『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第33話「四葉の秘密」

二学期が始まってから、しばらく経った。

 

旭高校の校舎には、少しずつ秋の気配が近づいていた。

 

窓から吹き込む風が、夏休み前よりもほんの少し冷たい。

 

しかし、教室の中は相変わらず賑やかだった。

 

「悠飛さん!」

 

朝の教室。

 

四葉が勢いよく悠飛の席へ駆け寄ってきた。

 

「おはようございます!」

 

「おはよう、四葉」

 

「今日も元気ですね!」

 

「四葉ほどじゃないけどな」

 

「えへへ!」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

その笑顔は、夏休み前と何も変わらない。

 

明るく。

 

元気で。

 

誰に対しても分け隔てなく接する。

 

けれど。

 

その笑顔の奥には。

 

誰にも言えない秘密があった。

 

「そういえば」

 

悠飛が言う。

 

「最近、武道場に来る回数が減ったな」

 

「……!」

 

四葉の表情が一瞬だけ固まる。

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ」

 

「ちょっとだけ忙しくて」

 

「部活か?」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

「いろいろ手伝いがありまして!」

 

「そうか」

 

悠飛はそれ以上追及しなかった。

 

「無理するなよ」

 

「はい!」

 

四葉は笑顔で答える。

 

――けれど。

 

胸の奥では。

 

「……」

 

四葉は拳を握っていた。

 

 

昼休み。

 

中庭。

 

五つ子と六華、そして悠飛たちはいつものように集まっていた。

 

「四葉」

 

二乃が弁当を食べながら言う。

 

「最近、忙しすぎじゃない?」

 

「そうかな?」

 

「そうよ」

 

一花も頷く。

 

「放課後になるとすぐいなくなるし」

 

「陸上部?」

 

三玖が聞く。

 

「うん」

 

「……」

 

六華は四葉を見る。

 

「四葉」

 

「なに?」

 

「最近、ちゃんと寝てる?」

 

「寝てるよ!」

 

「本当に?」

 

「本当!」

 

四葉は笑う。

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

その笑顔を見て。

 

悠飛は少しだけ眉を寄せた。

 

「……」

 

何かがおかしい。

 

以前の四葉なら。

 

もっと自然に笑っていた。

 

今の笑顔は。

 

どこか無理をしているように見える。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「何かあったら言ってくれ」

 

「……」

 

四葉は一瞬だけ目を見開く。

 

「ありがとうございます!」

 

「別に礼はいらない」

 

「でも」

 

四葉は笑う。

 

「悠飛さんが心配してくれるの、嬉しいです」

 

「そうか」

 

「はい!」

 

四葉は笑顔で答えた。

 

しかし。

 

その直後。

 

四葉のスマートフォンが震えた。

 

「……!」

 

画面を見る。

 

メッセージ。

 

『今日の放課後、体育館裏に来てください』

 

四葉の顔から。

 

一瞬だけ笑顔が消えた。

 

「四葉?」

 

悠飛が呼ぶ。

 

「……!」

 

「どうした?」

 

「な、何でもありません!」

 

四葉はスマートフォンを隠す。

 

「ちょっと用事を思い出しました!」

 

「用事?」

 

「はい!」

 

四葉は立ち上がる。

 

「先に教室へ戻りますね!」

 

「おい」

 

悠飛が呼び止める。

 

「無理するなよ」

 

「……」

 

四葉は振り返る。

 

そして。

 

いつもの笑顔。

 

「はい!」

 

そのまま走っていった。

 

「……」

 

悠飛はその背中を見つめる。

 

「何か隠してるな」

 

風太郎が呟いた。

 

「やっぱりそう思うか?」

 

「ああ」

 

「……」

 

悠飛は立ち上がった。

 

「少し気になる」

 

「追うのか?」

 

「いや」

 

悠飛は首を振る。

 

「四葉が自分から話してくれるまで待つ」

 

風太郎は頷いた。

 

「それでいい」

 

 

放課後。

 

体育館裏。

 

四葉は一人で立っていた。

 

「……」

 

夕方の風が吹く。

 

「どうして……」

 

四葉は俯く。

 

「こんなことになったんだろう」

 

そこへ。

 

「四葉」

 

声がする。

 

「……!」

 

振り返る。

 

陸上部の部長、江場だった。

 

「来てくれたんだね」

 

「はい」

 

「大会が近い」

 

江場は真剣な顔をしている。

 

「君には出てもらいたい」

 

「……」

 

「君の運動能力は、うちの部でも貴重だ」

 

「でも……」

 

「勉強会があるから?」

 

「……はい」

 

四葉は俯く。

 

「悠飛さんたちとの勉強会も大切なんです」

 

「勉強会?」

 

「はい」

 

「成績を上げるためか」

 

