『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
夏休みも一週間が過ぎた。
連日続く猛暑。
蝉の声。
青い空。
そして、如月家に集まるいつもの顔ぶれ。
「おはようございます!」
玄関を開けた四葉が、いつものように元気いっぱいの声を響かせた。
「おはよう、四葉」
悠飛が迎える。
「今日も暑いな」
「はい!」
四葉は笑顔で答える。
「でも、夏ですから!」
「その前向きさは見習いたいな」
「悠飛さんも元気じゃないですか!」
「俺は普通だ」
「普通の人は朝からそんなに涼しい顔してません!」
「そうか?」
「そうです!」
四葉が笑う。
その笑顔を見て。
悠飛も自然と笑った。
「じゃあ、今日も頑張るか」
「はい!」
◇
リビング。
すでに一花、二乃、三玖、五月、六華が揃っていた。
「おはよう」
一花が手を振る。
「おはようございます!」
四葉が返す。
二乃は冷たい飲み物を飲みながら。
「朝からうるさいわね」
「二乃もおはようございます!」
「はいはい、おはよう」
三玖は参考書から顔を上げる。
「今日の予定は?」
悠飛がホワイトボードを見る。
「午前は勉強会」
「また?」
四葉が苦笑する。
「夏休みですよ?」
「だからこそだ」
風太郎が答える。
「夏休み中に苦手分野を潰しておけば、二学期が楽になる」
「なるほど!」
四葉が納得する。
「それなら頑張ります!」
「……」
二乃が四葉を見る。
「本当に素直よね、あんた」
「えへへ」
「褒めてない」
「でも嬉しいです!」
一花が笑った。
「四葉らしいね」
◇
午前九時。
勉強会開始。
今日は数学からだった。
「四葉」
悠飛が問題を渡す。
「はい!」
「これを解いてみろ」
「分かりました!」
四葉は問題を見る。
「……」
しばらくして。
「できました!」
「早いな」
風太郎が答案を見る。
「正解だ」
「やった!」
四葉が拳を握る。
「昨日より早く解けました!」
「昨日の復習をしたからだ」
悠飛が言う。
「ちゃんと努力してる」
「……」
四葉が嬉しそうに笑う。
「もっと頑張ります!」
「その調子だ」
◇
しかし。
一時間ほど経った頃。
「……」
四葉の手が止まった。
「四葉?」
悠飛が気づく。
「どうした?」
「……」
四葉は問題集を見つめたまま。
「分からなくなりました」
「どこから?」
「全部です」
「全部?」
「はい……」
珍しく。
四葉の声に元気がない。
風太郎も四葉を見る。
「疲れたか?」
「……たぶん」
四葉は笑おうとした。
「大丈夫です!」
だが。
その笑顔は。
いつものものとは違った。
◇
休憩時間。
四葉は一人で庭に出た。
木陰のベンチ。
「……」
空を見上げる。
「私」
小さく呟く。
「ちゃんとできてるのかな」
成績は。
以前より確実に上がっている。
勉強会にも毎回参加している。
みんなと一緒に努力している。
それでも。
四葉には。
心の奥に引っかかっているものがあった。
五つ子の中で。
自分だけが取り柄を失ってしまうような気がする。
一花には演技。
二乃には料理。
三玖には歴史。
五月には勉強への真面目さ。
そして。
自分には。
「……何があるんだろう」
運動。
それだけだった。
けれど。
勉強もできるようになりたい。
みんなと同じように。
「……」
四葉は拳を握った。
「頑張らなきゃ」
◇
「四葉」
背後から声がした。
「!」
振り返る。
悠飛だった。
「悠飛さん……」
「ここにいたのか」
「はい」
「元気ないな」
「そんなことないですよ!」
四葉は笑う。
「ほら!」
「……」
「いつもの笑顔です!」
「そうだな」
悠飛はベンチに座る。
「でも」
「?」
「無理して笑ってる時の顔も知ってる」
四葉が黙った。
「……」
「昔からな」
「昔から?」
「幼い頃」
悠飛は少し遠くを見る。
「四葉はよく笑ってた」
「……」
「でも」
「?」
「本当に困った時だけ」
悠飛は四葉を見る。
「その笑顔が少しだけ小さくなってた」
四葉は目を見開いた。
「……覚えてるんですか?」
「少しずつな」
「そっか……」
四葉は俯く。
「じゃあ」
「うん」
「私が今、無理してるのも分かります?」
「ああ」
「……」
四葉は小さく笑った。
「敵いませんね」
「何が?」
「悠飛さんには」
◇
四葉は少しずつ話し始めた。
「私」
「うん」
「みんなに追いつきたいんです」
「成績?」
「はい」
「でも」
四葉は膝を抱える。
「一花は女優を目指してて」
「うん」
「二乃は料理が上手で」
「そうだな」
「三玖は歴史に詳しくて」
「うん」
「五月は勉強が大好きで」
「……」
「私は……」
四葉は苦笑した。
「運動しかできない」
「四葉」
「だから」
「……」
「勉強も頑張りたいんです」
悠飛は黙って聞いていた。
そして。
「それでいい」
「え?」
「四葉が頑張りたいなら、頑張ればいい」
「……」
「でも」
悠飛は続ける。
「誰かと比べる必要はない」
「……」
「四葉には四葉の良さがある」
「私の?」
「ああ」
「何ですか?」
悠飛は少し考える。
「人を笑わせる力」
