『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
夏休みが終わり、二学期が始まった。
しかし、夏の暑さはまだ残っている。
そして旭高校では、二学期最初の大きな行事が迫っていた。
「林間学校?」
如月悠飛が黒板に書かれた文字を見る。
「ああ」
上杉風太郎がプリントを差し出す。
「今年は山間部の研修施設を使う。二泊三日だ」
「なるほど」
悠飛は資料をめくる。
「勉強会は?」
「当然、休みだ」
「それは朗報だな」
「お前、成績上位者のくせに勉強会を嫌がるよな」
「嫌いじゃない。休むことも大切だと言っている」
「……屁理屈だ」
二人が話していると。
「林間学校ですか!」
四葉が二人の間から顔を出した。
「はい!」
「四葉、近い」
「楽しみですね、悠飛さん!」
「そうだな」
「キャンプファイヤーとかあるんでしょうか?」
「予定表にはある」
「本当ですか!?」
四葉の目が輝く。
その声を聞きつけ、一花たちも集まってきた。
「キャンプファイヤー?」
一花が聞く。
「楽しそう」
二乃も予定表を覗き込む。
「山かぁ……虫が多そうね」
三玖は。
「……私は大丈夫」
五月は真面目な顔で資料を読む。
「集団行動ですから、規則を守る必要がありますね」
六華は少し離れたところから、その様子を眺めていた。
「林間学校か……」
そして。
小さく笑う。
「みんなで行くなら、きっと楽しいね」
◇
林間学校当日。
早朝。
旭高校の校門前には、大勢の生徒が集まっていた。
大型バスが何台も並んでいる。
「おはようございます!」
四葉が元気に叫ぶ。
「朝から元気だな」
悠飛が苦笑する。
「林間学校ですよ!」
「楽しみなのは分かる」
「悠飛さんは楽しみじゃないんですか?」
「まあ、それなりに」
「それなりですか!?」
「俺は山より海派だ」
「私はどっちも好きです!」
「知ってる」
二人の会話を聞いていた一花が笑う。
「相変わらず仲良しだね」
「幼馴染ですから!」
四葉が胸を張る。
六華はその言葉を聞きながら。
「……」
少しだけ胸がざわついた。
以前なら気にしなかった。
けれど今は違う。
悠飛への想いを自覚したからこそ。
四葉と悠飛の自然な距離感が、時々羨ましく感じる。
「六華ちゃん?」
一花が声をかける。
「どうしたの?」
「ううん」
六華は笑った。
「楽しみだなって」
「……そう?」
「うん」
その笑顔の奥にある感情を。
一花はなんとなく察していた。
◇
バスが出発する。
「いってきます!」
四葉が窓から手を振る。
「小学生か」
二乃が呆れる。
「いいじゃないですか!」
「まあ、四葉らしいけど」
一花が笑う。
座席は男女混合の班ごとに決められている。
悠飛の隣には風太郎。
少し離れた席に五つ子と六華が座った。
「風太郎」
「なんだ?」
「林間学校まで勉強するのか?」
「……」
風太郎は参考書を閉じた。
「今日は休む」
「珍しいな」
「俺だって遊ぶ時は遊ぶ」
「成長したな」
「お前に言われると腹が立つ」
二人は笑った。
その後ろでは。
「悠飛さん!」
四葉が振り返る。
「何だ?」
「山に着いたら一緒に散策しましょう!」
「班行動だぞ」
「班のみんなでです!」
「ならいい」
「約束ですよ!」
「はいはい」
四葉が嬉しそうに笑う。
その姿を。
一花と六華が見ていた。
「……」
六華は視線を逸らす。
一花は小さく笑った。
「六華ちゃん」
「何?」
「頑張ってね」
「……何を?」
「さあ?」
一花は意味深に笑った。
◇
昼過ぎ。
バスは山間部の研修施設へ到着した。
「涼しい!」
四葉が叫ぶ。
都会よりも明らかに気温が低い。
木々の匂い。
鳥の声。
遠くには山々が連なっている。
「いい場所ですね」
五月が感心する。
「空気が違う」
