『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

17 / 90
第16話「六華と二人きりの帰り道」

放課後。

 

旭高校の校舎には、部活動へ向かう生徒たちの声が響いていた。

 

いつもの空き教室では、今日も勉強会が終わろうとしている。

 

「今日はここまでだ」

 

風太郎が時計を見る。

 

「明日は英語の小テストがある。忘れるなよ」

 

「はーい!」

 

四葉が元気に返事をする。

 

一花は教材を鞄にしまい、三玖は歴史のノートを整理している。

 

五月は明日の予定を確認し、二乃は欠伸をしながら椅子から立ち上がった。

 

そして。

 

六華は窓の外を眺めていた。

 

「……雨」

 

窓ガラスに、小さな水滴が落ちている。

 

「降ってきたな」

 

悠飛も窓の外を見る。

 

「天気予報では夕方から雨だったらしい」

 

「傘、持ってきてない……」

 

六華が呟く。

 

「私も!」

 

四葉が手を挙げる。

 

「えっ?」

 

六華が振り返る。

 

「四葉も?」

 

「はい! 朝は晴れてたので!」

 

「私は持ってきたわよ」

 

二乃が折り畳み傘を取り出す。

 

一花と三玖、五月もそれぞれ傘を持っていた。

 

「六華ちゃん、どうする?」

 

一花が尋ねる。

 

「……駅までなら走れば何とか」

 

「風邪を引くぞ」

 

悠飛が言った。

 

「え?」

 

「俺、傘を持ってる」

 

悠飛が鞄から傘を取り出す。

 

「途中まで一緒に帰るか?」

 

六華は一瞬、固まった。

 

「……」

 

心臓が。

 

ドクン、と大きく鳴った。

 

「いいの?」

 

「ああ」

 

「……じゃあ」

 

六華は小さく笑った。

 

「お願い」

 

その様子を。

 

一花が見ていた。

 

「……ふふ」

 

四葉も気づいている。

 

「六華ちゃん、良かったですね!」

 

「え?」

 

「悠飛さんと一緒に帰れるじゃないですか!」

 

「ちょ、ちょっと四葉……!」

 

六華の頬が赤くなる。

 

悠飛は不思議そうに二人を見る。

 

「何か変か?」

 

「何でもありません!」

 

四葉が笑う。

 

一花は意味ありげな笑顔を浮かべた。

 

「気をつけて帰ってね」

 

「……うん」

 

六華は鞄を持った。

 

そして。

 

悠飛と二人で教室を出た。

 

 

校門を出る。

 

雨は少しずつ強くなっていた。

 

悠飛が傘を開く。

 

「入れよ」

 

「うん」

 

六華は傘の中へ入る。

 

「……」

 

自然と距離が近くなる。

 

肩と肩の距離が近い。

 

雨音が二人の会話を包み込んでいた。

 

「寒くないか?」

 

「大丈夫」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

六華は笑った。

 

「悠飛は?」

 

「俺も大丈夫」

 

「そう」

 

しばらく。

 

二人は無言で歩いた。

 

普段なら五つ子たちや風太郎がいる。

 

だから。

 

悠飛と二人きりになることは意外と少ない。

 

六華は横目で彼を見る。

 

金髪の髪。

 

端正な横顔。

 

高校生とは思えないほど落ち着いた雰囲気。

 

そして。

 

誰に対しても自然に手を差し伸べる優しさ。

 

「……」

 

六華の胸が熱くなる。

 

昔から。

 

そうだった。

 

 

「ねえ、悠飛」

 

「ん?」

 

「少し聞いてもいい?」

 

「何でもどうぞ」

 

「私たちって……」

 

六華は言葉を選ぶ。

 

「昔、会ったことあるよね?」

 

悠飛の足が少しだけ止まった。

 

「……やっぱりそう思うか?」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

「五つ子のお姉ちゃんたちも、そういう話をすることがある」

 

「俺も、何となく覚えてる」

 

「何を?」

 

「小さい頃のこと」

 

悠飛は雨空を見上げる。

 

「五人の女の子と一緒に遊んだような記憶がある」

 

「五つ子?」

 

