『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第22話「勉強会、夏の陣」

夏休み初日。

 

蝉の声が、朝から街中に響いていた。

 

強い日差しが照りつける中、如月家の大きな門の前に、一人の少女が立っていた。

 

「暑い……」

 

中野五月は額の汗をハンカチで拭う。

 

「でも……」

 

視線を上げる。

 

目の前にあるのは、都内でも有数の広さを誇る如月家の邸宅。

 

高校生の住む家としては、あまりにも立派だった。

 

「ここで夏休みの勉強会ですか……」

 

五月が呟いた瞬間。

 

「五月!」

 

明るい声が飛んできた。

 

「四葉!」

 

「おはようございます!」

 

四葉が手を振りながら駆けてくる。

 

その後ろから、一花、二乃、三玖、六華もやってきた。

 

「おはよう」

 

一花が笑う。

 

「今日も暑いね」

 

「暑すぎるわよ」

 

二乃が髪を整える。

 

「朝から汗をかくなんて最悪」

 

「……」

 

三玖は日傘を差している。

 

「冷たいもの、食べたい」

 

「私もです!」

 

五月が反応する。

 

「勉強会の前に何か食べませんか?」

 

「五月、勉強する気ある?」

 

二乃が呆れる。

 

「もちろんあります!」

 

「じゃあ何で食べる話になるのよ」

 

「頭を使うには糖分が必要です」

 

「理屈は合ってるけど……」

 

一花が笑った。

 

そんな五つ子たちの後ろで。

 

六華が静かに笑っていた。

 

「相変わらずだね」

 

「六華ちゃんも慣れてきたね」

 

四葉が言う。

 

「うん」

 

六華は頷いた。

 

「この騒がしさも、嫌いじゃない」

 

「でしょ?」

 

四葉が嬉しそうに笑った。

 

 

門が開く。

 

「お待たせ」

 

如月悠飛が姿を現した。

 

白いシャツに黒いパンツ。

 

夏らしい軽装。

 

まだ高校生だというのに、立っているだけで妙な存在感がある。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が手を振る。

 

「おはよう」

 

「おはようございます!」

 

一花も挨拶する。

 

「おはよう、悠飛くん」

 

「おはよう」

 

二乃、三玖、五月、六華も続く。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「……おはよう」

 

「おはよう、悠飛」

 

そして。

 

「お兄ちゃん!」

 

最後に莉々華が玄関から顔を出した。

 

「おはよう」

 

「おはようございます!」

 

「みんな揃ったな」

 

悠飛は時計を見る。

 

「風太郎は?」

 

「もう来てるぞ」

 

後ろから声がした。

 

「お前ら、朝から元気すぎる」

 

上杉風太郎が玄関から出てくる。

 

「風太郎!」

 

四葉が笑う。

 

「今日もよろしくお願いします!」

 

「勉強するならな」

 

「もちろんです!」

 

風太郎はため息をついた。

 

「その返事をどこまで信用していいものか……」

 

 

「では」

 

リビング。

 

大きなテーブルに全員が座る。

 

黒板代わりのホワイトボード。

 

参考書。

 

ノート。

 

筆記用具。

 

冷たい麦茶。

 

準備は万全だった。

 

悠飛がホワイトボードの前に立つ。

 

「夏休み初日だからって、遊びだけにはしない」

 

「えー」

 

四葉が声を上げる。

 

「勉強も遊びも両方やる」

 

「それなら賛成です!」

 

「現金だな」

 

風太郎が呆れる。

 

悠飛は笑う。

 

「午前中は勉強」

 

「午後は?」

 

一花が尋ねる。

 

「自由時間」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「やった!」

 

四葉が喜ぶ。

 

「ただし」

 

悠飛が人差し指を立てる。

 

「午前中に決めた課題を終わらせること」

 

「はい!」

 

五人が返事をする。

 

六華も頷いた。

 

「分かった」

 

 

最初の科目は数学。

 

「今日は二次関数」

 

風太郎が問題を書いていく。

 

「夏休み中に、この分野を完全に理解する」

 

「……」

 

二乃の顔が曇った。

 

「数学……」

 

「苦手?」

 

悠飛が聞く。

 

「嫌いなの」

 

「同じことだろ」

 

「違うわよ」

 

二乃が反論する。

 

「嫌いだから苦手なの」

 

「なら」

 

悠飛は問題を一枚渡した。

 

「嫌いじゃなくなるところまでやろう」

 

「簡単に言うわね」

 

「簡単だ」

 

「……」

 

「一問ずつやればいい」

 

二乃は問題を見る。

 

「……分かった」

 

ペンを握る。

 

 

三十分後。

 

「できた」

 

二乃が顔を上げる。

 

「正解」

 

悠飛が答える。

 

「……本当に?」

 

「本当」

 

「やった……」

 

二乃は少し嬉しそうに笑った。

 

一花が横から覗く。

 

「二乃、嬉しそう」

 

「うるさい」

 

「ふふ」

 

