『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第29話「五つ子のお見舞い」

翌日の午後。

 

如月悠飛は、病院の個室で窓の外を眺めていた。

 

昨日の騒ぎが嘘のように、今日は静かだった。

 

ベッド脇の机には、水の入ったペットボトルと、母・明美が持ってきた果物。

 

そして、風太郎が置いていった大量の参考書。

 

「……」

 

悠飛は参考書を手に取る。

 

「風太郎……」

 

表紙をめくる。

 

そこには付箋が大量に貼られていた。

 

『退院するまで勉強禁止』

 

「……」

 

悠飛は苦笑する。

 

「本当に俺のことを何だと思ってるんだ」

 

しかし。

 

その付箋を剥がす気にはなれなかった。

 

昨日。

 

自分が倒れたとき。

 

みんながどれだけ心配していたのか。

 

悠飛にも分かっていた。

 

特に。

 

四葉の泣きそうな顔。

 

一花の震える声。

 

そして。

 

六華の涙。

 

思い出すだけで胸が痛む。

 

「……無茶はするな、か」

 

風太郎の言葉が蘇る。

 

「分かってるよ」

 

そう呟いた。

 

その時。

 

コンコン。

 

病室のドアがノックされた。

 

「はい」

 

返事をすると。

 

「失礼します!」

 

聞き慣れた声がした。

 

「……?」

 

ドアが開く。

 

「悠飛さん!」

 

最初に入ってきたのは四葉。

 

その後ろから。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

そして。

 

六華。

 

「……」

 

悠飛は目を丸くした。

 

「みんな……」

 

「お見舞いです!」

 

四葉が元気よく言った。

 

「昨日は本当に心配しましたから!」

 

「……悪かったな」

 

「謝らないでください!」

 

四葉は頬を膨らませる。

 

「今日は元気そうなので安心しました!」

 

「ありがとう」

 

「はい!」

 

四葉は満面の笑みを浮かべた。

 

 

「それにしても」

 

一花がベッド脇へ歩いてくる。

 

「悠飛くんが病院のベッドにいるって、なんだか不思議」

 

「俺だって好きで入院してるわけじゃない」

 

「ふふっ」

 

一花は笑う。

 

「でも、ちょっと安心した」

 

「何が?」

 

「こうして普通に話せるから」

 

一花の声は、いつもの軽い調子より少しだけ優しかった。

 

「昨日は……」

 

一花は言葉を止める。

 

「本当に怖かったんだよ」

 

「……」

 

「悠飛くん、全然動かないんだもん」

 

一花は笑おうとする。

 

けれど。

 

その笑顔は少し震えていた。

 

「私、結構強いほうだと思ってたんだけどな」

 

「一花……」

 

「悠飛くんが倒れた瞬間」

 

一花は胸元に手を当てる。

 

「心臓が止まるかと思った」

 

悠飛は黙って聞いていた。

 

「だから」

 

一花は微笑む。

 

「ちゃんと元気になってね」

 

「ああ」

 

「約束だよ?」

 

「約束する」

 

「よし」

 

一花は満足そうに笑った。

 

 

「はい!」

 

次に二乃が紙袋を差し出した。

 

「これは?」

 

「お見舞いの品」

 

悠飛が中を見る。

 

「……菓子?」

 

「そう」

 

「こんなに?」

 

「みんなで食べればいいでしょ」

 

二乃はそっぽを向く。

 

「一人で全部食べたら怒るからね」

 

「分かった」

 

「あと」

 

二乃は指を一本立てる。

 

「無茶しない」

 

「ああ」

 

「ちゃんと寝る」

 

「分かった」

 

「食事もちゃんと取る」

 

「……」

 

「何よ」

 

「母さんみたいだな」

 

「なっ……!」

 

二乃の顔が赤くなる。

 

「そ、そんなこと言ってないで、ちゃんと守りなさい!」

 

「分かった」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

二乃は少し安心したように。

 

「ならいいわ」

 

 

三玖は小さな紙袋を取り出した。

 

「これ」

 

