『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第17話「莉々華、五つ子と遭遇する」

土曜日の昼下がり。

 

如月家の広い邸宅には、珍しく穏やかな時間が流れていた。

 

父・明馬は会社の仕事で外出。

 

母・明美も経営する美容院へ向かっている。

 

そして家に残っているのは――。

 

「暇……」

 

リビングのソファに寝転がった一人の少女。

 

如月莉々華。

 

悠飛の一つ下の妹である。

 

「お兄ちゃんも学校……」

 

莉々華はクッションを抱えたまま、天井を見上げた。

 

「友達と勉強会なんて、つまんない」

 

兄の悠飛は高校生になってから、何かと忙しい。

 

勉強。

 

武道。

 

友人たちとの付き合い。

 

そして最近では、五つ子や従姉妹の六華たちと一緒に勉強会をしている。

 

莉々華としては、少々面白くない。

 

「……」

 

兄が誰かと楽しそうにしている。

 

それだけで、妹としては複雑だった。

 

「別に心配してるわけじゃないし」

 

誰も聞いていないのに言い訳する。

 

その時。

 

スマートフォンが鳴った。

 

「ん?」

 

母からのメッセージだった。

 

『莉々華、帰りに駅前の商店街で買い物をお願いしてもいい?』

 

「えー……」

 

莉々華は面倒そうに画面を見る。

 

しかし。

 

『お兄ちゃんの好きなケーキも買ってきてね』

 

「……!」

 

一瞬で起き上がった。

 

「それなら行く!」

 

兄の好物。

 

それは重要である。

 

莉々華は財布を持つと、すぐに家を出た。

 

 

駅前の商店街。

 

休日ということもあり、人通りは多い。

 

莉々華は買い物袋を片手に歩いていた。

 

「えっと……次はケーキ屋さん」

 

その途中。

 

向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「四葉、そんなに買って大丈夫なの?」

 

「大丈夫です!」

 

「絶対食べきれないでしょ」

 

「食べられます!」

 

「三玖も手伝って」

 

「うん」

 

「私も手伝うよ」

 

「ありがとう、一花」

 

莉々華は足を止めた。

 

「……あれ?」

 

見覚えがある。

 

いや。

 

見覚えがありすぎる。

 

「中野……五つ子?」

 

そこにいたのは。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

五人の少女。

 

そして。

 

その少し後ろには。

 

「六華ちゃんもいる」

 

五つ子の従姉妹。

 

中野六華。

 

莉々華は思わず目を丸くした。

 

「なんで全員ここに?」

 

すると。

 

四葉が莉々華に気づいた。

 

「あっ!」

 

「え?」

 

四葉が大きく手を振る。

 

「莉々華ちゃん!」

 

「……」

 

莉々華は一瞬迷った。

 

だが。

 

無視するわけにもいかない。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは!」

 

四葉が駆け寄ってくる。

 

「偶然ですね!」

 

「そうね」

 

莉々華は答える。

 

その後ろから。

 

一花が笑顔で近づいてくる。

 

「こんにちは、莉々華ちゃん」

 

「こんにちは、一花さん」

 

「さん付けなんだ」

 

「お兄ちゃんの友達だから」

 

「なるほど」

 

一花が笑う。

 

二乃も莉々華を見る。

 

「悠飛の妹って、こうして見ると本当に似てるわね」

 

「どこが?」

 

「目元とか」

 

「そう?」

 

三玖も小さく頷く。

 

「雰囲気も似てる」

 

「……」

 

莉々華は少し嬉しくなった。

 

兄に似ている。

 

それは莉々華にとって、褒め言葉だった。

 

 

「ところで」

 

五月が買い物袋を見る。

 

「今日はお買い物ですか?」

 

「うん」

 

莉々華は袋を持ち上げる。

 

「母に頼まれたの」

 

「偉いですね」

 

「別に普通よ」

 

「でも」

 

四葉が笑う。

 

「お兄さんのためのものも入ってます?」

 

「……」

 

莉々華が固まった。

 

「どうして分かったの?」

 

「顔に書いてあります!」

 

「書いてない!」

 

五人が笑う。

 

莉々華は少しむっとした。

 

「お兄ちゃんの好きなものだから買ってるだけ」

 

「ふふ」

 

一花が笑う。

 

「お兄ちゃん大好きなんだね」

 

「……!」

 

