『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第36話「五つ子の家出」

秋が深まり始めた頃。

 

中野家では、いつもとは違う重苦しい空気が漂っていた。

 

「……」

 

夕食のテーブル。

 

一花、二乃、三玖、四葉、五月。

 

五つ子が揃っている。

 

だが。

 

誰も口を開こうとはしなかった。

 

原因は。

 

テーブルの中央に置かれた一枚の書類だった。

 

「全国模試の結果か……」

 

二乃が嫌そうに呟く。

 

「……」

 

五月は順位表を見つめた。

 

「今回も……」

 

三玖が小さく呟く。

 

「厳しい」

 

四葉は困ったように笑う。

 

「で、でも!」

 

「四葉」

 

二乃が遮る。

 

「無理に明るくしなくていいわ」

 

「……」

 

四葉は黙る。

 

そして。

 

一花が書類を裏返した。

 

「問題は成績だけじゃないよ」

 

「……」

 

「お父さん」

 

一花の声が低くなる。

 

「最近、私たちに何も言わなくなった」

 

「忙しいんでしょう」

 

五月が答える。

 

「病院もありますし」

 

「それだけかな」

 

一花が呟く。

 

そのとき。

 

玄関の扉が開いた。

 

「……」

 

五人が顔を上げる。

 

帰ってきたのは。

 

中野マルオだった。

 

「君たち」

 

マルオはいつものように感情を表に出さない。

 

「成績表を見せなさい」

 

「……」

 

五人は黙る。

 

「また悪かったようだな」

 

「……」

 

「家庭教師をつける必要がある」

 

二乃が眉をひそめる。

 

「またその話?」

 

「当然だ」

 

「でも」

 

「二乃」

 

マルオが遮る。

 

「君たちは勉強をしなければならない」

 

「……」

 

「将来のためだ」

 

その言葉。

 

五人の心に重くのしかかった。

 

 

その夜。

 

五人は同じ部屋に集まっていた。

 

「……」

 

二乃がベッドに座る。

 

「もう嫌」

 

「二乃……」

 

五月が声をかける。

 

「私たち、ずっとこうじゃない」

 

一花が黙って聞いている。

 

「勉強しろ」

 

「成績を上げろ」

 

「家庭教師をつける」

 

「……」

 

二乃は拳を握る。

 

「私たちの気持ちなんて、誰も聞いてくれない」

 

「……」

 

三玖が呟く。

 

「分かる」

 

「三玖?」

 

「私も」

 

三玖は俯く。

 

「最近……息苦しい」

 

四葉も黙って頷いた。

 

「……」

 

五月は五人を見る。

 

「でも」

 

「五月」

 

一花が優しく呼ぶ。

 

「私たちは五人で一緒」

 

「……」

 

「だから」

 

一花は立ち上がった。

 

「少しだけ、離れよう」

 

「え?」

 

四人が一花を見る。

 

「この家から」

 

「……!」

 

五月が目を見開く。

 

「家出?」

 

二乃が呟く。

 

一花は頷いた。

 

「うん」

 

「でも……」

 

四葉が困惑する。

 

「お父さんが心配するんじゃ」

 

「心配してくれるかな」

 

一花の言葉に。

 

誰も反論できなかった。

 

 

翌朝。

 

五人は荷物をまとめていた。

 

「必要最低限だけ」

 

一花が言う。

 

「分かった」

 

三玖が頷く。

 

「これくらいなら」

 

四葉がリュックを背負う。

 

「大丈夫です!」

 

二乃は服を詰め込む。

 

「こんな家、出てやるんだから」

 

五月は最後まで迷っていた。

 

「本当に……いいのでしょうか」

 

一花が五月の肩に手を置く。

 

「五月」

 

「はい」

 

「私たち五人で決めたことだよ」

 

「……」

 

五月は頷いた。

 

「分かりました」

 

五人は。

 

