『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
土曜日の朝。
旭高校は休校日だった。
普段なら部活動に向かう生徒たちで賑わう校舎も、今日はどこか静かだ。
そんな中。
如月家では――。
「お兄ちゃん!」
莉々華の声が響いた。
「起きてる!?」
「起きてる」
悠飛は階段を下りながら答える。
「朝からどうした?」
「今日は出かけるんでしょ?」
「ああ」
悠飛は玄関に置かれた鞄を見る。
「みんなと約束してる」
「五つ子さんたち?」
「それと六華」
「……」
莉々華は少し頬を膨らませた。
「私も行く」
「いいけど」
悠飛は笑った。
「何するか分かってるのか?」
「分からない」
「……」
「でも行きたい」
「なら一緒に来ればいい」
「やった!」
莉々華は嬉しそうに笑った。
今日は。
幼い頃の記憶を取り戻すため。
みんなで昔遊んだ場所を巡ることになっていた。
そして。
その中には。
莉々華も加わることになった。
七人。
幼い頃の記憶を持つ。
七人の少年少女たち。
◇
待ち合わせ場所。
駅前の広場。
「おはようございます!」
四葉が大きく手を振っている。
その隣に一花。
二乃。
三玖。
五月。
そして六華。
「おはよう」
悠飛が手を振る。
「莉々華ちゃんも一緒なんだ」
一花が笑う。
「はい」
莉々華は頷く。
「お兄ちゃんについてきました」
「ふふ」
一花が笑う。
「仲良しだね」
「普通です」
「そう?」
四葉が笑う。
「昨日も一緒に帰ってましたよね?」
「……」
莉々華が四葉を見る。
「どうして知ってるの?」
「見ました!」
「……」
「四葉」
一花が苦笑する。
「そういうところ、隠さないよね」
「え?」
四葉はきょとんとしていた。
◇
「まず、どこに行く?」
風太郎も集合していた。
今日は勉強会ではない。
風太郎も幼い頃の記憶を整理するため、一緒に来ている。
悠飛が答える。
「昔住んでいた辺り」
「分かるのか?」
「何となく」
「随分曖昧だな」
「俺たちの記憶も曖昧だからな」
六華が頷く。
「でも」
「ん?」
「昨日、公園に行った時」
六華は目を細める。
「いろいろ思い出せた」
「俺も」
悠飛が答える。
「じゃあ、そこから行こう」
風太郎が言った。
◇
昔の公園。
昨日訪れた場所。
大きな木。
古いベンチ。
そして。
木の幹に残された小さな傷。
「……」
莉々華がそれを見る。
「本当に名前がある」
「でしょう?」
四葉が嬉しそうに言う。
「昔の私たちが書いたんですよ」
「でも」
莉々華は少し不思議そうにする。
「私の名前はない」
「……」
その一言に。
全員が黙った。
「莉々華は当時、まだ一緒じゃなかったのかもしれない」
悠飛が言う。
「私だけ後からだったのかな」
「多分な」
莉々華は少し寂しそうに笑った。
「そっか」
すると。
六華が莉々華の手を取った。
「でも」
「?」
「今は一緒」
「六華さん……」
「だから大丈夫」
莉々華は笑った。
「うん」
◇
「ところで」
一花が言う。
「私たちって、本当に七人だったの?」
悠飛が頷く。
「記憶ではそうだ」
「五つ子と悠飛と六華」
「そういうことだ」
「なんか不思議」
四葉が笑う。
「私たち、ずっと一緒だったんですね」
「でも」
三玖が呟く。
「どうして忘れてたんだろう」
五月も考える。
「何か理由があるのでしょうか」
風太郎が口を挟む。
「幼少期の記憶なんて、普通は曖昧になる」
「それだけ?」
「分からない」
風太郎は木を見る。
「ただ」
「?」
「ここまで一致しているなら、偶然とは思えない」
悠飛も頷いた。
「そうだな」
◇
その時。
四葉が何かを見つけた。
「これ!」
地面に埋まっていた。
小さな金属製の箱。
「何これ?」
二乃が近づく。
「昔の宝箱?」
「開けてみよう」
悠飛が拾い上げる。
蓋を開ける。
中には。
古い写真。
小さなビー玉。
折り紙。
そして。
一枚の紙。
「……」
悠飛が紙を開く。
幼い字で書かれていた。
『いつまでもなかよし』
「……」
全員が黙る。
その下には。
七人分の名前が並んでいた。
「一花」
「二乃」
「三玖」
「四葉」
「五月」
「六華」
そして。
「悠飛」
七人。
「……」
一花の目に涙が浮かぶ。
「本当に」
「うん」
「私たち」
四葉が笑う。
「幼馴染だったんですね!」
◇
その瞬間。
悠飛の記憶が一気に蘇った。
幼い頃。
七人で公園に集まっていた。
五つ子。
六華。
そして自分。
「みんなで秘密基地を作ろう!」
幼い四葉が叫ぶ。
「賛成!」
一花が手を挙げる。
「面白そう」
二乃。
「……何をする?」
三玖。
「楽しみですね」
五月。
六華も笑っている。
そして。
幼い悠飛が言った。
「じゃあ、ここを秘密の場所にしよう」
「うん!」
「約束!」
七人が手を重ねる。
『大人になっても、ずっと友達』
「……」
悠飛は目を開ける。
「思い出した」
「悠飛?」
