『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
秋の終わり。
旭高校の校庭を、冷たい風が吹き抜けていた。
文化祭の準備も一段落し、学校全体が少し落ち着きを取り戻している。
そんな昼休み。
屋上では、悠飛と風太郎がいつものように弁当を広げていた。
「……寒くなったな」
風太郎が空を見上げる。
「ああ。もうすぐ冬だ」
「時間が経つのは早い」
「そうだな」
悠飛は弁当を食べながら、校舎のほうを見る。
「五つ子たちも、最近は随分変わった」
「成績か?」
「それもある」
悠飛は笑う。
「最初の頃とは表情が違う」
風太郎も頷いた。
「確かにな」
「少しずつ、自分たちで考えるようになった」
「……」
「家出だって、結果的には自分たちの気持ちを父親に伝えるきっかけになった」
風太郎は箸を止める。
「そうだな」
「でも」
悠飛は空を見る。
「最近、別の変化もある」
「……恋愛か?」
「……」
悠飛が固まる。
「何で分かる?」
「鈍感ではあるが、馬鹿ではない」
「それ、褒めてる?」
「半分は」
「半分かよ」
風太郎は小さく笑った。
「一花」
「……」
「四葉」
「……」
「六華」
悠飛は黙り込む。
風太郎はそんな悠飛を見て。
「大変だな」
「他人事みたいに言うな」
「俺には関係ない」
「……」
「だが」
風太郎は真面目な顔になる。
「三人とも、お前を大切に思っているのは分かる」
「……」
「だからこそ」
「うん」
「逃げるなよ」
悠飛は少しだけ驚いた。
そして。
「ああ」
そう答えた。
◇
放課後。
一花は一人で廊下を歩いていた。
「……」
手には台本。
芸能活動で使っているものだ。
最近。
女優としての仕事が増えている。
以前なら。
仕事が増えることが嬉しかった。
今も嬉しい。
けれど。
最近は。
別のことを考える時間が増えていた。
「……悠飛くん」
思わず名前が口から漏れる。
一花は立ち止まる。
「私、どうしちゃったんだろ」
昔から。
悠飛は友達だった。
気の合う幼馴染。
困ったときに助けてくれる人。
一緒に笑える人。
それだけだったはず。
なのに。
「……」
悠飛が他の女の子と話していると。
少し気になる。
四葉が悠飛の隣にいると。
なぜか落ち着かない。
六華と二人で話しているのを見ると。
胸がざわつく。
「これって……」
一花は自分の胸に手を当てる。
「嫉妬?」
その言葉を口にした瞬間。
顔が熱くなった。
「……私、悠飛くんのこと」
そこまで言って。
一花は口を閉じる。
「まだ、言わない」
今は。
まだ。
◇
その頃。
四葉は校庭にいた。
陸上部の練習を手伝っている。
「四葉!」
部員から声が飛ぶ。
「はい!」
四葉は元気に返事をする。
走る。
跳ぶ。
笑う。
いつもの四葉。
だが。
練習が終わったあと。
一人になると。
「……」
ふと空を見上げた。
悠飛の顔が浮かぶ。
「悠飛さん……」
四葉は小さく笑う。
「今日も格好よかったなぁ」
そして。
自分で言ったことに気づく。
「……あ」
顔が真っ赤になる。
「私、何言ってるんだろ」
四葉は両手で頬を押さえた。
でも。
笑顔は消えなかった。
「悠飛さんと一緒にいると」
「……」
「楽しい」
それは。
昔から変わらない。
でも。
最近は。
少し違う。
一緒にいるだけで嬉しい。
名前を呼ばれるだけで嬉しい。
頭を撫でられるだけで。
胸が高鳴る。
「これって……」
四葉は自分の胸を押さえる。
「恋……なのかな」
答えは。
まだ分からない。
でも。
一つだけ。
はっきりしている。