「多分な」

 

「……」

 

六華は少し迷った。

 

「私も……そこにいた?」

 

悠飛は六華を見る。

 

「分からない」

 

「……そっか」

 

六華は笑う。

 

けれど。

 

胸の奥が少しだけ痛んだ。

 

「ごめん」

 

「何で謝るの?」

 

「いや……」

 

「悠飛が謝ることじゃないよ」

 

六華は笑った。

 

「私も覚えてないんだから」

 

「そうだな」

 

「でも」

 

六華は前を向く。

 

「いつか思い出せたらいいね」

 

「ああ」

 

「みんなで」

 

「そうだな」

 

 

駅へ向かう道。

 

雨はさらに強くなってきた。

 

悠飛が傘を少し六華側へ傾ける。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「傘」

 

「どうした?」

 

「そっち濡れてる」

 

悠飛の肩に雨粒がついている。

 

「六華の方が濡れたら困るだろ」

 

「でも……」

 

「俺は大丈夫」

 

六華は少し黙った。

 

「……優しいね」

 

「普通だろ」

 

「普通じゃないよ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

六華は小さく笑った。

 

「昔からそうだったのかな」

 

「さあ」

 

「きっとそうだと思う」

 

「何で?」

 

「なんとなく」

 

六華は悠飛を見上げる。

 

「私は、悠飛ってそういう人だと思うから」

 

「……」

 

悠飛は少し照れたように視線を逸らした。

 

「買いかぶりすぎだ」

 

「そうかな?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、これから知っていく」

 

「え?」

 

「今の悠飛を」

 

六華は微笑んだ。

 

「昔の記憶がなくても」

 

「……」

 

「これから一緒に過ごしていけばいいんじゃない?」

 

悠飛はしばらく黙っていた。

 

やがて。

 

「そうだな」

 

そう答えた。

 

六華の胸が高鳴った。

 

 

「そういえば」

 

悠飛が口を開く。

 

「六華は最近、勉強の調子がいいな」

 

「え?」

 

「風太郎も褒めてた」

 

「……そうなんだ」

 

「努力してるんだろ?」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

「悠飛に言われたから」

 

「俺?」

 

「前に言ってくれたでしょう」

 

『自信を持て』

 

「……」

 

「ずっと覚えてる」

 

六華は少し恥ずかしそうに笑った。

 

「私ね」

 

「うん」

 

「昔から、お姉ちゃんたちと比べられるのが嫌だった」

 

「……」

 

「五つ子って、それだけで目立つから」

 

六華は五つ子たちを思い浮かべる。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

「みんな綺麗で、個性があって」

 

「六華だって十分個性的だろ」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

「どこが?」

 

悠飛は少し考える。

 

「自分で考えて、自分で決めるところ」

 

「……」

 

「俺はそこ、いいと思う」

 

六華は目を伏せた。

 

「……ありがとう」

 

声が少し震えていた。

 

「どうした?」

 

「何でもない」

 

六華は笑う。

 

「ちょっと嬉しかっただけ」

 

 

駅が見えてきた。

 

二人の時間は。

 

もうすぐ終わる。

 

六華は少しだけ寂しくなった。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「もう少し歩かない?」

 

悠飛は時計を見る。

 

「いいけど、雨だぞ?」

 

「分かってる」

 

「風邪引くぞ」

 

「じゃあ……駅の中で少し」

 

「それならいいな」

 

二人は駅へ入った。

 

人の流れを避けながら。

 

改札前のベンチへ向かう。

 

六華は座った。

 

悠飛も隣に座る。

 

「……」

 

雨音が遠く聞こえる。

 

「何だか変な感じ」

 

六華が呟いた。

 

「何が?」

 

「こうして二人でいるの」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

六華は笑う。

 

「学校ではいつもみんな一緒だから」

 

「確かにな」

 

「でも今日は……」

 

「二人きりだな」

 

その言葉だけで。

 

六華の顔が熱くなる。

 

「……そうだね」

 

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私ね」

 

六華は勇気を出す。

 

「ずっと言いたかったことがある」

 

「何?」

 

「……」

 

言える?