「それもあります」

 

四葉は笑う。

 

「みんなで頑張るのが楽しいんです」

 

「……」

 

江場はため息をつく。

 

「なら、両方やればいい」

 

「え?」

 

「大会まで時間はある」

 

「でも……」

 

「四葉」

 

江場は真剣に言った。

 

「君ならできる」

 

四葉は黙った。

 

「……」

 

その言葉は。

 

四葉にとって。

 

嬉しいものだった。

 

誰かに期待される。

 

必要とされる。

 

それは。

 

自分が求めていたものでもあった。

 

「……分かりました」

 

四葉は頷いた。

 

「大会までなら」

 

「本当か?」

 

「はい!」

 

江場が笑う。

 

「ありがとう!」

 

四葉も笑った。

 

だが。

 

その帰り道。

 

四葉は一人になる。

 

「……」

 

夕焼け。

 

長く伸びる影。

 

「私……」

 

四葉は呟く。

 

「何をしてるんだろう」

 

陸上。

 

勉強。

 

五人で過ごす時間。

 

悠飛との武道。

 

全部大切。

 

全部手放したくない。

 

だから。

 

誰にも弱音を吐けない。

 

「……」

 

四葉は胸元に手を当てた。

 

「だって」

 

「みんなが笑ってるなら」

 

「私は、それでいいから」

 

それが。

 

四葉の秘密だった。

 

 

翌日。

 

放課後の武道場。

 

悠飛は一人で待っていた。

 

「……」

 

時計を見る。

 

いつもなら。

 

四葉が来る時間。

 

だが。

 

今日は来ない。

 

「……」

 

しばらく待つ。

 

それでも来ない。

 

そこへ。

 

「悠飛」

 

六華がやってきた。

 

「六華」

 

「まだ待ってたの?」

 

「ああ」

 

「四葉?」

 

「そう」

 

六華は少し考える。

 

「今日は陸上部じゃない?」

 

「そうか」

 

「大会が近いみたい」

 

「……」

 

悠飛は納得した。

 

「なるほど」

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「四葉のこと、心配?」

 

「もちろん」

 

六華は少しだけ笑う。

 

「優しいね」

 

「友達だからな」

 

「……」

 

その言葉に。

 

六華は少しだけ胸が痛んだ。

 

「……そうだね」

 

 

その夜。

 

四葉は自室で。

 

ベッドに倒れ込んでいた。

 

「疲れたぁ……」

 

スマートフォンを見る。

 

メッセージ。

 

『今日は武道場に来なかったな。無理するなよ。』

 

悠飛からだった。

 

「……」

 

四葉は画面を見つめる。

 

胸が温かくなる。

 

「……悠飛さん」

 

返信する。

 

『ごめんなさい! 大会が近いので、少し忙しくて!』

 

すぐに返事が来た。

 

『そうか。頑張れ。でも無理はするな。』

 

「……」

 

四葉はスマートフォンを胸に抱く。

 

「……ずるいです」

 

目を閉じる。

 

「そんなこと言われたら……」

 

涙が一粒。

 

頬を伝う。

 

「もっと好きになっちゃうじゃないですか……」

 

四葉は。

 

誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「私」

 

「悠飛さんのこと……」

 

「大好きです」

 

けれど。

 

それを。

 

本人に伝えるつもりはなかった。

 

なぜなら。

 

四葉には。

 

もう一つ。

 

誰にも話していない秘密があったからだ。

 

 

数日後。

 

放課後。

 

風太郎が悠飛の隣を歩いていた。

 

「四葉のことだが」

 

「うん」

 

「少し調べた」

 

「調べた?」

 

「あいつ、陸上部の手伝いをしてる」

 

「やっぱりか」

 

「しかも」

 

風太郎は眉を寄せる。

 

「かなり無理をしてる」

 

「……」

 

「成績も少し落ち始めてる」

 

「そうか」

 

悠飛は黙る。

 

「本人は大丈夫と言ってる」

 

風太郎が続ける。

 

「だが、あれは大丈夫じゃない」

 

「……」

 

悠飛は足を止めた。

 

「風太郎」

 

「何だ?」

 

「俺」

 

「うん」

 

「四葉に聞いてみる」

 

「無理に聞き出すなよ」

 

「分かってる」

 

 

翌日の放課後。

 

校舎裏。

 

四葉が一人でいた。

 

「四葉」

 

「……!」

 

振り返る。

 

悠飛。

 

「悠飛さん?」

 

「少し話さないか?」

 

「はい!」

 

二人は並んで歩き始めた。

 

「最近」

 

悠飛が口を開く。

 

「忙しいな」

 

「……」

 

「陸上部」

 

「はい」

 

「勉強会」

 

「はい」

 

「武道」

 

「……」

 

