『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
十二月。
旭高校の校舎を、冷たい風が包んでいた。
二学期も終わりが近づき、教室では冬休みを待ち望む声が増えている。
しかし。
悠飛たちにとっては、のんびりしている場合ではなかった。
「……」
教室の黒板には、大きく予定が書かれている。
『期末試験まで、あと七日』
その文字を見た瞬間。
四葉が机に突っ伏した。
「あと一週間しかないんですかぁ……」
「一週間もある」
風太郎が即答する。
「一週間しかありません!」
「だから勉強するんだ」
「うぅ……」
四葉が唸る。
その隣で。
五月は真剣な顔で教科書を開いていた。
「今回こそ、全員で赤点を回避しましょう」
「そうね」
一花が頷く。
二乃も腕を組む。
「当然でしょ」
三玖は問題集をめくる。
「今回は……前よりできる」
悠飛は五人を見る。
「みんな、ちゃんと成長してるよ」
「悠飛くん」
一花が嬉しそうに笑う。
「でも」
風太郎が続ける。
「油断はするな」
「分かってます」
五月が答える。
「今回の試験は範囲も広い」
「だからこそ」
悠飛が言った。
「最後の一週間を大切にしよう」
◇
放課後。
いつもの勉強会。
今日は悠飛の家に集まっていた。
広いリビングには、大きなテーブル。
その周囲に。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
風太郎。
そして悠飛。
八人が座っている。
「まずは苦手分野を確認する」
風太郎が言う。
「四葉は数学」
「はい……」
「五月は英語」
「……はい」
「二乃は古文」
「そこは分かってるわよ」
「三玖は現代文」
「……努力する」
「一花は歴史」
「女優に歴史は必要?」
「必要だ」
「厳しいなぁ」
一花が苦笑する。
六華は全体的に安定している。
悠飛は全科目において余裕がある。
「じゃあ」
悠飛が問題集を開く。
「今日は四葉からやろう」
「私ですか?」
「一番時間が必要だから」
「容赦ないです!」
風太郎が頷く。
「その通りだ」
「二人とも酷い!」
全員が笑った。
◇
数学。
「この問題」
悠飛が黒板に式を書く。
「まず何を求める?」
四葉が考える。
「えっと……」
「焦らなくていい」
「……」
四葉は問題文を読み直す。
「これ?」
「正解」
「やった!」
四葉が小さくガッツポーズをする。
「次」
「はい!」
最初は苦戦していた。
だが。
一問。
また一問。
少しずつ解けるようになっていく。
「……できた」
四葉が呟く。
風太郎が答案を見る。
「正解」
「本当ですか?」
「ああ」
悠飛も頷く。
「前よりずっと早くなった」
「……」
四葉は嬉しそうに笑った。
「頑張ってよかったです!」
その笑顔を見て。
悠飛も自然と笑う。
一花はそんな二人を見ていた。
「……」
胸の奥が。
少しだけざわつく。
「一花?」
六華が気づく。
「何でもないよ」
一花は笑った。
◇
夜。
勉強会が終わる。
「今日はここまで」
悠飛が言う。
「ありがとうございました!」
四葉が伸びをする。
「疲れた……」
二乃も。
「でも」
三玖が言う。
「前より分かるようになった」
五月も頷く。
「皆さんの教え方が上手だからです」
風太郎が立ち上がる。
「教え方というより、お前らの努力だ」
「……」
一花が笑う。
「風太郎くんも素直になったね」
「うるさい」
六華は荷物をまとめながら悠飛を見る。
「悠飛」
「ん?」
「少し残ってもいい?」
「もちろん」
四葉が振り返る。
「六華?」
「ちょっと聞きたいことがあるだけ」
「そうですか!」
四葉は笑う。
「じゃあ、また明日!」
「また明日」
◇
六華と二人きり。
「どうした?」
悠飛が聞く。
「数学」
「ここ?」
「うん」
六華は問題集を開く。
「ここだけ、少し分からない」
悠飛は隣に座る。
「これはね」
「……」
悠飛が丁寧に説明する。
六華は真剣に聞く。
「分かった」
「よかった」