「俺に?」

 

「うん」

 

悠飛が受け取る。

 

中には。

 

小さなお守りが入っていた。

 

「……」

 

「病気平癒のお守り」

 

「ありがとう」

 

「昨日、買った」

 

「昨日?」

 

「悠飛が倒れたあと」

 

三玖は俯く。

 

「……」

 

「三玖」

 

「何?」

 

「嬉しいよ」

 

「……そう」

 

三玖は小さく笑う。

 

「ならよかった」

 

「大事にする」

 

「うん」

 

 

五月は少し大きな袋を抱えていた。

 

「悠飛さん」

 

「何だ?」

 

「こちらを」

 

「……」

 

中には。

 

栄養補給用の食品。

 

「……」

 

悠飛が苦笑する。

 

「これ全部?」

 

「はい」

 

「多くないか?」

 

「病院の食事だけでは足りないかと思いまして」

 

「いや、病院食で十分だと思うぞ」

 

「でも!」

 

五月は真剣な顔をする。

 

「健康管理は大切です」

 

「……」

 

「昨日、倒れたのですから」

 

「ごもっとも」

 

「分かればいいのです」

 

五月は満足そうに頷く。

 

一花が笑う。

 

「五月ちゃん、お母さんみたい」

 

「なっ……!」

 

五月も少し赤くなる。

 

「私はただ心配しているだけです!」

 

 

そして。

 

最後に。

 

六華がベッドの前に立った。

 

「……」

 

「六華?」

 

「……」

 

六華は悠飛を見る。

 

昨日。

 

涙を流した。

 

今日は。

 

笑おうとしていた。

 

「元気そう」

 

「ああ」

 

「よかった」

 

「来てくれてありがとう」

 

「……うん」

 

六華は椅子に座った。

 

「昨日」

 

「ん?」

 

「帰ってから、眠れなかった」

 

「……」

 

「ずっと考えてた」

 

「何を?」

 

「悠飛が倒れたときのこと」

 

六華は自分の手を見る。

 

「もし」

 

「……」

 

「もし、悠飛が目を覚まさなかったらって」

 

「六華」

 

「……ごめん」

 

六華は首を振る。

 

「怖かったんだ」

 

悠飛は黙っている。

 

「私」

 

六華は顔を上げた。

 

「悠飛が思ってるより、悠飛のことを大切に思ってる」

 

「……」

 

「だから」

 

少しだけ。

 

声が震える。

 

「自分の身体を大切にして」

 

悠飛は微笑んだ。

 

「分かった」

 

「約束して」

 

「ああ」

 

「絶対」

 

「絶対だ」

 

六華はようやく笑った。

 

「……ありがとう」

 

 

その時。

 

病室の外から声が聞こえた。

 

「おい、悠飛」

 

「風太郎?」

 

ドアが開く。

 

風太郎が入ってきた。

 

そして。

 

「……」

 

五つ子+六華を見て。

 

「多いな」

 

「お見舞いです!」

 

四葉が答える。

 

「そうか」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「大人気だな」

 

「からかうな」

 

「事実だ」

 

一花が笑う。

 

「風太郎くんも心配してたもんね」

 

「……」

 

「昨日からずっと」

 

「一花」

 

「はいはい」

 

風太郎はため息をつく。

 

「俺はただ友人として――」

 

「友人?」

 

二乃が反応する。

 

「そうだ」

 

「悠飛とは友達なの?」

 

「そうだ」

 

「……」

 

二乃は悠飛を見る。

 

「いい友達ね」

 

「だろ?」

 

悠飛が笑う。

 

「自慢の友達だ」

 

風太郎は少し照れたように目を逸らした。

 

「……馬鹿」

 

 

しばらくすると。

 

病室の雰囲気はすっかり明るくなっていた。

 

「悠飛さん!」

 

四葉がスマートフォンを取り出す。

 

「林間学校の写真、一緒に見ませんか?」

 

「いいぞ」

 

「これです!」

 

画面には。

 

キャンプファイヤー。

 

集合写真。

 