三玖も辺りを見る。
二乃は髪を押さえながら。
「虫さえいなければ最高なんだけど」
「二乃、虫苦手なんですか?」
「嫌いよ」
「意外ですね」
「何よ」
「なんとなく、強そうなので」
「虫と戦う強さなんていらないわよ」
一花が笑う。
「じゃあ、私が守ってあげようか?」
「一花に守られるくらいなら自分で逃げる」
「ひどい」
五つ子のいつものやり取り。
六華はその光景を見ながら。
「やっぱり」
「?」
悠飛が隣に来た。
「五人は一緒にいると楽しそうだな」
「うん」
「六華も楽しいか?」
「……もちろん」
六華は答える。
「私も、この時間が好き」
「そうか」
「うん」
悠飛は笑った。
その笑顔に。
六華の胸が高鳴る。
◇
午後は野外活動。
班ごとに山道を歩く。
「足元に気をつけろ」
悠飛が先頭付近から声をかける。
「はい!」
四葉が答える。
山道は思った以上に険しい。
「ここ、滑る!」
一人の生徒が声を上げた。
その瞬間。
「危ない!」
四葉が反応する。
だが。
自分自身の足元も滑った。
「四葉!」
悠飛が手を伸ばす。
「!」
四葉の身体が前に傾く。
悠飛が腕を掴む。
「大丈夫か?」
「……はい」
四葉は悠飛の腕に掴まりながら。
「ありがとうございます」
「無茶するな」
「すみません……」
「怪我がなければいい」
悠飛が手を離す。
その様子を見ていた六華。
「……」
まただ。
胸の奥が。
ちくりとする。
けれど。
「四葉が無事でよかった」
そう思う気持ちも。
同じくらい強かった。
「私、嫌な人になってるな……」
六華は小さく呟いた。
◇
夕方。
山道を抜けると。
そこには広い湖があった。
「綺麗……」
一花が呟く。
夕陽を受けて。
湖面が金色に輝いている。
「写真撮ろう!」
四葉がスマートフォンを取り出す。
「みんなで撮りましょう!」
五つ子と六華。
そして悠飛と風太郎。
七人が並ぶ。
「悠飛、真ん中」
四葉が言う。
「俺が?」
「はい!」
「じゃあ風太郎も」
「俺も?」
「友達ですから!」
風太郎は渋々並ぶ。
「はい、撮ります!」
「三、二、一!」
シャッターが切られた。
そこに写っていたのは。
笑顔の七人と。
少し呆れた顔の風太郎。
それは。
後になっても。
彼らの大切な思い出になる一枚だった。
◇
夜。
キャンプファイヤー。
大きな炎が夜空を照らす。
生徒たちが輪になっている。
「綺麗……」
六華が炎を見る。
隣には悠飛。
「こういうの、久しぶりだな」
「うん」
「昔にも似たようなことをした気がする」
「……!」
六華の心臓が跳ねた。
「悠飛も?」
「ああ」
「覚えてる?」
「まだ断片的だけどな」
六華は嬉しそうに笑った。
「私も」
「そうか」
「昔、みんなで遊んだ」
「五つ子と?」
「うん」
「俺もいた?」
「もちろん」
「そっか」
二人の間に。
穏やかな沈黙が流れる。
すると。
「悠飛さーん!」
四葉がこちらへ走ってくる。
「何だ?」
「一緒に行きましょう!」
「どこへ?」
「キャンプファイヤーの周り!」
「分かった」
四葉が悠飛の手を引く。
「……」
六華はその光景を見つめた。
胸が。
また少し痛くなる。
けれど。
今度は。
笑った。
「楽しんできて」
悠飛が振り返る。
「六華も来るだろ?」
「……え?」
「みんなで行くんだから」
「……」
六華は少し驚いた。
そして。
「うん!」
立ち上がった。
「私も行く!」
◇
キャンプファイヤーの輪に戻る。
四葉が悠飛の隣。
その反対側には六華。
一花も近くにいる。
「せっかくだし」
一花が言う。
「みんなで踊らない?」
「踊る?」
二乃が驚く。
「こういう時くらいいいじゃん」
「私は……」
三玖が困る。
「大丈夫ですよ!」
五月が背中を押す。
「三玖も行きましょう」
「……うん」
音楽が流れ始める。
