『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第30話「大切な人」

夏休みも半ばを過ぎた頃。

 

如月悠飛が病院に運ばれてから、数日が経っていた。

 

幸いにも大事には至らず、医師からは「しばらく安静にしていれば問題ない」と言われている。

 

それでも、悠飛の周囲にいる人間たちは、以前とは少し変わっていた。

 

「悠飛、起きてるか?」

 

病室のドアが開く。

 

「風太郎か」

 

「そうだ」

 

上杉風太郎が入ってくる。

 

その手には、学校のプリントが入ったファイル。

 

「学校の分、持ってきた」

 

「ありがとう」

 

「ただし」

 

風太郎はファイルを渡しながら念を押す。

 

「勉強は禁止だ」

 

「……」

 

「何だ、その顔は」

 

「いや、せっかく持ってきたのに」

 

「これは読むためじゃない。確認するためだ」

 

「同じじゃないか?」

 

「違う」

 

風太郎は即答した。

 

「医者から安静にしろと言われてるだろ」

 

「分かってる」

 

「なら大人しくしてろ」

 

「はいはい」

 

悠飛は苦笑した。

 

最近の風太郎は、以前にも増して世話焼きになっていた。

 

「そういえば」

 

風太郎が椅子に座る。

 

「今日は他にも来るぞ」

 

「誰が?」

 

「……分からないのか?」

 

「?」

 

風太郎はため息をついた。

 

「お前、本当に鈍いな」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

風太郎が窓の外を見る。

 

その瞬間。

 

コンコン。

 

「失礼します!」

 

元気な声が聞こえた。

 

「……来たな」

 

風太郎が呟く。

 

ドアが開く。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が入ってきた。

 

その後ろには、一花、二乃、三玖、五月。

 

そして六華。

 

「こんにちは」

 

一花が微笑む。

 

「また来たのか」

 

悠飛が笑う。

 

「もちろん」

 

一花は当然のように答えた。

 

「病人を放っておくわけにはいかないでしょ?」

 

「そうですよ!」

 

四葉も頷く。

 

「悠飛さんは私たちの大切な友達ですから!」

 

「……」

 

その言葉に。

 

悠飛は少しだけ目を細めた。

 

「大切な友達……か」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

だが。

 

一花はその言葉を聞いて。

 

ほんの少しだけ視線を逸らした。

 

六華も。

 

「……」

 

何かを考えているようだった。

 

 

「今日は何を持ってきたんだ?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「じゃーん!」

 

四葉が紙袋を掲げた。

 

「みんなで作ったお見舞いセットです!」

 

「お見舞いセット?」

 

「はい!」

 

袋の中から次々と物が出てくる。

 

「果物」

 

五月。

 

「お菓子」

 

二乃。

 

「お守り」

 

三玖。

 

「写真」

 

一花。

 

そして。

 

「これ」

 

六華が小さな箱を差し出した。

 

「開けていいか?」

 

「うん」

 

悠飛が箱を開ける。

 

中に入っていたのは。

 

シンプルな革製のブレスレットだった。

 

「……」

 

「退院したら使って」

 

「ありがとう」

 

悠飛は手に取る。

 

「これ、六華が?」

 

「うん」

 

「綺麗だな」

 

「……よかった」

 

六華は嬉しそうに笑う。

 

一花がそれを見て。

 

「へえ」

 

「何?」

 

「六華ちゃん、かなり気合入ってるね」

 

「……一花」

 

「ふふ」

 

「からかわないで」

 

「ごめんごめん」

 

だが。

 

一花の笑顔の奥には。

 

小さな嫉妬があった。

 

 

「悠飛さん」

 

四葉がベッドの横に座る。

 

「何だ?」

 

「退院したら」

 

「うん」

 

「また武道、教えてください」

 

「いいぞ」

 

「本当ですか!?」

 

「もちろん」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「約束ですよ!」

 

「ああ」

 

「私、もっと強くなりたいです!」

 

「十分強いと思うけどな」

 

「まだまだです!」

 

四葉は拳を握る。

 

「悠飛さんみたいに、誰かを守れる人になりたいんです」

 

「……」

 

悠飛は四葉を見る。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「誰かを守るっていうのは、強くなるだけじゃない」

 

「……?」

 

「相手の気持ちを考えることも大事だ」

 

「……」

 

「それができる四葉なら、きっと大丈夫だ」

 