「笑わないで」

 

「ごめんごめん」

 

二乃は再び問題集を見る。

 

だが。

 

その口元には。

 

小さな笑みが残っていた。

 

 

一方。

 

四葉は。

 

「……」

 

問題集を前に固まっていた。

 

「四葉」

 

「はい!」

 

「どうした?」

 

「分かりません!」

 

即答だった。

 

風太郎が額を押さえる。

 

「まだ問題文を読んだだけだろ」

 

「読んでも分かりません!」

 

「まず読め」

 

「はい!」

 

四葉は問題文を読む。

 

「……」

 

「どうだ?」

 

「やっぱり分かりません!」

 

「……」

 

悠飛が隣に座る。

 

「四葉」

 

「はい」

 

「この問題、最初から全部理解しようとしなくていい」

 

「?」

 

「何を求めている問題なのか」

 

「答え?」

 

「そう」

 

悠飛は問題文の一部分を指差した。

 

「ここ」

 

「……」

 

「『最大値を求めよ』って書いてあるだろ」

 

「あ」

 

「なら、まず最大値を出すために必要なことだけ考える」

 

「なるほど……」

 

四葉の目が輝く。

 

「分かりました!」

 

「じゃあ解いてみろ」

 

「はい!」

 

四葉はペンを走らせる。

 

「……」

 

しばらくして。

 

「できました!」

 

「正解」

 

「やった!」

 

四葉が両手を上げる。

 

「悠飛さん、すごいです!」

 

「四葉が頑張ったからだ」

 

「でも、教えてくれました!」

 

「なら次も自分で解けるな」

 

「はい!」

 

その様子を見ていた一花が。

 

「……」

 

少しだけ羨ましそうな顔をした。

 

 

「一花」

 

「え?」

 

「次、お前」

 

「私?」

 

「英語」

 

「うん」

 

一花は問題集を開く。

 

「……」

 

「この文章を訳してみろ」

 

「えっと……」

 

一花が英文を読む。

 

「これは……」

 

「焦らなくていい」

 

悠飛が言う。

 

「分からない単語があっても、全部止まる必要はない」

 

「うん」

 

一花は少し考える。

 

「……こういう意味?」

 

「正解」

 

「やった」

 

一花は笑う。

 

「最近、英語が少し楽しくなってきた」

 

「それはいいことだ」

 

「悠飛くんのおかげだね」

 

「俺だけじゃない。風太郎の説明もある」

 

「でも」

 

一花は悠飛を見る。

 

「悠飛くんがいると、頑張ろうって思える」

 

「……」

 

悠飛は少し照れた。

 

「そうか」

 

一花はそんな悠飛を見て。

 

小さく笑った。

 

 

昼前。

 

「休憩!」

 

四葉が宣言した。

 

「まだ休憩時間じゃない」

 

風太郎が言う。

 

「でも暑いです!」

 

「それは関係ない」

 

「関係あります!」

 

「ない」

 

「悠飛さん!」

 

「……」

 

悠飛は時計を見る。

 

「五分休憩にするか」

 

「やった!」

 

四葉が喜ぶ。

 

「お前、四葉に甘くないか?」

 

風太郎が言う。

 

「休憩は必要だろ」

 

「まあな」

 

その時。

 

莉々華が冷蔵庫から何かを取り出した。

 

「はい」

 

「?」

 

一人ずつに渡す。

 

「アイス」

 

「わあ!」

 

四葉が目を輝かせる。

 

「ありがとう、莉々華ちゃん!」

 

「どういたしまして」

 

一花も受け取る。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

六華も。

 

「ありがとう」

 

「はい」

 

莉々華は笑った。

 

そして。

 

悠飛にも。

 

「お兄ちゃん」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

悠飛がアイスを食べる。

 

「美味いな」

 

「でしょう?」

 

莉々華は嬉しそうだった。

 

 

「……」

 

六華がその様子を見ていた。

 

莉々華は。

 

本当に悠飛のことが好きなのだ。

 

もちろん。

 

兄妹として。

 

だが。

 

その距離感は。

 

自分たちよりずっと近い。

 

「……」

 

六華は少しだけ胸が痛くなった。

 

そんな六華を。

 

一花が見ていた。

 

「六華」

 

「え?」

 

「どうしたの?」

 

「何でもない」

 

「そう?」

 

「うん」

 

一花はそれ以上聞かなかった。

 

ただ。

 

少しだけ優しく笑った。

 

 

午後。

 

勉強会は一旦終了した。

 

「よし」

 

悠飛が言う。

 

「ここからは自由時間」

 

「やったー!」

 

四葉が立ち上がる。

 

「何して遊びます?」

 

「庭が広いから、そこで何かできるぞ」

 

悠飛が言う。

 

「じゃあ!」

 

四葉が拳を握る。

 

「武道!」

 

「……」

 

風太郎が呆れた。

 

「お前、本当に武道好きだな」

 

「はい!」

 

四葉は満面の笑顔。

 

