『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第四章 揺れ始める恋心 第31話「二学期の始まり」

夏休みが終わった。

 

長かったようで短かった夏の日々が過ぎ、旭高校には再び生徒たちの声が戻ってきた。

 

二学期初日。

 

まだ残暑の厳しい朝。

 

校門へ続く坂道を、一人の青年が歩いていた。

 

金色の髪が朝日に照らされる。

 

高身長。

 

引き締まった身体。

 

そして、どこか人を惹きつける穏やかな笑み。

 

如月悠飛。

 

夏休みの途中で体調を崩し、入院していた彼だった。

 

「……やっぱり学校はいいな」

 

悠飛は校舎を見上げる。

 

「お兄ちゃん!」

 

後ろから声がした。

 

「ん?」

 

振り返る。

 

そこには妹の莉々華がいた。

 

一学年下の彼女は、兄の隣まで駆け寄る。

 

「おはよう!」

 

「おはよう、莉々華」

 

「今日から二学期だね!」

 

「ああ」

 

「体調は?」

 

「もう大丈夫」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

「無理してない?」

 

「してないよ」

 

莉々華はじっと兄を見る。

 

「……」

 

「何だ?」

 

「お兄ちゃん、昔からそうだから」

 

「?」

 

「自分のことより、人のことを優先する」

 

「そんなことないぞ」

 

「ある」

 

即答だった。

 

「この前だって倒れたじゃん」

 

「それは……」

 

「だから、今日は私が監視する」

 

「学校は別だろ?」

 

「休み時間に見に行く!」

 

「やめてくれ」

 

悠飛が苦笑する。

 

莉々華も笑った。

 

「じゃあ約束!」

 

「何を?」

 

「無茶しない!」

 

「分かった」

 

「絶対だよ?」

 

「ああ」

 

その時。

 

「悠飛!」

 

聞き慣れた声がした。

 

「風太郎」

 

振り返ると、上杉風太郎が歩いてくる。

 

「おはよう」

 

「おはよう、風太郎」

 

風太郎は悠飛を上から下まで見る。

 

「……顔色は悪くないな」

 

「医者か、お前は」

 

「心配してるだけだ」

 

「ありがとう」

 

「別に」

 

風太郎は少し照れたように目を逸らした。

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「今日は五つ子も来るぞ」

 

「それは楽しみだな」

 

「……」

 

風太郎が呆れたように息を吐く。

 

「本当にお前は鈍いな」

 

「またそれか」

 

「何でもない」

 

 

教室。

 

二学期最初のホームルーム。

 

生徒たちは夏休みの思い出を話し合っている。

 

その中で。

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花が声をかけてきた。

 

「おはよう、一花」

 

「もう元気?」

 

「ああ」

 

「よかった」

 

一花は微笑む。

 

「夏休み中、結構心配したんだから」

 

「ありがとう」

 

「……」

 

一花は悠飛の顔をじっと見る。

 

「何だ?」

 

「ううん」

 

「?」

 

「やっぱり、学校にいる悠飛くんって格好いいなって」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

一花は笑う。

 

「病院のパジャマ姿も悪くなかったけど」

 

「それは忘れてくれ」

 

「ふふっ」

 

その会話を。

 

少し離れたところから四葉が見ていた。

 

「……」

 

「四葉?」

 

一花が気づく。

 

「どうしたの?」

 

「な、何でもないです!」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

しかし。

 

胸の奥が。

 

少しだけざわついていた。

 

「一花って……」

 

「ん?」

 

「悠飛さんと仲良いですよね」

 

「そうかな?」

 

「そうですよ!」

 

「ふふ」

 

一花は四葉を見る。

 

「四葉も仲良いじゃん」

 

「私は……」

 

四葉は言葉を止める。

 

「……武道仲間ですから」

 

「それだけ?」

 

「……」

 

答えられなかった。

 

 

昼休み。

 

五つ子と六華。

 

そして悠飛と風太郎。

 

いつものように机を囲んでいた。

 