「俺たちはここで約束した」
六華が目を見開く。
「何を?」
「大人になっても」
悠飛は笑う。
「ずっと友達でいるって」
◇
「……」
六華の目に涙が浮かぶ。
「私……覚えてる」
「本当に?」
「うん」
六華は頷く。
「悠飛が言った」
『絶対忘れない』
「……」
「でも」
六華は苦笑する。
「私たち、忘れちゃったね」
悠飛は少し黙った。
「だから」
「?」
「今から取り戻せばいい」
「……」
六華は笑った。
「うん」
◇
その横で。
一花も目を閉じていた。
「私も思い出した」
「一花?」
「小さい頃の悠飛くん」
一花は笑う。
「今と変わらなかった」
「俺が?」
「うん」
「どんなところが?」
「優しいところ」
一花は少し照れる。
「あと」
「あと?」
「私たちを守ってくれたところ」
四葉も頷く。
「そうです!」
「四葉も?」
「はい!」
四葉は胸を張る。
「悠飛さんは昔からヒーローでした!」
「大げさだ」
「大げさじゃありません!」
◇
三玖が古い写真を見ていた。
「……」
写真の中央。
幼い七人。
その中で。
悠飛の隣に。
六華が立っている。
反対側には四葉。
そして一花も近い。
「……」
三玖が小さく笑う。
「本当に仲良しだったんだ」
「うん」
六華が答える。
「みんなで遊んでた」
「羨ましい」
三玖が呟く。
「今も同じ」
悠飛が言う。
「今も七人でいる」
「……」
三玖は嬉しそうに笑った。
◇
「ところで」
二乃が写真を見る。
「これ、私たち全員同じ服じゃない?」
「そうですね」
五月が頷く。
「五つ子ですから」
「六華まで同じ服なのが面白い」
一花が笑う。
「従姉妹だから合わせたのかも」
六華が笑う。
「昔はみんなでお揃いにしたがったんだと思う」
「じゃあ悠飛は?」
四葉が聞く。
「俺は?」
「一人だけ男の子」
二乃が笑う。
「でも、ちゃんと仲間だったんだね」
悠飛も笑った。
「ああ」
◇
その時。
莉々華が写真を見ていた。
「……」
「どうした?」
悠飛が尋ねる。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私も昔、ここに来たことある?」
「……」
悠飛は写真を見る。
莉々華は写っていない。
「分からない」
「そっか」
「でも」
悠飛は莉々華の頭に手を置く。
「今は一緒だ」
「……」
「それでいいだろ?」
莉々華は少し照れながら。
「うん」
と答えた。
◇
午後。
七人は昔よく遊んだという商店街へ向かった。
「ここ、覚えてる!」
四葉が叫ぶ。
「駄菓子屋!」
「まだあるんだ」
一花が驚く。
「入ってみよう!」
「高校生なのに?」
二乃が言いながらもついていく。
店の中。
懐かしい駄菓子。
昔ながらのおもちゃ。
「これ!」
三玖が小さな玩具を手に取る。
「昔、悠飛と遊んだ」
「本当?」
「うん」
悠飛も思い出す。
「勝負してたな」
「……」
三玖の頬が少し赤くなる。
「懐かしい」
五月はお菓子を眺めていた。
「これも昔食べました」
「覚えてるんだ」
「少しだけ」
六華は。
店の奥にある小さな玩具を見る。
「……」
「どうした?」
悠飛が聞く。
「これ」
六華は手に取る。
小さなブレスレット。
「昔、悠飛がくれた」
「俺が?」
「うん」
「全然覚えてない」
「私は覚えてる」
六華は大切そうに握った。
「宝物だったから」
「……」
悠飛は何も言えなかった。
◇
帰り道。
夕方。
七人は並んで歩いていた。
「今日は楽しかったですね!」
四葉が笑う。
「うん」
一花も頷く。
「昔のことを思い出せて良かった」
二乃も少し嬉しそうだ。
三玖と五月も。
「……」
六華は悠飛の隣。
莉々華は反対側。
風太郎は少し後ろ。
「なあ」
悠飛が言った。
「これからも、こうして集まらないか?」
「もちろん!」
四葉が即答する。
「賛成」
一花も。
「私も」
六華。
「俺も構わない」
風太郎。
五つ子たちも頷く。
そして。
莉々華が言う。
「私も」
悠飛が笑う。
「じゃあ決まりだ」
◇
七人。
幼馴染。
それは。
ただ昔から知っているというだけの関係ではない。
忘れていた時間。
離れていた時間。
そして。
今、再び繋がった時間。
すべてを含めて。
彼らの関係は。
新しく始まろうとしていた。
ただし。
七人の中には。
まだ誰も知らない未来がある。
やがて。
青春の最後を飾る日の出祭。
そこで起きる。
無堂仁之介による騒動。
そして。
五月を守るため。
悠飛が身を挺して立ちはだかり。
右眼の光を失うことになる運命。
それは。
まだ少し先の話。
今はただ。
幼い日の約束を胸に。
七人は笑いながら。
夕暮れの道を歩いていた。
「ずっと友達!」
四葉が叫ぶ。
「おう!」
悠飛が答える。
「ずっと」
一花も笑う。
「忘れない」
六華が静かに続ける。
その言葉に。
悠飛は頷いた。
「今度こそな」
七人の影が。
夕日に照らされて。
長く。
長く。
一つに重なっていった。