『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第26話「林間学校」

夏休みが終わり、二学期が始まった。

 

しかし、夏の暑さはまだ残っている。

 

そして旭高校では、二学期最初の大きな行事が迫っていた。

 

「林間学校?」

 

如月悠飛が黒板に書かれた文字を見る。

 

「ああ」

 

上杉風太郎がプリントを差し出す。

 

「今年は山間部の研修施設を使う。二泊三日だ」

 

「なるほど」

 

悠飛は資料をめくる。

 

「勉強会は?」

 

「当然、休みだ」

 

「それは朗報だな」

 

「お前、成績上位者のくせに勉強会を嫌がるよな」

 

「嫌いじゃない。休むことも大切だと言っている」

 

「……屁理屈だ」

 

二人が話していると。

 

「林間学校ですか!」

 

四葉が二人の間から顔を出した。

 

「はい!」

 

「四葉、近い」

 

「楽しみですね、悠飛さん!」

 

「そうだな」

 

「キャンプファイヤーとかあるんでしょうか?」

 

「予定表にはある」

 

「本当ですか!?」

 

四葉の目が輝く。

 

その声を聞きつけ、一花たちも集まってきた。

 

「キャンプファイヤー?」

 

一花が聞く。

 

「楽しそう」

 

二乃も予定表を覗き込む。

 

「山かぁ……虫が多そうね」

 

三玖は。

 

「……私は大丈夫」

 

五月は真面目な顔で資料を読む。

 

「集団行動ですから、規則を守る必要がありますね」

 

六華は少し離れたところから、その様子を眺めていた。

 

「林間学校か……」

 

そして。

 

小さく笑う。

 

「みんなで行くなら、きっと楽しいね」

 

 

林間学校当日。

 

早朝。

 

旭高校の校門前には、大勢の生徒が集まっていた。

 

大型バスが何台も並んでいる。

 

「おはようございます!」

 

四葉が元気に叫ぶ。

 

「朝から元気だな」

 

悠飛が苦笑する。

 

「林間学校ですよ!」

 

「楽しみなのは分かる」

 

「悠飛さんは楽しみじゃないんですか?」

 

「まあ、それなりに」

 

「それなりですか!?」

 

「俺は山より海派だ」

 

「私はどっちも好きです!」

 

「知ってる」

 

二人の会話を聞いていた一花が笑う。

 

「相変わらず仲良しだね」

 

「幼馴染ですから!」

 

四葉が胸を張る。

 

六華はその言葉を聞きながら。

 

「……」

 

少しだけ胸がざわついた。

 

以前なら気にしなかった。

 

けれど今は違う。

 

悠飛への想いを自覚したからこそ。

 

四葉と悠飛の自然な距離感が、時々羨ましく感じる。

 

「六華ちゃん?」

 

一花が声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「ううん」

 

六華は笑った。

 

「楽しみだなって」

 

「……そう?」

 

「うん」

 

その笑顔の奥にある感情を。

 

一花はなんとなく察していた。

 

 

バスが出発する。

 

「いってきます!」

 

四葉が窓から手を振る。

 

「小学生か」

 

二乃が呆れる。

 

「いいじゃないですか!」

 

「まあ、四葉らしいけど」

 

一花が笑う。

 

座席は男女混合の班ごとに決められている。

 

悠飛の隣には風太郎。

 

少し離れた席に五つ子と六華が座った。

 

「風太郎」

 

「なんだ?」

 

「林間学校まで勉強するのか?」

 

「……」

 

風太郎は参考書を閉じた。

 

「今日は休む」

 

「珍しいな」

 

「俺だって遊ぶ時は遊ぶ」

 

「成長したな」

 

「お前に言われると腹が立つ」

 

二人は笑った。

 

その後ろでは。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が振り返る。

 

「何だ?」

 

「山に着いたら一緒に散策しましょう!」

 

「班行動だぞ」

 

「班のみんなでです!」

 

「ならいい」

 

「約束ですよ!」

 

「はいはい」

 

四葉が嬉しそうに笑う。

 

その姿を。

 

一花と六華が見ていた。

 

「……」

 

六華は視線を逸らす。

 

一花は小さく笑った。

 

「六華ちゃん」

 

「何?」

 

「頑張ってね」

 

「……何を?」

 

「さあ?」

 

一花は意味深に笑った。

 

 

昼過ぎ。

 

バスは山間部の研修施設へ到着した。

 

「涼しい!」

 

四葉が叫ぶ。

 

都会よりも明らかに気温が低い。

 

木々の匂い。

 

鳥の声。

 

遠くには山々が連なっている。

 

「いい場所ですね」

 

五月が感心する。

 

「空気が違う」

 

三玖も辺りを見る。

 

二乃は髪を押さえながら。

 

「虫さえいなければ最高なんだけど」

 

「二乃、虫苦手なんですか?」

 

「嫌いよ」

 

「意外ですね」

 

「何よ」

 

