『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第35話「三人の距離」

秋の気配が少しずつ深まっていた。

 

旭高校の校庭では、日の出祭に向けた準備が始まり、放課後になるとあちこちから生徒たちの声が聞こえてくる。

 

そんな中、いつもの図書室では、今日も勉強会が行われていた。

 

「……ここが分からない」

 

一花が問題集を覗き込みながら首を傾げる。

 

「この公式を使えばいい」

 

悠飛が隣から説明する。

 

「こう?」

 

「そう。そのまま代入すればいい」

 

「……できた」

 

一花の顔がぱっと明るくなる。

 

「悠飛くん、教えるの上手だね」

 

「風太郎ほどじゃないけどな」

 

「いや、俺より説明が簡潔だから分かりやすい場合もある」

 

風太郎が向かい側から口を挟む。

 

「お前ら、もっと真面目にやれ」

 

「はーい」

 

一花が笑う。

 

その様子を。

 

少し離れた席から六華が見ていた。

 

「……」

 

六華は問題集に視線を戻す。

 

しかし。

 

どうしても気になってしまう。

 

一花と悠飛。

 

二人は最近、以前より距離が近い。

 

そして。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が別の方向から声をかける。

 

「ここも教えてください!」

 

「どれ?」

 

「これです!」

 

四葉が椅子を持って近づいてくる。

 

「これはな――」

 

「なるほど!」

 

四葉が嬉しそうに笑う。

 

「分かりました!」

 

「よかったな」

 

「はい!」

 

その笑顔。

 

それを見た六華は。

 

小さく息を吐いた。

 

「……三人」

 

一花。

 

四葉。

 

そして自分。

 

「……」

 

いつの間にか。

 

悠飛を中心に。

 

三人の距離が変わり始めていた。

 

 

「六華」

 

「……」

 

「六華?」

 

「え?」

 

気がつくと。

 

一花が目の前に立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「何でもない」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

一花は六華の顔を見る。

 

「……」

 

「何?」

 

「ちょっと考え事してたでしょ」

 

「……」

 

六華は苦笑する。

 

「よく見てるね」

 

「六華のことだから」

 

「従姉妹だから?」

 

「それもある」

 

一花は少しだけ笑う。

 

「でも」

 

「?」

 

「今はライバルだから」

 

「……」

 

六華も笑った。

 

「そうだったね」

 

「うん」

 

二人の間に。

 

以前とは違う空気が流れている。

 

険悪ではない。

 

けれど。

 

譲るつもりもない。

 

そんな微妙な距離。

 

そして。

 

「何話してるんだ?」

 

悠飛がやってくる。

 

「何でもないよ」

 

一花が笑う。

 

「六華と女の子同士の話」

 

「そうか」

 

「悠飛くんには秘密」

 

「了解」

 

悠飛は笑った。

 

六華も笑う。

 

しかし。

 

その笑顔の奥には。

 

それぞれの想いがあった。

 

 

その日の帰り道。

 

四葉が悠飛の隣を歩いていた。

 

「悠飛さん!」

 

「ん?」

 

「今日はありがとうございました!」

 

「勉強のことか?」

 

「はい!」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「最近、少しずつ分かるようになってきました!」

 

「それは四葉が頑張ってるからだ」

 

「でも、悠飛さんたちが教えてくれるからですよ」

 

「なら、これからも頑張ろう」

 

「はい!」

 

二人の後ろ。

 

一花と六華が歩いていた。

 

「……」

 

一花が六華を見る。

 

「ねえ」

 

「何?」

 

「四葉って」

 

「うん」

 

「悠飛くんのこと、好きだよね」

 

六華は一瞬黙る。

 

「……そう思う」

 

「だよね」

 

「一花は?」

 

「私?」

 

一花は前を歩く悠飛を見る。

 

「もちろん」

 

迷いのない答えだった。

 

「私も好き」

 

「……」

 

六華は苦笑する。

 

「堂々と言うね」

 

「隠す理由もないから」

 