「夏休み明けのテスト、来週だぞ」

 

風太郎が言う。

 

「ええっ!?」

 

四葉が叫ぶ。

 

「聞いてません!」

 

「今言った」

 

「そんなぁ!」

 

二乃が呆れる。

 

「相変わらずね」

 

三玖は静かに弁当を食べている。

 

五月は。

 

「テストですか……」

 

と真剣な顔。

 

一花は悠飛を見る。

 

「悠飛くんは余裕そうだね」

 

「まあ、勉強は嫌いじゃないから」

 

「ずるい」

 

「一花も勉強すればいい」

 

「女優には演技力が必要なの」

 

「学力も必要だろ」

 

「うっ」

 

一花が苦笑する。

 

「風太郎くんみたい」

 

「それ、褒めてる?」

 

「もちろん」

 

「ならいい」

 

風太郎が頷く。

 

すると。

 

六華が悠飛を見る。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「今度の勉強会」

 

「うん」

 

「私も参加していい?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ」

 

六華は笑う。

 

「また隣、座っていい?」

 

「いいぞ」

 

「……」

 

六華の頬が少し赤くなる。

 

一花がそれを見逃さない。

 

「六華ちゃん」

 

「何?」

 

「悠飛くんの隣、好きだね」

 

「……」

 

「違う?」

 

「違わない」

 

「おお」

 

四葉が驚く。

 

六華は悠飛を見る。

 

「だって」

 

「……」

 

「昔から、悠飛の隣は落ち着くから」

 

一瞬。

 

空気が止まった。

 

「昔から?」

 

悠飛が聞き返す。

 

「……」

 

六華は少し迷う。

 

「うん」

 

「俺たちが小さい頃の話か?」

 

「たぶん」

 

「たぶん?」

 

「まだ全部は思い出せないから」

 

「そっか」

 

悠飛は笑った。

 

「いつか思い出せるといいな」

 

「……うん」

 

 

放課後。

 

武道場。

 

「お願いします!」

 

四葉が深く頭を下げる。

 

「こちらこそ」

 

悠飛も構える。

 

「今日は何をする?」

 

「合気道がいいです!」

 

「分かった」

 

二人は向かい合う。

 

四葉が手を伸ばす。

 

悠飛はその手首を取り。

 

力を使わず。

 

身体の軸だけを崩す。

 

「わっ!」

 

四葉の身体が軽く回る。

 

「っと!」

 

悠飛が支える。

 

「大丈夫か?」

 

「はい!」

 

四葉は笑った。

 

「やっぱり凄いです!」

 

「四葉も上達してる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「えへへ」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

そして。

 

「悠飛さん」

 

「何だ?」

 

「私」

 

「うん」

 

「もっと強くなります」

 

「どうして?」

 

四葉は真っ直ぐ悠飛を見る。

 

「誰かを守れる人になりたいから」

 

「……」

 

悠飛は少しだけ目を細めた。

 

「四葉ならなれる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「じゃあ!」

 

四葉は拳を握る。

 

「頑張ります!」

 

その笑顔を見ながら。

 

悠飛は思った。

 

四葉は。

 

いつも明るい。

 

いつも人を助ける。

 

でも。

 

その笑顔の奥には。

 

誰にも見せない何かがある。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「何か悩みがあったら言えよ」

 

「……」

 

四葉は一瞬驚いた。

 

「どうして?」

 

「何となく」

 

「……」

 

四葉は笑う。

 

「ありがとうございます」

 

そして。

 

「その時は、お願いします」

 

「ああ」

 

 

同じ頃。

 

校舎の廊下。

 

一花は一人で歩いていた。

 

「……」

 

窓の外を見る。

 

武道場から。

 

四葉と悠飛の声が聞こえる。

 

「……」

 

一花は微笑んだ。

 

「四葉」

 

小さく呟く。

 

「楽しそうだね」

 

だが。

 

その胸には。

 

小さな痛みがあった。

 

「私も」

 

