『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第37話「七つのさよなら」

秋の夜。

 

五つ子が中野家を出て、安いアパートで暮らし始めてから数日が経った。

 

最初は戸惑いばかりだった。

 

狭い部屋。

 

少ない家具。

 

自分たちで作らなければならない食事。

 

洗濯。

 

掃除。

 

そして何より――。

 

「……お金、足りるかな」

 

テーブルの上に並べられた家計簿を見ながら、五月が唸った。

 

「大丈夫でしょ」

 

二乃が言う。

 

「私たちには悠飛がいるんだから」

 

「二乃、それは言い方が悪い」

 

一花が苦笑する。

 

「悠飛くんに頼り切るわけじゃないよ」

 

「分かってるわよ」

 

二乃は頬を膨らませる。

 

「でも、助けてくれるって言ってくれたじゃない」

 

その通りだった。

 

悠飛は五つ子の生活費について、両親に相談していた。

 

父・明馬はIT企業を経営している。

 

息子から事情を聞いた明馬は、迷うことなく援助を了承した。

 

「困っている友人を助ける。それだけだろ」

 

それが明馬の答えだった。

 

母・明美も美容院の仕事をしながら、

 

「無理をさせないようにしてあげなさい」

 

と悠飛に伝えていた。

 

そのため、五つ子たちは最低限の生活に困ることはなかった。

 

ただし。

 

「勉強は続けること」

 

それだけは、悠飛と風太郎から何度も言われている。

 

「……」

 

五月が教科書を見る。

 

「今日も勉強会ですか?」

 

「当然」

 

風太郎が答える。

 

「家を出たからといって、勉強まで捨てる理由にはならない」

 

「うっ……」

 

四葉が机に突っ伏す。

 

「風太郎くん、厳しいです」

 

「甘やかしても成績は上がらん」

 

「悠飛さんは?」

 

四葉が隣を見る。

 

悠飛は笑っていた。

 

「俺も勉強したほうがいいと思うぞ」

 

「悠飛さんまで!」

 

「ただし」

 

悠飛は続ける。

 

「今日は短めにする」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ」

 

四葉の顔が明るくなる。

 

「やった!」

 

「その代わり、集中すること」

 

「はい!」

 

その様子を見ながら。

 

一花は微笑んだ。

 

「なんだか……」

 

「ん?」

 

「家庭教師が二人いるみたい」

 

風太郎が眉をひそめる。

 

「俺は家庭教師じゃない」

 

悠飛も笑う。

 

「俺たちは友達だろ」

 

「……」

 

その言葉に。

 

五つ子たちは顔を見合わせた。

 

家庭教師ではない。

 

親でもない。

 

教師でもない。

 

それでも。

 

自分たちの味方でいてくれる。

 

それが。

 

今の五人には嬉しかった。

 

 

数日後。

 

問題が起きた。

 

「……え?」

 

一花がスマートフォンを見つめる。

 

「どうしたの?」

 

三玖が尋ねる。

 

「お父さんから」

 

「何て?」

 

「戻ってこいって」

 

二乃の顔が険しくなる。

 

「今さら?」

 

「うん」

 

五月が心配そうに言う。

 

「何かあったのでしょうか」

 

「たぶん」

 

一花は画面を見つめる。

 

『これ以上、君たちを好き勝手にはさせない』

 

短い文章。

 

だが。

 

五人には十分だった。

 

「……帰りたくない」

 

二乃が呟く。

 

「私も」

 

三玖も頷く。

 

四葉は俯く。

 

五月は黙っている。

 

一花がスマートフォンを伏せた。

 

「みんな」

 

「うん」

 

「私たちは五人で決めた」

 

「……」

 

「戻らない」

 

全員が頷いた。

 

 

翌日。

 

学校。

 

五人はいつも通り登校した。

 

だが。

 

教室に入った瞬間。

 

何かがおかしいことに気づいた。

 

「……」

 

机の上に置かれた紙。

 

『中野姉妹、今日中に中野家へ戻ること』

 

「……」

 

二乃が紙を握り潰す。

 

「誰よ、こんなの」

 

「学校側からでしょうか?」

 

五月が言う。

 

「違うと思う」

 

一花が答える。

 

そのとき。

 

「中野」

 

声がした。

 

振り返ると。

 

マルオの秘書・江端が立っていた。

 

「少し話がある」

 

「……」

 

五人は顔を見合わせる。

 

「お父さんからですか?」

 

五月が聞く。

 

「そうだ」

 

江端は静かに言う。

 

「君たちには、今の生活を続ける資格がない」

 

「……!」

 

二乃が立ち上がる。

 

「何ですって?」

 

「落ち着きなさい」

 

「落ち着けるわけないでしょ!」

 

江端は五人を見つめる。

 

「君たちの父親は心配している」

 

「だったら」

 

二乃は言い返す。

 