「私は」
四葉は笑う。
「悠飛さんのことが大切です」
◇
そして。
六華。
放課後の図書室。
一人で本を読んでいる。
静かな空間。
ページをめくる音だけが響いていた。
けれど。
六華は。
文字をほとんど読んでいなかった。
「……」
頭に浮かぶのは。
悠飛。
一緒に帰った日のこと。
家族について話したこと。
昔の記憶。
そして。
自分の中にある違和感。
「私……」
六華は目を閉じる。
「昔から悠飛を知っていた?」
確信はない。
だが。
悠飛の笑顔を見ると。
胸の奥が温かくなる。
他の人には感じない感情。
「……」
六華は本を閉じた。
「これが恋なのかな」
静かな声。
誰もいない図書室。
だからこそ。
素直になれた。
「悠飛」
六華は呟く。
「私はあなたのことが好きなのかもしれない」
その言葉を口にした瞬間。
心が少し軽くなった。
◇
一方。
二乃は。
「……」
廊下を歩いていた。
「最近、あの三人」
二乃が呟く。
一花。
四葉。
六華。
明らかに。
悠飛を意識している。
「分かりやすいのよ」
二乃はため息をつく。
そこへ。
三玖が現れた。
「二乃」
「三玖?」
「何してるの?」
「別に」
「……」
三玖は二乃を見る。
「一花と四葉と六華」
「……」
「悠飛のことが好きなのかな」
二乃が少し驚く。
「やっぱり気づいてた?」
「うん」
「……」
二人は黙る。
「どうする?」
二乃が聞く。
「何を?」
「恋愛」
三玖は考える。
「……私は」
「うん」
「まだ分からない」
「そっか」
「でも」
三玖は静かに言う。
「悠飛は大切な人」
「……」
「それは間違いない」
二乃は笑った。
「まあ、そうよね」
「二乃は?」
「私は……」
二乃は少し考える。
「私は風太郎のほうが」
そこまで言って。
「……」
口を閉じる。
「二乃?」
「何でもない!」
二乃は歩き出す。
三玖はその背中を見つめる。
「……」
それぞれの想い。
誰にも言わない。
まだ。
◇
その頃。
悠飛は中庭にいた。
「悠飛さん!」
四葉が駆けてくる。
「四葉?」
「一緒に帰りませんか?」
「ああ」
「やった!」
四葉が嬉しそうに笑う。
その直後。
「悠飛くん」
一花がやってくる。
「一花?」
「私も一緒に帰っていい?」
「もちろん」
「ありがとう」
さらに。
「悠飛」
六華も現れた。
「六華?」
「私も」
「もちろん」
三人が並ぶ。
四葉。
一花。
六華。
悠飛は三人を見て。
「……なんか珍しいな」
「そう?」
一花が笑う。
「うん」
四葉は元気よく言う。
「みんな悠飛さんと帰りたいんですよ!」
「……」
一花と六華が四葉を見る。
「四葉」
「はい?」
「もう少し」
「?」
「秘密にしようか」
「……あ」
四葉の顔が赤くなる。
六華が苦笑する。
「四葉らしい」
「す、すみません!」
悠飛は笑った。
「気にするな」
その笑顔を見て。
三人の胸が高鳴る。
――好き。
それぞれの心の中で。
同じ言葉が浮かんだ。
◇
帰り道。
四人で歩く。
「悠飛」
一花が話しかける。
「ん?」
「将来、何になりたい?」
「俺?」
「うん」
悠飛は少し考える。
「まだ決めてない」
「意外」
「そうか?」
「何でもできるから、もう決まってると思ってた」
「俺だって普通の高校生だよ」
四葉が笑う。
「でも、悠飛さんなら何でもできます!」
「ありがとう」
六華も言う。
「私もそう思う」
「六華まで」
一花が微笑む。
「悠飛くんらしい答えだね」
「そう?」
「うん」
しばらく歩く。
すると。
四葉が突然言った。
「私は!」
「ん?」
「将来も、みんなと一緒にいたいです!」
