『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第27話「キャンプファイヤー」

林間学校、二日目の夜。

 

山の夜は、都会よりもずっと静かだった。

 

昼間は蝉の声や生徒たちの笑い声で賑やかだった森も、日が沈むと一気に表情を変える。

 

遠くで虫の鳴く音。

 

木々の間を抜ける風。

 

そして、校庭代わりの広場の中央に組まれた巨大な薪。

 

「おお……!」

 

四葉の目が輝いた。

 

「すごいです!」

 

「昼間とは別の場所みたい」

 

一花も感嘆の声を漏らす。

 

「これがキャンプファイヤー……」

 

五月は眼鏡を押し上げながら炎を見つめる。

 

三玖は少し離れた場所から静かに眺めていた。

 

「綺麗……」

 

二乃は腕を組みながら。

 

「まあ、悪くないわね」

 

「二乃、さっきから楽しそうですよ」

 

五月に指摘され。

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

二乃は顔を逸らした。

 

六華はそんな五つ子を眺めながら微笑んでいた。

 

そして。

 

少し離れた場所。

 

「……」

 

如月悠飛は夜空を見上げていた。

 

満天の星。

 

都会ではなかなか見ることのできない星空だ。

 

「悠飛」

 

声をかけてきたのは風太郎だった。

 

「どうした?」

 

「いや」

 

風太郎は空を見る。

 

「星、綺麗だな」

 

「ああ」

 

「お前、こういうの興味なさそうなのに」

 

「失礼だな」

 

「悪かった」

 

二人は並んで夜空を見上げた。

 

「……なあ、悠飛」

 

「ん?」

 

「俺たち」

 

「?」

 

「高校生活、結構楽しんでるな」

 

悠飛は少し考えた。

 

そして。

 

「そうだな」

 

笑った。

 

「思ってたよりずっと」

 

 

午後八時。

 

キャンプファイヤー開始。

 

教師が中央へ進み、点火用の松明を掲げる。

 

「それでは、林間学校恒例のキャンプファイヤーを始めます!」

 

生徒たちから歓声が上がった。

 

「それ!」

 

教師が薪へ火を移す。

 

最初は小さな炎。

 

しかし。

 

乾いた薪に火が燃え移り。

 

瞬く間に大きな炎へと変わっていく。

 

「うわぁ……!」

 

四葉が歓声を上げた。

 

炎が夜空を照らす。

 

赤い光が生徒たちの顔を照らす。

 

一花の瞳にも。

 

二乃の瞳にも。

 

三玖の瞳にも。

 

四葉の瞳にも。

 

五月の瞳にも。

 

六華の瞳にも。

 

そして。

 

悠飛の瞳にも。

 

炎が映っていた。

 

「綺麗ですね」

 

五月が呟く。

 

「うん」

 

六華も頷いた。

 

「なんだか……」

 

「ん?」

 

一花が見る。

 

「特別な夜って感じがする」

 

「分かる」

 

一花は笑った。

 

 

キャンプファイヤーでは、いくつかのレクリエーションが行われた。

 

歌。

 

ゲーム。

 

クラスごとの出し物。

 

そして。

 

最後の目玉。

 

「それでは最後に!」

 

教師が声を張り上げる。

 

「男女ペアで行うフォークダンスです!」

 

「えっ!?」

 

四葉が驚く。

 

「フォークダンスですか!?」

 

「四葉、声大きい」

 

二乃が呆れる。

 

「だって楽しそうじゃないですか!」

 

「……まあ」

 

二乃も少しだけ興味がありそうだった。

 

一花は悠飛を見る。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「踊れる?」

 

「一応」

 

「意外」

 

「武道やってたからな」

 

「関係あるの?」

 

「足運びなら似てる」

 

「ふふ」

 

一花は笑った。

 

その横で。

 

六華は黙っていた。

 

「……」

 

悠飛と踊る。

 

そんなことを考えただけで。

 

心臓が跳ねる。

 

だが。

 

「……」

 

周囲には女子も男子もたくさんいる。

 

誰が誰と組むのか。

 

まだ決まっていない。

 

「どうしよう……」

 

六華が小さく呟く。

 

その時。

 

「六華」

 

悠飛が声をかけた。

 

「え?」

 

「一緒に踊るか?」

 

「……!」

 

六華の時間が止まった。

 

「私と?」

 

「ああ」

 

「……」

 

胸が。

 

ドクン。

 

と大きく鳴った。

 

「……うん」

 

六華は笑う。

 

「お願いします」

 

 

音楽が始まる。

 

生徒たちが輪になる。

 

悠飛と六華も、その中に入る。

 

「緊張してる?」

 

悠飛が聞く。

 

「少し」

 

「大丈夫だ」

 

「悠飛は?」

 

「俺?」

 

「緊張しないの?」

 

「しないな」

 

「……ずるい」

 

「何が?」

 

「私だけドキドキしてるみたい」

 

「……」

 

悠飛は少し驚いた。

 

「そうなのか?」

 

「……」

 

六華は顔を赤くする。

 

「忘れて」

 

「無理だな」

 

「もう……」

 