 

今なら。

 

二人きり。

 

邪魔する人はいない。

 

「私は――」

 

その瞬間。

 

スマートフォンが鳴った。

 

「……!」

 

六華が驚く。

 

画面を見る。

 

一花からのメッセージだった。

 

『六華、ちゃんと帰れてる?』

 

「……」

 

六華は苦笑する。

 

「お姉ちゃん……」

 

悠飛が笑う。

 

「心配してるんだな」

 

「うん」

 

「返信してやれよ」

 

「そうだね」

 

六華は返信する。

 

そして。

 

再び悠飛を見る。

 

「……」

 

さっき言えなかった。

 

けれど。

 

焦る必要はない。

 

「いつか」

 

六華は心の中で呟いた。

 

「いつか、ちゃんと伝える」

 

自分の気持ちを。

 

 

やがて雨が弱くなった。

 

「そろそろ帰るか」

 

「うん」

 

二人は立ち上がる。

 

駅の出口で。

 

悠飛が傘を開く。

 

「六華」

 

「なに?」

 

「明日の勉強会、忘れるなよ」

 

「忘れないよ」

 

「それと」

 

「?」

 

「英語の宿題」

 

「……」

 

六華が固まる。

 

「やってない?」

 

「……半分」

 

「半分か」

 

「今夜やる」

 

「ならよし」

 

悠飛は笑った。

 

「頑張れ」

 

「うん」

 

六華は笑う。

 

「悠飛もね」

 

「俺は大丈夫」

 

「そういうところがずるい」

 

「またそれか?」

 

「ふふ」

 

六華は笑った。

 

「じゃあ、また明日」

 

「ああ。また明日」

 

二人は別々の方向へ歩き始める。

 

六華は何度も振り返りそうになる。

 

けれど。

 

我慢した。

 

 

帰宅した六華は。

 

部屋に入るなりベッドへ倒れ込んだ。

 

「……」

 

顔が熱い。

 

「どうしよう……」

 

今日一日のことを思い出す。

 

傘の中。

 

隣を歩いた時間。

 

昔の記憶。

 

自分のことを認めてくれた言葉。

 

そして。

 

駅で言いかけた言葉。

 

「……好き」

 

小さく呟く。

 

誰にも聞かれない声。

 

「悠飛が好き」

 

六華は胸元を押さえる。

 

ずっと。

 

五つ子の姉妹たちの隣にいた。

 

いつも少し離れた場所から。

 

彼女たちの青春を見ていた。

 

けれど。

 

もう。

 

傍観者ではいたくない。

 

「私は……」

 

六華は窓の外を見る。

 

雨上がりの夜空。

 

「私のやり方で、悠飛の隣に行く」

 

決意は静かだった。

 

だが。

 

確かなものだった。

 

 

翌朝。

 

旭高校。

 

教室に入ると。

 

「おはよう、六華」

 

悠飛がいつものように声をかけた。

 

「……!」

 

六華の頬が赤くなる。

 

「お、おはよう」

 

「どうした?」

 

「何でもない!」

 

「そうか?」

 

「うん!」

 

悠飛は首を傾げる。

 

そこへ。

 

一花がやってきた。

 

「おはよう」

 

「おはよう、一花」

 

「六華、昨日は楽しかった?」

 

「……!」

 

「え?」

 

悠飛が一花を見る。

 

「何の話だ?」

 

「ふふ」

 

一花は意味ありげに笑う。

 

「秘密」

 

「?」

 

六華は慌てて一花の袖を掴む。

 

「お姉ちゃん!」

 

「何?」

 

「何でもないから!」

 

「はいはい」

 

一花は笑った。

 

そして。

 

少し離れたところから。

 

四葉が二人を見ていた。

 

「……」

 

四葉の胸に。

 

ほんの少しだけ。

 

小さな違和感が生まれる。

 

六華も。

 

一花も。

 

悠飛を見ている。

 

そして。

 

自分も。

 

「……」

 

四葉は笑顔を浮かべた。

 

まだ。

 

誰にも言わない。

 

けれど。

 

三人の恋は。

 

少しずつ。

 

同じ場所へ向かい始めていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。