『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
放課後。
旭高校の空き教室。
今日も勉強会が終わり、窓の外には夕焼けが広がっていた。
「今日はここまでだ」
風太郎が教科書を閉じる。
「明日は数学の小テストがある。忘れるなよ」
「はい!」
四葉が元気よく返事をする。
一花は伸びをし、三玖はノートを整理する。
五月は復習する箇所を確認し、六華は静かに問題集を鞄へしまった。
悠飛も教材を片付けていた。
その時だった。
「……あれ?」
悠飛が一冊の古いノートを手に取った。
「それ、何?」
一花が尋ねる。
「家から持ってきた古いノートだ」
「昔の?」
「ああ」
悠飛は表紙を見る。
少し色褪せている。
「小学生になる前くらいの頃のものらしい」
四葉が興味津々で近づいてきた。
「見てもいいですか?」
「別にいいぞ」
悠飛がページを開く。
そこには。
幼い子供が描いたらしい絵があった。
丸い太陽。
青い空。
そして。
五人の少女と、一人の少年。
「……」
六華の目が止まった。
「これ……」
「ん?」
六華が指差す。
「女の子が五人いる」
「本当だ」
一花も覗き込む。
「これ、私たちじゃない?」
二乃が首を傾げる。
「でも、どうして?」
三玖も絵を見る。
「……」
五月は少し驚いた。
「確かに、私たちに似ています」
四葉が絵を見ながら。
「じゃあ、この男の子は?」
全員の視線が悠飛へ向く。
「俺……なのか?」
悠飛自身も困惑していた。
◇
ページをめくる。
そこには。
幼い文字が並んでいた。
『きょうはみんなであそんだ』
『たのしかった』
『またあそびたい』
そして。
ページの隅に。
一枚の小さな紙が挟まっていた。
悠飛が取り出す。
「何だこれ?」
開いてみる。
そこには。
子供らしい字で。
『またあおうね』
と書かれていた。
「……」
六華の胸が。
不思議なほど大きく鳴った。
「悠飛」
「ん?」
「私……」
六華は紙を見る。
「この字、見覚えがある気がする」
「本当に?」
「うん」
だが。
誰が書いたのか。
思い出せない。
◇
その夜。
如月家。
悠飛は自室の机に座っていた。
昼間のノートが気になっている。
「……」
ページをめくる。
記憶にない。
だが。
絵を見ると。
胸の奥が妙に温かくなる。
「五人の女の子……」
そして。
もう一つ。
自分の記憶にない。
六人目の存在。
「……」
悠飛は眉を寄せる。
「誰だったんだ?」
その時。
部屋の扉が開いた。
「お兄ちゃん」
「莉々華?」
莉々華が顔を出す。
「何見てるの?」
「昔のノート」
「へえ」
莉々華が近づく。
「見せて」
「いいぞ」
莉々華はページを見る。
「……」
しばらく黙る。
「この女の子たち……」
「中野たちだと思う」
「やっぱり?」
莉々華が驚く。
「じゃあ、お兄ちゃんと五つ子って昔から知り合いだったの?」
「分からない」
「でも、この絵」
莉々華が指差す。
「どう見ても一緒に遊んでるよ」
「そうだな」
「……」
莉々華は別のページを見る。
「これ」
「?」
『りっか』
「……!」
悠飛が目を見開く。
そこには。
幼い文字で。
『りっかちゃん』
と書かれていた。
「六華……?」
「じゃあ」
莉々華が驚く。
「六華さんも昔から一緒だったんだ」
「……」
悠飛は黙り込んだ。
◇
翌日。
学校。
「これを見てほしい」
悠飛は昨日のノートを持ってきた。
六華たちが集まる。
「『りっかちゃん』……」
六華は文字を見つめる。
「私……」
指先が震える。
「やっぱり」
「?」
「この字」
六華は目を閉じた。
「思い出せそう」
「無理に思い出さなくていい」
悠飛が言う。
「焦る必要はない」
「でも……」
六華は頭を押さえる。
その瞬間。
一瞬だけ。
頭の中に。
古い風景が浮かんだ。
青い空。
広い公園。
幼い自分。
そして。
「……悠飛」
「!」
「私……悠飛と一緒にいた」
「本当に?」
「うん」
「何をしてた?」
「……」
思い出せない。
ただ。
手を繋いでいた。
そんな感覚だけが残っている。
◇
一花も目を閉じた。
「私も……」
「一花?」
「何か思い出しそう」
そして。
一花の頭に浮かぶ。
小さな自分。
隣にいる男の子。
「悠飛くん」
幼い声。
「また遊ぼうね」
「うん」
その記憶。
一瞬だった。
だが。
確かに。
そこに悠飛がいた。
「……」
一花は目を開ける。
「思い出した」
「何を?」
「小さい頃」
一花は悠飛を見る。
「私たち、会ってた」
◇
四葉も。
「私も!」
突然、手を挙げた。
「何か思い出しました!」
「四葉?」
「公園です!」
「公園?」
「はい!」
四葉は目を輝かせる。
「みんなで遊んでました!」
「俺もいた?」
「いました!」
四葉は迷わず答えた。
「悠飛さん、私たちを守ってくれてました!」
「守る?」
