『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第40話「それぞれの想い」

秋の終わり。

 

旭高校の校庭を、冷たい風が吹き抜けていた。

 

文化祭の準備も一段落し、学校全体が少し落ち着きを取り戻している。

 

そんな昼休み。

 

屋上では、悠飛と風太郎がいつものように弁当を広げていた。

 

「……寒くなったな」

 

風太郎が空を見上げる。

 

「ああ。もうすぐ冬だ」

 

「時間が経つのは早い」

 

「そうだな」

 

悠飛は弁当を食べながら、校舎のほうを見る。

 

「五つ子たちも、最近は随分変わった」

 

「成績か?」

 

「それもある」

 

悠飛は笑う。

 

「最初の頃とは表情が違う」

 

風太郎も頷いた。

 

「確かにな」

 

「少しずつ、自分たちで考えるようになった」

 

「……」

 

「家出だって、結果的には自分たちの気持ちを父親に伝えるきっかけになった」

 

風太郎は箸を止める。

 

「そうだな」

 

「でも」

 

悠飛は空を見る。

 

「最近、別の変化もある」

 

「……恋愛か?」

 

「……」

 

悠飛が固まる。

 

「何で分かる?」

 

「鈍感ではあるが、馬鹿ではない」

 

「それ、褒めてる?」

 

「半分は」

 

「半分かよ」

 

風太郎は小さく笑った。

 

「一花」

 

「……」

 

「四葉」

 

「……」

 

「六華」

 

悠飛は黙り込む。

 

風太郎はそんな悠飛を見て。

 

「大変だな」

 

「他人事みたいに言うな」

 

「俺には関係ない」

 

「……」

 

「だが」

 

風太郎は真面目な顔になる。

 

「三人とも、お前を大切に思っているのは分かる」

 

「……」

 

「だからこそ」

 

「うん」

 

「逃げるなよ」

 

悠飛は少しだけ驚いた。

 

そして。

 

「ああ」

 

そう答えた。

 

 

放課後。

 

一花は一人で廊下を歩いていた。

 

「……」

 

手には台本。

 

芸能活動で使っているものだ。

 

最近。

 

女優としての仕事が増えている。

 

以前なら。

 

仕事が増えることが嬉しかった。

 

今も嬉しい。

 

けれど。

 

最近は。

 

別のことを考える時間が増えていた。

 

「……悠飛くん」

 

思わず名前が口から漏れる。

 

一花は立ち止まる。

 

「私、どうしちゃったんだろ」

 

昔から。

 

悠飛は友達だった。

 

気の合う幼馴染。

 

困ったときに助けてくれる人。

 

一緒に笑える人。

 

それだけだったはず。

 

なのに。

 

「……」

 

悠飛が他の女の子と話していると。

 

少し気になる。

 

四葉が悠飛の隣にいると。

 

なぜか落ち着かない。

 

六華と二人で話しているのを見ると。

 

胸がざわつく。

 

「これって……」

 

一花は自分の胸に手を当てる。

 

「嫉妬?」

 

その言葉を口にした瞬間。

 

顔が熱くなった。

 

「……私、悠飛くんのこと」

 

そこまで言って。

 

一花は口を閉じる。

 

「まだ、言わない」

 

今は。

 

まだ。

 

 

その頃。

 

四葉は校庭にいた。

 

陸上部の練習を手伝っている。

 

「四葉!」

 

部員から声が飛ぶ。

 

「はい!」

 

四葉は元気に返事をする。

 

走る。

 

跳ぶ。

 

笑う。

 

いつもの四葉。

 

だが。

 

練習が終わったあと。

 

一人になると。

 

「……」

 

ふと空を見上げた。

 

悠飛の顔が浮かぶ。

 

「悠飛さん……」

 

四葉は小さく笑う。

 

「今日も格好よかったなぁ」

 

そして。

 

自分で言ったことに気づく。

 

「……あ」

 

顔が真っ赤になる。

 

「私、何言ってるんだろ」

 

四葉は両手で頬を押さえた。

 

でも。

 

笑顔は消えなかった。

 

「悠飛さんと一緒にいると」

 

「……」

 

「楽しい」

 

それは。

 

昔から変わらない。

 

でも。

 

最近は。

 

少し違う。

 

一緒にいるだけで嬉しい。

 

名前を呼ばれるだけで嬉しい。

 

頭を撫でられるだけで。

 

胸が高鳴る。

 

「これって……」

 

四葉は自分の胸を押さえる。

 

「恋……なのかな」

 

答えは。

 

まだ分からない。

 

でも。

 

一つだけ。

 

はっきりしている。

 

「私は」

 

四葉は笑う。

 

