『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
秋晴れの朝。
旭高校の校門前には、いつものように多くの生徒が集まっていた。
その中を、二人の男子生徒が並んで歩いている。
一人は、整った顔立ちと金髪を持つ少年――如月悠飛。
そしてもう一人は、どこか不機嫌そうな顔で参考書を抱えている少年――上杉風太郎。
二人は性格こそ正反対だった。
悠飛は人当たりがよく、誰とでも自然に会話できる。
一方の風太郎は、必要以上に他人と関わろうとしない。
しかし。
二人の間には、確かな友情があった。
「風太郎」
「何だ」
「今日の小テスト、数学だったな」
「そうだ」
「勉強したか?」
「当然だ」
「さすが」
「お前こそ」
「俺はいつも通り」
「……その『いつも通り』が腹立つんだよ」
悠飛が笑う。
「褒め言葉として受け取っておく」
「褒めてない」
そんな会話をしながら。
二人は校舎へ向かった。
だが。
この日。
二人の友情を試す出来事が起こることになる。
◇
一時間目。
数学の小テスト。
「始め」
教師の合図とともに、教室中で鉛筆が走り始める。
悠飛は淡々と問題を解いていく。
風太郎も負けじと答案を書き進める。
そして。
終了。
「そこまで」
生徒たちが答案を提出する。
「疲れたぁ……」
四葉が机に突っ伏す。
「今回、難しかった」
三玖が呟く。
一花は伸びをする。
「私はまあまあかな」
六華は答案を見直している。
五月は真剣な表情。
そして。
「悠飛」
風太郎が声をかける。
「何だ?」
「最後の問題」
「ああ」
「答え、何だった?」
「……」
悠飛が答える。
風太郎が頷く。
「同じだ」
「よし」
「だが」
「ん?」
「俺のほうが早く解いた」
悠飛は笑った。
「それは悔しいな」
「当然だ」
二人は小さく笑う。
そんな二人を。
一花は少し離れたところから見ていた。
「……仲良いね」
「そうですね」
四葉も頷く。
「悠飛さんと風太郎くん、昔からの友達なんですよね」
「うん」
六華が答える。
「お互いに遠慮がないところが、逆にいいのかも」
◇
昼休み。
屋上。
悠飛と風太郎は二人で昼食を取っていた。
「……」
風太郎が弁当を食べる。
「なあ」
悠飛が口を開く。
「何だ?」
「最近、疲れてないか?」
「……」
風太郎の手が止まる。
「別に」
「嘘」
「……」
「五つ子のことだろ?」
風太郎はため息をついた。
「分かるか」
「顔に出てる」
「そうか?」
「ああ」
風太郎は空を見る。
「五人の成績は少しずつ上がってきた」
「うん」
「だが」
「……」
「まだまだ不安定だ」
「焦る必要はない」
悠飛が言う。
「少しずつでいい」
「分かってる」
風太郎は答える。
「だが、俺にはあいつらを支える責任がある」
「責任?」
「ああ」
風太郎は真剣だった。
「俺は家庭教師じゃない」
「……」
「今は友人として関わってる」
「そうだな」
「だからこそ」
風太郎は拳を握る。
「途中で投げ出したくない」
悠飛は黙って聞いていた。
そして。
「風太郎」
「何だ?」
「お前は一人じゃない」
「……」
「俺もいる」
風太郎は目を見開く。
「悠飛」
「五人を支えるなら、一緒にやろう」
「……」
「勉強も」
「……」
「生活も」
「……」
「必要なら、俺たちで考えればいい」
風太郎はしばらく黙っていた。
やがて。
「……ありがとな」
小さな声。
悠飛は笑った。
「友達だろ」
「……ああ」
風太郎も笑った。
◇
しかし。
午後。
問題が起きた。
