『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
六月下旬。
旭高校では、夏休みを目前に控えた生徒たちが、期末試験に追われていた。
廊下には「試験一週間前」の張り紙。
教室では問題集を開く生徒たち。
そして――。
「……」
空き教室の一角。
五つ子たちは、揃って机に向かっていた。
「数学……」
一花が問題集を見つめる。
「英語……」
三玖が単語帳をめくる。
「理科……」
五月がノートを確認する。
「社会……」
二乃がため息をつく。
「体育!」
四葉が元気よく手を挙げた。
「それは勉強しなくていい」
風太郎が即座に突っ込んだ。
「ええっ!?」
「期末試験だぞ」
「知ってます!」
「なら勉強しろ」
「はい!」
その光景を。
悠飛は笑いながら見ていた。
「だいぶ慣れてきたな」
「何に?」
一花が聞く。
「勉強会」
「そうだね」
一花は微笑んだ。
「最初の頃とは全然違う」
「最初は教科書を開くところから苦労してたからな」
風太郎が言う。
「誰のせいだと思ってるのよ」
二乃が睨む。
「俺のせいじゃない」
「……」
「二乃」
悠飛が口を挟む。
「今のは風太郎が正しい」
「悠飛まで!」
二乃が頬を膨らませる。
「ほら」
一花が笑う。
「仲良くして」
「私は普通に仲良くしてるわよ」
「そうか?」
風太郎が言う。
「なら、俺のノートを破るな」
「それは……」
二乃が目を逸らした。
「昔の話よ」
「一週間前だ」
「細かいわね!」
教室に笑い声が響く。
以前なら考えられなかった光景だった。
五つ子たちは勉強を嫌がりながらも、逃げなくなった。
風太郎は教師ではない。
悠飛も教師ではない。
それでも。
友人として。
互いに支え合いながら。
少しずつ前へ進んでいる。
◇
「さて」
悠飛が立ち上がる。
「今日は作戦を決めよう」
「作戦?」
四葉が目を輝かせる。
「期末試験対策だ」
悠飛は黒板に五人の名前を書く。
「一花」
「はい」
「国語は問題ない。英語を重点的に」
「了解」
「二乃」
「何?」
「数学」
「……」
「三玖」
「社会」
「任せて」
「四葉」
「はい!」
「全教科、平均的に。ただしケアレスミスを減らす」
「頑張ります!」
「五月」
「はい」
「理科と数学」
「分かりました」
そして。
悠飛は六華を見る。
「六華」
「私?」
「苦手科目は?」
「……数学」
「じゃあ俺とやろう」
「!」
六華の表情が明るくなる。
「うん」
「俺が説明する」
「ありがとう」
それを見て。
一花が少し笑った。
「悠飛くん」
「ん?」
「六華には随分優しいね」
「幼馴染だからな」
「……」
六華の頬が赤くなる。
「幼馴染……」
その言葉が。
胸に響いた。
◇
「悠飛」
風太郎が黒板を指差す。
「お前の計画だと、五人全員の苦手科目を潰すことになっているが」
「ああ」
「自分の勉強は?」
「してる」
「いつ?」
「帰宅後」
「睡眠時間は?」
「確保してる」
風太郎はため息をついた。
「相変わらず化け物だな」
「神様から能力をもらったからな」
「それを平然と言うな」
「冗談だ」
「冗談に聞こえない」
一花たちが笑う。
「本当に二人って仲いいね」
「腐れ縁だ」
風太郎が答える。
「高校からの友人だからな」
悠飛も笑う。
「風太郎は俺の右腕だ」
「勝手に右腕にするな」
「嫌か?」
「……」
風太郎は少しだけ黙った。
「まあ」
「?」
「悪くはない」
「素直じゃないな」
「うるさい」
二人のやり取りに。
四葉が笑う。
「いいコンビです!」
◇
試験前日。
放課後。
最後の勉強会。
教室には緊張感が漂っていた。
「明日からだね」
一花が言う。
「はい」
五月が頷く。
「今までよりは、自信があります」
「私も」
三玖が答える。
二乃も。
「……まあ」
「何?」
悠飛が聞く。
「ちょっとだけ」
「それでいい」
悠飛は笑った。
「最初から満点を狙う必要はない」
「でも」
五月が言う。
「できるなら上を目指したいです」
「その意気だ」
風太郎が頷く。