「悠飛さんとやりたいです!」

 

「俺は構わない」

 

「じゃあ決まり!」

 

 

庭。

 

広い芝生。

 

その一角には簡易的なトレーニングスペースがあった。

 

「久しぶりですね」

 

四葉が構える。

 

「そうだな」

 

悠飛も構える。

 

「今日は何を?」

 

「軽く合気道」

 

「お願いします!」

 

四葉が踏み込む。

 

悠飛が受け流す。

 

「そこ」

 

「はい!」

 

「力を入れすぎるな」

 

「……」

 

四葉がもう一度。

 

「こうですか?」

 

「そう」

 

「できた!」

 

「上手い」

 

四葉が嬉しそうに笑う。

 

「悠飛さんに褒めてもらえると嬉しいです!」

 

「ならもっと上手くなれ」

 

「はい!」

 

その光景を。

 

一花、六華、莉々華たちが見ている。

 

「四葉、楽しそう」

 

一花が言う。

 

「うん」

 

六華も頷く。

 

莉々華は腕を組む。

 

「……」

 

「莉々華ちゃん?」

 

「何でもないです」

 

だが。

 

その顔には。

 

また少しだけ。

 

兄を取られたくないという気持ちが浮かんでいた。

 

 

夕方。

 

全員で夕食を食べることになった。

 

如月家の広いダイニング。

 

料理が並ぶ。

 

「いただきます!」

 

四葉が真っ先に箸を取る。

 

「食べるの早いな」

 

風太郎が言う。

 

「勉強したからお腹空いたんです!」

 

「それは分かる」

 

一花が笑う。

 

「今日は結構頑張ったもんね」

 

「はい!」

 

食事をしながら。

 

今日の勉強の話。

 

昔の思い出。

 

夏休みの予定。

 

話題は尽きない。

 

「そういえば」

 

五月が言う。

 

「夏休みに旅行とかしませんか?」

 

「いいですね!」

 

四葉が賛成する。

 

「海!」

 

「山もいい」

 

三玖。

 

「温泉も……」

 

「全部行けばいいんじゃない?」

 

一花が笑う。

 

「そんなに時間ある?」

 

二乃が言う。

 

悠飛は笑った。

 

「夏休みは長い」

 

「じゃあ」

 

六華が言う。

 

「みんなで思い出を作ろう」

 

「賛成!」

 

四葉が笑う。

 

 

その夜。

 

帰り道。

 

六華は悠飛の隣を歩いていた。

 

「今日は楽しかった」

 

「ああ」

 

「勉強も」

 

「数学、少し分かるようになっただろ?」

 

「うん」

 

六華は笑う。

 

「悠飛に教えてもらったから」

 

「俺じゃなくても風太郎に聞けば教えてくれるぞ」

 

「……」

 

六華は少し黙る。

 

「私は」

 

「ん?」

 

「悠飛に教えてもらいたい」

 

「そうか」

 

「うん」

 

六華は前を向いた。

 

「昔も」

 

「?」

 

「昔も、悠飛が私たちに色々教えてくれた」

 

「……」

 

悠飛も少しずつ思い出していた。

 

幼い頃。

 

七人で遊んだ日々。

 

一緒に笑った。

 

一緒に泣いた。

 

そして。

 

誰かが困った時には。

 

みんなで助けた。

 

「……」

 

悠飛は空を見る。

 

夏の夜空。

 

星が見える。

 

「昔のこと」

 

「うん」

 

「もっと思い出したいな」

 

「私も」

 

二人は歩く。

 

その少し後ろ。

 

一花が二人を見ていた。

 

「……」

 

そして。

 

四葉も。

 

「六華ちゃん、悠飛さんと仲良しですね」

 

「そうだね」

 

一花は笑う。

 

「幼馴染だから」

 

だが。

 

その声には。

 

ほんの少しだけ。

 

複雑な響きがあった。

 

 

その頃。

 

如月家では。

 

莉々華が兄の部屋を覗いていた。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「今日も楽しかった?」

 

「ああ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「別に」

 

莉々華は少し考える。

 

そして。

 

「夏休み」

 

「うん」

 

「いっぱい一緒にいてね」

 

悠飛は笑った。

 

「もちろん」

 

「約束」

 

「約束だ」

 

莉々華は安心したように笑う。

 

「おやすみ」

 

「ああ。おやすみ」

 

扉が閉まる。

 

悠飛は机に向かう。

 

そして。

 

昼間のノートを開いた。

 

幼い頃の七人。

 

『いつまでもなかよし』

 

「……」

 

悠飛は微笑んだ。

 

この夏。

 

勉強だけではない。

 

友情も。

 

思い出も。

 

そして。

 

淡い恋心も。

 

少しずつ深まっていく。

 

まだ誰も。

 

この夏が後の人生にまで残るほど大切な時間になるとは知らない。

 

だが。

 

確かに。

 

七人の絆は。

 

一歩ずつ。

 

強くなっていた。

 

 

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