『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第18話「お兄ちゃんは渡しません!」

放課後。

 

旭高校の空き教室。

 

今日も勉強会が始まろうとしていた。

 

机を並べる音。

 

参考書を開く音。

 

窓の外から聞こえる運動部の掛け声。

 

そんな、いつもの光景。

 

「よし。今日は英語からだ」

 

風太郎が黒板に問題を書き始める。

 

「昨日の範囲から確認するぞ」

 

「はい!」

 

四葉が元気よく手を挙げた。

 

その隣では一花が教科書を開いている。

 

三玖は英単語帳。

 

五月はノート。

 

そして六華は静かに問題集を開いていた。

 

「……」

 

一方。

 

悠飛は自分の席に座りながら、今日の教材を確認していた。

 

その時。

 

「お兄ちゃん!」

 

教室の扉が開いた。

 

全員が振り返る。

 

「莉々華?」

 

そこに立っていたのは、如月莉々華だった。

 

「こんにちは」

 

「どうした?」

 

「お母さんから頼まれたものを届けに来たの」

 

莉々華は袋を掲げる。

 

「お兄ちゃんの忘れ物」

 

「ああ」

 

悠飛が受け取る。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

莉々華は笑った。

 

そして。

 

そのまま帰るのかと思われた。

 

ところが。

 

「……」

 

莉々華は五つ子たちを見る。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

そして。

 

六華。

 

「……」

 

じっと見つめる。

 

「?」

 

一花が首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

「別に」

 

莉々華は答える。

 

だが。

 

その顔には。

 

何かを決意したような表情が浮かんでいた。

 

 

「莉々華も勉強していくか?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「うん」

 

「じゃあ座ればいい」

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

莉々華は悠飛の隣に座った。

 

それを見た瞬間。

 

一花が少しだけ目を細めた。

 

四葉は笑顔。

 

六華は静かに二人を見る。

 

「……」

 

莉々華は気づいている。

 

だからこそ。

 

あえて悠飛の隣に座った。

 

昨日。

 

五つ子たちと話した。

 

その時に思った。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

みんな悠飛のことが好き。

 

なら。

 

自分も。

 

妹として兄を守らなければならない。

 

「……」

 

莉々華はノートを開く。

 

だが。

 

勉強どころではない。

 

隣にいる兄を見る。

 

いつもの悠飛。

 

優しい兄。

 

頼れる兄。

 

昔から自分を守ってくれた兄。

 

「……」

 

誰にも渡したくない。

 

そんな気持ちが。

 

少しだけ。

 

莉々華の中に芽生えていた。

 

 

「じゃあ、この問題」

 

風太郎が黒板を指す。

 

「一花」

 

「私?」

 

「答えてみろ」

 

一花が立ち上がる。

 

「えっと……」

 

答えを書く。

 

「正解」

 

「やった」

 

一花が座る。

 

「最近、調子いいな」

 

「悠飛くんのおかげかな」

 

一花が悠飛を見る。

 

「そうか?」

 

「うん」

 

一花は笑う。

 

「勉強だけじゃなくて、いろいろ教えてくれるから」

 

「そういう意味では、俺も助かってる」

 

風太郎が言う。

 

「悠飛が直感で問題の本質を掴むからな」

 

「風太郎は分析が得意」

 

悠飛が言う。

 

「俺は感覚的に考える」

 

「だから相性がいい」

 

風太郎が頷く。

 

「お前が直感で見つけた答えを、俺が理屈にする」

 

「それで五つ子たちに教える」

 

「そういうことだ」

 

莉々華は二人を見る。

 

「……」

 

兄と風太郎。

 

この二人も。

 

とても仲がいい。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「風太郎さんって、お兄ちゃんの親友?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、私より仲良し?」

 

「何を張り合ってるんだ」

 

悠飛が苦笑する。

 

風太郎も呆れる。

 

「妹に勝とうとは思わん」

 

「……」

 

莉々華は少し嬉しそうに笑った。

 

 

休憩時間。

 

「はい」

 