一花は胸元に手を当てる。

 

「悠飛くんと、もっと一緒にいたい」

 

夏休み前までは。

 

ただの友達だった。

 

いや。

 

少し気になる男の子。

 

その程度だった。

 

けれど。

 

病院で悠飛の顔を見たとき。

 

一花は気づいてしまった。

 

自分が。

 

悠飛を失うことを。

 

想像したくないほど。

 

大切に思っていることに。

 

「……好きなのかな」

 

一花は小さく呟いた。

 

そして。

 

「だったら」

 

口元に笑みを浮かべる。

 

「女優らしく、ちゃんと勝負しないとね」

 

 

その日の帰り道。

 

悠飛と六華は並んで歩いていた。

 

「今日は楽しかった」

 

六華が言う。

 

「そうだな」

 

「二学期も」

 

「うん」

 

「いっぱい思い出作ろう」

 

「ああ」

 

しばらく歩く。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「覚えてる?」

 

「何を?」

 

「昔」

 

六華は空を見上げる。

 

「私たちが小さい頃」

 

「……」

 

「七人で遊んでたこと」

 

悠飛は考える。

 

「少しだけ」

 

「どんな記憶?」

 

「庭」

 

「庭?」

 

「ああ」

 

「何をしてた?」

 

「……」

 

悠飛は目を閉じる。

 

「誰かが泣いてた」

 

「……」

 

「それを俺が慰めてた」

 

六華の心臓が跳ねる。

 

「誰が泣いてた?」

 

「分からない」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は笑う。

 

「その子の手を握ってた気がする」

 

「……」

 

六華は自分の手を見る。

 

「そうなんだ」

 

「うん」

 

「じゃあ」

 

六華は少しだけ勇気を出す。

 

「今度は私が」

 

「?」

 

「悠飛の手を握ってあげる」

 

「……」

 

悠飛は笑った。

 

「頼む」

 

六華は。

 

そっと手を差し出す。

 

悠飛も手を重ねる。

 

「……」

 

二人はそのまま歩く。

 

夕暮れの道。

 

長く伸びる二人の影。

 

六華は。

 

握った手に少しだけ力を込めた。

 

「……」

 

この手を。

 

いつか。

 

離したくない。

 

そんな想いが。

 

少しずつ。

 

確かな恋へと変わっていく。

 

 

翌日。

 

職員室。

 

一人の教師が資料を整理していた。

 

「……日の出祭まで、あと二か月か」

 

秋に開催される旭高校最大のイベント。

 

日の出祭。

 

各クラスの出し物。

 

講演会。

 

部活動の発表。

 

そして。

 

今年は特別講師を招く予定になっていた。

 

「特別講師……無堂仁之介先生」

 

教師は資料を見る。

 

「全国を回る教育講演家か」

 

その名前が。

 

まだ。

 

悠飛たちの物語と結びついていることを。

 

誰も知らない。

 

やがて。

 

その男は。

 

五つ子の前に姿を現す。

 

そして。

 

五月の人生を大きく揺さぶる。

 

しかし。

 

その未来を知る者は。

 

まだ誰もいなかった。

 

今は。

 

二学期が始まったばかり。

 

恋心が芽吹き。

 

友情が深まり。

 

忘れていた幼い日の記憶が。

 

少しずつ蘇り始める。

 

そして。

 

悠飛を中心に。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人の想いも。

 

静かに。

 

動き始めていた。

 

「二学期も、よろしくな」

 

夕暮れの校舎で。

 

悠飛は仲間たちにそう笑いかけた。

 

その笑顔を見つめながら。

 

一花は思う。

 

――この人を、もっと知りたい。

 

四葉は思う。

 

――ずっと、この人の隣にいたい。

 

六華は思う。

 

――今度こそ、私の想いを伝えたい。

 

それぞれの恋心は。

 

まだ名前を持ったばかり。

 

だが。

 

秋の訪れとともに。

 

その想いは。

 

少しずつ、大きくなっていく。

 

 

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