音楽に合わせて。

 

二人は歩く。

 

一歩。

 

二歩。

 

回転。

 

そして。

 

手を繋ぐ。

 

「……!」

 

六華の頬が熱くなる。

 

悠飛の手。

 

大きくて。

 

温かい。

 

幼い頃。

 

何度も握ったはずなのに。

 

今は。

 

まったく違う感覚だった。

 

「六華」

 

「なに?」

 

「足元」

 

「え?」

 

「危ない」

 

「わっ!」

 

六華が足を滑らせる。

 

悠飛がすぐに支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「……うん」

 

「怪我は?」

 

「ない」

 

「よかった」

 

六華は悠飛の腕に支えられたまま。

 

しばらく動けなかった。

 

「……」

 

近い。

 

悠飛の顔が。

 

すぐ目の前にある。

 

「六華?」

 

「……!」

 

六華は慌てて離れる。

 

「ご、ごめん!」

 

「大丈夫」

 

「……」

 

心臓が。

 

壊れそうだった。

 

 

少し離れた場所。

 

一花はその光景を見ていた。

 

「……」

 

そして。

 

四葉も。

 

「六華ちゃん、悠飛さんと踊ってますね!」

 

「うん」

 

「楽しそうです!」

 

「……そうだね」

 

一花は笑った。

 

だが。

 

胸の奥には。

 

小さな嫉妬があった。

 

「私も……」

 

そう思った瞬間。

 

一花は苦笑する。

 

「本当に欲張りだな、私」

 

一花は自分でも驚くほど。

 

悠飛への想いが強くなっていることを自覚していた。

 

女優への夢。

 

そして。

 

恋。

 

どちらも。

 

諦めたくない。

 

 

曲が終わる。

 

生徒たちから拍手が起こる。

 

六華は悠飛から離れる。

 

「ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

「楽しかった」

 

「俺も」

 

六華は嬉しそうに笑う。

 

「……」

 

その笑顔を見て。

 

悠飛はふと。

 

昔の記憶を思い出した。

 

小さな女の子。

 

自分の手を握って。

 

笑っている。

 

『悠飛くん!』

 

「……」

 

頭の奥が。

 

少し痛む。

 

「悠飛?」

 

六華が心配そうに見る。

 

「大丈夫?」

 

「ああ」

 

悠飛は額に手を当てる。

 

「昔のことを少し思い出した」

 

「……!」

 

六華の胸が高鳴る。

 

「何を?」

 

「まだ断片的だけど」

 

悠飛は目を閉じる。

 

「小さい頃」

 

「うん」

 

「俺たち」

 

「……」

 

「一緒に踊ったことがあった気がする」

 

六華の目が潤む。

 

「……あったよ」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

「そうか」

 

悠飛は笑った。

 

「やっぱり」

 

六華は胸元に手を当てる。

 

「覚えてくれてたんだ……」

 

「全部じゃない」

 

「それでも」

 

六華は笑った。

 

「嬉しい」

 

 

その頃。

 

キャンプファイヤーの周囲では。

 

別のイベントが始まっていた。

 

「伝説のキャンプファイヤー」

 

誰かが言った。

 

「知ってる?」

 

「何それ?」

 

「このキャンプファイヤーで手を繋いだ二人は――」

 

一花が聞き耳を立てる。

 

「結ばれるんだって」

 

「へえ」

 

二乃が興味を示す。

 

「そんな伝説あるの?」

 

「学校では有名らしい」

 

三玖が呟く。

 

「……」

 

四葉は悠飛を見る。

 

六華も。

 

一花も。

 

三人の視線が。

 

偶然。

 

交差する。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

その瞬間。

 

三人とも。

 

少しだけ気まずくなった。

 

二乃がそれに気づく。

 

「……何よ、この空気」

 

五月も首を傾げる。

 

「どうしたんですか?」

 

「何でもない!」

 

一花と四葉と六華。

 

三人の声が重なった。

 

 

その後。

 

自由時間。

 

生徒たちはそれぞれ友達と話していた。

 

悠飛は風太郎と少し離れた場所に座っていた。

 

「お前」

 

風太郎が言う。

 

「何だ?」

 

「さっきから女子に囲まれてるな」

 

「そうか?」

 

「自覚なしか」

 

「友達だからな」

 

「……」

 

風太郎は頭を抱えた。

 

「お前、本当にそういうところだぞ」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

「そうか」

 

二人は炎を見る。

 

「風太郎」

 

「ん?」

 

「楽しいか?」

 

「……まあな」

 

「ならよかった」

 

「お前もな」

 

「ああ」

 

 

その時。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が走ってきた。

 

「どうした?」

 

「少しお話ししませんか?」

 

「いいぞ」

 

四葉が隣に座る。

 

「今日は楽しいですね!」

 

「ああ」

 

「林間学校って、もっと疲れるものだと思ってました」

 

「まあ、まだ二日目だ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

四葉が悠飛を見る。

 

「私」

 

「うん」

 

「高校生活って」

 

「?」

 

「こんなに楽しいものだったんですね」

 

「……」

 

「昔は、勉強も苦手で」

 