四葉は笑う。

 

「大丈夫ですよ!」

 

「本当に?」

 

「はい!」

 

「四葉」

 

悠飛は足を止めた。

 

「俺は」

 

「……」

 

「四葉が無理してるように見える」

 

「……」

 

四葉の笑顔が消えた。

 

「……そんなこと」

 

「あるだろ」

 

「……」

 

「俺には分かる」

 

「どうして……」

 

「四葉だから」

 

「……」

 

「友達だから」

 

その言葉。

 

四葉の胸に刺さる。

 

「……」

 

「話したくないなら、無理に話さなくていい」

 

悠飛は続ける。

 

「でも」

 

「……」

 

「一人で抱える必要もない」

 

四葉の目に涙が浮かぶ。

 

「……悠飛さん」

 

「うん」

 

「私」

 

「……」

 

「みんなが笑っててくれれば、それでいいんです」

 

「……」

 

「だから」

 

四葉は笑おうとする。

 

「私が頑張れば――」

 

「違う」

 

悠飛が静かに遮る。

 

「四葉」

 

「……」

 

「四葉だって笑っていいんだ」

 

「……!」

 

「自分だけ我慢する必要なんてない」

 

四葉は俯く。

 

涙が落ちる。

 

「……」

 

「四葉」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝らなくていい」

 

「……」

 

「泣いていい」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

四葉は。

 

悠飛の胸に顔を埋めた。

 

「……うっ」

 

「……」

 

「悠飛さん……」

 

「うん」

 

「私……」

 

「うん」

 

「疲れました……」

 

悠飛は何も言わず。

 

ただ。

 

四葉の背中に手を添えた。

 

「……」

 

しばらく。

 

四葉は泣いた。

 

 

やがて。

 

四葉は涙を拭いた。

 

「すみません」

 

「だから謝るなって」

 

「……はい」

 

「少し休め」

 

「でも……」

 

「俺も手伝う」

 

「え?」

 

「勉強も」

 

「……」

 

「武道も」

 

「……」

 

「必要なら陸上部のことも相談に乗る」

 

「……」

 

「一人で全部やる必要はない」

 

四葉は。

 

泣きながら笑った。

 

「……ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「やっぱり」

 

「……」

 

「私のヒーローです」

 

悠飛は苦笑する。

 

「それ、まだ言ってるのか」

 

「はい」

 

「まあいいけど」

 

「えへへ」

 

四葉は笑った。

 

その笑顔は。

 

久しぶりに。

 

本当の笑顔だった。

 

 

少し離れた廊下。

 

一花が立っていた。

 

偶然。

 

二人を見かけたのだ。

 

「……」

 

四葉が泣いている。

 

悠飛が優しく寄り添っている。

 

その光景を見て。

 

一花は胸に手を当てた。

 

「……」

 

嫉妬。

 

最初に浮かんだのは。

 

その感情だった。

 

けれど。

 

すぐに。

 

「……四葉」

 

心配する気持ちに変わる。

 

そして。

 

悠飛を見る。

 

「やっぱり」

 

一花は小さく笑った。

 

「優しいんだね」

 

だから。

 

好きになった。

 

その事実を。

 

もう否定することはできない。

 

 

一方。

 

六華も。

 

偶然、その場を遠くから見ていた。

 

「……」

 

四葉が泣いて。

 

悠飛が支えている。

 

「……」

 

六華は胸元に手を当てる。

 

嫉妬。

 

悔しさ。

 

それでも。

 

「……四葉」

 

心の中で呟く。

 

「よかったね」

 

そして。

 

「悠飛」

 

六華は笑った。

 

「やっぱり、優しいね」

 

六華は歩き出した。

 

まだ。

 

恋の行方は分からない。

 

一花も。

 

四葉も。

 

六華も。

 

それぞれが悠飛への想いを胸に秘めている。

 

そして。

 

四葉には。

 

誰にも言えない過去があった。

 

幼い頃。

 

七人で遊んだ日々。

 

忘れてしまった記憶。

 

そして。

 

悠飛だけが。

 

まだ思い出せない。

 

四葉は知っている。

 

いつか。

 

その記憶が戻ったとき。

 

悠飛との関係が。

 

今とは大きく変わるかもしれないことを。

 

だから。

 

四葉はまだ言えない。

 

「昔から好きだった」

 

ということを。

 

ただ。

 

今日。

 

一つだけ。

 

変わった。

 

四葉は。

 

もう一人で頑張らない。

 

悠飛が。

 

「一人で抱える必要はない」

 

そう言ってくれたから。

 

夕暮れの校舎。

 

四葉は空を見上げる。

 

「……悠飛さん」

 

そして。

 

胸の奥で。

 

もう一度だけ。

 

呟いた。

 

「大好きです」

 

 

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