「なんとなく、強そうなので」

 

「虫と戦う強さなんていらないわよ」

 

一花が笑う。

 

「じゃあ、私が守ってあげようか?」

 

「一花に守られるくらいなら自分で逃げる」

 

「ひどい」

 

五つ子のいつものやり取り。

 

六華はその光景を見ながら。

 

「やっぱり」

 

「?」

 

悠飛が隣に来た。

 

「五人は一緒にいると楽しそうだな」

 

「うん」

 

「六華も楽しいか?」

 

「……もちろん」

 

六華は答える。

 

「私も、この時間が好き」

 

「そうか」

 

「うん」

 

悠飛は笑った。

 

その笑顔に。

 

六華の胸が高鳴る。

 

 

午後は野外活動。

 

班ごとに山道を歩く。

 

「足元に気をつけろ」

 

悠飛が先頭付近から声をかける。

 

「はい!」

 

四葉が答える。

 

山道は思った以上に険しい。

 

「ここ、滑る!」

 

一人の生徒が声を上げた。

 

その瞬間。

 

「危ない!」

 

四葉が反応する。

 

だが。

 

自分自身の足元も滑った。

 

「四葉!」

 

悠飛が手を伸ばす。

 

「!」

 

四葉の身体が前に傾く。

 

悠飛が腕を掴む。

 

「大丈夫か?」

 

「……はい」

 

四葉は悠飛の腕に掴まりながら。

 

「ありがとうございます」

 

「無茶するな」

 

「すみません……」

 

「怪我がなければいい」

 

悠飛が手を離す。

 

その様子を見ていた六華。

 

「……」

 

まただ。

 

胸の奥が。

 

ちくりとする。

 

けれど。

 

「四葉が無事でよかった」

 

そう思う気持ちも。

 

同じくらい強かった。

 

「私、嫌な人になってるな……」

 

六華は小さく呟いた。

 

 

夕方。

 

山道を抜けると。

 

そこには広い湖があった。

 

「綺麗……」

 

一花が呟く。

 

夕陽を受けて。

 

湖面が金色に輝いている。

 

「写真撮ろう!」

 

四葉がスマートフォンを取り出す。

 

「みんなで撮りましょう!」

 

五つ子と六華。

 

そして悠飛と風太郎。

 

七人が並ぶ。

 

「悠飛、真ん中」

 

四葉が言う。

 

「俺が?」

 

「はい!」

 

「じゃあ風太郎も」

 

「俺も?」

 

「友達ですから!」

 

風太郎は渋々並ぶ。

 

「はい、撮ります!」

 

「三、二、一!」

 

シャッターが切られた。

 

そこに写っていたのは。

 

笑顔の七人と。

 

少し呆れた顔の風太郎。

 

それは。

 

後になっても。

 

彼らの大切な思い出になる一枚だった。

 

 

夜。

 

キャンプファイヤー。

 

大きな炎が夜空を照らす。

 

生徒たちが輪になっている。

 

「綺麗……」

 

六華が炎を見る。

 

隣には悠飛。

 

「こういうの、久しぶりだな」

 

「うん」

 

「昔にも似たようなことをした気がする」

 

「……!」

 

六華の心臓が跳ねた。

 

「悠飛も?」

 

「ああ」

 

「覚えてる?」

 

「まだ断片的だけどな」

 

六華は嬉しそうに笑った。

 

「私も」

 

「そうか」

 

「昔、みんなで遊んだ」

 

「五つ子と?」

 

「うん」

 

「俺もいた?」

 

「もちろん」

 

「そっか」

 

二人の間に。

 

穏やかな沈黙が流れる。

 

すると。

 

「悠飛さーん!」

 

四葉がこちらへ走ってくる。

 

「何だ?」

 

「一緒に行きましょう!」

 

「どこへ?」

 

「キャンプファイヤーの周り!」

 

「分かった」

 

四葉が悠飛の手を引く。

 

「……」

 

六華はその光景を見つめた。

 

胸が。

 

また少し痛くなる。

 

けれど。

 

今度は。

 

笑った。

 

「楽しんできて」

 

悠飛が振り返る。

 

「六華も来るだろ?」

 

「……え?」

 

「みんなで行くんだから」

 

「……」

 

六華は少し驚いた。

 

そして。

 

「うん!」

 

立ち上がった。

 

「私も行く!」

 

 

キャンプファイヤーの輪に戻る。

 

四葉が悠飛の隣。

 

その反対側には六華。

 

一花も近くにいる。

 

「せっかくだし」

 

一花が言う。

 

「みんなで踊らない?」

 

「踊る?」

 

二乃が驚く。

 

「こういう時くらいいいじゃん」

 

「私は……」

 

三玖が困る。

 

「大丈夫ですよ!」

 

五月が背中を押す。

 

「三玖も行きましょう」

 

「……うん」

 

音楽が流れ始める。

 

生徒たちが輪になって踊る。

 

四葉は楽しそうに笑い。

 