「私たちの話を聞いて!」

 

「……」

 

江端は黙る。

 

そのとき。

 

「江端さん」

 

悠飛が口を挟んだ。

 

「五人は自分たちで決めたんです」

 

「如月君」

 

「無理に連れ戻す必要はないと思います」

 

「……」

 

江端は悠飛を見る。

 

「君の家から援助を受けていることも聞いている」

 

「はい」

 

「君の家庭が裕福だからといって」

 

「分かっています」

 

悠飛は穏やかに答える。

 

「だからこそ、生活費だけを支えるつもりです」

 

「……」

 

「五人の人生まで、俺が決めるつもりはありません」

 

江端はしばらく黙った。

 

やがて。

 

「分かった」

 

そう言って去っていった。

 

五つ子たちは悠飛を見つめる。

 

「……ありがとう」

 

一花が言う。

 

「気にするな」

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「本当にありがとう」

 

「友達だから」

 

また。

 

その言葉。

 

一花の胸に響いた。

 

 

しかし。

 

その日の放課後。

 

事態は急変した。

 

五人がアパートへ帰ると。

 

「……え?」

 

部屋の前に男たちが立っていた。

 

「誰?」

 

二乃が警戒する。

 

「中野さんたちですね」

 

男の一人が言う。

 

「お父様がお待ちです」

 

「帰りません」

 

二乃が即答する。

 

「それは困ります」

 

男が近づく。

 

「……!」

 

四葉が一歩下がる。

 

その瞬間。

 

「やめろ」

 

低い声が響いた。

 

「……!」

 

悠飛だった。

 

その隣には風太郎もいる。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

 

「はい!」

 

悠飛は男たちを見る。

 

「五人に手を出すなら」

 

「……」

 

「俺が相手になる」

 

「如月さん」

 

男が言う。

 

「これは中野家の問題です」

 

「そうかもしれない」

 

悠飛は答える。

 

「でも」

 

「……」

 

「友達が嫌がっているのに、無理やり連れて行くのを黙って見ているつもりはない」

 

男たちは顔を見合わせた。

 

そこへ。

 

「悠飛!」

 

莉々華の声が聞こえた。

 

「……?」

 

悠飛が振り返る。

 

莉々華が走ってくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「莉々華?」

 

「お父さんから聞きました」

 

莉々華は五つ子を見る。

 

「この人たちを守ってるんですよね?」

 

「そうだけど」

 

莉々華は胸を張る。

 

「なら、私も手伝います!」

 

「莉々華……」

 

「お兄ちゃんは一人で全部背負いすぎです!」

 

その言葉に。

 

悠飛は苦笑した。

 

「ありがとう」

 

 

結局。

 

男たちは引き下がった。

 

しかし。

 

五人の問題は終わらなかった。

 

「……」

 

夜。

 

五つ子はアパートの屋上にいた。

 

「どうする?」

 

一花が尋ねる。

 

「このままじゃ」

 

三玖が呟く。

 

「また来る」

 

「……」

 

四葉が空を見る。

 

「私たち」

 

「うん」

 

「何かを変えないといけないのかもしれません」

 

五月が頷く。

 

「そうですね」

 

二乃は拳を握る。

 

「でも」

 

「……?」

 

「五人一緒ってことだけは譲らない」

 

一花が笑う。

 

「当然」

 

 

その翌日。

 

風太郎から提案があった。

 

「中野」

 

「何?」

 

「一度、父親と直接話したらどうだ」

 

「……」

 

「逃げ続けても解決しない」

 

五月が考える。

 

「でも……」

 

「俺も行く」

 

悠飛が言った。

 

「俺も」

 

風太郎が続く。

 

「二人とも……」

 

一花は驚いた。

 

悠飛が笑う。

 

「五人だけで戦う必要はない」

 

「……」

 

「俺たちも友達だから」

 

 

中野家。

 

久しぶりに戻った五人。

 

玄関を開ける。

 

「……」

 

そこにはマルオがいた。

 

「帰ってきたか」

 

「……」

 

一花が前へ出る。

 

「お父さん」

 

「何だ」

 

「私たちは」

 

一花は五人を見た。

 

「この家に戻りたくない」

 

マルオの表情が変わる。

 

「理由は?」

 

二乃が答える。

 

「私たちのことを、何も聞いてくれないから」

 

三玖が続ける。

 

「勉強だけ見てる」

 

四葉。

 

「私たちは人形じゃありません」

 

五月。

 

「自分たちで考えて決めたいです」

 

そして。

 

一花が言った。

 

「五人一緒でいたい」

 

マルオは黙った。

 

長い沈黙。

 

やがて。

 

「……分かった」

 

「え?」

 

「好きにしなさい」

 

五人は驚く。

 

「ただし」

 

マルオは続ける。

 

「勉強を捨てることだけは許さない」

 

「……」

 