そして。

 

フォークダンス。

 

「……」

 

六華の写真が映った。

 

悠飛と六華が手を繋いでいる。

 

「……」

 

六華の顔が赤くなる。

 

一花がニヤニヤする。

 

「六華ちゃん、顔赤いよ」

 

「赤くない」

 

「赤いよ」

 

「一花……」

 

四葉も笑う。

 

「六華ちゃん、嬉しそうでしたもんね!」

 

「四葉まで……」

 

悠飛は写真を見る。

 

「そういえば」

 

「何?」

 

六華が聞く。

 

「この写真」

 

「うん」

 

「どこか懐かしい気がする」

 

六華の表情が変わる。

 

「……」

 

「昔も」

 

悠飛は写真を見ながら呟く。

 

「こうして手を繋いだことがあったような」

 

「……あったよ」

 

六華が答える。

 

「え?」

 

「小さい頃」

 

六華は優しく笑った。

 

「私たち」

 

「……」

 

「一緒に遊んでた」

 

一花たちも黙る。

 

「そうだったな」

 

悠飛は頭を押さえる。

 

「でも、まだ思い出せない」

 

「無理に思い出さなくてもいいよ」

 

一花が言った。

 

「え?」

 

「今、一緒にいればいいじゃん」

 

「……」

 

一花の言葉に。

 

悠飛は少し驚いた。

 

「そうだな」

 

 

その後。

 

面会時間が終わりに近づく。

 

「じゃあ、帰ります」

 

五月が言う。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「明日は来ません」

 

「そうなのか?」

 

「はい」

 

「どうして?」

 

「学校がありますから」

 

「……」

 

「でも」

 

五月は微笑む。

 

「退院したら、また勉強会をしましょう」

 

「もちろん」

 

四葉も手を挙げる。

 

「私も!」

 

一花。

 

「私もね」

 

三玖。

 

「……私も」

 

二乃。

 

「当然でしょ」

 

六華。

 

「私も」

 

「みんな……」

 

悠飛は笑う。

 

「ありがとう」

 

 

病室を出る直前。

 

六華だけが残った。

 

「……」

 

「六華?」

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「最後に一つだけ」

 

「何だ?」

 

六華は。

 

少し恥ずかしそうに。

 

「……また、二人で帰ろうね」

 

悠飛は一瞬考える。

 

林間学校の帰り道。

 

幼い頃の記憶。

 

そして。

 

昨日の涙。

 

「もちろん」

 

「……うん」

 

六華は笑った。

 

「約束」

 

「約束だ」

 

 

病室の扉が閉まる。

 

悠飛は一人になる。

 

「……」

 

静かな病室。

 

しかし。

 

昨日までとは違う。

 

胸の中に。

 

温かいものが残っていた。

 

友達。

 

幼馴染。

 

家族。

 

そして。

 

まだ名前のつかない感情。

 

「……」

 

悠飛は目を閉じる。

 

すると。

 

また。

 

幼い日の光景が浮かんだ。

 

小さな自分。

 

五人の少女。

 

そして。

 

一人の少女。

 

六華。

 

七人で笑っている。

 

「また遊ぼうね!」

 

誰かが言った。

 

「うん!」

 

幼い悠飛が答える。

 

そこで。

 

記憶は途切れた。

 

「……」

 

悠飛は目を開ける。

 

「七人……」

 

どうして。

 

今まで忘れていたのだろう。

 

その答えは。

 

まだ分からない。

 

ただ。

 

悠飛は確信していた。

 

自分と五つ子。

 

そして六華。

 

この七人の間には。

 

まだ何か。

 

大切な過去が眠っている。

 

そして。

 

その過去は。

 

これから始まる青春の日々の中で。

 

少しずつ。

 

彼らの前に姿を現していくことになる。

 

病室の窓から。

 

夏の夕日が差し込む。

 

悠飛はその光を見つめながら。

 

小さく呟いた。

 

「……早く退院しないとな」

 

その顔には。

 

いつもの穏やかな笑顔が戻っていた。

 

 

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