「今は違う」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

「悠飛さんや風太郎くんと勉強して」

 

「うん」

 

「みんなと一緒に頑張って」

 

「うん」

 

「少しずつ、自分が変わってる気がします」

 

「それは四葉自身の努力だ」

 

「でも」

 

四葉は悠飛を見る。

 

「悠飛さんがいてくれたからです」

 

「……」

 

「だから」

 

四葉は笑う。

 

「これからも、ずっと友達でいてくださいね」

 

悠飛は微笑んだ。

 

「ああ」

 

「約束ですよ?」

 

「約束だ」

 

四葉は嬉しそうに笑った。

 

 

少し離れた場所。

 

六華は二人を見ていた。

 

「……」

 

また。

 

胸が少し痛む。

 

でも。

 

今度は逃げなかった。

 

「私は」

 

六華は自分に言い聞かせる。

 

「私のやり方でいい」

 

その時。

 

一花が隣に来た。

 

「また見てた?」

 

「……うん」

 

「嫉妬?」

 

「少し」

 

「私も」

 

一花は苦笑した。

 

「でも」

 

「?」

 

「負けたくないよね」

 

六華は一花を見る。

 

「……うん」

 

「じゃあ」

 

一花が手を差し出す。

 

「恋のライバルってことで」

 

「……ふふ」

 

六華はその手を握る。

 

「望むところ」

 

二人は笑った。

 

 

そして。

 

キャンプファイヤーが終わる。

 

巨大な炎が少しずつ小さくなる。

 

赤い火の粉が夜空へ舞い上がる。

 

「終わっちゃいましたね」

 

四葉が寂しそうに言う。

 

「またやればいい」

 

悠飛が答える。

 

「高校生活はまだ終わらない」

 

「そうですね!」

 

四葉が笑う。

 

一花も。

 

六華も。

 

五つ子たちも。

 

それぞれ笑顔を浮かべる。

 

 

宿泊施設へ戻る道。

 

悠飛は夜空を見上げた。

 

「……」

 

不思議だった。

 

今日。

 

六華と手を繋いだ瞬間。

 

幼い日の記憶が蘇った。

 

小さな手。

 

小さな笑顔。

 

そして。

 

『また遊ぼうね!』

 

誰の声だったのか。

 

まだ思い出せない。

 

「……」

 

だが。

 

その記憶が。

 

とても大切なものだったことだけは分かる。

 

「悠飛」

 

風太郎が呼ぶ。

 

「ん?」

 

「帰るぞ」

 

「ああ」

 

二人は歩き出す。

 

 

その夜。

 

六華は布団の中で眠れずにいた。

 

「……」

 

右手を見る。

 

今日。

 

悠飛と握った手。

 

まだ感触が残っているような気がする。

 

「……馬鹿みたい」

 

六華は枕に顔を埋める。

 

「たった一度、手を繋いだだけなのに」

 

それでも。

 

嬉しかった。

 

とても。

 

「……」

 

幼い日の記憶。

 

少しずつ戻ってきた。

 

自分。

 

五つ子。

 

悠飛。

 

七人で遊んだ日々。

 

「悠飛」

 

六華は目を閉じる。

 

「今度は」

 

「私が、あなたの隣にいたい」

 

その言葉は。

 

誰にも聞こえない。

 

小さな独白だった。

 

 

翌朝。

 

林間学校最終日。

 

帰りのバスが出発する。

 

四葉は疲れて眠っている。

 

一花も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

六華も。

 

そして。

 

悠飛は窓の外を見る。

 

山々が遠ざかっていく。

 

「楽しかったな」

 

風太郎が呟く。

 

「ああ」

 

「また行きたいか?」

 

「みんなでなら」

 

「……そうだな」

 

バスの後方から。

 

寝言が聞こえた。

 

「悠飛さん……」

 

四葉だった。

 

悠飛は苦笑する。

 

「寝言まで俺か」

 

風太郎が笑う。

 

「お前、相当好かれてるな」

 

「友達だからだろ」

 

「……」

 

風太郎は何も言わなかった。

 

ただ。

 

少しだけ笑った。

 

 

林間学校。

 

それは。

 

ただの学校行事ではなかった。

 

悠飛と五つ子。

 

六華。

 

そして風太郎。

 

彼らの距離を。

 

ほんの少し縮めた三日間。

 

そして。

 

キャンプファイヤーの夜。

 

それぞれの胸に。

 

新しい想いが灯った。

 

一花は。

 

女優として。

 

そして一人の少女として。

 

悠飛を想う。

 

四葉は。

 

笑顔の大切さを知り。

 

悠飛との絆を深める。

 

六華は。

 

自分の嫉妬と向き合いながら。

 

悠飛への恋を決意する。

 

そして悠飛は。

 

まだ知らない。

 

幼い頃から続いていた七人の絆が。

 

やがて。

 

彼の人生を大きく変えることを。

 

燃え上がったキャンプファイヤーの炎は。

 

消えた。

 

しかし。

 

彼らの胸に灯った想いの火は。

 

まだ。

 

消えることなく燃え続けていた。

 

 

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