『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

26 / 90
第25話「六華の小さな嫉妬」

夏休みも二週目に入った。

 

朝から太陽が照りつけ、街はすっかり夏の色に染まっている。

 

如月家の庭では蝉が鳴き、窓を開ければ熱気が一気に入り込んでくる。

 

「暑い……」

 

中野六華は、如月家へ向かう道を歩きながら小さく呟いた。

 

手には参考書の入った鞄。

 

今日は午前中から恒例の勉強会だ。

 

もちろん。

 

一花、二乃、三玖、四葉、五月も来る。

 

そして。

 

悠飛もいる。

 

「……」

 

六華はそこで、ふと足を止めた。

 

「私……」

 

自分でも気づかないうちに。

 

少しだけ笑っていた。

 

「楽しみにしてるんだ」

 

幼い頃から。

 

六華にとって悠飛は特別な存在だった。

 

五つ子の従姉妹として、いつも五つ子たちの少し後ろにいた。

 

五人の輪の中に入りながらも。

 

どこか一歩引いて。

 

その中心にいる悠飛を見ていた。

 

そして。

 

二十年近く経った今。

 

忘れていた幼い日の記憶が少しずつ蘇ってきたことで。

 

六華は改めて気づいた。

 

自分がずっと。

 

悠飛を特別に思っていたことを。

 

「……」

 

けれど。

 

最近。

 

少し困ったことがある。

 

「一花……」

 

六華は小さく呟いた。

 

「四葉……」

 

どちらも。

 

悠飛との距離が近い。

 

一花は悠飛に素直に好意を示すようになってきた。

 

四葉は昔からの武道仲間として、悠飛と自然に接している。

 

そして。

 

六華自身も。

 

悠飛のことが好きだ。

 

だからこそ。

 

胸の奥に。

 

小さな感情が生まれてしまう。

 

「……嫉妬、かな」

 

六華は苦笑した。

 

「嫌な子だな、私」

 

それでも。

 

足は自然と。

 

如月家へ向かっていた。

 

 

「おはようございます!」

 

玄関を開けると。

 

四葉の声が響いた。

 

「おはよう」

 

悠飛が出迎える。

 

「六華、おはよう」

 

「おはよう、悠飛」

 

その瞬間。

 

六華の顔が自然と明るくなる。

 

「今日は早いな」

 

「うん」

 

「一番乗りだ」

 

「……」

 

六華は少し嬉しくなった。

 

「一番……」

 

「どうした?」

 

「何でもない」

 

六華は笑う。

 

すると。

 

「おはよう、六華ちゃん!」

 

一花がやってきた。

 

「おはよう、一花」

 

「今日は早かったんだね」

 

「うん」

 

「私たちも今来たところ」

 

その後ろから。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

四葉。

 

そして風太郎。

 

全員が揃った。

 

「じゃあ始めるか」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

四葉が元気に答えた。

 

 

午前中。

 

勉強会は順調だった。

 

「六華」

 

悠飛がノートを見る。

 

「この問題、惜しい」

 

「え?」

 

「ここ」

 

悠飛が指を差す。

 

「符号が逆になってる」

 

「……本当だ」

 

「計算そのものは合ってる」

 

「そっか」

 

「だから落ち着けば解ける」

 

「うん」

 

悠飛が笑う。

 

「よく頑張ってる」

 

「……」

 

六華の頬が少し赤くなる。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

その光景を。

 

一花が見ていた。

 

「……」

 

そして。

 

四葉も。

 

「六華ちゃん、嬉しそうですね」

 

「そう?」

 

一花が笑う。

 

「うん」

 

「……」

 

六華は聞こえていないふりをした。

 

だが。

 

胸は。

 

少しだけ高鳴っていた。

 

 

昼休み。

 

「お昼にしましょう!」

 

四葉が宣言する。

 

「今日はお弁当を作ってきました!」

 

「本当?」

 

一花が驚く。

 