手を繋ぐ。

 

「せーの」

 

「「「「「行こう」」」」」

 

 

一方。

 

旭高校。

 

悠飛は風太郎と昼休みを過ごしていた。

 

「中野たち」

 

風太郎が突然言う。

 

「最近、少し変だ」

 

「どうした?」

 

「勉強会にも集中できてない」

 

「……」

 

悠飛も思い当たる節があった。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

最近。

 

全員がどこか疲れている。

 

「何かあったのか?」

 

「分からん」

 

風太郎はため息をつく。

 

「俺たちに言わないからな」

 

「……」

 

その日の放課後。

 

五人が。

 

学校に来なかった。

 

「……」

 

悠飛はスマートフォンを見る。

 

連絡もない。

 

「風太郎」

 

「ああ」

 

「何かおかしい」

 

「俺もそう思う」

 

 

夕方。

 

悠飛のスマートフォンが鳴った。

 

相手は。

 

四葉だった。

 

「四葉?」

 

『……』

 

「どうした?」

 

返事がない。

 

「四葉?」

 

『悠飛さん……』

 

ようやく声が聞こえた。

 

だが。

 

いつもの明るさがない。

 

「今、どこにいる?」

 

『……言えません』

 

「何かあったのか?」

 

『……』

 

「四葉」

 

『ごめんなさい』

 

電話が切れた。

 

「……」

 

悠飛は眉を寄せる。

 

その直後。

 

風太郎から電話が入った。

 

「悠飛」

 

「どうした?」

 

『中野家に行った』

 

「うん」

 

『五人ともいない』

 

「……!」

 

『家出したらしい』

 

「……分かった」

 

悠飛は立ち上がった。

 

「探そう」

 

『ああ』

 

 

その頃。

 

五人は。

 

駅から少し離れた場所にある小さなアパートの前にいた。

 

「……ここ?」

 

二乃が聞く。

 

「うん」

 

一花が頷く。

 

「しばらくここで暮らす」

 

三玖が周囲を見る。

 

「思ったより……」

 

「狭いね」

 

四葉が言う。

 

五月は苦笑した。

 

「でも」

 

「……」

 

「五人一緒です」

 

その言葉に。

 

全員が笑った。

 

「そうね」

 

一花が頷く。

 

「五人一緒なら」

 

「何とかなる」

 

二乃も笑う。

 

「ここから始めよう」

 

 

しかし。

 

同じ頃。

 

悠飛と風太郎は。

 

五人の居場所を探していた。

 

「どこだ……」

 

風太郎が焦る。

 

悠飛は冷静だった。

 

「五人の性格から考える」

 

「何か分かるか?」

 

「豪華な場所には行かない」

 

「確かに」

 

「そして」

 

悠飛は考える。

 

「五人で一緒にいられる場所」

 

「……」

 

風太郎の目が見開かれる。

 

「そうか」

 

「思い当たった?」

 

「ああ」

 

風太郎はスマートフォンを取り出す。

 

「前に五人が話していた場所がある」

 

「どこだ?」

 

「……」

 

風太郎が告げる。

 

「俺たちが勉強会をしている近くのアパートだ」

 

「……行こう」

 

 

夜。

 

アパート。

 

五人は小さな部屋に集まっていた。

 

「布団、どうする?」

 

四葉が聞く。

 

「五人なら何とかなるでしょ」

 

二乃が答える。

 

「料理は?」

 

三玖が聞く。

 

「私がやる」

 

五月が手を挙げる。

 

「……」

 

一花は笑う。

 

「じゃあ決まり」

 

その瞬間。

 

インターホンが鳴った。

 

「……?」

 

五人が顔を見合わせる。

 

「誰?」

 

二乃が立ち上がる。

 

インターホンがもう一度鳴る。

 

「……」

 

一花が恐る恐る扉を開ける。

 

「こんばんは」

 

「……!」

 

そこに立っていたのは。

 