「強いな」

 

「六華だって」

 

「……」

 

六華は少しだけ笑う。

 

「私も負けない」

 

「うん」

 

一花も笑った。

 

「じゃあ、三人とも同じだね」

 

「……」

 

「悠飛くんが好き」

 

三人の距離は。

 

近づいている。

 

同時に。

 

複雑になっていた。

 

 

翌日の放課後。

 

武道場。

 

「今日は四葉、来ないのか?」

 

悠飛が一人で準備をしている。

 

そこへ。

 

「来るよ」

 

一花が入ってきた。

 

「一花?」

 

「私が代わりに相手してあげようかな」

 

「武道、できるのか?」

 

「少しくらい」

 

「じゃあ、無理はするなよ」

 

「うん」

 

一花は道着に着替える。

 

そして。

 

悠飛と向き合った。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

開始。

 

一花は構える。

 

「……」

 

悠飛が動く。

 

「!」

 

一花は反応する。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

「わっ!」

 

身体が崩れる。

 

悠飛が腕を支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「……」

 

一花の顔が近い。

 

近すぎる。

 

「……」

 

二人とも固まった。

 

「一花?」

 

「……悠飛くん」

 

「……」

 

「その」

 

「うん」

 

「手、離してくれない?」

 

「あ」

 

悠飛が慌てて手を離す。

 

「悪い」

 

「ううん」

 

一花は顔を赤くしながら笑う。

 

「ありがとう」

 

「怪我がなくてよかった」

 

「……」

 

一花は胸に手を当てる。

 

心臓が。

 

ものすごい勢いで鳴っていた。

 

――近い。

 

――こんなの。

 

――意識しないほうが無理だよ。

 

「一花?」

 

「何?」

 

「顔、赤いぞ」

 

「……武道場が暑いだけ」

 

「そうか?」

 

「そう!」

 

一花は笑う。

 

 

その光景を。

 

武道場の入口から見ている人影があった。

 

「……」

 

四葉。

 

そして。

 

その後ろに六華。

 

「……」

 

二人とも何も言わない。

 

四葉は少しだけ笑った。

 

「一花お姉ちゃん、楽しそうですね」

 

「……」

 

六華は答えない。

 

四葉が横を見る。

 

「六華ちゃん?」

 

「何でもない」

 

「……」

 

四葉は少し考える。

 

「六華ちゃん」

 

「うん?」

 

「私たち」

 

「……」

 

「悠飛さんのこと、好きなんですよね」

 

六華は驚いた。

 

「……四葉」

 

「私、分かります」

 

四葉は笑った。

 

「だって」

 

胸に手を当てる。

 

「私も同じだから」

 

「……」

 

「でも」

 

四葉は続ける。

 

「お姉ちゃんたちも六華ちゃんも、大切です」

 

六華は目を伏せる。

 

「……優しいね」

 

「そうですか?」

 

「うん」

 

「でも」

 

四葉の表情が少し変わった。

 

「恋だけは」

 

「……」

 

「譲れません」

 

六華は目を見開く。

 

そして。

 

ふっと笑った。

 

「私も」

 

「……」

 

「譲るつもりはないよ」

 

二人は。

 

静かに笑い合った。

 

 

武道場から一花が出てくる。

 

「二人とも、どうしたの?」

 

「何でもありません!」

 

四葉が答える。

 

六華も頷く。

 

「うん」

 

「そう?」

 

一花は首を傾げる。

 

「じゃあ帰ろうか」

 

「はい!」

 

三人は並んで歩き始める。

 

少し先には悠飛がいる。

 

「……」

 

三人の視線が。

 

同時に悠飛へ向く。

 

そして。

 

三人とも。

 

同時に笑った。

 

「……」

 

その様子を。

 

少し離れたところから見ていた風太郎は。

 

「……」

 

ため息をついた。

 

「面倒なことになってきたな」

 

隣にいた五月が首を傾げる。

 

「何がですか?」

 

「いや」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「本人だけが気づいてない」

 