「……」
「誰かが困っていたら、真っ先に動くところ」
「……」
「そして」
悠飛は笑った。
「その笑顔」
「……笑顔?」
「ああ」
「でも」
四葉は少し困ったように笑う。
「笑顔なんて誰でもできますよ」
「違う」
悠飛は真剣だった。
「四葉の笑顔だから、周りが笑顔になる」
「……」
四葉の目が潤んだ。
「そんなの……」
「本当だ」
「……」
「俺は四葉の笑顔に何度も助けられた」
「悠飛さん……」
「だから」
悠飛は立ち上がる。
「無理して笑わなくていい」
「……」
「笑いたい時に笑えばいい」
四葉は顔を伏せた。
肩が少し震える。
「……」
涙が一滴。
頬を伝った。
「四葉?」
「ごめんなさい」
「謝る必要ない」
「……」
四葉は涙を拭う。
そして。
顔を上げた。
「……ありがとうございます」
その笑顔は。
今まで以上に。
自然だった。
◇
「よし!」
四葉が立ち上がる。
「もう一回勉強します!」
「無理するな」
「無理じゃありません!」
四葉は拳を握る。
「今度は、自分のために頑張ります!」
「それならいい」
「はい!」
二人がリビングへ戻る。
その様子を。
一花たちは見ていた。
「四葉」
一花が微笑む。
「少し元気になったね」
「うん」
三玖も頷く。
五月は嬉しそうに笑う。
「よかったです」
二乃も。
「……まあ」
「何?」
「四葉はあれくらい元気じゃないと」
六華は黙っていた。
そして。
悠飛を見る。
「……」
やっぱり。
昔から。
悠飛は変わらない。
誰かが困っていると。
必ず手を差し伸べる。
その優しさに。
六華は胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
◇
午後。
勉強会は再開された。
「では」
風太郎が問題を出す。
「四葉」
「はい!」
「この問題」
「……」
四葉は問題を見る。
そして。
「分かりました!」
「解いてみろ」
「はい!」
ペンを走らせる。
一問。
二問。
三問。
「できました!」
風太郎が確認する。
「全問正解」
「やった!」
悠飛も頷く。
「よくできた」
「ありがとうございます!」
四葉は満面の笑顔。
その笑顔を見て。
一花が呟いた。
「やっぱり四葉は、その顔が一番似合うね」
「一花!」
「何?」
「ありがとうございます!」
四葉は笑った。
◇
夕方。
勉強会終了。
四葉は玄関で靴を履いていた。
「悠飛さん」
「ん?」
「今日はありがとうございました」
「どういたしまして」
「私」
四葉は笑う。
「もっと頑張ります」
「勉強?」
「全部です!」
「全部?」
「勉強も」
「うん」
「武道も」
「うん」
「友達との時間も」
「……」
「そして」
四葉は少し照れた。
「自分のことも、もっと好きになれるように」
悠飛は笑った。
「それが一番だな」
「はい!」
◇
帰り道。
夕焼けに染まる街。
四葉は一人で歩いていた。
「……」
今日。
悠飛に言われた言葉。
『四葉の笑顔だから、周りが笑顔になる』
何度も頭の中で繰り返す。
「……えへへ」
自然と笑みがこぼれた。
「私の笑顔」
四葉は空を見上げる。
「大切にしよう」
その時。
スマートフォンが鳴った。
『四葉、今どこ?』
一花からのメッセージ。
『駅前!』
すぐに返信。
『じゃあ一緒に帰ろう』
『はい!』
四葉は走り出す。
その顔には。
もう迷いはなかった。
◇
駅前。
一花、二乃、三玖、五月、六華が待っている。
「四葉!」
「お待たせしました!」
「遅い」
二乃が言う。
「ごめんなさい!」
「まあいいけど」
一花が笑う。
「なんか今日は嬉しそうだね」
「はい!」
「何かあった?」
四葉は少し考えた。
そして。
「秘密です!」
「何それ」
二乃が笑う。
三玖も。
「四葉らしい」
五月も微笑む。
六華は四葉を見る。
「いい笑顔」
「ありがとうございます!」
四葉は笑った。
六人の少女たちが。
夕暮れの駅前を歩いていく。
少し離れた場所。
悠飛はその背中を見送っていた。
「……」
風太郎が隣に立つ。
「何を見てる?」
「四葉」
「……」
風太郎も彼女たちを見る。
「元気になったな」
「ああ」
「お前のおかげだな」
「俺は何もしてない」
「そういうところだ」
風太郎が苦笑する。
「自分が誰かを救ってることに無自覚」
「……」
悠飛は笑う。
「友達だから助けただけだ」
「それでいいんじゃないか」
風太郎は歩き出す。
「行くぞ」
「ああ」
悠飛も続く。
◇
その夜。
四葉は自分の部屋で。
一枚の写真を見ていた。
幼い頃の七人。
中央には。
幼い悠飛。
その隣に。
笑顔の自分。
「……」
四葉は写真を胸に抱く。
「悠飛さん」
小さく呟く。
「私」
「これからも」
「ずっと笑っていたいです」
そして。
少しだけ頬を赤くする。
「……悠飛さんの隣で」
窓の外。
夏の夜空に。
星が瞬いていた。
青春の夏は。
まだ始まったばかり。
そして。
四葉の笑顔は。
これから訪れる数々の出来事の中で。
何度も仲間たちを照らしていくことになる。
その笑顔が。
やがて悠飛自身の心を救う日が来ることを。
今の四葉は。
まだ知らなかった。