「はい!」

 

四葉が弁当箱を開く。

 

「みんなの分もあります!」

 

「え?」

 

五月が目を輝かせる。

 

「いただいていいんですか?」

 

「もちろん!」

 

「四葉、料理できるようになったんだ」

 

二乃が驚く。

 

「少しずつですよ」

 

四葉が笑う。

 

悠飛も弁当を受け取る。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

「美味しそうだ」

 

「えへへ」

 

四葉は嬉しそうだった。

 

「悠飛さんの好きそうなものも入れてあります!」

 

「俺の?」

 

「はい!」

 

六華は。

 

「……」

 

その言葉を聞いて。

 

ほんの少し。

 

胸がざわついた。

 

「……」

 

一花も。

 

「へえ」

 

意味ありげに四葉を見る。

 

「四葉、詳しいね」

 

「え?」

 

「悠飛くんの好きなもの」

 

「昔から一緒にいたからです!」

 

四葉は何気なく答える。

 

「……」

 

六華は箸を持ったまま。

 

黙っていた。

 

 

昼食後。

 

「少し散歩してくる」

 

悠飛が立ち上がった。

 

「私も行きます!」

 

四葉がすぐに立つ。

 

「……」

 

六華の手が止まった。

 

「……」

 

「六華ちゃん?」

 

一花が声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「何でもない」

 

「そう?」

 

「うん」

 

悠飛と四葉は庭へ出ていった。

 

窓越しに。

 

二人の姿が見える。

 

四葉が何か話している。

 

悠飛が笑う。

 

四葉も笑う。

 

「……」

 

六華は。

 

その光景から目を逸らした。

 

「……嫌だな」

 

小さな声。

 

一花には聞こえなかった。

 

 

庭。

 

「悠飛さん!」

 

「ん?」

 

「今日は暑いですね!」

 

「ああ」

 

「夏休みって感じがします!」

 

「そうだな」

 

「海にも行きたいですね」

 

「みんなで行くか?」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

「絶対楽しいです!」

 

「四葉は海でも走り回りそうだな」

 

「もちろんです!」

 

二人の会話は。

 

いつものものだった。

 

幼馴染だから。

 

昔から一緒だったから。

 

何の違和感もない。

 

それなのに。

 

「……」

 

窓の向こう。

 

六華は二人を見ていた。

 

そして。

 

胸の奥が。

 

ちくりと痛んだ。

 

「……私」

 

六華は目を伏せる。

 

「何を考えてるんだろう」

 

四葉は悪くない。

 

悠飛も悪くない。

 

二人が仲良くするのは当然だ。

 

それなのに。

 

「……嫉妬してる」

 

認めた瞬間。

 

胸が苦しくなった。

 

 

「六華」

 

一花が隣に座った。

 

「……」

 

「大丈夫?」

 

「うん」

 

「嘘」

 

「……」

 

六華は一花を見る。

 

「一花には分かる?」

 

「何となく」

 

一花は苦笑する。

 

「私も似たようなこと考えてるから」

 

「……」

 

六華が目を見開く。

 

「一花も?」

 

「うん」

 

「悠飛くんのこと」

 

「……」

 

六華は答えられない。

 

一花は続ける。

 

「だから」

 

「?」

 

「六華ちゃんだけじゃないよ」

 

「……」

 

「私も嫉妬する」

 

一花は少し笑った。

 

「四葉に対しても」

 

「一花……」

 

「でも」

 

一花は窓を見る。

 

「四葉は大切な妹だから」

 

「……」

 

「嫌いになれない」

 

六華も頷く。

 

「私も」

 

「うん」

 

「四葉のことは好き」

 

「そうだよね」

 

「でも」

 

六華は胸に手を当てる。

 

「悠飛のことも好き」

 

「……」

 

一花が微笑む。

 

「じゃあ」

 

「?」

 

「堂々としてればいいじゃん」

 

「……」

 

「好きなら」

 