「ありがとう」
「どういたしまして」
少し沈黙。
六華は悠飛を見る。
「……悠飛」
「ん?」
「最近」
「うん」
「楽しい?」
「何が?」
「学校」
悠飛は少し考える。
「楽しいよ」
「そう」
六華は笑った。
「よかった」
「六華は?」
「私も」
そして。
小さな声で。
「悠飛がいるから」
「……」
悠飛は聞き返そうとした。
「何?」
「ううん」
六華は笑う。
「何でもない」
◇
翌日。
学校。
「悠飛くん!」
一花が呼び止める。
「何?」
「今日、放課後空いてる?」
「勉強会」
「それ以外」
「……」
一花は少し照れた。
「少しだけ、相談したいことがあって」
「分かった」
「ありがとう」
その会話を。
四葉が聞いていた。
「一花……?」
「どうしたの?」
「悠飛さんと何かするんですか?」
「ちょっと相談」
「……」
四葉は笑う。
「そうですか!」
だが。
胸の奥には。
小さな嫉妬。
それでも。
「私も頑張らないと!」
四葉は自分に言い聞かせた。
◇
放課後。
一花と悠飛。
二人で歩く。
「相談って?」
「……」
一花は少し迷う。
「私」
「うん」
「女優の仕事が増えてきたの」
「知ってる」
「学校との両立が、少し大変」
「……」
「でも」
一花は笑う。
「やめたくない」
悠飛は頷く。
「やめなくていい」
「え?」
「一花がやりたいなら」
「……」
「俺は応援する」
一花は立ち止まる。
「悠飛くん」
「ん?」
「そういうところ」
「?」
「ずるいよ」
「何が?」
「……何でもない」
一花は笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
◇
その夜。
風太郎が悠飛に電話をかけてきた。
「悠飛」
「どうした?」
「今回の試験」
「ああ」
「俺たち、本気でやろう」
「もちろん」
「五人全員」
「うん」
「赤点なし」
「当然」
二人は約束した。
◇
試験前日。
勉強会は過去最大規模になった。
「英語!」
五月。
「数学!」
四葉。
「歴史!」
一花。
「古文!」
二乃。
「現代文!」
三玖。
それぞれが問題を解いていく。
悠飛と風太郎は交互に答案を確認する。
「正解」
「正解」
「惜しい」
「ここを直せばいい」
「分かった!」
時間は過ぎていく。
午後八時。
九時。
十時。
「もう今日は終わりだ」
悠飛が言う。
「えー!」
四葉が抗議する。
「まだできます!」
「明日のために寝るのも勉強」
風太郎が言う。
「睡眠不足じゃ集中できない」
「……分かりました」
四葉が渋々頷く。
五月も立ち上がる。
「皆さん」
「?」
「ありがとうございました」
「何が?」
一花が聞く。
「去年の私たちなら」
五月は笑う。
「こんなに勉強できなかったと思います」
「……」
三玖が頷く。
「私も」
二乃も。
「確かにね」
「だから」
五月は悠飛と風太郎を見る。
「二人がいてくれて、本当によかったです」
風太郎は照れたように顔を背ける。
「……大げさだ」
悠飛は笑う。
「明日、頑張ろう」
「はい!」
◇
その帰り道。
悠飛と風太郎は二人で歩いていた。
「……いよいよだな」
風太郎が言う。
「ああ」
「俺は」
風太郎は空を見上げる。
「五人が成長したことを、結果でも証明したい」
「できるさ」
「お前は自信があるな」
「ある」
「即答か」
「だって」
悠飛は笑う。
「みんな、前よりずっと頑張ってる」
「……」
「結果は後からついてくる」
風太郎は頷く。
「そうだな」
二人は歩き続ける。
◇
試験当日。
「始め」
教室に教師の声が響いた。
五つ子は一斉に答案を見る。
一花。
「……」
二乃。
「……」
三玖。
「……」
四葉。
「……!」
五月。
「……」
以前なら。
問題を見ただけで頭を抱えていたかもしれない。
けれど。
今は違う。
一花は歴史問題を解いていく。
二乃も古文に食らいつく。
三玖は現代文を一問ずつ丁寧に。
四葉は数学の問題を慎重に。
五月は英語を落ち着いて。
そして。
全員が。
自分の力で答案を書いていた。
