『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第19話「幼い日の記憶」

放課後。

 

旭高校の空き教室。

 

今日も勉強会が終わり、窓の外には夕焼けが広がっていた。

 

「今日はここまでだ」

 

風太郎が教科書を閉じる。

 

「明日は数学の小テストがある。忘れるなよ」

 

「はい!」

 

四葉が元気よく返事をする。

 

一花は伸びをし、三玖はノートを整理する。

 

五月は復習する箇所を確認し、六華は静かに問題集を鞄へしまった。

 

悠飛も教材を片付けていた。

 

その時だった。

 

「……あれ?」

 

悠飛が一冊の古いノートを手に取った。

 

「それ、何?」

 

一花が尋ねる。

 

「家から持ってきた古いノートだ」

 

「昔の?」

 

「ああ」

 

悠飛は表紙を見る。

 

少し色褪せている。

 

「小学生になる前くらいの頃のものらしい」

 

四葉が興味津々で近づいてきた。

 

「見てもいいですか?」

 

「別にいいぞ」

 

悠飛がページを開く。

 

そこには。

 

幼い子供が描いたらしい絵があった。

 

丸い太陽。

 

青い空。

 

そして。

 

五人の少女と、一人の少年。

 

「……」

 

六華の目が止まった。

 

「これ……」

 

「ん?」

 

六華が指差す。

 

「女の子が五人いる」

 

「本当だ」

 

一花も覗き込む。

 

「これ、私たちじゃない?」

 

二乃が首を傾げる。

 

「でも、どうして?」

 

三玖も絵を見る。

 

「……」

 

五月は少し驚いた。

 

「確かに、私たちに似ています」

 

四葉が絵を見ながら。

 

「じゃあ、この男の子は?」

 

全員の視線が悠飛へ向く。

 

「俺……なのか?」

 

悠飛自身も困惑していた。

 

 

ページをめくる。

 

そこには。

 

幼い文字が並んでいた。

 

『きょうはみんなであそんだ』

 

『たのしかった』

 

『またあそびたい』

 

そして。

 

ページの隅に。

 

一枚の小さな紙が挟まっていた。

 

悠飛が取り出す。

 

「何だこれ?」

 

開いてみる。

 

そこには。

 

子供らしい字で。

 

『またあおうね』

 

と書かれていた。

 

「……」

 

六華の胸が。

 

不思議なほど大きく鳴った。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私……」

 

六華は紙を見る。

 

「この字、見覚えがある気がする」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

だが。

 

誰が書いたのか。

 

思い出せない。

 

 

その夜。

 

如月家。

 

悠飛は自室の机に座っていた。

 

昼間のノートが気になっている。

 

「……」

 

ページをめくる。

 

記憶にない。

 

だが。

 

絵を見ると。

 

胸の奥が妙に温かくなる。

 

「五人の女の子……」

 

そして。

 

もう一つ。

 

自分の記憶にない。

 

六人目の存在。

 

「……」

 

悠飛は眉を寄せる。

 

「誰だったんだ?」

 

その時。

 

部屋の扉が開いた。

 

「お兄ちゃん」

 

「莉々華?」

 

莉々華が顔を出す。

 

「何見てるの?」

 

「昔のノート」

 

「へえ」

 

莉々華が近づく。

 

「見せて」

 

「いいぞ」

 

莉々華はページを見る。

 

「……」

 

しばらく黙る。

 

「この女の子たち……」

 

「中野たちだと思う」

 

「やっぱり?」

 

莉々華が驚く。

 

「じゃあ、お兄ちゃんと五つ子って昔から知り合いだったの?」

 

「分からない」

 

「でも、この絵」

 

莉々華が指差す。

 

「どう見ても一緒に遊んでるよ」

 

「そうだな」

 

「……」

 

莉々華は別のページを見る。

 

「これ」

 

「?」

 

『りっか』

 

「……!」

 

悠飛が目を見開く。

 

そこには。

 

幼い文字で。

 

『りっかちゃん』

 

と書かれていた。

 

「六華……?」

 

「じゃあ」

 

莉々華が驚く。

 

「六華さんも昔から一緒だったんだ」

 

「……」

 

悠飛は黙り込んだ。

 

 

翌日。

 

学校。

 

