『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第28話「悠飛、倒れる」

林間学校から戻って数日。

 

旭高校には、再びいつもの日常が戻っていた。

 

「おはようございます!」

 

朝の教室に、四葉の明るい声が響く。

 

「おはよう、四葉」

 

一花が手を振る。

 

「昨日の林間学校の写真、見せてよ」

 

「もちろんです!」

 

四葉はスマートフォンを取り出した。

 

そこには、湖の前で撮った写真やキャンプファイヤーの写真が大量に保存されている。

 

「これ、すごく綺麗!」

 

五月が覗き込む。

 

「キャンプファイヤーの写真もありますよ」

 

「見せて」

 

二乃も近づく。

 

三玖も無言で画面を見る。

 

六華は少し離れたところから写真を眺めていた。

 

その中には。

 

悠飛と六華がフォークダンスをしている写真もあった。

 

「……」

 

六華の頬が少し赤くなる。

 

一花が気づく。

 

「六華ちゃん」

 

「なに?」

 

「その写真、欲しい?」

 

「……」

 

「欲しいんだ」

 

「……少し」

 

一花は笑う。

 

「送ってあげる」

 

「ありがとう」

 

そんな穏やかな朝。

 

だが。

 

教室の反対側では。

 

「……」

 

上杉風太郎が一人、悠飛を見ていた。

 

「どうした?」

 

悠飛が聞く。

 

「お前」

 

「ん?」

 

「顔色悪くないか?」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

風太郎は眉を寄せる。

 

「昨日、ちゃんと寝たか?」

 

「四時間くらい」

 

「少なすぎるだろ」

 

「少し仕事があった」

 

悠飛は笑う。

 

高校生でありながら。

 

悠飛には、すでに莫大な資産がある。

 

父・明馬が経営するIT企業の手伝い。

 

母・明美が経営する美容院の経営相談。

 

そして。

 

自ら行っている投資。

 

さらに。

 

学校の勉強。

 

五つ子たちとの勉強会。

 

武道の稽古。

 

「……」

 

風太郎はため息をついた。

 

「お前、少し休め」

 

「分かってる」

 

「その台詞、信用できない」

 

「大丈夫だ」

 

悠飛は笑った。

 

「俺は丈夫だから」

 

風太郎は納得していなかった。

 

「……ならいいが」

 

 

一時間目。

 

数学。

 

「それでは、この問題を――」

 

教師が黒板に問題を書く。

 

悠飛はいつものようにノートを開く。

 

しかし。

 

「……」

 

文字が少し滲んだ。

 

「……?」

 

悠飛は目を瞬かせる。

 

一度。

 

二度。

 

目を擦る。

 

「……」

 

頭が重い。

 

だが。

 

気にせず問題を解く。

 

答えはすぐに出た。

 

「……」

 

しかし。

 

ペンを持つ手に。

 

わずかな震えがあった。

 

後ろの席。

 

風太郎はそれを見逃さなかった。

 

「……」

 

 

二時間目。

 

体育。

 

「今日は持久走だ!」

 

教師の声に。

 

クラスから悲鳴が上がる。

 

「ええっ!?」

 

「暑い!」

 

「マジかよ!」

 

四葉はむしろ嬉しそうだった。

 

「走るんですか!」

 

「お前は元気だな」

 

悠飛が笑う。

 

「悠飛さんも一緒に走りましょう!」

 

「ああ」

 

二人はグラウンドへ出た。

 

夏の日差し。

 

強い照り返し。

 

「水分補給は忘れるなよ」

 

風太郎が言う。

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

「大丈夫だ」

 

また。

 

その言葉。

 

スタート。

 

生徒たちが走り出す。

 

悠飛も。

 

いつも通り。

 

いや。

 

いつも以上の速度で走っていた。

 

「速い!」

 

四葉が驚く。

 

「さすが悠飛さん!」

 

「四葉も速いぞ」

 

「負けません!」

 

二人が並んで走る。

 

しかし。

 

数周したところで。

 

「……」

 

悠飛の呼吸が乱れた。

 

「悠飛さん?」

 

四葉が気づく。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ」

 

「顔色、悪いですよ?」

 

「少し暑いだけだ」

 

悠飛は速度を落とす。

 

だが。

 

