『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第23話「一花の本気」

夏休み三日目。

 

朝から強い日差しが照りつけていた。

 

蝉の鳴き声が窓の外から響き、如月家の広い庭では、夏の暑さに負けじとセミたちが大合唱をしている。

 

そんな中。

 

「……」

 

中野一花は、自宅のベッドの上で一人、スマートフォンを見つめていた。

 

画面に表示されているのは、芸能事務所から届いたメッセージ。

 

『次回オーディションについて、至急相談したいことがあります』

 

一花はしばらく画面を眺めた。

 

そして。

 

「……来た」

 

小さく呟く。

 

最近、一花は女優を目指していた。

 

まだ本格的な活動をしているわけではない。

 

学校生活の合間に、演技のレッスンを受けたり、オーディションを受けたり。

 

少しずつ夢に近づいている。

 

だが。

 

今回のオーディションは違った。

 

今までより大きな舞台。

 

合格すれば、女優への道が一気に開ける。

 

当然。

 

失敗すれば、それだけ大きな挫折になる。

 

「……怖いな」

 

一花はスマートフォンを胸元に置いた。

 

「私、本当にできるのかな」

 

いつもの明るい笑顔はない。

 

一人の少女として。

 

一花は不安を感じていた。

 

しかし。

 

「……やる」

 

一花は立ち上がる。

 

「やるって決めたんだから」

 

鏡の前に立つ。

 

髪を整える。

 

そして。

 

笑顔を作った。

 

「よし」

 

だが。

 

その笑顔は。

 

いつもの一花の笑顔とは少し違っていた。

 

 

昼。

 

如月家。

 

今日も勉強会が行われていた。

 

「英語、終了」

 

悠飛が時計を見る。

 

「次は国語」

 

「はい!」

 

五月が答える。

 

四葉は問題集を開き。

 

三玖はノートを整理。

 

二乃は英単語を確認。

 

六華は数学の問題を解いている。

 

そして。

 

一花は。

 

「……」

 

どこか上の空だった。

 

「一花」

 

悠飛が呼ぶ。

 

「ん?」

 

「さっきから集中できてない」

 

「……」

 

一花は少し驚いた。

 

「分かる?」

 

「分かる」

 

「さすがだね」

 

一花は笑う。

 

「でも大丈夫」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

一花は笑顔を作った。

 

「ちょっと寝不足なだけ」

 

悠飛は一花を見る。

 

「……」

 

明らかに何か隠している。

 

だが。

 

無理に聞き出すことはしなかった。

 

「分かった」

 

「ありがとう」

 

一花はホッとした。

 

しかし。

 

風太郎は黙って一花を見ていた。

 

「……」

 

「風太郎?」

 

一花が聞く。

 

「いや」

 

風太郎は首を振った。

 

「何でもない」

 

 

昼休み。

 

一花は庭に出た。

 

ベンチに座り。

 

スマートフォンを確認する。

 

『明日の午後、オーディションの最終確認を行います』

 

「明日……」

 

一花は息を吐く。

 

その時。

 

「一花」

 

「!」

 

振り返る。

 

悠飛が立っていた。

 

「こんなところにいたのか」

 

「うん」

 

「暑いぞ」

 

「分かってる」

 

一花は笑った。

 

「でも、少し一人になりたかった」

 

悠飛は隣に座る。

 

「何かあった?」

 

「……」

 

一花はしばらく黙る。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私」

 

「うん」

 

「女優になりたい」

 

「知ってる」

 

「……」

 

一花は少し笑った。

 

「そうだった」

 

「前にも聞いた」

 

「でも」

 

一花は膝の上で手を握る。

 

「本当にできるのかなって」

 

「何が?」

 

「女優」

 

「……」

 

「私、五つ子の一人で」

 

「うん」

 

「成績だって特別いいわけじゃないし」

 

「それは努力すればいい」

 

「うん」

 

「演技は?」

 

「まだまだ」

 

「なら練習すればいい」

 