「上杉」
教師から呼び出された風太郎。
「はい」
「お前の最近の成績についてだ」
「……」
「以前より少し落ちている」
「分かっています」
「原因は何だ?」
風太郎は黙った。
五つ子のこと。
だが。
それを理由にはしたくなかった。
「……自分の努力不足です」
教師は首を傾げる。
「そうか」
「はい」
その話を。
廊下で悠飛が聞いていた。
「……」
風太郎は教室へ戻ってくる。
「風太郎」
「聞いてたのか」
「少しだけ」
「……」
「本当に自分の努力不足か?」
「そうだ」
「違う」
「……」
悠飛は言った。
「お前は五人のために時間を使ってる」
「それでも」
「それは悪いことじゃない」
風太郎は黙る。
「俺は」
悠飛が続ける。
「お前が五人を支えてることを知ってる」
「……」
「だから、自分を責めるな」
風太郎は俯く。
「……悠飛」
「ん?」
「俺は」
「……」
「お前が羨ましい」
「え?」
「何でもできる」
「……」
「勉強も」
「……」
「運動も」
「……」
「人付き合いも」
風太郎は苦笑する。
「しかも金持ちだ」
「そこは関係ないだろ」
悠飛が苦笑する。
「それに」
風太郎は続ける。
「お前は五人に好かれている」
「……」
「一花も」
「……」
「四葉も」
「……」
「六華も」
悠飛が固まる。
「……風太郎」
「何だ?」
「それ、本人たちに言うなよ」
「なぜ?」
「恥ずかしい」
「お前でも恥ずかしいことがあるのか」
「ある」
風太郎は少し笑った。
「そうか」
そして。
風太郎は悠飛の肩を軽く叩いた。
「なら、お互い様だ」
「何が?」
「俺にも、お前にはないものがある」
「……」
「五人を支えることで得たものだ」
「そうだな」
「だから」
風太郎は前を見る。
「競争しよう」
「……」
「勉強でも」
「……」
「人生でも」
「いいな」
悠飛は笑った。
「負けないぞ」
「俺もだ」
◇
放課後。
二人は武道場にいた。
「今日は勉強じゃないのか?」
風太郎が聞く。
「たまには身体を動かそう」
「俺は武道経験ないぞ」
「大丈夫」
悠飛は笑う。
「基礎だけ」
風太郎は構える。
「……」
「力を入れすぎ」
「こうか?」
「そう」
「……」
風太郎が踏み込む。
悠飛が軽く受け流す。
「うわっ!」
風太郎が転びそうになる。
悠飛が腕を掴む。
「危ない」
「……」
「大丈夫か?」
「……」
風太郎は苦笑した。
「お前、本当に何でもできるな」
「そんなことない」
「なら料理をしろ」
「それは無理」
「……」
「本当に無理」
二人は笑った。
そのとき。
「お兄ちゃん!」
入口から声がする。
「莉々華?」
莉々華が入ってきた。
「もう帰る時間ですよ」
「分かった」
莉々華は風太郎を見る。
「こんにちは」
「ああ」
「上杉さんですよね?」
「そうだ」
「お兄ちゃんの友達」
「……」
風太郎は少し驚いた。
「友達……か」
「違うの?」
莉々華が首を傾げる。
「いや」
風太郎は悠飛を見る。
「友達だ」
悠飛は笑った。
◇
帰り道。
三人で歩く。
「風太郎さん」
莉々華が言う。
「何だ?」
「お兄ちゃんと仲良くしてあげてください」
「……」
悠飛が苦笑する。
「莉々華」
「だって」
莉々華は頬を膨らませる。
「お兄ちゃん、最近五つ子さんたちのことで忙しいんですから」
「それは……」
「私、ちょっと寂しいです」
悠飛は莉々華の頭を撫でる。
「ごめんな」
「……」
莉々華は嬉しそうに笑った。
「でも」
悠飛は言う。
「風太郎がいてくれるから大丈夫だ」
「……」
風太郎は驚いた。