一花と六華が四葉を見る。
四葉は続ける。
「一花も、二乃も、三玖も、五月も」
「……」
「六華も」
「……」
「悠飛さんも」
悠飛は笑った。
「もちろん」
四葉は嬉しそうに笑う。
「約束ですよ!」
「ああ」
その瞬間。
一花は少しだけ寂しそうな顔をした。
六華も。
二人は思っていた。
――いつか。
――悠飛の隣にいるのは。
自分でありたい。
◇
その夜。
一花は自室で台本を読んでいた。
だが。
集中できない。
「……」
スマートフォンを見る。
悠飛からのメッセージ。
『今日は楽しかった。また明日』
短い文章。
それだけ。
なのに。
一花は何度も読み返す。
「……ふふ」
頬が緩む。
「私、本当に好きなんだ」
一花はスマートフォンを胸に抱いた。
「悠飛くん」
◇
四葉はベッドの上。
「……」
枕を抱えている。
「悠飛さん」
思い出す。
今日。
一緒に帰ったこと。
笑ってくれたこと。
「……」
四葉は枕に顔を埋める。
「好き……」
小さな声。
「大好き……」
そして。
恥ずかしくなって。
「わーっ!」
布団に潜り込んだ。
◇
六華は。
机に向かっていた。
ノートには。
今日の出来事が書かれている。
『悠飛と帰った』
その一行。
六華はペンを止める。
そして。
その下に。
『楽しかった』
と書き足した。
さらに。
少し迷ってから。
『もっと一緒にいたい』
と書いた。
「……」
六華は顔を伏せる。
「私……本当に好きなんだ」
◇
そして。
悠飛。
自室。
机の上には。
風太郎から借りた参考書。
スマートフォンには。
一花。
四葉。
六華。
そして。
莉々華からのメッセージ。
『明日も早く帰ってきてくださいね』
悠飛は笑う。
「みんな大切な人だな」
その言葉に。
恋愛という意味は。
まだなかった。
ただ。
大切な友達。
大切な家族。
そう思っているだけ。
けれど。
悠飛は知らない。
彼の周囲で。
三人の少女が。
同じ人を想っていることを。
◇
翌朝。
教室。
風太郎が悠飛の席に来た。
「悠飛」
「おはよう」
「おはよう」
風太郎は少しだけ悠飛を見る。
「昨日」
「ん?」
「一花、四葉、六華と一緒に帰っただろ」
「そうだけど」
「……」
風太郎はため息をつく。
「お前、本当に鈍いな」
「何が?」
「何でもない」
「?」
風太郎は席に戻る。
その背中を見ながら。
悠飛は首を傾げた。
「……何だったんだ?」
◇
一時間目。
一花。
四葉。
六華。
三人が教室に入る。
視線が交差する。
一花が微笑む。
四葉も。
六華も。
「……」
誰も何も言わない。
けれど。
三人の間には。
確かな共通認識が生まれていた。
――悠飛が好き。
――私は譲らない。
ただし。
それはまだ。
敵意ではない。
むしろ。
互いを尊重する。
そんな不思議な関係だった。
一花が言う。
「……頑張ろうか」
四葉が笑う。
「はい!」
六華も頷く。
「うん」
三人はそれぞれ。
自分の想いを胸に。
前へ進む。
◇
放課後。
悠飛は一人で校庭を歩いていた。
そこへ。
「悠飛さん!」
四葉。
「悠飛くん」
一花。
「悠飛」
六華。
三人が同時に声をかける。
「……」
悠飛は笑った。
「どうした?」
三人は顔を見合わせる。
「一緒に帰ろう」
三人の声が重なった。
「……」
悠飛は少し驚く。
そして。
「分かった」
笑顔で答える。
その瞬間。
三人も笑った。
夕焼けの中。
四人の影が並んで伸びていく。
その影は。
少しずつ近づきながら。
まだ誰にも分からない未来へと。
ゆっくり進んでいた。
それぞれの想いを。
胸に秘めたまま。