「……簡単に言うね」

 

一花が苦笑する。

 

「でも」

 

悠飛は真っ直ぐ一花を見る。

 

「一花が本気なら」

 

「……」

 

「俺は応援する」

 

一花の目が少し見開かれた。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「どんなに大きな舞台でも?」

 

「関係ない」

 

「失敗しても?」

 

「失敗したら、次を考えればいい」

 

「……」

 

一花は俯いた。

 

「悠飛くんって」

 

「ん?」

 

「ずるいね」

 

「何が?」

 

「そんなこと言われたら」

 

一花は笑う。

 

「頑張るしかなくなるじゃん」

 

「なら頑張ればいい」

 

「……うん」

 

一花は顔を上げた。

 

その瞳には。

 

さっきまでの迷いが消えていた。

 

 

午後。

 

勉強会再開。

 

「一花」

 

悠飛が言う。

 

「今日は早めに切り上げていいぞ」

 

「え?」

 

「オーディションがあるんだろ?」

 

一花は驚いた。

 

「知ってたの?」

 

「さっき聞いた」

 

「……そっか」

 

風太郎が口を挟む。

 

「勉強は逃げない」

 

「風太郎まで?」

 

「本気でやるなら、両立できるようにすればいい」

 

一花は二人を見た。

 

そして。

 

「ありがとう」

 

と笑った。

 

 

その日の夕方。

 

一花は芸能事務所へ向かった。

 

「失礼します」

 

「一花ちゃん」

 

担当者が手を振る。

 

「来てくれてありがとう」

 

「こちらこそ」

 

「今回のオーディションだけど」

 

資料を渡される。

 

「かなり大きな役です」

 

「……」

 

一花は資料を見る。

 

「主演候補?」

 

「そう」

 

「私が?」

 

「もちろん」

 

一花は息を呑んだ。

 

「でも」

 

担当者が続ける。

 

「相手はプロばかり。経験者も多い」

 

「……」

 

「生半可な気持ちでは通らない」

 

一花は資料を握る。

 

「分かっています」

 

「怖くない?」

 

「……」

 

一瞬。

 

悠飛の言葉を思い出す。

 

『一花が本気なら、俺は応援する』

 

一花は笑った。

 

「怖いです」

 

担当者が驚く。

 

「でも」

 

「……」

 

「やります」

 

「本気?」

 

「はい」

 

一花は真っ直ぐ前を向いた。

 

「私、本気で女優になりたいんです」

 

 

その夜。

 

如月家。

 

一花が帰ってきた。

 

「おかえり」

 

悠飛が玄関で迎える。

 

「ただいま」

 

「どうだった?」

 

「……」

 

一花は笑う。

 

「受けてきた」

 

「そうか」

 

「明日、最終審査」

 

「頑張れ」

 

「うん」

 

一花は少し黙る。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「明日」

 

「?」

 

「もし私が緊張してたら」

 

「うん」

 

「笑わせてくれる?」

 

悠飛は笑った。

 

「任せろ」

 

「ふふ」

 

一花も笑う。

 

「じゃあ」

 

「?」

 

「明日、私の本気を見てて」

 

「ああ」

 

悠飛は頷いた。

 

「見てる」

 

 

翌日。

 

オーディション会場。

 

大勢の候補者。

 

一花は控室で深呼吸していた。

 

「……」

 

心臓が速い。

 

手が震える。

 

「大丈夫」

 

自分に言い聞かせる。

 

「私はできる」

 

名前を呼ばれた。

 

「中野一花さん」

 

「はい!」

 

立ち上がる。

 

 

舞台。

 

照明。

 

審査員。

 

一花は中央に立った。

 

「それでは、始めてください」

 

一花は目を閉じる。

 

そして。

 

役に入り込んだ。

 

さっきまでの不安な少女は消えた。

 

そこにいたのは。

 

一人の女優。

 

悲しみ。

 

怒り。

 

喜び。

 

愛情。

 