その瞬間。

 

視界が大きく揺れた。

 

「……!」

 

足元が。

 

ふらつく。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が腕を掴む。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「……ああ」

 

悠飛は立ち直る。

 

「ちょっと眩暈がしただけだ」

 

「保健室行きましょう!」

 

「大丈夫だ」

 

「でも!」

 

「本当に大丈夫」

 

悠飛は笑った。

 

「心配するな」

 

四葉は納得していない。

 

「……」

 

少し離れたところから。

 

風太郎が見ていた。

 

その表情は。

 

明らかに険しかった。

 

 

昼休み。

 

「悠飛」

 

風太郎が机の前に立つ。

 

「何だ?」

 

「保健室行け」

 

「平気だ」

 

「さっき倒れかけただろ」

 

「倒れてない」

 

「そういう問題じゃない」

 

風太郎は声を落とす。

 

「最近のお前、明らかにおかしい」

 

「……」

 

「寝不足」

 

「……」

 

「仕事のしすぎ」

 

「……」

 

「勉強会」

 

「……」

 

「武道」

 

「……」

 

「投資までやってる」

 

「……」

 

「全部やろうとするな」

 

悠飛は少し黙った。

 

「……風太郎」

 

「何だ」

 

「俺がやらなきゃいけないんだ」

 

「何を?」

 

「家のことも」

 

「お前の親父も母親も健在だろ」

 

「そうじゃない」

 

悠飛は窓の外を見る。

 

「俺は恵まれてる」

 

「……」

 

「だからこそ」

 

「……」

 

「努力を止めたくない」

 

風太郎は黙る。

 

「俺の人生は」

 

悠飛は続ける。

 

「俺だけのものじゃないからな」

 

「……」

 

「明馬さんも、明美さんも」

 

「……」

 

「莉々華も」

 

「……」

 

「そして」

 

悠飛は教室の向こうを見る。

 

五つ子たち。

 

六華。

 

四葉が笑っている。

 

「みんなの力になりたい」

 

風太郎はため息をついた。

 

「……馬鹿だな、お前」

 

「よく言われる」

 

「褒めてない」

 

「知ってる」

 

二人は少し笑った。

 

だが。

 

風太郎の心配は消えなかった。

 

 

放課後。

 

勉強会。

 

いつものように如月家へ集まる。

 

「今日も頑張りましょう!」

 

四葉が声を上げる。

 

「おー!」

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

一花。

 

全員が席につく。

 

「今日は数学から」

 

悠飛が問題を配る。

 

「分からないところがあれば聞いてくれ」

 

「はい!」

 

勉強会が始まる。

 

最初は順調だった。

 

一花が問題を解く。

 

三玖も。

 

五月も。

 

六華も。

 

四葉も。

 

だが。

 

「……」

 

悠飛は少しずつ。

 

顔色が悪くなっていった。

 

「悠飛」

 

風太郎が気づく。

 

「休め」

 

「大丈夫」

 

「またそれか」

 

「本当に――」

 

その瞬間。

 

悠飛の手から。

 

ペンが落ちた。

 

カラン。

 

「……」

 

全員が振り向く。

 

「悠飛?」

 

一花が声をかける。

 

「……」

 

悠飛は立ち上がろうとした。

 

しかし。

 

「……あれ?」

 

身体が動かない。

 

「悠飛さん?」

 

四葉が立つ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……」

 

視界が暗くなる。

 

音が遠くなる。

 

「……」

 

そして。

 

悠飛の身体が。

 

ゆっくり前へ傾いた。

 

「悠飛!」

 

風太郎が叫ぶ。

 

「危ない!」

 

四葉も手を伸ばす。

 

だが。

 

間に合わない。

 

悠飛は。

 

そのまま。

 

床へ倒れた。

 

「悠飛さん!!」

 

 

一瞬。

 

部屋が静まり返った。

 

「……」

 

誰も動けない。

 

「悠飛!」

 

風太郎が駆け寄る。

 

「おい!」

 

肩を支える。

 

「悠飛、聞こえるか!?」

 

「……」

 

返事がない。

 

「悠飛!」

 

四葉が泣きそうな顔で叫ぶ。

 

「起きてください!」

 

一花も駆け寄る。

 

