

 

「そうだな」

 

「悔しいけど」

 

「悔しいのか?」

 

「少しね」

 

二乃は笑った。

 

「最初はどうせ無理だと思ってたから」

 

「なるほど」

 

悠飛も笑う。

 

「じゃあ次はもっと上を目指そう」

 

「……」

 

二乃は少しだけ目を細めた。

 

「本当に欲張りね」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

しかし。

 

その表情はどこか楽しそうだった。

 

 

「さて」

 

風太郎が黒板の前に立つ。

 

「ここで現状分析だ」

 

「出た」

 

悠飛が苦笑する。

 

「分析好きだな」

 

「当然だ」

 

風太郎はチョークを持つ。

 

「一花は集中力の波が大きい」

 

「うっ」

 

「二乃は感情で勉強するタイプ」

 

「どういう意味よ」

 

「やる気がある時は強い」

 

「それは否定できない」

 

「三玖は興味がある科目が強い」

 

「うん」

 

「五月は安定」

 

「ありがとうございます」

 

「四葉は」

 

全員が四葉を見る。

 

「伸びしろの塊」

 

「やったー!」

 

「褒めてないぞ」

 

「えぇ!?」

 

教室が再び笑いに包まれる。

 

風太郎は続ける。

 

「六華」

 

「はい」

 

「最近かなり良くなっている」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

風太郎が頷く。

 

「以前より迷いが減った」

 

六華は少し驚いた。

 

「……」

 

その理由は分かっている。

 

あの日。

 

悠飛に言われた。

 

『自信を持て』

 

その一言。

 

たったそれだけだった。

 

だが。

 

六華にとっては大きかった。

 

「……」

 

自然と視線が悠飛へ向く。

 

悠飛は気づかない。

 

風太郎だけが、その様子を見ていた。

 

「……」

 

何となく察している。

 

しかし今は何も言わない。

 

 

勉強会後半。

 

英語の長文読解。

 

「よし」

 

悠飛が言う。

 

「今日は競争しよう」

 

「競争?」

 

一花が聞く。

 

「ああ」

 

「何をするんですか?」

 

四葉が身を乗り出す。

 

「制限時間内に解く」

 

「うわぁ」

 

「ただし」

 

悠飛は笑う。

 

「勝った人にはジュースを奢る」

 

「やります!」

 

四葉が即答した。

 

「早いな」

 

「負けません!」

 

結果。

 

優勝は五月だった。

 

「やりました」

 

「おめでとう」

 

悠飛が拍手する。

 

二位は三玖。

 

三位は六華。

 

そして。

 

最下位は四葉。

 

「うぅ……」

 

「まあ、そう落ち込むな」

 

「でも負けました」

 

「前より正答率は上がってる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「じゃあ頑張ります!」

 

「その意気だ」

 

四葉は単純だった。

 

だが。

 

その素直さが成長の速さにも繋がっていた。

 

 

帰り道。

 

夕焼けが街を赤く染めていた。

 

「今日は楽しかったね」

 

一花が言う。

 

「うん」

 

三玖が頷く。

 

「テストも良かった」

 

「皆さん頑張りましたから」

 

五月が微笑む。

 

二乃も満更ではない顔をしている。

 

少し後ろ。

 

六華は悠飛の隣を歩いていた。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

「何が?」

 

「勉強」

 

「俺だけじゃない」

 

悠飛は答える。

 

「風太郎もいるし、みんな頑張ってる」

 

「それでも」

 

六華は小さく笑う。

 

「ありがとう」

 

「……」

 

悠飛も笑った。

 

「どういたしまして」

 

それだけ。

 

それだけなのに。

 

六華の胸は温かくなる。

 

「……」

 

好き。

 

その気持ちは日に日に大きくなっていた。

 

 

一方。

 

少し前を歩く一花。

 

その隣には四葉。

 

「ねえ四葉」

 

「はい?」

 

「最近、楽しい?」

 

「楽しいです!」

 

即答だった。

 

「勉強も?」

 

「もちろん!」

 

「それだけ?」

 

「?」

 

四葉は首を傾げる。

 

一花は少しだけ笑った。

 

「何でもない」

 

「?」

 

四葉は不思議そうだった。

 

しかし。

 

一花には分かっていた。

 

四葉もまた。

 

悠飛を見る目が少しずつ変わっている。

 

そして。

 

自分も。

 

六華も。

 

「……」

 

三人とも。

 

同じ人を見ている。

 

まだ誰も口にはしない。

 

けれど。

 

その気持ちは確実に育っていた。

 

 

帰宅後。

 

風太郎はノートを開いていた。

 

そこには五つ子と六華の成績推移が記されている。

 

「順調だな」

 

呟く。

 

その時。

 

電話が鳴った。

 

相手は悠飛だった。

 

『どうだ?』

 

「予定より良い」

 

『だろ?』

 

「だが油断はできない」

 

『もちろん』

 

風太郎は笑った。

 

「中間試験はこれからだからな」

 

『ああ』

 

「本番はまだ先だ」

 

『でも、きっと大丈夫だろ』

 

風太郎は少し考える。

 

そして。

 

珍しく即答した。

 

「……ああ」

 

『お』

 

「今のあいつらなら大丈夫だ」

 

『そうだな』

 

電話が切れる。

 

風太郎は窓の外を見る。

 

夜空が広がっていた。

 

最初は不安だった。

 

五つ子たちが本当に変われるのか。

 

だが。

 

今なら信じられる。

 

努力は確実に実を結び始めている。

 

そして。

 

誰よりもそれを信じている男がいる。

 

如月悠飛。

 

分析では測れない直感を持つ友人。

 

その存在が。

 

少しずつ皆を前へ進ませていた。

 

そして――。

 

近づいていた。

 

最初の大きな試練。

 

旭高校、中間試験の日が。

 

 

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