悠飛だった。

 

「悠飛……」

 

一花が呟く。

 

後ろには。

 

風太郎もいる。

 

「五人とも」

 

風太郎が言う。

 

「心配したぞ」

 

「……」

 

五月が俯く。

 

四葉も。

 

三玖も。

 

二乃も。

 

一花も。

 

誰も言葉が出ない。

 

悠飛は怒らなかった。

 

「……無事でよかった」

 

それだけだった。

 

「悠飛さん……」

 

四葉の目に涙が浮かぶ。

 

「怒らないんですか?」

 

「怒る理由がない」

 

「でも」

 

「家出したことについては、ちゃんと話し合う必要がある」

 

悠飛は穏やかに言う。

 

「だけど」

 

「……」

 

「五人が無事だったことが一番大事だ」

 

その言葉に。

 

五人の胸が温かくなる。

 

 

「私たち」

 

一花が話し始めた。

 

「もう少し、自分たちでやってみたかった」

 

「……」

 

「お父さんに何を言っても」

 

「勉強しろ」

 

「将来のためだ」

 

「そればかり」

 

二乃が続ける。

 

「だから出たの」

 

悠飛は頷く。

 

「分かった」

 

「……」

 

「なら」

 

悠飛は言う。

 

「ここで生活するなら」

 

「……」

 

「俺たちも協力する」

 

風太郎が驚く。

 

「悠飛?」

 

「家賃や生活費は?」

 

「そこは俺の家から援助できる」

 

「……!」

 

五人が驚く。

 

「もちろん」

 

悠飛は続ける。

 

「ただし」

 

「……?」

 

「勉強は続ける」

 

風太郎が頷く。

 

「俺も手伝う」

 

「家庭教師として?」

 

二乃が尋ねる。

 

「違う」

 

悠飛が答える。

 

「友達として」

 

五人が顔を上げた。

 

「家庭教師じゃない」

 

悠飛は笑った。

 

「友達として、一緒に勉強する」

 

「……」

 

五月が目を潤ませる。

 

「ありがとうございます」

 

 

その夜。

 

五人は。

 

新しい部屋で眠る準備をしていた。

 

「ねえ」

 

一花が言う。

 

「今日」

 

「何?」

 

二乃が聞く。

 

「悠飛くんが来てくれてよかったね」

 

「……」

 

三玖が頷く。

 

「うん」

 

四葉も笑う。

 

「悠飛さんは優しいです」

 

五月も頷く。

 

「本当に」

 

そして。

 

誰も気づいていなかった。

 

この家出が。

 

五人と悠飛の関係を。

 

大きく変えていくことを。

 

五人は。

 

自分たちの力で生活することを学ぶ。

 

悠飛と風太郎は。

 

家庭教師ではなく友人として。

 

彼女たちを支えていく。

 

そして。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人の恋心も。

 

少しずつ。

 

その距離を縮めていく。

 

 

翌朝。

 

悠飛は自宅へ戻った。

 

「お兄ちゃん」

 

玄関で待っていたのは。

 

妹の莉々華だった。

 

「お帰りなさい」

 

「ああ」

 

「どこ行ってたんですか?」

 

「中野たちのところ」

 

「……」

 

莉々華の表情が変わる。

 

「五つ子?」

 

「そう」

 

「またですか?」

 

「またって」

 

「お兄ちゃん、最近あの人たちの話ばかりです」

 

「そうか?」

 

「そうです!」

 

莉々華は頬を膨らませる。

 

「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんですからね!」

 

「分かってる」

 

悠飛は苦笑した。

 

「心配するな」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ」

 

莉々華は少し安心する。

 

だが。

 

彼女もまだ知らない。

 

これから始まる。

 

五つ子との新しい生活。

 

そして。

 

悠飛を巡る。

 

三人の恋の行方を。

 

秋の夜は。

 

静かに更けていった。

 

 

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