一花が悠飛に飲み物を渡した。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「私もあります!」

 

四葉も飲み物を差し出す。

 

「俺、一人で二本も飲まないぞ」

 

「えっ」

 

四葉が困る。

 

その横から六華が小さな袋を出す。

 

「じゃあ、これ」

 

「?」

 

「チョコレート」

 

「ありがとう」

 

悠飛が受け取る。

 

その光景を。

 

莉々華は黙って見ていた。

 

「……」

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

みんな。

 

兄に何かを渡している。

 

「……」

 

莉々華の頬が膨らむ。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「はい」

 

莉々華もお菓子を渡す。

 

「俺に?」

 

「うん」

 

「ありがとう」

 

「……」

 

悠飛が嬉しそうに笑う。

 

莉々華は満足した。

 

「やっぱりお兄ちゃんには私からが一番」

 

「何だそれ」

 

「何でもない」

 

一花が笑う。

 

「莉々華ちゃん、可愛いね」

 

「そうですか?」

 

「うん」

 

「でも」

 

莉々華は一花を見る。

 

「お兄ちゃんは渡しませんから」

 

「……」

 

空気が止まった。

 

「え?」

 

四葉が目を丸くする。

 

六華も驚いた。

 

悠飛だけが。

 

「……莉々華?」

 

首を傾げている。

 

「何を言ってるんだ?」

 

「何でもない!」

 

莉々華は顔を赤くする。

 

一花はしばらく黙っていた。

 

そして。

 

「ふふ」

 

笑った。

 

「そういうことか」

 

「何ですか?」

 

「いや」

 

一花は優しく微笑む。

 

「妹として、お兄ちゃんが大好きなんだね」

 

「……」

 

莉々華は黙る。

 

「うん」

 

そして。

 

小さく頷いた。

 

「大好き」

 

 

四葉が笑う。

 

「私も悠飛さんのこと、大好きですよ!」

 

「四葉まで何言ってるの!?」

 

莉々華が振り返る。

 

「え?」

 

四葉はきょとんとしている。

 

「だって好きですから!」

 

「……」

 

莉々華は固まった。

 

「……」

 

六華も静かに口を開く。

 

「私も」

 

「六華さんまで……」

 

「悠飛のこと、大切に思ってる」

 

「……」

 

莉々華は三人を見る。

 

一花も。

 

四葉も。

 

六華も。

 

逃げるつもりはない。

 

むしろ。

 

正面から向き合っている。

 

「……」

 

莉々華は思った。

 

この人たちは。

 

本気なんだ。

 

ただの憧れじゃない。

 

兄のことを。

 

本当に大切に思っている。

 

 

「莉々華」

 

悠飛が声をかける。

 

「何?」

 

「さっきから何を張り合ってるんだ?」

 

「……」

 

「俺はどこにも行かないぞ」

 

「……」

 

莉々華は黙った。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「約束して」

 

「何を?」

 

「ずっと私のお兄ちゃんでいて」

 

悠飛は一瞬驚いた。

 

そして。

 

優しく笑った。

 

「当たり前だろ」

 

「……」

 

「俺はずっと莉々華の兄だ」

 

「……うん」

 

莉々華は笑った。

 

「約束だからね」

 

「ああ」

 

 

その様子を見て。

 

一花は少しだけ微笑んだ。

 

「莉々華ちゃん」

 

「はい?」

 

「安心して」

 

「……?」

 

「私たちは悠飛くんを奪おうとは思ってないよ」

 

「え?」

 

一花は続ける。

 

「でも」

 

一花の目が少しだけ真剣になる。

 

「好きになる気持ちは、止められないから」

 

「……」

 

莉々華は一花を見る。

 

「私も負けません」

 

四葉が笑顔で宣言する。

 

「私も」

 

六華も頷く。

 

「……」

 

莉々華は三人を見た。

 

そして。

 

「分かりました」

 

「莉々華?」

 

「じゃあ」

 

莉々華は胸を張った。

 

「正々堂々ですね」

 

一花が笑う。

 

「うん」

 

四葉が拳を握る。

 