五月が頷く。

 

「分かりました」

 

 

帰り道。

 

五人は並んで歩いていた。

 

「……」

 

誰も口を開かない。

 

すると。

 

悠飛が言った。

 

「これで少しは落ち着いたな」

 

「うん」

 

一花が答える。

 

「ありがとう」

 

「だから気にするなって」

 

「でも」

 

一花は笑う。

 

「ありがとう」

 

四葉も続く。

 

「ありがとうございました!」

 

三玖も。

 

「ありがとう」

 

二乃も。

 

「……まあ、感謝してあげる」

 

五月も。

 

「本当にありがとうございます」

 

悠飛は笑った。

 

「五人とも」

 

「何?」

 

「困ったときは言ってくれ」

 

「……」

 

「一人で抱え込むな」

 

その言葉を聞いて。

 

四葉の胸が温かくなる。

 

 

その夜。

 

六華が悠飛の家を訪れた。

 

「悠飛」

 

「六華?」

 

「今日は大変だったね」

 

「ああ」

 

「五つ子たち、大丈夫?」

 

「うん」

 

六華は安心したように笑う。

 

「よかった」

 

「六華も心配してたのか?」

 

「もちろん」

 

少し沈黙。

 

「……悠飛」

 

「ん?」

 

「私も」

 

「……」

 

「困ったときは頼ってね」

 

「分かった」

 

「約束」

 

「ああ」

 

六華は笑った。

 

そして。

 

心の中で思う。

 

――私も。

 

――悠飛の支えになりたい。

 

 

その翌週。

 

五つ子たちの生活は少しずつ落ち着いていった。

 

勉強会も続いている。

 

成績も。

 

少しずつ。

 

上向き始めていた。

 

「よし!」

 

風太郎が答案を並べる。

 

「前回より全員上がっている」

 

「本当ですか!」

 

四葉が喜ぶ。

 

「やった!」

 

五月も嬉しそうに笑う。

 

三玖も小さく頷く。

 

「努力は無駄じゃない」

 

二乃も。

 

「まあ、当然でしょ」

 

一花は悠飛を見る。

 

「ありがとう」

 

「みんなが頑張った結果だ」

 

「……」

 

一花は笑った。

 

その光景を見て。

 

悠飛も笑う。

 

これで。

 

全てが上手くいった。

 

――そう思っていた。

 

だが。

 

この頃。

 

五つ子たちの中では。

 

別の問題が芽生え始めていた。

 

「……」

 

一花。

 

「……」

 

四葉。

 

そして。

 

六華。

 

三人の恋心。

 

まだ誰も。

 

悠飛には告げていない。

 

しかし。

 

「……」

 

一花は悠飛を見る。

 

「……」

 

四葉も見る。

 

「……」

 

六華も見る。

 

三人の視線が交差する。

 

そして。

 

三人とも。

 

静かに笑った。

 

誰も譲る気はない。

 

 

その日の帰り道。

 

七人は久しぶりに一緒に歩いていた。

 

悠飛。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

幼い頃と同じ。

 

七人。

 

だが。

 

全員の心は。

 

あの頃とは違う。

 

友情。

 

家族。

 

恋。

 

様々な感情が入り混じっている。

 

ふと。

 

悠飛が立ち止まった。

 

「……」

 

「悠飛?」

 

六華が声をかける。

 

「何か思い出した」

 

「え?」

 

悠飛は頭を押さえる。

 

「昔……」

 

「……」

 

「七人で」

 

「……」

 

「こうやって歩いた気がする」

 

五つ子たちが顔を見合わせる。

 

「私も」

 

四葉が呟く。

 

「……なんとなく」

 

一花も。

 

「私も」

 

六華も頷く。

 

「……私も」

 

その瞬間。

 

悠飛の脳裏に。

 

一瞬だけ。

 

幼い少女たちの笑顔が浮かんだ。

 

そして。

 

一人の少女が。

 

悠飛の手を握っている。

 

「……誰だ?」

 

その顔だけが。

 

どうしても思い出せない。

 

けれど。

 

確かに。

 

大切な存在だった。

 

「……」

 

悠飛は空を見上げる。

 

「いつか」

 

「……?」

 

「全部思い出せるかな」

 

一花が笑う。

 

「きっと」

 

四葉も。

 

「思い出せますよ!」

 

六華も。

 

「そのときまで」

 

「……」

 

「今の思い出を増やしていこう」

 

悠飛は笑った。

 

「ああ」

 

七人は再び歩き出す。

 

その背中を夕日が照らしていた。

 

――七人の幼馴染。

 

忘れていた過去。

 

今、築いている現在。

 

そして。

 

まだ誰にも分からない未来。

 

この「七つのさよなら」は。

 

過去の関係に別れを告げるためのものではない。

 

むしろ。

 

新しい関係へ進むための。

 

最初の一歩だった。

 

 

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