「悠飛さんのことが大切です」

 

 

そして。

 

六華。

 

放課後の図書室。

 

一人で本を読んでいる。

 

静かな空間。

 

ページをめくる音だけが響いていた。

 

けれど。

 

六華は。

 

文字をほとんど読んでいなかった。

 

「……」

 

頭に浮かぶのは。

 

悠飛。

 

一緒に帰った日のこと。

 

家族について話したこと。

 

昔の記憶。

 

そして。

 

自分の中にある違和感。

 

「私……」

 

六華は目を閉じる。

 

「昔から悠飛を知っていた?」

 

確信はない。

 

だが。

 

悠飛の笑顔を見ると。

 

胸の奥が温かくなる。

 

他の人には感じない感情。

 

「……」

 

六華は本を閉じた。

 

「これが恋なのかな」

 

静かな声。

 

誰もいない図書室。

 

だからこそ。

 

素直になれた。

 

「悠飛」

 

六華は呟く。

 

「私はあなたのことが好きなのかもしれない」

 

その言葉を口にした瞬間。

 

心が少し軽くなった。

 

 

一方。

 

二乃は。

 

「……」

 

廊下を歩いていた。

 

「最近、あの三人」

 

二乃が呟く。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

明らかに。

 

悠飛を意識している。

 

「分かりやすいのよ」

 

二乃はため息をつく。

 

そこへ。

 

三玖が現れた。

 

「二乃」

 

「三玖?」

 

「何してるの?」

 

「別に」

 

「……」

 

三玖は二乃を見る。

 

「一花と四葉と六華」

 

「……」

 

「悠飛のことが好きなのかな」

 

二乃が少し驚く。

 

「やっぱり気づいてた?」

 

「うん」

 

「……」

 

二人は黙る。

 

「どうする?」

 

二乃が聞く。

 

「何を?」

 

「恋愛」

 

三玖は考える。

 

「……私は」

 

「うん」

 

「まだ分からない」

 

「そっか」

 

「でも」

 

三玖は静かに言う。

 

「悠飛は大切な人」

 

「……」

 

「それは間違いない」

 

二乃は笑った。

 

「まあ、そうよね」

 

「二乃は?」

 

「私は……」

 

二乃は少し考える。

 

「私は風太郎のほうが」

 

そこまで言って。

 

「……」

 

口を閉じる。

 

「二乃?」

 

「何でもない!」

 

二乃は歩き出す。

 

三玖はその背中を見つめる。

 

「……」

 

それぞれの想い。

 

誰にも言わない。

 

まだ。

 

 

その頃。

 

悠飛は中庭にいた。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が駆けてくる。

 

「四葉?」

 

「一緒に帰りませんか?」

 

「ああ」

 

「やった!」

 

四葉が嬉しそうに笑う。

 

その直後。

 

「悠飛くん」

 

一花がやってくる。

 

「一花?」

 

「私も一緒に帰っていい?」

 

「もちろん」

 

「ありがとう」

 

さらに。

 

「悠飛」

 

六華も現れた。

 

「六華?」

 

「私も」

 

「もちろん」

 

三人が並ぶ。

 

四葉。

 

一花。

 

六華。

 

悠飛は三人を見て。

 

「……なんか珍しいな」

 

「そう?」

 

一花が笑う。

 

「うん」

 

四葉は元気よく言う。

 

「みんな悠飛さんと帰りたいんですよ!」

 

「……」

 

一花と六華が四葉を見る。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「もう少し」

 

「?」

 

「秘密にしようか」

 

「……あ」

 

四葉の顔が赤くなる。

 

六華が苦笑する。

 

「四葉らしい」

 

「す、すみません!」

 

悠飛は笑った。

 

「気にするな」

 

その笑顔を見て。

 

三人の胸が高鳴る。

 

――好き。

 

それぞれの心の中で。

 

同じ言葉が浮かんだ。

 

 

帰り道。

 

四人で歩く。

 

「悠飛」

 

一花が話しかける。

 

「ん?」

 

「将来、何になりたい?」

 

「俺?」

 

「うん」

 

悠飛は少し考える。

 

「まだ決めてない」

 

「意外」

 

「そうか?」

 

「何でもできるから、もう決まってると思ってた」

 

「俺だって普通の高校生だよ」

 

四葉が笑う。

 

「でも、悠飛さんなら何でもできます!」

 

「ありがとう」

 

六華も言う。

 

「私もそう思う」

 

「六華まで」

 

一花が微笑む。

 

「悠飛くんらしい答えだね」

 

「そう?」

 

「うん」

 

しばらく歩く。

 

すると。

 

四葉が突然言った。

 

「私は!」

 

「ん?」

 