四葉はしばらく黙って。

 

「……ありがとうございます」

 

そして。

 

満面の笑顔を浮かべた。

 

「やっぱり悠飛さんは私のヒーローです!」

 

「ヒーロー?」

 

「はい!」

 

四葉の言葉に。

 

一花が少しだけ笑う。

 

「四葉らしいなぁ」

 

 

「悠飛くん」

 

今度は一花。

 

「何だ?」

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「何?」

 

一花は少しだけ真剣な顔になる。

 

「悠飛くんにとって」

 

「うん」

 

「大切な人って、誰?」

 

病室が静かになる。

 

「……」

 

悠飛は考える。

 

「家族」

 

まず答えた。

 

「父さん、母さん、莉々華」

 

「うん」

 

「風太郎」

 

「……」

 

風太郎が少しだけ驚く。

 

「友達として大切だ」

 

「そう」

 

一花は頷く。

 

「じゃあ」

 

一花は五つ子を見る。

 

「私たちは?」

 

「もちろん大切だ」

 

「……」

 

一花の胸が少し高鳴った。

 

「友達として?」

 

「そうだな」

 

「……そっか」

 

一花は笑う。

 

だが。

 

その笑顔には。

 

どこか寂しさがあった。

 

 

六華は黙っていた。

 

一花の質問。

 

そして。

 

悠飛の答え。

 

「大切な人」

 

その言葉が。

 

胸に残っている。

 

「六華?」

 

悠飛が声をかける。

 

「え?」

 

「どうした?」

 

「……何でもない」

 

六華は笑う。

 

「私も聞いていい?」

 

「ああ」

 

「悠飛にとって」

 

「うん」

 

「私たち七人の中で」

 

「……」

 

「一番大切なのは誰?」

 

一瞬。

 

全員が固まった。

 

「六華!」

 

四葉が驚く。

 

「何を聞いてるの!?」

 

「だって」

 

六華は悠飛を見る。

 

「気になるから」

 

「……」

 

一花も。

 

三玖も。

 

二乃も。

 

五月も。

 

答えを待っている。

 

悠飛は少し考えた。

 

そして。

 

「比べられない」

 

「……」

 

「みんな大切だから」

 

「……」

 

六華の胸に。

 

温かいものが広がった。

 

「そっか」

 

「うん」

 

「……なら、いい」

 

 

だが。

 

その日の帰り。

 

六華は一人で病院の廊下を歩いていた。

 

「……」

 

一花と四葉が少し前を歩いている。

 

「一花」

 

「ん?」

 

「……悠飛って」

 

「うん?」

 

「優しすぎるよね」

 

「そうだね」

 

「誰にでも」

 

「……」

 

一花は少し笑う。

 

「だから困るんだよね」

 

「え?」

 

「優しいから」

 

一花は振り返る。

 

「好きになっちゃう」

 

「……」

 

四葉の顔が赤くなる。

 

「一花……」

 

「ふふ」

 

「……」

 

少し離れた場所で。

 

六華はその会話を聞いていた。

 

「……」

 

胸が痛む。

 

だが。

 

もう逃げない。

 

「私だって」

 

小さく呟く。

 

「好き」

 

 

その頃。

 

病室では。

 

悠飛と風太郎が二人きりになっていた。

 

「なあ、風太郎」

 

「何だ?」

 

「一花に聞かれた」

 

「何を?」

 

「大切な人は誰かって」

 

「……」

 

風太郎は少し黙る。

 

「それで?」

 

「家族と友達」

 

「まあ、そう答えるだろうな」

 

「何か変か?」

 

「……いや」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「お前らしい」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

「風太郎」

 

「何だ」

 

「お前は?」

 

「俺?」

 

「大切な人」

 

「……」

 

風太郎は窓を見る。

 

「家族だ」

 

「らいはか」

 

「ああ」

 

少し考えて。

 

「それと」

 

「?」

 

「……お前もだ」

 

「……」

 

悠飛が笑う。

 

「なんだ」

 

「気持ち悪いか?」

 

「いや」

 

悠飛は手を差し出した。

 

「俺もだ」

 

風太郎はその手を握る。

 

「……友達だからな」

 

「ああ」

 

 

その夜。

 

如月家。

 

悠飛が退院したのは翌日の午後だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

玄関に莉々華が走ってくる。

 

「おかえり!」

 