「俺が?」
「ああ」
「……」
「お前は頼りになる」
風太郎は少しだけ顔を背ける。
「……そういうこと、普通に言うな」
「何で?」
「恥ずかしい」
莉々華が笑う。
「お兄ちゃんと風太郎さん、似てますね」
「「どこが?」」
二人の声が重なる。
莉々華は大笑いした。
◇
翌日。
昼休み。
五つ子と六華が悠飛たちのところへやってきた。
「悠飛さん!」
四葉が声をかける。
「ん?」
「昨日、風太郎くんと武道してたんですか?」
「ああ」
「私も見たかったです!」
「今度な」
「約束ですよ!」
一花が笑う。
「風太郎くんも結構楽しそうだったよね」
「そうか?」
「うん」
六華も頷く。
「二人とも自然だった」
五月が言う。
「悠飛さんと上杉さんは、本当に仲が良いんですね」
二乃が腕を組む。
「まあ、悪くないんじゃない?」
三玖は小さく笑う。
「友達……」
その言葉を。
六華は静かに聞いていた。
――友達。
悠飛と風太郎。
二人の友情は強い。
それは。
五つ子たちにも。
六華にも。
少し羨ましいほどだった。
◇
その日の放課後。
風太郎が悠飛を呼び止めた。
「悠飛」
「どうした?」
「一つ頼みがある」
「何だ?」
「五つ子の次の試験」
「うん」
「俺一人じゃなく、お前にも協力してほしい」
「もちろん」
「……助かる」
悠飛は笑った。
「風太郎」
「何だ?」
「俺たちは友達だ」
「分かってる」
「なら」
「……」
「困ったときはお互い様だ」
風太郎は頷いた。
「ああ」
二人は拳を軽く合わせた。
「絶対に五人を赤点にさせない」
「おう」
◇
数日後。
五つ子たちの勉強会。
「ここ!」
四葉が手を挙げる。
「分かりました!」
「よし」
悠飛が頷く。
「次は?」
一花が問題を解く。
「できた」
「正解」
「やった」
三玖も。
「……できた」
「正解」
五月も。
「これは?」
「合ってる」
二乃も。
「ふん」
「正解だ」
五人全員。
少しずつ。
成長している。
風太郎が答案を見る。
「前より確実に良くなってる」
「本当?」
一花が聞く。
「ああ」
風太郎は頷いた。
「お前らが努力した結果だ」
「……」
五人が嬉しそうに笑う。
その姿を見ながら。
悠飛も嬉しくなった。
◇
帰り道。
悠飛と風太郎。
二人きり。
「なあ」
風太郎が言う。
「何だ?」
「このままいけば」
「うん」
「五人はちゃんと卒業できると思うか?」
「できる」
悠飛は即答した。
「お前がいる」
「……」
「俺もいる」
「……」
「五人自身も頑張ってる」
風太郎は笑った。
「そうだな」
「だから大丈夫だ」
「ああ」
二人は並んで歩く。
夕焼けの中。
悠飛が言う。
「風太郎」
「ん?」
「高校を卒業しても」
「……」
「友達でいような」
風太郎は少し驚いた。
そして。
「当たり前だ」
そう答えた。
「大学に行っても」
「うん」
「社会人になっても」
「もちろん」
「爺さんになっても」
「それは長いな」
二人は笑った。
「でも」
風太郎が言う。
「悪くない」
「だろ?」
「……ああ」
その約束は。
二人がまだ高校生だった頃。
何気なく交わしたものだった。
けれど。
二人は知らない。
この友情が。
これから先。
人生の中で何度も。
互いを支える大切な絆になることを。
そして。
五つ子たちと六華を巡る恋が激しくなっても。
悠飛と風太郎の友情だけは。
決して揺らぐことがない。
「帰るか」
「ああ」
二人は肩を並べ。
夕暮れの道を歩いていった。
その背中は。
まるで。
ずっと昔からの親友のようだった。