『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
秋も終わりに近づいていた。
朝晩の冷え込みが少しずつ強くなり、旭高校の校庭を吹き抜ける風にも冬の気配が混じり始めている。
「寒い……」
四葉が両手に息を吹きかける。
「もう冬ですね!」
「四葉、まだ秋」
三玖が淡々と指摘する。
「細かいことは気にしない!」
「細かくないと思うけど」
一花が笑う。
そんな五つ子の少し後ろを、悠飛と六華が歩いていた。
「六華、寒くないか?」
「大丈夫」
六華は笑った。
「悠飛こそ」
「俺は平気」
「そう言うと思った」
「何で?」
「昔からそうだから」
「……昔?」
悠飛が首を傾げる。
六華は一瞬だけ表情を曇らせた。
「ううん。何でもない」
「そうか?」
「うん」
六華は笑った。
しかし。
彼女の胸の奥には、幼い頃の記憶が残っていた。
七人で過ごした時間。
悠飛。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
そして自分。
今では少しずつ思い出せる。
けれど。
まだ全てではない。
「……」
六華は悠飛の横顔を見る。
――いつか全部、思い出したい。
そう思った。
◇
放課後。
悠飛が帰宅すると、玄関には珍しく父・明馬の革靴があった。
「ただいま」
「お帰り、悠飛」
リビングから声が返ってくる。
「父さん、今日は早いな」
「たまにはな」
明馬はソファに座っていた。
隣には母・明美。
そして。
「お兄ちゃん!」
莉々華。
「三人とも揃ってるのか」
「家族会議です!」
莉々華が宣言する。
「家族会議?」
悠飛が苦笑した。
「何かあった?」
明馬が口を開く。
「最近、中野さんたちのところに頻繁に行っているそうだな」
「うん」
「学校でも面倒を見ている?」
「まあ」
明美が微笑む。
「友達なんでしょう?」
「ああ」
「ならいいじゃない」
明馬も頷く。
「ただな」
「うん」
「人を助けるというのは、思っている以上に責任が伴う」
「分かってる」
悠飛は真剣に答えた。
「だから、家族にも相談しながらやってる」
「それなら問題ない」
明馬は笑う。
「それに」
「?」
「お前が誰かのために動くようになったのは、父親として嬉しい」
悠飛は少し驚いた。
「……父さん」
明馬は昔を思い出すように目を細めた。
「子供の頃のお前は、一人で何でもやろうとしていたからな」
「そうだった?」
「そうだ」
明美も笑う。
「転んでも泣かなかったものね」
「……覚えてない」
「私は覚えてます」
莉々華が手を挙げる。
「お兄ちゃん、昔から格好つけでした」
「莉々華まで」
「事実です」
家族全員が笑った。
◇
夕食。
明美が料理を並べる。
「いただきます」
四人の声が重なる。
悠飛は箸を取る。
「やっぱり家の飯はいいな」
「最近外食が多いものね」
明美が言う。
「中野さんたちのところでは?」
「勉強会だから、軽く食べるくらい」
「ちゃんと食べてる?」
「大丈夫」
莉々華がじっと悠飛を見る。
「本当に?」
「本当」
「ならいいです」
そう言いながらも。
莉々華はどこか不満そうだった。
「どうした?」
悠飛が聞く。
「……」
「莉々華?」
「お兄ちゃん」
「ん?」
「最近、私より五つ子さんたちと一緒にいる時間のほうが長くないですか?」
「……」
悠飛は固まった。
明馬が笑いを堪える。
明美も微笑む。
「莉々華」
「何ですか、お母さん」
「お兄ちゃんを取られたような気がするのね」
「……」
莉々華は頬を膨らませる。
「そういうことじゃありません」
「じゃあ、どういうこと?」
「……」
「……」
「ちょっと寂しいだけです」
小さな声。
悠飛は箸を置いた。
「莉々華」
「はい」
「ごめんな」
「……」
「俺が悪かった」
「お兄ちゃん……」
「明日、一緒に買い物でも行くか?」
「本当ですか?」
「ああ」
莉々華の顔が明るくなる。
「絶対ですよ!」
「約束」
「約束です!」
悠飛は笑った。
家族。
それは。
どんなに忙しくても。
忘れてはいけない存在だった。
◇
翌日。
放課後。
