『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第15話「四葉と悠飛、放課後の武道場」

放課後。

 

旭高校の校舎に、終業を告げるチャイムが響いた。

 

教室では、いつものように勉強会の準備が始まっている。

 

「今日は数学からだ」

 

風太郎が問題集を机に置く。

 

「昨日の範囲を復習してから、次に進む」

 

「はい!」

 

四葉が元気よく返事をした。

 

だが、その手には問題集ではなく、一枚の紙が握られていた。

 

「……四葉」

 

風太郎が眉を寄せる。

 

「何だ、それは」

 

「え?」

 

「今から勉強するんだぞ」

 

「もちろん分かってます!」

 

四葉は笑顔で答えた。

 

「でも、その前に少しだけ用事があるんです!」

 

「用事?」

 

一花が尋ねる。

 

「はい!」

 

四葉は紙を掲げる。

 

「武道場の使用許可です!」

 

「武道場?」

 

五月が首を傾げた。

 

「何をするんですか?」

 

四葉は嬉しそうに答えた。

 

「ちょっと体を動かそうと思いまして!」

 

二乃が呆れた顔をする。

 

「勉強会の前に?」

 

「はい!」

 

「疲れるだけじゃない」

 

「大丈夫です!」

 

四葉は胸を張った。

 

「体を動かしたほうが頭もスッキリします!」

 

その言葉に。

 

悠飛が笑った。

 

「確かに、それは一理ある」

 

「ですよね!」

 

四葉が振り向く。

 

「悠飛さんも一緒にどうですか?」

 

「俺?」

 

「はい!」

 

四葉の目が輝く。

 

「久しぶりに一緒にやりましょう!」

 

悠飛は少し考えた。

 

「……いいな」

 

「やった!」

 

四葉が両手を上げる。

 

風太郎はため息をついた。

 

「ただし三十分だけだ」

 

「分かりました!」

 

「その後は勉強会だからな」

 

「了解です!」

 

 

体育館の奥。

 

普段は部活動で使われている武道場。

 

放課後の時間帯は、今日はたまたま空いていた。

 

木製の床。

 

壁際に並べられた道具。

 

窓から差し込む夕日。

 

四葉は道場に入ると、懐かしそうに辺りを見回した。

 

「なんだか久しぶりです」

 

「そうだな」

 

悠飛も道場を見渡す。

 

「高校に入ってからは、なかなか時間が取れなかったからな」

 

「ですよね」

 

四葉は道着の袖を整える。

 

「昔はもっと練習してましたよね」

 

「ああ」

 

「合気道も、中国武術も」

 

「よく覚えてるな」

 

「もちろんです!」

 

四葉は笑った。

 

「悠飛さんと一緒に練習したことは、忘れません」

 

「そうか」

 

悠飛は微笑む。

 

だが。

 

四葉の胸は少しだけ高鳴っていた。

 

二人だけ。

 

この武道場で。

 

昔と同じように。

 

そんな状況が。

 

四葉には少し特別に感じられていた。

 

 

「まずは基本から」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

四葉が構える。

 

「肩に力が入りすぎてる」

 

「え?」

 

「もっと自然に」

 

「こうですか?」

 

「そう」

 

悠飛が四葉の姿勢を確認する。

 

「重心は少し下」

 

「はい」

 

「足は――」

 

「こう?」

 

「そうだ」

 

四葉は真剣に動きを直す。

 

「どうですか?」

 

「かなり良くなった」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「やった!」

 

四葉が笑う。

 

その笑顔を見て。

 

悠飛も自然と笑った。

 

「相変わらずだな」

 

「何がですか?」

 

「飲み込みが早い」

 

「えへへ」

 

四葉は照れた。

 

「悠飛さんに教えてもらってますから!」

 

「それだけじゃない」

 

「?」

 

「四葉自身の努力だ」

 

「……」

 

四葉は少し黙った。

 