「はい!」

 

六華も微笑む。

 

「もちろん」

 

三人と一人。

 

四人の間に。

 

不思議な空気が生まれた。

 

敵ではない。

 

けれど。

 

譲るつもりもない。

 

そんな関係。

 

 

風太郎はその光景を見て。

 

深いため息をついた。

 

「……」

 

「どうした、風太郎?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「いや」

 

風太郎は頭を抱える。

 

「お前、本当に大変だな」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

「?」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

本人だけが。

 

まったく分かっていない。

 

「……鈍感にもほどがある」

 

「何の話だ?」

 

「気にするな」

 

 

勉強会が再開する。

 

「じゃあ、次は数学」

 

風太郎が問題を出す。

 

五つ子たちが一斉に問題集を見る。

 

莉々華も勉強を始めた。

 

しばらくして。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「ここ分からない」

 

「どれ?」

 

悠飛が莉々華のノートを見る。

 

「これはな――」

 

丁寧に教える。

 

莉々華は真剣に聞く。

 

その姿を見ながら。

 

一花は微笑んだ。

 

四葉も。

 

六華も。

 

三人とも。

 

悠飛のことを見ている。

 

優しい兄。

 

頼れる友人。

 

そして。

 

それぞれが恋する相手。

 

そんな悠飛を中心に。

 

少しずつ。

 

人間関係が変わり始めていた。

 

 

勉強会が終わる。

 

「今日はここまで」

 

風太郎が言った。

 

「お疲れ様」

 

「お疲れさまでした!」

 

四葉が伸びをする。

 

一花たちも帰り支度を始める。

 

莉々華は悠飛の鞄を持った。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「帰ろう」

 

「ああ」

 

「一緒に帰る」

 

「分かった」

 

莉々華が嬉しそうに笑う。

 

「じゃあな」

 

悠飛が五つ子たちに手を振る。

 

「また明日!」

 

四葉が手を振る。

 

「またね」

 

一花も。

 

六華も小さく手を振る。

 

「また明日」

 

二人が教室を出ていく。

 

その背中を。

 

三人が見送る。

 

 

校門。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

「何だ?」

 

「今日ね」

 

「うん」

 

「ちょっと楽しかった」

 

「何が?」

 

「みんなと話したこと」

 

「そうか」

 

「うん」

 

莉々華は兄の腕に軽く抱きつく。

 

「やっぱり、お兄ちゃんの友達っていい人たちだね」

 

「ああ」

 

「でも」

 

莉々華は笑った。

 

「お兄ちゃんは渡しません!」

 

「またそれか」

 

悠飛は苦笑する。

 

「俺は物じゃないぞ」

 

「分かってる」

 

莉々華は笑う。

 

「でも、妹として言っておきたいの」

 

「何を?」

 

「お兄ちゃんの一番近くにいるのは、私だから」

 

悠飛は少し驚いた。

 

そして。

 

「そうだな」

 

「……!」

 

「莉々華は俺の大切な妹だから」

 

「……」

 

莉々華の顔が一気に赤くなる。

 

「……もう」

 

「何だ?」

 

「そういうところ!」

 

「?」

 

「何でもない!」

 

莉々華は兄の腕を抱いたまま歩き出す。

 

夕暮れの道。

 

二人の影が並んで伸びていく。

 

その背中を。

 

遠くから。

 

六華が見ていた。

 

「……」

 

そして。

 

一花と四葉も。

 

「莉々華ちゃん、強敵だね」

 

一花が笑う。

 

「はい!」

 

四葉が頷く。

 

「でも、負けません!」

 

六華も静かに笑う。

 

「私も」

 

四人の想いは。

 

それぞれ違う。

 

妹として。

 

友人として。

 

そして。

 

恋する女性として。

 

けれど。

 

誰もが。

 

如月悠飛という一人の少年を。

 

大切に想っている。

 

まだ高校生の今。

 

その想いが。

 

二十年後の未来で。

 

どんな形へ変わっていくのか。

 

それを知る者は。

 

まだ誰もいなかった。

 

 

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