『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第42話「全員赤点回避!」

冬の朝。

 

旭高校の校舎は、吐く息が白くなるほど冷え込んでいた。

 

それでも、教室の中にはいつもとは違う熱気があった。

 

期末試験の答案が返却される日。

 

そして――五つ子にとっては、これまでとは意味が違う一日だった。

 

「……」

 

一花は自分の机に座り、答案が配られるのを待っている。

 

二乃は腕を組みながら窓の外を見ていた。

 

三玖は落ち着かない様子で問題集を閉じる。

 

四葉は机の上で指を組み、祈るような格好をしていた。

 

五月は背筋を伸ばし、教師のほうをじっと見ている。

 

「……緊張します」

 

五月が小さく呟いた。

 

「何よ、五月。今さら緊張しても仕方ないでしょ」

 

二乃が言う。

 

「ですが……」

 

「大丈夫だよ」

 

一花が笑った。

 

「みんな、ちゃんと勉強したんだから」

 

「そうです!」

 

四葉が勢いよく顔を上げる。

 

「私、過去最高に勉強しました!」

 

三玖が頷く。

 

「四葉は、本当に頑張ってた」

 

「三玖もです!」

 

「……うん」

 

五人の間に、以前にはなかった空気があった。

 

試験前。

 

誰か一人だけが勉強するのではなく、全員が互いに支え合った。

 

分からないところがあれば教え合った。

 

そして何より――

 

悠飛と風太郎が、最後まで付き合ってくれた。

 

「……」

 

一花はふと教室の後ろを見る。

 

そこには悠飛と風太郎がいた。

 

悠飛はいつも通り穏やかな表情。

 

風太郎は腕を組んでいる。

 

「……悠飛くん」

 

一花が小さく笑った。

 

すると悠飛が気づく。

 

「どうした?」

 

「ううん。何でもない」

 

一花は首を横に振った。

 

その隣では四葉も悠飛を見ている。

 

「……」

 

そして六華も。

 

三人の視線が、一瞬だけ交差する。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

誰も何も言わない。

 

けれど、それぞれの胸には同じ人への想いがあった。

 

 

「それでは、答案を返す」

 

教師が教卓の上に答案を並べる。

 

教室が静まり返った。

 

一人ずつ名前が呼ばれる。

 

「中野一花」

 

「はい」

 

一花が立ち上がる。

 

答案を受け取る。

 

「……」

 

点数を見る。

 

「……!」

 

思わず目を見開いた。

 

「どうだった?」

 

四葉が小声で聞く。

 

一花は答案を伏せたまま。

 

「……赤点じゃない」

 

「本当ですか!?」

 

四葉の声が少し大きくなる。

 

「静かに」

 

二乃が注意する。

 

一花は笑った。

 

「うん。大丈夫」

 

次に。

 

「中野二乃」

 

「はい」

 

二乃が答案を受け取る。

 

「……」

 

じっと見る。

 

そして。

 

「……ふっ」

 

小さく笑った。

 

「どう?」

 

一花が聞く。

 

「余裕」

 

「よかったね」

 

「当然よ」

 

二乃は強がる。

 

だが。

 

答案を握る手は、ほんの少し震えていた。

 

自分でも分かっている。

 

今回は頑張った。

 

だからこそ、嬉しかった。

 

「中野三玖」

 

「はい」

 

三玖が答案を受け取る。

 

「……」

 

じっと見る。

 

そして。

 

小さく拳を握った。

 

「……やった」

 

「三玖!」

 

四葉が嬉しそうにする。

 

「赤点じゃない」

 

「うん」

 

三玖の表情は、いつもよりずっと明るかった。

 

「頑張ってよかった」

 

「うん!」

 

 

「中野四葉」

 

「はいっ!」

 

勢いよく立ち上がる四葉。

 

答案を受け取る。

 

席へ戻る。

 

「……」

 

恐る恐る答案を開く。

 

「……」

 

数秒。

 

「……」

 

そして。

 

「やったぁぁぁぁぁっ!」

 

教室中に声が響いた。

 

「四葉!」

 

五月が慌てる。

 

「全員、見てください!」

 

「声が大きい!」

 

二乃が頭を抱える。

 

四葉は答案を掲げる。

 

「赤点ありません!」

 

「よかったね」

 

一花が笑う。

 

「はい!」

 

四葉は満面の笑みだった。

 

その笑顔を見て。

 

悠飛も微笑む。

 

「よく頑張ったな、四葉」

 

「!」

 

四葉の顔が一気に赤くなる。

 

「は、はい!」

 

「……」

 

一花がその様子を見て、少しだけ笑う。

 

六華も静かに見守っていた。

 

 

「中野五月」

 

「はい」

 

最後に五月。

 

答案を受け取る。

 

そして。

 

「……」

 

点数を確認する。

 

「……」

 

五月は何度も見直した。

 

「五月?」

 

一花が声をかける。

 

「……大丈夫です」

 

五月は顔を上げた。

 

「私も、赤点を回避しました」

 

「やった!」

 

四葉が五月の手を握る。

 

「おめでとうございます!」

 

「ありがとうございます、四葉」

 

五月も嬉しそうに笑う。

 

こうして。

 

五つ子全員。

 

赤点回避。

 

それは。

 

彼女たちにとって大きな一歩だった。

 

 

昼休み。

 

五人は屋上へ向かった。

 

悠飛と風太郎も一緒だ。

 

六華も加わっている。

 

「いやぁ……」

 

四葉が空を見上げる。

 

「本当に全員赤点回避ですよ!」

 