すべてを表情と声だけで表現する。

 

審査員たちの顔が変わっていく。

 

演技が終わる。

 

静寂。

 

そして。

 

「……素晴らしい」

 

誰かが呟いた。

 

一花は深く頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

 

数時間後。

 

一花は如月家へ戻った。

 

玄関を開ける。

 

「おかえり」

 

悠飛が待っていた。

 

「……」

 

一花は何も言わない。

 

そして。

 

「受かった」

 

「……!」

 

悠飛の顔が明るくなる。

 

「本当か?」

 

「うん」

 

一花は笑った。

 

「次の作品に出ることになった」

 

「おめでとう」

 

「ありがとう」

 

一花は嬉しそうに笑う。

 

「私」

 

「ん?」

 

「やっと一歩進めた気がする」

 

「一歩どころじゃない」

 

悠飛が言う。

 

「大きな一歩だ」

 

「……」

 

一花の目が潤む。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私ね」

 

一花は少し照れながら。

 

「今日、演技してる時」

 

「うん」

 

「悠飛くんのこと思い出した」

 

「俺?」

 

「うん」

 

「どうして?」

 

「応援してくれたから」

 

一花は笑う。

 

「だから、絶対に負けたくないって思った」

 

「誰に?」

 

「自分に」

 

「……」

 

悠飛は笑った。

 

「それなら」

 

「?」

 

「次も勝てるな」

 

一花も笑った。

 

「うん」

 

 

その夜。

 

一花は五つ子たちに報告した。

 

「ええっ!?」

 

四葉が飛び跳ねる。

 

「一花、合格したんですか!?」

 

「うん」

 

「すごい!」

 

五月が笑顔になる。

 

「おめでとうございます!」

 

三玖も。

 

「一花ならできると思ってた」

 

二乃は。

 

「……当然でしょ」

 

「二乃?」

 

「私の姉なんだから」

 

二乃は照れながら顔を逸らした。

 

「おめでとう」

 

「ありがとう」

 

六華も笑う。

 

「一花」

 

「ん?」

 

「夢に近づいたね」

 

「うん」

 

「これからもっと忙しくなるね」

 

「そうかも」

 

一花はみんなを見る。

 

「でも」

 

「?」

 

「この時間は大切にしたい」

 

悠飛を見る。

 

「勉強会も」

 

四葉を見る。

 

「みんなとの時間も」

 

六華を見る。

 

「昔の思い出も」

 

そして。

 

「全部」

 

一花は笑った。

 

「大切にしたい」

 

 

その帰り道。

 

一花と悠飛は二人で歩いていた。

 

夏の夜。

 

街灯が二人の影を照らしている。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私」

 

「うん」

 

「もっと頑張るね」

 

「知ってる」

 

「女優として有名になって」

 

「うん」

 

「いつか」

 

一花は立ち止まった。

 

「悠飛くんが私を見て」

 

「……」

 

「『一花はすごい』って思ってくれるくらい」

 

悠飛は笑った。

 

「今でも十分すごいと思ってる」

 

「……」

 

一花の顔が赤くなる。

 

「そういうところ」

 

「ん?」

 

「本当にずるい」

 

「またそれか」

 

「だって」

 

一花は笑う。

 

「もっと好きになっちゃうじゃん」

 

「……」

 

一瞬。

 

二人の間に静寂が落ちる。

 

一花は少し恥ずかしそうに笑った。

 

「今のは忘れて」

 

「無理だな」

 

「もう!」

 

一花は先に歩き出す。

 

「置いてくよ」

 

「ああ」

 

悠飛も歩き出した。

 

その背中を見ながら。

 

一花は胸に手を当てる。

 

ドキドキしている。

 

女優への夢。

 

そして。

 

悠飛への想い。

 

どちらも。

 

一花にとって。

 

本気だった。

 

夏の夜空に。

 

蝉の声が響く。

 

青春の季節は。

 

まだ始まったばかりだった。

 

 

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