「悠飛くん!」

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

全員が集まる。

 

「救急車!」

 

風太郎が言う。

 

「すぐに!」

 

五月がスマートフォンを取り出す。

 

「私が連絡します!」

 

「頼む!」

 

風太郎は悠飛の状態を確認する。

 

「……」

 

呼吸はある。

 

意識がない。

 

「大丈夫だ」

 

風太郎は自分に言い聞かせる。

 

「大丈夫……」

 

しかし。

 

手は震えていた。

 

 

「悠飛……」

 

四葉がその場に座り込む。

 

「お願い……」

 

涙が頬を伝う。

 

「起きてください……」

 

一花も。

 

唇を噛んでいる。

 

「こんなの……」

 

六華は。

 

ただ悠飛を見つめていた。

 

「……」

 

怖い。

 

今まで。

 

悠飛はいつも強かった。

 

何でもできた。

 

勉強も。

 

武道も。

 

仕事も。

 

誰かが困れば。

 

必ず助けてくれた。

 

そんな悠飛が。

 

今。

 

目を閉じている。

 

「……」

 

六華の目から。

 

涙が落ちる。

 

「悠飛……」

 

 

救急車が到着した。

 

救急隊員が入ってくる。

 

「倒れたのは?」

 

風太郎が答える。

 

「友人です。高校生です」

 

「意識は?」

 

「ありません」

 

「呼吸は?」

 

「あります」

 

隊員たちが処置を始める。

 

「担架を」

 

「はい」

 

悠飛が運ばれていく。

 

四葉が追いかけようとする。

 

「私も!」

 

しかし。

 

教師が止める。

 

「四葉、落ち着いて」

 

「でも!」

 

「病院には家族が向かう」

 

「……」

 

四葉は泣きながら。

 

悠飛を見送った。

 

「……悠飛さん」

 

 

病院。

 

如月家の両親もすぐに駆けつけた。

 

「悠飛!」

 

父・明馬。

 

「どうして……」

 

母・明美。

 

妹・莉々華も。

 

「お兄ちゃん……」

 

三人とも不安そうな顔をしていた。

 

医師が説明する。

 

「現時点では、過労と睡眠不足、それに強い暑さが重なったことによる失神の可能性が高いです」

 

「……」

 

明馬が息を吐く。

 

「大事には?」

 

「現段階では生命に関わる状態ではありません」

 

明美は胸を撫で下ろす。

 

「よかった……」

 

莉々華は涙を拭う。

 

「お兄ちゃん……」

 

 

病室。

 

悠飛は眠っていた。

 

点滴。

 

静かな機械音。

 

「……」

 

その横で。

 

風太郎が椅子に座っている。

 

「馬鹿野郎」

 

小さく呟く。

 

「無茶しすぎなんだよ」

 

そこへ。

 

「風太郎くん」

 

明美が声をかける。

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

「……」

 

「悠飛を助けてくれて」

 

「俺は何もしてません」

 

「それでも」

 

明美は微笑む。

 

「友達がそばにいてくれることは、大きな支えになるから」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「……」

 

「これからも」

 

明美が言う。

 

「息子の友達でいてあげて」

 

「もちろんです」

 

風太郎は即答した。

 

「一生」

 

 

数時間後。

 

「……」

 

悠飛が目を開けた。

 

「ここ……」

 

「病院だ」

 

「風太郎?」

 

「ああ」

 

悠飛は周囲を見る。

 

「……みんなは?」

 

「心配してる」

 

「五つ子たちは?」

 

「帰した」

 

「そうか……」

 

「まず自分の心配をしろ」

 

「悪かった」

 

「謝る相手が違う」

 

「……」

 

悠飛は苦笑する。

 

「父さんと母さんか」

 

「それもある」

 

風太郎は少し黙る。

 

「四葉」

 

「……」

 

「ずっと泣いてたぞ」

 

悠飛の表情が変わる。

 

「そうか……」

 

「一花も」

 

「……」

 

「六華も」

 

「……」

 

悠飛は天井を見る。

 

「……心配かけたな」

 

「当たり前だ」

 

「風太郎」

 

「何だ」

 

「ありがとう」

 

「礼はいい」

 

「でも」

 

「……」

 

「ありがとう」

 