悠飛は莉々華と街へ出ていた。
「どこ行きたい?」
「まず本屋です」
「本屋?」
「はい!」
莉々華は楽しそうに歩く。
「それから洋服を見たいです」
「分かった」
「あと――」
「まだあるのか?」
「あります!」
二人で笑う。
そんな二人を。
偶然見かけた人物がいた。
「……悠飛?」
一花だった。
その隣には四葉と六華。
「悠飛さん!」
四葉が手を振る。
悠飛が振り返る。
「あれ?」
「こんにちは!」
「こんにちは」
六華も挨拶する。
莉々華が三人を見る。
「こんにちは」
「こんにちは」
一花が笑う。
「妹さん?」
「うん」
「初めまして。中野一花です」
「知ってます」
「え?」
莉々華が少しだけ胸を張る。
「お兄ちゃんから聞いてます」
一花が悠飛を見る。
「何て?」
「秘密です」
「ふふっ」
一花が笑う。
四葉も莉々華を見る。
「莉々華ちゃん、今日はお兄ちゃんとデートですか?」
「デートじゃありません!」
莉々華が即答する。
「家族のお出かけです!」
「なるほど!」
四葉が頷く。
六華は微笑んだ。
「仲良しだね」
「はい!」
莉々華は嬉しそうだった。
その姿を見て。
一花は少し考える。
――家族。
自分たちにも。
母・零奈がいた。
そして。
今はマルオがいる。
けれど。
自分たちは。
本当に家族なのだろうか。
◇
その夜。
五つ子たちはアパートに集まっていた。
「今日、悠飛と妹さんを見た」
一花が言う。
「莉々華ちゃん?」
四葉が尋ねる。
「うん」
「仲良さそうでしたね」
五月が微笑む。
二乃は腕を組む。
「そりゃ兄妹なんだから当然でしょ」
三玖が呟く。
「……羨ましい」
「三玖?」
「家族」
三玖は窓の外を見る。
「私たちも五人家族だけど」
「……」
「昔はお母さんがいた」
一花も静かになる。
「お母さん……」
五月が呟く。
五人にとって。
母・零奈は。
今も心の中にいる。
厳しくて。
優しくて。
決して弱音を吐かない女性だった。
「お母さんなら」
四葉が言う。
「今の私たちを見たら、何て言うでしょう」
「……」
誰も答えられない。
すると。
一花が笑った。
「きっと」
「?」
「五人でちゃんと仲良くしなさいって言うんじゃないかな」
二乃が頷く。
「そうね」
三玖も。
「うん」
四葉も。
「はい!」
五月は胸元に手を置く。
「……私たちは五人一緒です」
◇
翌日。
中野家の前。
五つ子は久しぶりに父・マルオと向き合っていた。
「話がある」
マルオが言う。
「はい」
五月が答える。
「君たちは最近、友人たちに支えられているようだな」
「……」
一花が頷く。
「悠飛くんと風太郎くんに」
「そうです」
五月が続ける。
「それから六華にも」
マルオは五人を見る。
「君たちは」
「……」
「彼らを家族のように感じているのか?」
五人は驚いた。
「家族……」
四葉が呟く。
マルオは続ける。
「家族というものは、血の繋がりだけではない」
「……」
「共に過ごし」
「……」
「互いを支え」
「……」
「必要なときに助け合う」
マルオは淡々と言う。
「それも家族だ」
五人は顔を見合わせた。
◇
その日の夕方。
悠飛の家。
「家族って何だろうな」
悠飛が呟く。
隣にいる風太郎が答える。
「難しい質問だな」
「そうか?」
「ああ」
風太郎は少し考える。
「俺の家は父さんとらいはと俺」
「うん」
「血の繋がった家族だ」
「……」
「でも」
風太郎は続ける。
「それだけじゃないと思う」
「……」
「五つ子も」
「……」
「俺にとっては、もう放っておけない存在だ」
悠飛は笑う。
「お前らしい」
「何がだ」
「不器用なところ」
「うるさい」
二人は笑った。
そこへ。
「お兄ちゃん!」
莉々華が入ってくる。
「何してるんですか?」
「風太郎と話してた」
「またですか?」
「またって……」
莉々華は風太郎を見る。
「風太郎さん」
「何だ?」
「お兄ちゃんをよろしくお願いします」
「……」
風太郎は少し驚いた。
「こちらこそ」
「え?」
「悠飛にはいつも助けてもらってる」
「……」
「俺も、こいつを支える」
莉々華が笑う。
「ありがとうございます」