「将来も、みんなと一緒にいたいです!」

 

一花と六華が四葉を見る。

 

四葉は続ける。

 

「一花も、二乃も、三玖も、五月も」

 

「……」

 

「六華も」

 

「……」

 

「悠飛さんも」

 

悠飛は笑った。

 

「もちろん」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「約束ですよ!」

 

「ああ」

 

その瞬間。

 

一花は少しだけ寂しそうな顔をした。

 

六華も。

 

二人は思っていた。

 

――いつか。

 

――悠飛の隣にいるのは。

 

自分でありたい。

 

 

その夜。

 

一花は自室で台本を読んでいた。

 

だが。

 

集中できない。

 

「……」

 

スマートフォンを見る。

 

悠飛からのメッセージ。

 

『今日は楽しかった。また明日』

 

短い文章。

 

それだけ。

 

なのに。

 

一花は何度も読み返す。

 

「……ふふ」

 

頬が緩む。

 

「私、本当に好きなんだ」

 

一花はスマートフォンを胸に抱いた。

 

「悠飛くん」

 

 

四葉はベッドの上。

 

「……」

 

枕を抱えている。

 

「悠飛さん」

 

思い出す。

 

今日。

 

一緒に帰ったこと。

 

笑ってくれたこと。

 

「……」

 

四葉は枕に顔を埋める。

 

「好き……」

 

小さな声。

 

「大好き……」

 

そして。

 

恥ずかしくなって。

 

「わーっ!」

 

布団に潜り込んだ。

 

 

六華は。

 

机に向かっていた。

 

ノートには。

 

今日の出来事が書かれている。

 

『悠飛と帰った』

 

その一行。

 

六華はペンを止める。

 

そして。

 

その下に。

 

『楽しかった』

 

と書き足した。

 

さらに。

 

少し迷ってから。

 

『もっと一緒にいたい』

 

と書いた。

 

「……」

 

六華は顔を伏せる。

 

「私……本当に好きなんだ」

 

 

そして。

 

悠飛。

 

自室。

 

机の上には。

 

風太郎から借りた参考書。

 

スマートフォンには。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

そして。

 

莉々華からのメッセージ。

 

『明日も早く帰ってきてくださいね』

 

悠飛は笑う。

 

「みんな大切な人だな」

 

その言葉に。

 

恋愛という意味は。

 

まだなかった。

 

ただ。

 

大切な友達。

 

大切な家族。

 

そう思っているだけ。

 

けれど。

 

悠飛は知らない。

 

彼の周囲で。

 

三人の少女が。

 

同じ人を想っていることを。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

風太郎が悠飛の席に来た。

 

「悠飛」

 

「おはよう」

 

「おはよう」

 

風太郎は少しだけ悠飛を見る。

 

「昨日」

 

「ん?」

 

「一花、四葉、六華と一緒に帰っただろ」

 

「そうだけど」

 

「……」

 

風太郎はため息をつく。

 

「お前、本当に鈍いな」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

「?」

 

風太郎は席に戻る。

 

その背中を見ながら。

 

悠飛は首を傾げた。

 

「……何だったんだ?」

 

 

一時間目。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人が教室に入る。

 

視線が交差する。

 

一花が微笑む。

 

四葉も。

 

六華も。

 

「……」

 

誰も何も言わない。

 

けれど。

 

三人の間には。

 

確かな共通認識が生まれていた。

 

――悠飛が好き。

 

――私は譲らない。

 

ただし。

 

それはまだ。

 

敵意ではない。

 

むしろ。

 

互いを尊重する。

 

そんな不思議な関係だった。

 

一花が言う。

 

「……頑張ろうか」

 

四葉が笑う。

 

「はい!」

 

六華も頷く。

 

「うん」

 

三人はそれぞれ。

 

自分の想いを胸に。

 

前へ進む。

 

 

放課後。

 

悠飛は一人で校庭を歩いていた。

 

そこへ。

 

「悠飛さん!」

 

四葉。

 

「悠飛くん」

 

一花。

 

「悠飛」

 

六華。

 

三人が同時に声をかける。

 

「……」

 

悠飛は笑った。

 

「どうした?」

 

三人は顔を見合わせる。

 

「一緒に帰ろう」

 

三人の声が重なった。

 

「……」

 

悠飛は少し驚く。

 

そして。

 

「分かった」

 

笑顔で答える。

 

その瞬間。

 

三人も笑った。

 

夕焼けの中。

 

四人の影が並んで伸びていく。

 

その影は。

 

少しずつ近づきながら。

 

まだ誰にも分からない未来へと。

 

ゆっくり進んでいた。

 

それぞれの想いを。

 

胸に秘めたまま。

 

 

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