「ただいま」

 

「もう!」

 

莉々華は悠飛の腕を掴む。

 

「心配したんだから!」

 

「悪かった」

 

「もう倒れない?」

 

「ああ」

 

「絶対?」

 

「絶対」

 

莉々華はじっと兄を見る。

 

「……」

 

そして。

 

「なら許す!」

 

抱きついた。

 

「おいおい」

 

「お兄ちゃん不足だったんだから!」

 

「はいはい」

 

明美が笑う。

 

「莉々華ったら」

 

明馬も笑っている。

 

「元気になってよかったな、悠飛」

 

「父さん、母さん」

 

「しばらく仕事は禁止よ」

 

「え?」

 

「禁止」

 

明美が笑顔で言う。

 

「……」

 

悠飛は諦めた。

 

「分かった」

 

 

その日の夕方。

 

庭。

 

悠飛は一人で空を見上げていた。

 

「……」

 

そこへ。

 

「悠飛」

 

風太郎。

 

「また来たのか」

 

「友達だからな」

 

「そっか」

 

「それと」

 

風太郎は手に持った袋を渡す。

 

「これ」

 

「何だ?」

 

「みんなから」

 

悠飛が袋を開ける。

 

そこには。

 

五つ子。

 

六華。

 

そして風太郎からのメッセージカード。

 

『無理をするな』

 

『ちゃんと寝ろ』

 

『また一緒に勉強しよう』

 

『また遊ぼう』

 

それぞれの言葉が書かれていた。

 

「……」

 

悠飛はカードを眺める。

 

「みんな」

 

風太郎が言う。

 

「お前が思ってる以上に、お前のことを大切に思ってる」

 

「……」

 

「だから」

 

風太郎は肩を叩く。

 

「これからは一人で全部背負うな」

 

悠飛は空を見る。

 

夏の青空。

 

「分かった」

 

 

その頃。

 

同じ空の下。

 

一花は自分の部屋で写真を見ていた。

 

林間学校。

 

キャンプファイヤー。

 

悠飛の笑顔。

 

「……」

 

四葉は。

 

ベッドの上で。

 

「また武道したいな……」

 

と呟いていた。

 

三玖は。

 

もらった写真を眺め。

 

二乃は。

 

「次は私が一番近くに……」

 

と小さく呟く。

 

五月は。

 

「健康管理について、もう少し勉強しましょう」

 

とノートを開いている。

 

そして。

 

六華は。

 

窓辺に座っていた。

 

「……」

 

悠飛に渡したブレスレット。

 

ちゃんと身につけてもらえるだろうか。

 

そう思うだけで。

 

胸が高鳴る。

 

「悠飛」

 

六華は夜空に向かって呟いた。

 

「私にとって」

 

「あなたは」

 

「もう……」

 

「ただの幼馴染じゃない」

 

その言葉を口にした瞬間。

 

六華は頬を赤くした。

 

「……何言ってるんだろ、私」

 

 

翌朝。

 

悠飛は学校へ向かう。

 

玄関を出たところで。

 

「悠飛!」

 

声がした。

 

振り返る。

 

四葉。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

そして。

 

風太郎。

 

「おはよう!」

 

「おはようございます!」

 

「おはよう」

 

「……おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはよう、悠飛」

 

「おはよう」

 

七人の声が重なる。

 

悠飛は笑った。

 

「行こうか」

 

「はい!」

 

七人が歩き出す。

 

その光景を。

 

少し離れた場所から。

 

莉々華が見ていた。

 

「……」

 

兄の隣に。

 

女の子が六人。

 

「お兄ちゃん……」

 

莉々華の頬が膨らむ。

 

「ライバル、多すぎない?」

 

それでも。

 

最後には笑った。

 

「まあ」

 

「お兄ちゃんが幸せなら、いいけど」

 

夏の朝。

 

七人の影が。

 

長く伸びていく。

 

まだ誰も知らない。

 

この先。

 

日の出祭で。

 

悠飛が一人の少女を守るために身を投げ出し。

 

右眼の光を失うことになる未来を。

 

そして。

 

その事件が。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人の悠飛への想いを。

 

決定的なものへ変えていくことを。

 

今はまだ。

 

ただ。

 

「大切な人」と呼べる存在が。

 

少しずつ増えていく。

 

そんな。

 

穏やかな夏の日だった。

 

 

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