生徒たちが輪になって踊る。
四葉は楽しそうに笑い。
一花も笑顔。
三玖は最初こそ恥ずかしそうだったが、やがて笑う。
二乃も。
五月も。
六華も。
「楽しい!」
四葉が叫ぶ。
悠飛はそんな彼女たちを見ながら笑った。
「青春だな」
風太郎が隣で呟く。
「お前、年寄りみたいだぞ」
「うるさい」
二人も笑った。
◇
その夜。
宿泊部屋。
五つ子と六華は一つの部屋に集まっていた。
「今日は楽しかったね」
一花が言う。
「はい!」
四葉が布団の上で笑う。
「悠飛さんと一緒に山を歩いたのも楽しかったです!」
「……」
六華が少し黙る。
「六華?」
「え?」
「どうしたの?」
一花が尋ねる。
「何でもないよ」
「またそれ?」
二乃が言う。
「六華、最近ちょっと変よ」
「そう?」
「悠飛絡みになると」
「……」
六華は黙った。
すると。
四葉が首を傾げる。
「六華ちゃん、悠飛さんのこと好きなんですか?」
「……!」
六華の顔が真っ赤になる。
「な、何を言って……」
「違うんですか?」
「……」
「私は悠飛さん、大好きですよ!」
四葉が堂々と言った。
「ちょっと四葉!」
一花が驚く。
「何ですか?」
「そんな簡単に……」
「好きなら好きでいいじゃないですか」
四葉は笑う。
「私たち、ずっと一緒なんですから」
「……」
六華は四葉を見る。
その笑顔に。
敵意はない。
むしろ。
「……四葉らしいな」
六華は笑った。
「うん」
「?」
「私も」
六華は胸に手を当てる。
「悠飛のことが好き」
一花が笑う。
「やっと言ったね」
「……うん」
二乃はため息。
「この学校、恋愛関係で騒がしくなりそうね」
三玖が小さく頷く。
「……そうだね」
五月は困ったように笑う。
「でも」
四葉が言う。
「誰が好きでも、私たちは五つ子ですよ」
「……」
「六華ちゃんも従姉妹です!」
六華の胸が温かくなる。
「ありがとう」
◇
翌朝。
林間学校最終日。
帰りのバス。
みんな疲れて眠っている。
悠飛も窓の外を見ていた。
その隣で風太郎が呟く。
「楽しかったな」
「ああ」
「お前は?」
「楽しかった」
「珍しい」
「俺だって普通の高校生だ」
「そうだったな」
二人は笑った。
後方では。
四葉が眠っている。
一花も。
二乃も。
三玖も。
五月も。
そして六華も。
六人の少女たちは。
昨日までより少しだけ近くなっていた。
悠飛は眠る六華を見る。
「……」
どこか。
昔にも見たような気がする。
幼い頃。
自分の後ろをついてきた少女。
名前すら。
まだ完全には思い出せない。
けれど。
「……大切な友達だったんだろうな」
悠飛はそう呟いた。
◇
学校へ戻る。
林間学校は終わった。
だが。
彼らにとっては。
ここからが始まりだった。
一花は。
自分の夢へ。
四葉は。
自分の笑顔を胸に。
六華は。
悠飛への想いを胸に。
そして五つ子たちと悠飛。
風太郎。
それぞれが。
少しずつ未来へ進んでいく。
夏の終わり。
まだ暑さの残る校門前。
四葉が振り返る。
「悠飛さん!」
「ん?」
「またみんなで行きましょう!」
「ああ」
「約束ですよ!」
「約束だ」
その隣で六華が笑う。
「次は私が行き先を決めるね」
「いいな」
「一花も来る?」
「もちろん」
「じゃあ決まり」
六人の少女たちが笑う。
その輪の中心で。
悠飛も笑っていた。
彼らはまだ知らない。
この林間学校で生まれた絆が。
やがて訪れる大きな事件の中で。
何よりも強い支えになることを。
そして――。
「……」
六華は悠飛の背中を見つめる。
自分の胸にある。
小さな嫉妬。
小さな恋。
そのどちらも。
もう隠さない。
「いつか……」
六華は小さく呟いた。
「私も、悠飛の隣に」
夏の風が吹く。
少女の髪を揺らす。
その横顔には。
確かな決意が宿っていた。