「はい!」
四葉は笑う。
「転んだ私を助けてくれたんです」
悠飛は黙った。
胸の奥に。
何かが蘇る。
泣いている女の子。
手を差し出す自分。
『大丈夫』
『泣かないで』
「……」
悠飛は頭を押さえた。
「俺も……少し思い出した」
◇
五月も。
「私も覚えています」
「五月?」
「全部ではありません」
五月はゆっくり話す。
「ですが、幼い頃」
「うん」
「誰か男の子と一緒に遊んだ記憶があります」
「俺?」
「おそらく」
五月は頷いた。
「そして……」
少し考える。
「その男の子が、私たちに何かを言ったんです」
「何を?」
五月は目を閉じる。
『五人一緒なら大丈夫』
「……」
一花たちが顔を見合わせる。
「それ」
四葉が呟く。
「お母さんがよく言ってた言葉に似てます」
◇
その言葉を聞いた瞬間。
悠飛の頭の中に。
強烈な映像が走った。
幼い五人の少女。
泣いている。
その前に立つ少年。
そして。
少し離れた場所にいる。
もう一人の少女。
六華。
『大丈夫だよ』
幼い悠飛が言っている。
『みんなでいれば怖くない』
『……うん』
少女たちが頷く。
六華も。
笑っている。
「……!」
悠飛は目を開いた。
「思い出した」
「悠飛?」
六華が振り返る。
「俺たちは……」
悠飛はゆっくり言った。
「幼い頃に、一緒に遊んでた」
「……!」
「五つ子だけじゃない」
悠飛は六華を見る。
「六華もいた」
六華の目が大きくなる。
「私……」
「みんなで遊んでたんだ」
「……」
六華の頬を。
一筋の涙が伝った。
「本当に……?」
「ああ」
悠飛は頷く。
「間違いない」
◇
その日の放課後。
六人は学校近くの公園へ向かった。
「ここ……」
四葉が呟く。
「何か覚えてる」
公園の中央にある大きな木。
古いベンチ。
砂場。
ブランコ。
「昔もあったのかな」
一花が木を見る。
「たぶん」
悠飛が答える。
「俺もここに来た覚えがある」
六華が木の根元を見る。
「……!」
「どうした?」
「これ」
六華が指差す。
木の幹。
そこには。
小さな傷があった。
よく見ると。
「『ゆ』?」
悠飛が驚く。
その隣には。
『い』
『ち』
『は』
『よ』
『み』
『り』
『か』
「……」
六人の名前。
幼い子供が刻んだような。
小さな文字。
「私たち……」
六華が呟く。
「本当にここで遊んでたんだ」
四葉が嬉しそうに笑った。
「思い出しました!」
「何を?」
「鬼ごっこ!」
「鬼ごっこ?」
「はい!」
四葉が走り出す。
「悠飛さんが鬼です!」
「え?」
「昔もそうでした!」
悠飛は思わず笑う。
「そうだったのか」
「はい!」
四葉が笑う。
「私たち五人と六華ちゃんで逃げて、悠飛さんが追いかけてきたんです!」
「じゃあ」
一花が笑う。
「またやってみる?」
「今から?」
二乃が呆れる。
「高校生よ?」
「いいじゃん!」
四葉が笑う。
三玖も。
「……少しだけなら」
五月も頷く。
「私も参加します」
六華は笑った。
「私も」
悠飛は肩をすくめる。
「仕方ないな」
◇
夕暮れの公園。
高校生六人が。
まるで子供のように走り回る。
「待て!」
「きゃー!」
「悠飛さん速いです!」
「逃げろ!」
笑い声。
昔と同じ。
あの日と同じ。
記憶の中の景色と。
今の景色が重なっていく。
悠飛は走りながら。
不思議な気持ちになっていた。
――忘れていただけだった。
失ったわけじゃない。
幼い日の記憶は。
確かに。
ここに残っていた。
◇
やがて。
みんなでベンチに座る。
「疲れた……」
二乃が息を切らす。
「高校生になって鬼ごっこするとは思わなかった」
一花が笑う。
「でも楽しかった」
「はい!」
四葉は満面の笑顔。
六華も。
静かに笑っている。
「ねえ」
悠飛が言った。
「これからは」
全員が悠飛を見る。
「忘れないようにしよう」
「何を?」
「今日みたいな時間を」
一花が笑う。
「うん」
四葉も。
「はい!」
六華も頷く。
「約束」
「約束だ」
悠飛が答えた。
◇
帰り道。
六華は悠飛の隣を歩いていた。
「今日はありがとう」
「何が?」
「記憶を思い出させてくれて」
「俺だけじゃない」
「それでも」
六華は笑う。
「嬉しい」
悠飛も笑った。
「俺も」
「……」
六華は少しだけ悠飛に近づく。
「これからも」
「ん?」
「昔みたいに、一緒にいてくれる?」
「もちろん」
「約束?」
「ああ」
六華は嬉しそうに笑った。
「じゃあ」
その言葉を胸に刻むように。
「今度は、絶対忘れない」
夕暮れの道。
二人の影が並んで伸びていく。
その後ろには。
一花と四葉たちの姿。
そして。
彼女たちもまた。
少しずつ。
忘れていた幼い日の記憶を取り戻し始めていた。
だが。
まだ誰も知らない。
この幼い日の再会が。
やがて。
日の出祭で起きる大きな事件と。
悠飛の右眼に起きる運命の出来事へと。
繋がっていくことを――。