悠飛は二人を見る。
「……なんか恥ずかしいな」
「何で?」
莉々華が首を傾げる。
◇
数日後。
学校では。
「ねえ、悠飛」
一花が声をかけた。
「何?」
「家族って」
「うん」
「何だと思う?」
突然の質問だった。
悠飛は少し考える。
「一緒にいる人」
「……」
「自分が困ったときに助けてくれる人」
「……」
「そして」
悠飛は一花を見る。
「自分も、その人を助けたいと思えること」
一花の目が少し見開かれる。
「……そっか」
「どうした?」
「ううん」
一花は微笑んだ。
「悠飛くんらしいなって」
「そう?」
「うん」
そこへ。
「悠飛さん!」
四葉が駆けてくる。
「何?」
「一花、お話終わりました?」
「うん」
「じゃあ、行きましょう!」
四葉が悠飛の腕を取る。
「ちょっと、四葉」
「早く!」
「はいはい」
その様子を。
少し離れたところから六華が見ていた。
「……」
胸の奥が。
ほんの少しだけ痛い。
けれど。
六華は笑った。
「私も」
「……」
「家族のように支えられる人になりたい」
◇
その週末。
七人が集まった。
悠飛。
風太郎。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
そして六華。
「……七人じゃないぞ」
風太郎が言う。
「八人だ」
「そうだった」
悠飛が笑う。
「莉々華もいるから九人です!」
「……」
莉々華が胸を張る。
「今日はみんなで料理しましょう!」
「料理?」
悠飛が聞く。
「はい!」
「俺、料理苦手なんだけど」
「知ってます」
「……」
莉々華が笑う。
「でも大丈夫です」
「何が?」
「私が教えます」
その結果。
キッチンは大混乱になった。
「四葉、それは切りすぎ!」
「ええっ!」
「三玖、火が強い!」
「……ごめん」
「二乃、味見しすぎ!」
「いいでしょ!」
「五月、食べるな!」
「すみません!」
「一花、笑ってないで手伝って!」
「だって面白いんだもん」
六華も笑っている。
「悠飛、包丁危ない」
「六華まで……」
風太郎は呆れていた。
「お前ら、料理一つで何でこんなに騒ぐんだ」
だが。
風太郎自身も。
少し笑っていた。
◇
完成した料理を。
全員で囲む。
「いただきます!」
声が重なる。
一口。
「……」
全員が黙る。
「どう?」
莉々華が聞く。
悠飛が答える。
「美味い」
「本当ですか?」
「ああ」
一花も。
「美味しい」
二乃。
「まあまあね」
三玖。
「美味しい」
四葉。
「最高です!」
五月。
「美味しいです!」
六華。
「うん」
風太郎も。
「……悪くない」
莉々華は嬉しそうに笑った。
その光景を見ながら。
悠飛は思う。
家族とは。
血の繋がりだけではない。
同じ食卓を囲み。
笑い合い。
時には喧嘩をして。
それでも。
最後には隣にいる。
そんな存在なのかもしれない。
◇
帰り際。
一花が悠飛に言った。
「今日は楽しかったね」
「ああ」
「またやろう」
「もちろん」
四葉も。
「次はもっと大人数で!」
「これ以上増えるのか?」
「分かりません!」
六華が笑う。
「でも、いいんじゃない?」
悠飛は三人を見る。
「そうだな」
少し離れた場所で。
風太郎と莉々華が話していた。
「風太郎さん」
「何だ?」
「お兄ちゃんのこと」
「……」
「これからもよろしくお願いします」
風太郎は頷く。
「ああ」
「約束ですよ」
「約束だ」
その二人を見ながら。
悠飛は笑った。
――家族。
――友達。
――仲間。
それぞれの形は違っても。
大切に思う気持ちは同じだった。
そして。
この日の記憶は。
後になって。
彼らにとって忘れられない思い出になる。
「また明日」
「うん」
「またね」
「さようなら」
一人ずつ別れていく。
最後まで残った悠飛と風太郎。
「帰るか」
「ああ」
二人は並んで歩く。
「悠飛」
「ん?」
「家族って」
「うん」
「案外、難しくないのかもしれないな」
悠飛は笑う。
「そうかもな」
二人は歩き続ける。
秋の夜空には。
たくさんの星が輝いていた。
その下で。
いくつもの家族の絆が。
静かに、確かに。
強く結ばれていった。