「違う!」

 

即答だった。

 

「ブラコンじゃないから!」

 

六華が静かに呟く。

 

「誰もブラコンとは言ってないけど」

 

「……」

 

莉々華は六華を見る。

 

「六華さん」

 

「何?」

 

「そういうところ、結構意地悪ですね」

 

「ごめん」

 

六華は笑った。

 

 

その後。

 

莉々華たちは近くのカフェに入ることになった。

 

「私たち、ちょっと休憩してから帰るところだったんです」

 

四葉が説明する。

 

「莉々華ちゃんも一緒にどうですか?」

 

「いいの?」

 

「もちろん!」

 

莉々華は席についた。

 

向かいには一花。

 

隣には四葉。

 

その隣に六華。

 

五つ子たちに囲まれる形になった。

 

「……」

 

莉々華は少し緊張する。

 

何しろ。

 

兄が普段一緒にいる女の子たちだ。

 

少し気になっていた。

 

「ねえ」

 

一花が口を開く。

 

「悠飛って、家ではどんな感じ?」

 

「え?」

 

「学校だとすごくしっかりしてるから」

 

「家でも普通ですよ」

 

莉々華は答える。

 

「……ただ」

 

「ただ?」

 

「妹には甘い」

 

「へえ」

 

一花の目が輝く。

 

「例えば?」

 

「私が欲しいものがあったら、だいたい買ってくれる」

 

「優しい」

 

四葉が頷く。

 

「あと」

 

莉々華は続ける。

 

「料理もできます」

 

「えっ!?」

 

五つ子全員が反応した。

 

「悠飛が?」

 

「はい」

 

「料理するの?」

 

「しますよ」

 

「何作れるの?」

 

「結構いろいろ」

 

莉々華は少し得意げになる。

 

「オムライスとか、パスタとか」

 

「……」

 

一花が何かを考えている。

 

「今度食べてみたいな」

 

「私も!」

 

四葉が手を上げる。

 

「俺の兄を何だと思ってるの?」

 

莉々華が呆れる。

 

「便利な人?」

 

三玖が呟いた。

 

「三玖!?」

 

「冗談」

 

三玖が微笑む。

 

 

「じゃあ」

 

今度は莉々華が聞いた。

 

「皆さんは、お兄ちゃんのどこが好きなんですか?」

 

「……」

 

空気が止まった。

 

「え?」

 

一花が固まる。

 

四葉も。

 

六華も。

 

二乃と三玖と五月まで。

 

全員が黙る。

 

莉々華は首を傾げた。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや……」

 

一花が笑顔を作る。

 

「急に核心を突くね」

 

「だって」

 

莉々華は不思議そうにする。

 

「みんな、お兄ちゃんのこと気になってるでしょう?」

 

「……」

 

図星。

 

一花が苦笑する。

 

「莉々華ちゃん、鋭いね」

 

「妹だから」

 

「なるほど」

 

一花は少し考える。

 

「私は……」

 

「一花?」

 

「悠飛くんって、人のことをちゃんと見てるから」

 

「……」

 

「一緒にいると安心する」

 

一花は少し照れた。

 

四葉も続く。

 

「私は、強いところ!」

 

「武道?」

 

「はい!」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「でも、それだけじゃありません」

 

「じゃあ?」

 

「優しいところです」

 

四葉は迷わなかった。

 

「困っている人がいたら、絶対助けてくれる」

 

「なるほど」

 

莉々華は頷く。

 

そして。

 

六華を見る。

 

「六華さんは?」

 

「私?」

 

「はい」

 

六華は少し黙った。

 

「……」

 

そして。

 

静かに答える。

 

「自分らしくいられるところ」

 

「?」

 

「悠飛の前だと、無理して誰かと比べなくていい気がする」

 

莉々華は六華を見る。

 

「……」

 

その言葉には。

 

一花や四葉とは少し違う。

 

長い時間をかけて育てたような想いが感じられた。

 

 

「じゃあ」

 

莉々華は笑った。

 

「三人とも、お兄ちゃんが好きなんですね」

 

「……」

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人が顔を見合わせる。

 

そして。

 

「そうみたい」

 

一花が笑った。

 

「私たち、ライバルなのかな?」

 

四葉が少し困った顔をする。

 

「でも、仲良くしたいです!」

 

六華も頷く。

 

「うん」

 