「……?」

 

五月には意味が分からなかった。

 

 

数日後。

 

日の出祭の準備が本格化した。

 

教室では。

 

「うちのクラス、何やる?」

 

「喫茶店!」

 

「演劇!」

 

「お化け屋敷!」

 

様々な意見が飛び交う。

 

一花は女優としての経験を活かして演劇を推し。

 

四葉はクラス全体が参加できる企画を提案。

 

六華は予算とスケジュールを計算。

 

そして。

 

悠飛は。

 

「……」

 

黒板に書かれた案を見ながら考えていた。

 

「これなら全部組み合わせられる」

 

「本当に?」

 

一花が聞く。

 

「ああ」

 

「さすが悠飛くん」

 

四葉も笑う。

 

「すごいです!」

 

六華は資料を見る。

 

「……計算も合ってる」

 

「まあな」

 

「本当に何でもできるんだね」

 

「そんなことない」

 

悠飛は苦笑する。

 

「できないこともある」

 

「例えば?」

 

一花が聞く。

 

「料理」

 

「え?」

 

「全然できない」

 

「ふふっ」

 

一花が笑う。

 

「意外」

 

「俺も意外です!」

 

四葉も笑う。

 

「六華は?」

 

「私は……」

 

六華は考える。

 

「悠飛の料理、ちょっと食べてみたい」

 

「やめたほうがいい」

 

「そんなに?」

 

「ああ」

 

三人が笑う。

 

その瞬間。

 

悠飛も笑った。

 

「……」

 

三人の胸が。

 

同時に高鳴った。

 

 

放課後。

 

教室には悠飛と三人だけが残っていた。

 

「今日、遅くなったな」

 

「そうだね」

 

一花が言う。

 

「でも楽しかった」

 

四葉も頷く。

 

「はい!」

 

六華は窓の外を見る。

 

「夕焼け、綺麗」

 

「本当だ」

 

悠飛も窓を見る。

 

四人で。

 

同じ景色を見る。

 

「……」

 

一花は思った。

 

――こういう時間が好き。

 

四葉は思った。

 

――ずっと続けばいいのに。

 

六華は思った。

 

――この時間を、私が大切にしたい。

 

三人の想いは。

 

それぞれ違う。

 

けれど。

 

向いている先は同じだった。

 

「悠飛」

 

一花が呼ぶ。

 

「ん?」

 

「今度の日曜日」

 

「うん」

 

「一緒に出かけない?」

 

悠飛が答える前に。

 

「私も行きたいです!」

 

四葉が手を挙げた。

 

「え?」

 

一花が驚く。

 

「私も」

 

六華も続いた。

 

「……」

 

悠飛は三人を見る。

 

「じゃあ」

 

「……」

 

「四人で行くか」

 

三人の顔が。

 

同時に明るくなる。

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「楽しみ」

 

 

その夜。

 

一花はベッドに寝転びながら。

 

スマートフォンを見る。

 

『日曜日、四人で出かける』

 

その予定だけで。

 

胸が高鳴る。

 

「……」

 

四葉も。

 

自分の部屋で笑っていた。

 

「楽しみだなぁ」

 

六華も。

 

予定を書き込んだ手帳を眺めている。

 

「……」

 

そして。

 

三人とも。

 

同じことを考えていた。

 

――もっと近づきたい。

 

――もっと悠飛を知りたい。

 

――もっと自分を知ってもらいたい。

 

まだ。

 

誰も告白していない。

 

まだ。

 

誰も答えを求めていない。

 

それでも。

 

三人の距離は。

 

確実に近づいていた。

 

友情なのか。

 

恋なのか。

 

ライバル心なのか。

 

それとも。

 

その全部なのか。

 

誰にも分からない。

 

ただ一つ確かなのは。

 

如月悠飛を中心に。

 

中野一花。

 

中野四葉。

 

中野六華。

 

三人の少女の運命が。

 

少しずつ。

 

同じ場所へ向かい始めていたことだった。

 

 

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