「これを見てほしい」

 

悠飛は昨日のノートを持ってきた。

 

六華たちが集まる。

 

「『りっかちゃん』……」

 

六華は文字を見つめる。

 

「私……」

 

指先が震える。

 

「やっぱり」

 

「?」

 

「この字」

 

六華は目を閉じた。

 

「思い出せそう」

 

「無理に思い出さなくていい」

 

悠飛が言う。

 

「焦る必要はない」

 

「でも……」

 

六華は頭を押さえる。

 

その瞬間。

 

一瞬だけ。

 

頭の中に。

 

古い風景が浮かんだ。

 

青い空。

 

広い公園。

 

幼い自分。

 

そして。

 

「……悠飛」

 

「!」

 

「私……悠飛と一緒にいた」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

「何をしてた?」

 

「……」

 

思い出せない。

 

ただ。

 

手を繋いでいた。

 

そんな感覚だけが残っている。

 

 

一花も目を閉じた。

 

「私も……」

 

「一花?」

 

「何か思い出しそう」

 

そして。

 

一花の頭に浮かぶ。

 

小さな自分。

 

隣にいる男の子。

 

「悠飛くん」

 

幼い声。

 

「また遊ぼうね」

 

「うん」

 

その記憶。

 

一瞬だった。

 

だが。

 

確かに。

 

そこに悠飛がいた。

 

「……」

 

一花は目を開ける。

 

「思い出した」

 

「何を?」

 

「小さい頃」

 

一花は悠飛を見る。

 

「私たち、会ってた」

 

 

四葉も。

 

「私も!」

 

突然、手を挙げた。

 

「何か思い出しました!」

 

「四葉?」

 

「公園です!」

 

「公園?」

 

「はい!」

 

四葉は目を輝かせる。

 

「みんなで遊んでました!」

 

「俺もいた?」

 

「いました!」

 

四葉は迷わず答えた。

 

「悠飛さん、私たちを守ってくれてました!」

 

「守る?」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

「転んだ私を助けてくれたんです」

 

悠飛は黙った。

 

胸の奥に。

 

何かが蘇る。

 

泣いている女の子。

 

手を差し出す自分。

 

『大丈夫』

 

『泣かないで』

 

「……」

 

悠飛は頭を押さえた。

 

「俺も……少し思い出した」

 

 

五月も。

 

「私も覚えています」

 

「五月?」

 

「全部ではありません」

 

五月はゆっくり話す。

 

「ですが、幼い頃」

 

「うん」

 

「誰か男の子と一緒に遊んだ記憶があります」

 

「俺?」

 

「おそらく」

 

五月は頷いた。

 

「そして……」

 

少し考える。

 

「その男の子が、私たちに何かを言ったんです」

 

「何を?」

 

五月は目を閉じる。

 

『五人一緒なら大丈夫』

 

「……」

 

一花たちが顔を見合わせる。

 

「それ」

 

四葉が呟く。

 

「お母さんがよく言ってた言葉に似てます」

 

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

悠飛の頭の中に。

 

強烈な映像が走った。

 

幼い五人の少女。

 

泣いている。

 

その前に立つ少年。

 

そして。

 

少し離れた場所にいる。

 

もう一人の少女。

 

六華。

 

『大丈夫だよ』

 

幼い悠飛が言っている。

 

『みんなでいれば怖くない』

 

『……うん』

 

少女たちが頷く。

 

六華も。

 

笑っている。

 

「……!」

 

悠飛は目を開いた。

 

「思い出した」

 

「悠飛?」

 

六華が振り返る。

 

「俺たちは……」

 

悠飛はゆっくり言った。

 

「幼い頃に、一緒に遊んでた」

 

「……!」

 

「五つ子だけじゃない」

 

悠飛は六華を見る。

 

「六華もいた」

 

六華の目が大きくなる。

 

「私……」

 

「みんなで遊んでたんだ」

 

「……」

 

六華の頬を。

 

一筋の涙が伝った。

 

「本当に……?」

 

「ああ」

 

悠飛は頷く。

 

「間違いない」

 

 

その日の放課後。

 

六人は学校近くの公園へ向かった。

 

「ここ……」

 

四葉が呟く。

 

「何か覚えてる」

 