一花も笑顔。

 

三玖は最初こそ恥ずかしそうだったが、やがて笑う。

 

二乃も。

 

五月も。

 

六華も。

 

「楽しい!」

 

四葉が叫ぶ。

 

悠飛はそんな彼女たちを見ながら笑った。

 

「青春だな」

 

風太郎が隣で呟く。

 

「お前、年寄りみたいだぞ」

 

「うるさい」

 

二人も笑った。

 

 

その夜。

 

宿泊部屋。

 

五つ子と六華は一つの部屋に集まっていた。

 

「今日は楽しかったね」

 

一花が言う。

 

「はい!」

 

四葉が布団の上で笑う。

 

「悠飛さんと一緒に山を歩いたのも楽しかったです!」

 

「……」

 

六華が少し黙る。

 

「六華?」

 

「え?」

 

「どうしたの?」

 

一花が尋ねる。

 

「何でもないよ」

 

「またそれ?」

 

二乃が言う。

 

「六華、最近ちょっと変よ」

 

「そう?」

 

「悠飛絡みになると」

 

「……」

 

六華は黙った。

 

すると。

 

四葉が首を傾げる。

 

「六華ちゃん、悠飛さんのこと好きなんですか?」

 

「……!」

 

六華の顔が真っ赤になる。

 

「な、何を言って……」

 

「違うんですか?」

 

「……」

 

「私は悠飛さん、大好きですよ!」

 

四葉が堂々と言った。

 

「ちょっと四葉!」

 

一花が驚く。

 

「何ですか?」

 

「そんな簡単に……」

 

「好きなら好きでいいじゃないですか」

 

四葉は笑う。

 

「私たち、ずっと一緒なんですから」

 

「……」

 

六華は四葉を見る。

 

その笑顔に。

 

敵意はない。

 

むしろ。

 

「……四葉らしいな」

 

六華は笑った。

 

「うん」

 

「?」

 

「私も」

 

六華は胸に手を当てる。

 

「悠飛のことが好き」

 

一花が笑う。

 

「やっと言ったね」

 

「……うん」

 

二乃はため息。

 

「この学校、恋愛関係で騒がしくなりそうね」

 

三玖が小さく頷く。

 

「……そうだね」

 

五月は困ったように笑う。

 

「でも」

 

四葉が言う。

 

「誰が好きでも、私たちは五つ子ですよ」

 

「……」

 

「六華ちゃんも従姉妹です!」

 

六華の胸が温かくなる。

 

「ありがとう」

 

 

翌朝。

 

林間学校最終日。

 

帰りのバス。

 

みんな疲れて眠っている。

 

悠飛も窓の外を見ていた。

 

その隣で風太郎が呟く。

 

「楽しかったな」

 

「ああ」

 

「お前は?」

 

「楽しかった」

 

「珍しい」

 

「俺だって普通の高校生だ」

 

「そうだったな」

 

二人は笑った。

 

後方では。

 

四葉が眠っている。

 

一花も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

そして六華も。

 

六人の少女たちは。

 

昨日までより少しだけ近くなっていた。

 

悠飛は眠る六華を見る。

 

「……」

 

どこか。

 

昔にも見たような気がする。

 

幼い頃。

 

自分の後ろをついてきた少女。

 

名前すら。

 

まだ完全には思い出せない。

 

けれど。

 

「……大切な友達だったんだろうな」

 

悠飛はそう呟いた。

 

 

学校へ戻る。

 

林間学校は終わった。

 

だが。

 

彼らにとっては。

 

ここからが始まりだった。

 

一花は。

 

自分の夢へ。

 

四葉は。

 

自分の笑顔を胸に。

 

六華は。

 

悠飛への想いを胸に。

 

そして五つ子たちと悠飛。

 

風太郎。

 

それぞれが。

 

少しずつ未来へ進んでいく。

 

夏の終わり。

 

まだ暑さの残る校門前。

 

四葉が振り返る。

 

「悠飛さん!」

 

「ん?」

 

「またみんなで行きましょう!」

 

「ああ」

 

「約束ですよ!」

 

「約束だ」

 

その隣で六華が笑う。

 

「次は私が行き先を決めるね」

 

「いいな」

 

「一花も来る?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ決まり」

 

六人の少女たちが笑う。

 

その輪の中心で。

 

悠飛も笑っていた。

 

彼らはまだ知らない。

 

この林間学校で生まれた絆が。

 

やがて訪れる大きな事件の中で。

 

何よりも強い支えになることを。

 

そして――。

 

「……」

 

六華は悠飛の背中を見つめる。

 

自分の胸にある。

 

小さな嫉妬。

 

小さな恋。

 

そのどちらも。

 

もう隠さない。

 

「いつか……」

 

六華は小さく呟いた。

 

「私も、悠飛の隣に」

 

夏の風が吹く。

 

少女の髪を揺らす。

 

その横顔には。

 

確かな決意が宿っていた。

 

 

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