◇
試験最終日。
「終わり」
全ての試験が終わった。
「終わったぁぁぁ!」
四葉が机に突っ伏す。
「長かった……」
二乃も疲れた顔。
「でも」
三玖が言う。
「今回は手応えがある」
五月も頷く。
「私もです」
一花は笑う。
「じゃあ」
「?」
「結果発表まで、少しだけ休もう」
「賛成!」
四葉が手を挙げる。
◇
数日後。
試験結果が返却された。
教室。
教師が答案を配っていく。
「中野一花」
「はい」
「中野二乃」
「はい」
「中野三玖」
「はい」
「中野四葉」
「はい……」
「中野五月」
「はい」
五人は恐る恐る答案を見る。
「……」
一花。
「……」
二乃。
「……!」
三玖。
「……!」
四葉。
「……」
五月。
全員。
赤点を回避していた。
「……!」
四葉が目を輝かせる。
「やったぁぁぁ!」
教室に響く大声。
「四葉!」
五月が慌てる。
「でも!」
四葉は嬉し涙を浮かべる。
「みんな赤点じゃないです!」
一花も笑う。
「本当だね」
二乃は答案を見ながら。
「……まあ、当然ね」
だが。
その目は嬉しそうだった。
三玖は小さく拳を握る。
「努力した」
五月は答案を胸に抱く。
「……嬉しい」
◇
放課後。
悠飛と風太郎が結果を確認する。
「……」
風太郎は五人の答案を見る。
「全員」
「うん」
「赤点なし」
悠飛は笑う。
「よくやった」
四葉が飛び跳ねる。
「やりました!」
「うるさい」
風太郎が言う。
「でも」
その顔には。
笑みが浮かんでいた。
「よく頑張った」
五人は驚く。
「風太郎くんが褒めた……」
一花がわざとらしく言う。
「何だ」
「珍しいなって」
「……」
「素直じゃん」
「うるさい」
悠飛は笑う。
「風太郎」
「何だ?」
「俺たちの勝ちだな」
「ああ」
二人は拳を合わせる。
◇
その日の帰り。
五つ子と六華。
そして悠飛と風太郎。
八人で歩く。
「ねえ」
一花が言う。
「今回の試験」
「うん?」
「私たち、少し変わったよね」
三玖が頷く。
「うん」
二乃も。
「前よりはマシ」
四葉。
「すごくマシです!」
五月。
「これも、皆さんのおかげです」
六華が笑う。
「でも、一番頑張ったのは五人自身だよ」
悠飛が言う。
「そうだな」
風太郎も頷く。
「俺たちは手伝っただけだ」
「……」
一花は悠飛を見る。
――この人と。
――もっと一緒にいたい。
四葉も。
――もっと頑張って。
――いつか悠飛さんの隣に。
六華も。
――この人のそばにいたい。
それぞれの想いは。
少しずつ大きくなっていた。
◇
帰宅後。
悠飛は家族と食卓を囲んでいた。
「試験、終わったんでしょう?」
明美が聞く。
「ああ」
「どうだった?」
「五つ子全員、赤点回避」
「まあ!」
明美が嬉しそうに笑う。
明馬も頷く。
「よく頑張ったな」
莉々華は胸を張る。
「さすがお兄ちゃん!」
「俺じゃない」
「じゃあ?」
「五人が頑張ったんだよ」
莉々華は少し考える。
「……お兄ちゃんらしいです」
「何が?」
「人のことばかり褒めるところ」
悠飛は笑った。
◇
夜。
自室。
悠飛は窓の外を見る。
冬の夜空。
吐く息が白い。
「もうすぐ三年生か」
高校生活も。
残り一年。
風太郎。
五つ子。
六華。
莉々華。
そして。
これまで出会った多くの人たち。
この一年で。
どれだけ変わっただろう。
悠飛は思う。
「……来年は」
もっと大変になる。
進路。
将来。
恋。
そして。
日の出祭。
まだ先の話だ。
けれど。
確実に近づいている。
その未来を思いながら。
悠飛は静かに笑った。
「楽しみだな」
一方。
五つ子たちも。
それぞれの部屋で。
同じように。
来年のことを考えていた。
一花は。
「もっと頑張ろう」
四葉は。
「来年も悠飛さんと一緒に」
六華は。
「三年生になっても」
そして。
五人全員が。
一つの目標を胸に抱く。
――もっと成長する。
――もっと大切な人たちと過ごす。
――そして。
それぞれの未来へ進む。
冬は。
静かに。
彼らの青春を包み込んでいた。