風太郎は少しだけ笑った。

 

「なら、もう倒れるな」

 

「ああ」

 

「約束だ」

 

「約束する」

 

 

翌日。

 

病院。

 

「悠飛!」

 

病室の扉が開く。

 

四葉だった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「……」

 

四葉はベッドの横まで来る。

 

「……よかった」

 

そして。

 

悠飛の手を握った。

 

「本当に……よかったです」

 

「心配かけたな」

 

「……はい」

 

四葉の目に涙が浮かぶ。

 

「すごく心配しました」

 

「ごめん」

 

「謝らないでください」

 

「……」

 

「ただ」

 

四葉は笑う。

 

「もう無茶しないでください」

 

「ああ」

 

「約束です」

 

「約束する」

 

 

続いて。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

五人が病室へ入ってきた。

 

「悠飛くん」

 

一花が言う。

 

「本当に大丈夫?」

 

「ああ」

 

「よかった……」

 

二乃は腕を組む。

 

「心配させるんじゃないわよ」

 

「悪かった」

 

三玖は小さく。

 

「無理しすぎ」

 

「……ああ」

 

五月は真剣な顔。

 

「健康管理も大切です」

 

「肝に銘じる」

 

そして。

 

六華。

 

「……」

 

悠飛を見る。

 

何も言わない。

 

ただ。

 

ベッドの横まで歩いてくる。

 

「六華?」

 

「……」

 

六華の目に涙が浮かんでいた。

 

「……怖かった」

 

「……」

 

「本当に」

 

悠飛は何も言えない。

 

「悠飛がいなくなったらどうしようって」

 

「……」

 

「私」

 

六華は拳を握る。

 

「まだ何も伝えてないのに」

 

「……」

 

その言葉に。

 

一花が静かに目を伏せた。

 

四葉も。

 

少しだけ六華を見る。

 

だが。

 

誰も何も言わなかった。

 

悠飛は。

 

「六華」

 

「……何?」

 

「俺はここにいる」

 

「……うん」

 

「だから大丈夫だ」

 

六華は涙を拭う。

 

「……約束?」

 

「ああ」

 

「絶対?」

 

「絶対だ」

 

六華は。

 

ようやく笑った。

 

「……分かった」

 

 

その日の夕方。

 

悠飛は一人。

 

病室の窓から夕焼けを見ていた。

 

「……」

 

今回のことで。

 

自分が無理をしていたことを。

 

初めて実感した。

 

何でもできる。

 

そう思っていた。

 

学問も。

 

武術も。

 

投資も。

 

人を助けることも。

 

しかし。

 

身体だけは。

 

一つしかない。

 

「……」

 

ドアが開く。

 

「悠飛」

 

風太郎だった。

 

「どうした?」

 

「これ」

 

風太郎が一枚の紙を渡す。

 

「何だ?」

 

「勉強会の予定表」

 

「……」

 

そこには。

 

『しばらく休止』

 

と書かれていた。

 

「俺が決めた」

 

「風太郎」

 

「異論は?」

 

「……ない」

 

「よし」

 

風太郎は笑う。

 

「退院したら、まず休め」

 

「ああ」

 

「それから」

 

「?」

 

「友達として遊ぼう」

 

悠飛は笑った。

 

「それ、いいな」

 

 

窓の外。

 

夕日が沈んでいく。

 

悠飛は目を閉じる。

 

幼い日の記憶。

 

五つ子。

 

六華。

 

そして。

 

自分。

 

七人で笑っている。

 

「……」

 

いつか。

 

全部思い出すのだろうか。

 

その答えは。

 

まだ分からない。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

分かったことがある。

 

自分を心配してくれる人がいる。

 

自分を必要としてくれる人がいる。

 

だからこそ。

 

これからは。

 

一人で背負わない。

 

「……ありがとう」

 

誰に向けた言葉なのか。

 

悠飛自身にも分からなかった。

 

けれど。

 

その夜。

 

悠飛は久しぶりに。

 

深い眠りについた。

 

そして。

 

この出来事を境に。

 

悠飛と五つ子。

 

六華。

 

風太郎。

 

七人の関係は。

 

少しずつ。

 

「友達」という言葉だけでは収まらないほど。

 

深くなっていくのだった。

 

 

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