公園の中央にある大きな木。

 

古いベンチ。

 

砂場。

 

ブランコ。

 

「昔もあったのかな」

 

一花が木を見る。

 

「たぶん」

 

悠飛が答える。

 

「俺もここに来た覚えがある」

 

六華が木の根元を見る。

 

「……!」

 

「どうした?」

 

「これ」

 

六華が指差す。

 

木の幹。

 

そこには。

 

小さな傷があった。

 

よく見ると。

 

「『ゆ』?」

 

悠飛が驚く。

 

その隣には。

 

『い』

 

『ち』

 

『は』

 

『よ』

 

『み』

 

『り』

 

『か』

 

「……」

 

六人の名前。

 

幼い子供が刻んだような。

 

小さな文字。

 

「私たち……」

 

六華が呟く。

 

「本当にここで遊んでたんだ」

 

四葉が嬉しそうに笑った。

 

「思い出しました!」

 

「何を?」

 

「鬼ごっこ!」

 

「鬼ごっこ?」

 

「はい!」

 

四葉が走り出す。

 

「悠飛さんが鬼です!」

 

「え?」

 

「昔もそうでした!」

 

悠飛は思わず笑う。

 

「そうだったのか」

 

「はい!」

 

四葉が笑う。

 

「私たち五人と六華ちゃんで逃げて、悠飛さんが追いかけてきたんです!」

 

「じゃあ」

 

一花が笑う。

 

「またやってみる?」

 

「今から?」

 

二乃が呆れる。

 

「高校生よ?」

 

「いいじゃん!」

 

四葉が笑う。

 

三玖も。

 

「……少しだけなら」

 

五月も頷く。

 

「私も参加します」

 

六華は笑った。

 

「私も」

 

悠飛は肩をすくめる。

 

「仕方ないな」

 

 

夕暮れの公園。

 

高校生六人が。

 

まるで子供のように走り回る。

 

「待て!」

 

「きゃー!」

 

「悠飛さん速いです!」

 

「逃げろ!」

 

笑い声。

 

昔と同じ。

 

あの日と同じ。

 

記憶の中の景色と。

 

今の景色が重なっていく。

 

悠飛は走りながら。

 

不思議な気持ちになっていた。

 

――忘れていただけだった。

 

失ったわけじゃない。

 

幼い日の記憶は。

 

確かに。

 

ここに残っていた。

 

 

やがて。

 

みんなでベンチに座る。

 

「疲れた……」

 

二乃が息を切らす。

 

「高校生になって鬼ごっこするとは思わなかった」

 

一花が笑う。

 

「でも楽しかった」

 

「はい!」

 

四葉は満面の笑顔。

 

六華も。

 

静かに笑っている。

 

「ねえ」

 

悠飛が言った。

 

「これからは」

 

全員が悠飛を見る。

 

「忘れないようにしよう」

 

「何を?」

 

「今日みたいな時間を」

 

一花が笑う。

 

「うん」

 

四葉も。

 

「はい!」

 

六華も頷く。

 

「約束」

 

「約束だ」

 

悠飛が答えた。

 

 

帰り道。

 

六華は悠飛の隣を歩いていた。

 

「今日はありがとう」

 

「何が?」

 

「記憶を思い出させてくれて」

 

「俺だけじゃない」

 

「それでも」

 

六華は笑う。

 

「嬉しい」

 

悠飛も笑った。

 

「俺も」

 

「……」

 

六華は少しだけ悠飛に近づく。

 

「これからも」

 

「ん?」

 

「昔みたいに、一緒にいてくれる?」

 

「もちろん」

 

「約束?」

 

「ああ」

 

六華は嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ」

 

その言葉を胸に刻むように。

 

「今度は、絶対忘れない」

 

夕暮れの道。

 

二人の影が並んで伸びていく。

 

その後ろには。

 

一花と四葉たちの姿。

 

そして。

 

彼女たちもまた。

 

少しずつ。

 

忘れていた幼い日の記憶を取り戻し始めていた。

 

だが。

 

まだ誰も知らない。

 

この幼い日の再会が。

 

やがて。

 

日の出祭で起きる大きな事件と。

 

悠飛の右眼に起きる運命の出来事へと。

 

繋がっていくことを――。

 

 

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