そして。

 

「ありがとうございます」

 

小さく頭を下げた。

 

 

次は組み手。

 

「軽くやるぞ」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

四葉が構える。

 

「始め!」

 

四葉が一気に距離を詰める。

 

「えいっ!」

 

腕を取ろうとする。

 

悠飛は半歩下がる。

 

四葉の手が空を切った。

 

「まだまだ」

 

「むぅ!」

 

四葉が再び踏み込む。

 

今度は低い。

 

悠飛は身体を捌く。

 

四葉の勢いを利用して。

 

「わっ!」

 

四葉の身体が回転する。

 

しかし。

 

倒れる寸前。

 

悠飛が腕を支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「……はい」

 

四葉は顔を上げる。

 

距離が近い。

 

「……」

 

「……」

 

二人の視線が重なる。

 

夕日が窓から差し込む。

 

四葉の頬が赤くなる。

 

「四葉?」

 

「は、はい!」

 

慌てて離れる。

 

「大丈夫です!」

 

「ならいい」

 

悠飛は何も気にしていない。

 

四葉だけが。

 

胸の鼓動を抑えられずにいた。

 

 

「もう一回お願いします!」

 

「いいぞ」

 

再び構える。

 

今度は四葉も落ち着いている。

 

「……」

 

悠飛を見る。

 

強い。

 

速い。

 

けれど。

 

いつも優しい。

 

四葉にとって。

 

悠飛は昔からそういう人だった。

 

――昔。

 

まだ幼かった頃。

 

自分たちは。

 

どこかで会っていた。

 

五つ子たちと一緒に。

 

笑って。

 

遊んで。

 

走り回って。

 

けれど。

 

その記憶は。

 

ところどころ霞んでいる。

 

「……」

 

四葉は思う。

 

どうしてだろう。

 

悠飛さんを見ると。

 

初めて会ったような気がしない。

 

まるで。

 

ずっと昔から知っているような。

 

不思議な感覚。

 

「四葉」

 

「はい!」

 

「集中」

 

「す、すみません!」

 

「どうした?」

 

「ちょっと昔のことを思い出してました」

 

「昔?」

 

「はい」

 

四葉は笑った。

 

「悠飛さんと、昔会ったことがあるような気がして」

 

悠飛も少し考える。

 

「俺もだ」

 

「え?」

 

「五つ子のみんなと一緒にいたような記憶がある」

 

「やっぱり!」

 

四葉の顔が明るくなる。

 

「でも、はっきり思い出せない」

 

「そうだな」

 

二人は顔を見合わせた。

 

「……不思議ですね」

 

「ああ」

 

 

その時。

 

武道場の扉が開いた。

 

「四葉!」

 

「え?」

 

一花だった。

 

その後ろに二乃、三玖、五月、六華、風太郎もいる。

 

「もう三十分経ってるぞ」

 

風太郎が時計を見る。

 

「えっ!」

 

四葉が驚く。

 

「そんなに!?」

 

「お前が夢中になっていただけだ」

 

「すみません!」

 

一花が笑う。

 

「楽しそうだったね」

 

「はい!」

 

四葉が嬉しそうに答える。

 

「悠飛さんと久しぶりに練習できました!」

 

六華は二人を見る。

 

「……」

 

何となく。

 

四葉の顔がいつもより嬉しそうに見えた。

 

そして。

 

胸の奥が少しだけざわつく。

 

「……」

 

六華はその感情を隠すように笑った。

 

 

帰り道。

 

四葉は悠飛と並んで歩いていた。

 

「今日はありがとうございました!」

 

「こちらこそ」

 

「楽しかったです!」

 

「俺もだ」

 

「またやりましょう!」

 

「ああ」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「約束ですよ?」

 

「約束だ」

 

「絶対ですよ!」

 

「分かった」

 

夕暮れの道。

 

二人の影が長く伸びる。

 