「努力した分だけ、結果は変わる」
「うん」
五人が頷く。
◇
そして。
試験初日。
国語。
一花は問題用紙を見た。
「……」
思ったより。
解ける。
以前なら。
文章を読むだけで嫌になっていた。
けれど。
「悠飛くんに教えてもらったところ」
思い出す。
「文章の中に答えがある」
ペンを走らせる。
◇
二時間目。
数学。
四葉は問題を見つめる。
「……」
分からない。
一瞬。
焦りそうになる。
だが。
「落ち着いて」
悠飛の声が蘇る。
『分からない問題が出たら、一度飛ばせ』
『解ける問題から確実に取る』
「……」
四葉は頷く。
そして。
解ける問題を探す。
一つ。
二つ。
三つ。
「できる」
◇
三玖は社会。
問題を読んだ瞬間。
「あ」
知っている。
「勉強会でやった」
答えを書く。
その手は。
以前よりずっと速かった。
◇
五月。
理科。
難しい問題。
しかし。
「これは……」
公式を思い出す。
「分かります」
ペンが動く。
◇
二乃。
英語。
「……」
長文問題。
以前なら。
「無理」
と投げていた。
だが。
『単語を全部訳す必要はない』
風太郎の言葉。
『前後関係から意味を推測しろ』
そして。
悠飛の言葉。
『分からないものを恐れるな』
二乃は笑った。
「……なるほどね」
答えを書いた。
◇
そして。
六華。
数学。
一番苦手な科目。
問題を見て。
一瞬。
手が止まった。
「……」
昨日。
悠飛と一緒に勉強した。
『この問題は、まずここ』
『焦らなくていい』
『六華ならできる』
「……」
六華は深呼吸する。
「やる」
ペンを握る。
一問。
二問。
三問。
「……」
解ける。
◇
試験終了。
放課後。
教室。
「終わった……」
四葉が机に突っ伏した。
「お疲れ」
悠飛が笑う。
「どうだった?」
「結構できました!」
「私は普通」
一花。
「まあまあ」
二乃。
「手応えはある」
三玖。
「難しい問題もありましたが、以前よりは……」
五月。
六華は。
「数学」
「うん」
「思ったよりできた」
「それは良かった」
悠飛が笑う。
「みんな頑張ったな」
「悠飛くん」
一花が言う。
「これ」
「?」
一花は小さく拳を握る。
「みんなで頑張れたの、悠飛くんと風太郎のおかげだよ」
四葉も頷く。
「はい!」
「私も」
三玖。
「ありがとうございます」
五月。
二乃も。
「……まあ」
「何だ?」
「ありがと」
小さな声だった。
「聞こえない」
「うるさい!」
◇
数日後。
試験結果が返ってきた。
教室。
「……」
五つ子たちが点数表を見る。
「……」
一花。
「上がった」
二乃。
「私も」
三玖。
「……」
四葉。
「やった!」
五月。
「全員、前より上がっています!」
そして。
六華も。
「私も」
悠飛が笑う。
「よくやった」
風太郎も点数表を見る。
「まだ課題はあるが」
「うん」
「確実に前進してる」
五人は顔を見合わせた。
「……」
嬉しい。
その気持ちは。
以前よりずっと大きかった。
◇
昼休み。
中庭。
五つ子と六華。
そして悠飛。
「ねえ」
一花が言う。
「夏休み」
「ん?」
「みんなでどこか行かない?」
「いいですね!」
四葉が賛成する。
「海とか!」
「海……」
三玖が呟く。
二乃も。
「悪くない」
五月は考える。
「大勢なら楽しそうですね」
六華も頷く。
「私も行きたい」
悠飛は笑った。
「じゃあ」
「?」
「夏休みの計画を立てるか」
「やった!」
四葉が喜ぶ。
その瞬間。
悠飛はふと空を見上げた。
青い空。
白い雲。
そして。
遠くから聞こえる蝉の声。
「夏か」
「そうだね」
一花が隣に立つ。
「高校生活の夏休み」
四葉が笑う。
「思いっきり楽しみましょう!」
悠飛も笑った。
「ああ」
まだ。
誰も知らない。
この夏が。
七人の絆をさらに深める季節になることを。
そして。
その先に待つ。
学園祭――日の出祭で。
大きな事件が起きることを。
今はまだ。
誰も知らない。
ただ。
夏の始まりを告げる風が。
七人の間を静かに吹き抜けていた。