莉々華はその様子を眺めた。

 

不思議だった。

 

もっと険悪になると思っていた。

 

だが。

 

三人とも。

 

どこか楽しそうだった。

 

「……」

 

莉々華は思った。

 

兄は。

 

きっと。

 

この人たちに大切にされている。

 

それが。

 

妹としては少し嬉しかった。

 

 

カフェを出る。

 

「今日は楽しかったです!」

 

四葉が手を振る。

 

「また遊ぼうね」

 

一花も笑う。

 

「うん」

 

莉々華も笑顔になる。

 

「皆さん、ありがとうございました」

 

「こちらこそ」

 

五月が頭を下げる。

 

二乃も手を振る。

 

三玖も静かに頷く。

 

六華は莉々華に近づいた。

 

「莉々華」

 

「はい?」

 

「悠飛によろしく」

 

「分かった」

 

少し考えて。

 

莉々華は笑った。

 

「でも」

 

「?」

 

「私もお兄ちゃんのこと、大好きだから」

 

六華は少し驚いた。

 

そして。

 

「……うん」

 

笑った。

 

 

帰宅した莉々華。

 

リビングでは悠飛が本を読んでいた。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

莉々華は買い物袋を置く。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「今日、中野さんたちに会った」

 

「五つ子?」

 

「うん」

 

悠飛は少し驚く。

 

「偶然だな」

 

「一緒にお茶した」

 

「そうか」

 

「いろいろ聞いた」

 

「何を?」

 

莉々華は兄を見る。

 

「お兄ちゃんのこと」

 

「……」

 

悠飛の手が止まった。

 

「俺の?」

 

「うん」

 

「何を聞いたんだ?」

 

莉々華はニヤリと笑う。

 

「秘密」

 

「なんだそれ」

 

「そのうち教える」

 

悠飛は苦笑する。

 

「変なこと聞いてないだろうな?」

 

「さあ?」

 

「莉々華」

 

「ふふ」

 

莉々華は逃げるように自分の部屋へ向かう。

 

その途中。

 

「そうそう!」

 

振り返る。

 

「みんな、お兄ちゃんのこと好きみたいだよ」

 

「……」

 

悠飛が固まった。

 

「じゃあね!」

 

莉々華は階段を駆け上がっていく。

 

「おい、莉々華!」

 

返事はない。

 

悠飛は一人、リビングに取り残された。

 

「……」

 

そして。

 

「……何で俺に言うんだ」

 

苦笑する。

 

 

その夜。

 

莉々華はベッドの上でスマートフォンを眺めていた。

 

今日の出来事を思い出す。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人の表情。

 

三人の言葉。

 

「……」

 

兄が好かれている。

 

それは。

 

妹として少し複雑だ。

 

けれど。

 

悪い気はしなかった。

 

「お兄ちゃん」

 

莉々華は小さく笑う。

 

「ちゃんと大切にしなよ」

 

自分に言い聞かせるように。

 

そして。

 

一花たちとの距離も。

 

今日を境に少しずつ近づいていく。

 

これまで。

 

「兄の友達」

 

だった五つ子たち。

 

だが。

 

今日からは。

 

「お兄ちゃんを好きな女の子たち」

 

として。

 

莉々華の中にも特別な存在になった。

 

 

翌週。

 

勉強会。

 

「お兄ちゃん!」

 

莉々華が教室に入ってきた。

 

「莉々華?」

 

悠飛が振り返る。

 

「どうした?」

 

「差し入れ」

 

莉々華が袋を渡す。

 

「皆さんの分もあります」

 

「ありがとう」

 

一花たちが嬉しそうに受け取る。

 

「莉々華ちゃん、ありがとう!」

 

四葉が笑う。

 

「この前は楽しかったです!」

 

「私も」

 

莉々華は笑った。

 

そして。

 

悠飛の隣に座る。

 

「今日も勉強頑張ってね」

 

「おう」

 

「私も少し見ていこうかな」

 

「いいけど、勉強するのか?」

 

「もちろん」

 

莉々華は胸を張った。

 

その光景を見て。

 

一花、四葉、六華の三人は。

 

それぞれ違う表情を浮かべていた。

 

しかし。

 

共通していたことが一つ。

 

――悠飛の周りには。

 

――また一人。

 

大切な女の子が増えた。

 

そんな予感だった。

 

 

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