一花は六華の肩を軽く叩いた。

 

「好きって気持ちは、悪いものじゃないよ」

 

六華は。

 

少しだけ目を潤ませた。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

午後。

 

勉強会再開。

 

六華はいつも通り。

 

いや。

 

いつも以上に集中した。

 

「……」

 

数学。

 

一問。

 

二問。

 

三問。

 

悠飛が答案を見る。

 

「正解」

 

「……!」

 

六華の顔が明るくなる。

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「やった」

 

「かなり伸びてきたな」

 

「悠飛が教えてくれたから」

 

「六華自身の努力だ」

 

「……」

 

六華は笑う。

 

「それでも」

 

「ん?」

 

「教えてくれてありがとう」

 

「どういたしまして」

 

その瞬間。

 

六華は決めた。

 

もう。

 

嫉妬しているだけでは嫌だ。

 

「……」

 

悠飛を見る。

 

「私も」

 

「?」

 

「もっと頑張る」

 

「何を?」

 

「全部」

 

「全部?」

 

「勉強も」

 

「うん」

 

「昔の記憶を取り戻すことも」

 

「うん」

 

そして。

 

「悠飛の隣にいることも」

 

「……」

 

悠飛は少し驚いた。

 

だが。

 

六華は笑った。

 

「幼馴染だから」

 

「そうだな」

 

悠飛も笑う。

 

「これからもよろしく」

 

「うん」

 

 

夕方。

 

帰る時間。

 

六華は玄関で靴を履いていた。

 

「六華」

 

悠飛が呼ぶ。

 

「ん?」

 

「今日はありがとう」

 

「何が?」

 

「勉強会に来てくれて」

 

「こちらこそ」

 

六華は笑った。

 

「楽しかった」

 

「それならよかった」

 

少し沈黙。

 

六華は勇気を出す。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「明日も」

 

「うん」

 

「私、早く来てもいい?」

 

「もちろん」

 

「……」

 

六華は嬉しそうに笑う。

 

「じゃあ」

 

「また明日」

 

「うん」

 

「また明日、悠飛」

 

 

帰り道。

 

一人になった六華は。

 

夕焼けを見上げた。

 

「……」

 

今日。

 

初めて。

 

自分の嫉妬を認めた。

 

苦しかった。

 

嫌だった。

 

でも。

 

それ以上に。

 

悠飛の隣にいたいと思った。

 

「私」

 

六華は小さく笑う。

 

「もっと強くならなきゃ」

 

誰かを押し退けるためではない。

 

一花や四葉を傷つけるためでもない。

 

自分の気持ちを。

 

自分自身で大切にするために。

 

「……」

 

幼い日の記憶。

 

七人で遊んだ日。

 

悠飛と交わした約束。

 

そして。

 

今。

 

高校生になった自分。

 

「いつか」

 

六華は呟いた。

 

「ちゃんと伝えたい」

 

――悠飛が好き。

 

その言葉を。

 

いつか。

 

本人に。

 

 

一方。

 

如月家。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が声をかける。

 

「何だ?」

 

「明日も勉強会ですよね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、また一緒に頑張りましょう!」

 

「そうだな」

 

「約束です!」

 

「ああ」

 

その会話を。

 

少し離れたところで。

 

一花が聞いていた。

 

「……」

 

一花は笑う。

 

「本当に」

 

「みんな、悠飛くんのこと好きなんだね」

 

そして。

 

一花自身も。

 

胸に手を当てる。

 

「私もだけど」

 

夏の夕暮れ。

 

それぞれの胸に芽生えた想いは。

 

まだ小さなものだった。

 

けれど。

 

その小さな嫉妬も。

 

淡い恋心も。

 

やがて。

 

大きな運命へと繋がっていく。

 

六華はまだ知らない。

 

そして。

 

悠飛もまだ知らない。

 

この夏の日々が。

 

彼らの関係を。

 

少しずつ変えていくことを。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。