四葉はふと。

 

空を見上げた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「私、昔のことを思い出したいです」

 

「幼い頃の?」

 

「はい」

 

四葉は頷く。

 

「五人で一緒にいた頃のこと」

 

「俺もだ」

 

「きっと、何か大切なことがあったんですよ」

 

「そうかもしれないな」

 

「いつか思い出せるでしょうか?」

 

悠飛は少しだけ笑った。

 

「焦らなくてもいい」

 

「……」

 

「記憶は無理に掘り起こすものじゃない」

 

「はい」

 

「それより」

 

「?」

 

「今の時間を大切にすればいい」

 

四葉は目を丸くした。

 

そして。

 

「……はい!」

 

満面の笑みを浮かべた。

 

「そうですね!」

 

 

その夜。

 

四葉は自分の部屋で一人。

 

ベッドに寝転びながら。

 

今日のことを思い出していた。

 

武道場。

 

悠飛。

 

組み手。

 

そして。

 

『約束だ』

 

「……」

 

四葉は枕に顔を埋める。

 

「悠飛さん……」

 

胸がドキドキする。

 

「……好き」

 

小さな声。

 

誰にも聞かれない。

 

だからこそ。

 

四葉は素直になれた。

 

「昔から……なのかな」

 

幼い頃の記憶は曖昧だ。

 

けれど。

 

悠飛を見ていると。

 

なぜか安心する。

 

まるで。

 

ずっと昔から。

 

彼の背中を追いかけてきたような。

 

そんな気がする。

 

 

一方。

 

悠飛は自宅へ戻っていた。

 

広いリビング。

 

父・明馬は仕事の資料を眺め。

 

母・明美は仕事の予定を確認している。

 

妹の莉々華はソファに座っていた。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「今日、誰と帰ってきたの?」

 

「四葉」

 

「……」

 

莉々華の表情が固まる。

 

「中野四葉?」

 

「ああ」

 

「二人で?」

 

「武道の練習をしてた」

 

「……」

 

莉々華はじっと悠飛を見る。

 

「お兄ちゃん」

 

「何だ?」

 

「女の子と二人きりで武道?」

 

「そうだけど」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「なんでもない」

 

莉々華はそっぽを向いた。

 

「ふーん」

 

明美が笑う。

 

「莉々華、焼きもち?」

 

「違う!」

 

明馬も笑う。

 

「青春だな」

 

「お父さんまで!」

 

悠飛は苦笑する。

 

「何の話だ?」

 

「お兄ちゃんには関係ない!」

 

「そうか」

 

悠飛は笑った。

 

その夜。

 

家族の笑い声が響いた。

 

 

翌日の勉強会。

 

「では、昨日の復習から」

 

風太郎が黒板に問題を書く。

 

「四葉」

 

「はい!」

 

「この問題を解いてみろ」

 

「えっと……」

 

四葉が問題を見る。

 

「……」

 

少し考える。

 

そして。

 

「これです!」

 

正解。

 

「正解だ」

 

「やった!」

 

一花が拍手。

 

「最近、本当に伸びてるね」

 

「武道をやったから頭が良くなったのかも!」

 

「そんなわけないだろ」

 

風太郎が即答する。

 

「えぇ!?」

 

教室が笑いに包まれる。

 

悠飛も笑った。

 

四葉はその笑顔を見て。

 

また胸が温かくなる。

 

――もっと強くなりたい。

 

――もっと勉強も頑張りたい。

 

――もっと悠飛さんの隣にいたい。

 

そんな気持ちが。

 

少しずつ。

 

四葉の中で形になっていく。

 

そして。

 

この日を境に。

 

四葉は放課後の武道場へ通うようになった。

 

もちろん。

 

悠飛と一緒に練習するために。

 

それが二人にとって。

 

かけがえのない時間になっていくことを。

 

この時の二人は。

 

まだ知らなかった。

 

 

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