「だから何度も言わなくても分かる」

 

二乃が呆れる。

 

「でも嬉しいじゃないですか!」

 

「まあ……」

 

二乃も答案を見る。

 

「悪くない結果だったし」

 

三玖が言う。

 

「前回より全員上がってる」

 

五月も頷く。

 

「はい」

 

一花は答案を眺めながら。

 

「なんだか、不思議な感じ」

 

「何が?」

 

悠飛が聞く。

 

「最初の頃は、テストなんて嫌で嫌で仕方なかったのに」

 

「……」

 

「今は、次はもっと上を目指そうって思える」

 

悠飛は笑った。

 

「それは大きな成長だな」

 

「悠飛くんのおかげだよ」

 

「俺だけじゃない」

 

悠飛は風太郎を見る。

 

「風太郎が一番頑張ってた」

 

「俺は当然のことをしただけだ」

 

風太郎はそっけなく答える。

 

「それに」

 

風太郎は五人を見る。

 

「お前らが自分で努力したからだ」

 

「……」

 

五人は黙った。

 

風太郎は続ける。

 

「俺たちが問題を解いたわけじゃない」

 

「自分でペンを持って、自分で考えて、自分で答案を書いた」

 

「だから今回の結果は、お前らのものだ」

 

四葉の目が輝く。

 

「風太郎くん……」

 

「何だ」

 

「ちょっと格好いいです!」

 

「うるさい」

 

悠飛が笑った。

 

「素直じゃないな」

 

「お前まで言うな」

 

 

昼休みが終わる。

 

五人は教室へ戻った。

 

すると。

 

「おーい、悠飛」

 

男子生徒が声をかけてきた。

 

「何?」

 

「お前、中野姉妹の勉強見てるんだろ?」

 

「まあ」

 

「すげえな。五人とも赤点回避って」

 

「風太郎も一緒にやってるから」

 

「いやいや。それでも大したもんだ」

 

その会話を聞いていた四葉が嬉しそうに笑う。

 

「悠飛さん!」

 

「ん?」

 

「次はもっと上を目指しましょう!」

 

「もちろん」

 

「私、次は平均点超えます!」

 

「いい目標だ」

 

「はい!」

 

そのやり取りを見ていた一花は。

 

「……」

 

胸の奥が温かくなる。

 

以前の四葉なら。

 

「赤点を取らない」

 

それだけで精一杯だった。

 

今は。

 

「平均点を超える」

 

そんな目標を自分から口にしている。

 

それは。

 

五人全員がそうだった。

 

 

放課後。

 

いつもの勉強会は、今日は休みになった。

 

試験が終わったばかりだからだ。

 

「今日は勉強しない!」

 

四葉が宣言する。

 

「珍しいな」

 

悠飛が笑う。

 

「たまには遊びたいです!」

 

「そうね」

 

一花も頷く。

 

「久しぶりにみんなでどこか行かない?」

 

二乃が考える。

 

「じゃあ、駅前の店にでも行く?」

 

「賛成」

 

三玖が答える。

 

五月は少し迷って。

 

「……甘いものが食べたいです」

 

「五月らしい」

 

六華が笑う。

 

「じゃあ決まり」

 

悠飛が言った。

 

「今日はみんなで遊ぼう」

 

「はい!」

 

 

駅前の商店街。

 

久しぶりに勉強から解放された五つ子は、楽しそうに歩いていた。

 

一花はショーウインドウを眺め。

 

「この服、可愛い」

 

二乃はアクセサリーを見る。

 

「こっちのほうが一花に似合いそう」

 

「本当?」

 

三玖は本屋の前で足を止める。

 

「……」

 

悠飛が気づく。

 

「三玖、行かなくていいの?」

 

「行きたい」

 

「じゃあ行こう」

 

「うん」

 

四葉はスポーツ用品店。

 

「見てください!」

 

「何?」

 

「新しいシューズです!」

 

「買うの?」

 

「欲しいです!」

 

五月は。

 

「私はあちらのケーキ屋さんが……」

 

「やっぱり」

 

六華が笑う。

 

「食べる?」

 

「はい!」

 

「じゃあ行こう」

 

自然と。

 

それぞれの興味に合わせて。

 

みんなで歩いていく。

 

 

夕方。

 

ケーキ店。

 

全員が席につく。

 

「いただきます!」

 

五月が一番早くフォークを入れる。

 

「相変わらずだな」

 

風太郎が呆れる。

 

「食べ物は大切です」

 

「そういう問題か?」

 

一花が笑う。

 

「でも今日は頑張ったご褒美だよ」

 

「そうですよ!」

 

四葉が頷く。

 

「全員赤点回避記念です!」

 

「何その記念」

 

二乃が笑う。

 

「いいじゃない」

 

六華が言う。

 

「私も賛成」

 

「じゃあ」

 

悠飛がグラスを持ち上げる。

 

「全員赤点回避、おめでとう」

 

「おめでとう!」

 

みんなが声を合わせる。

 

小さな祝杯。

 

それは。

 

高校生活の中の。

 

ささやかな思い出になった。

 

 

店を出た後。

 

空はすっかり暗くなっていた。

 

「今日は楽しかったです!」

 

四葉が言う。

 

「うん」

 

三玖も頷く。

 

「またこういう日があるといい」

 

一花は悠飛を見る。

 

「……うん」

 

六華も。

 

「またみんなで来よう」

 

悠飛は笑った。

 

「約束」

 

「はい!」

 

 

その夜。

 

中野家。

 

五人はリビングに集まっていた。

 

「ねえ」

 

一花が言う。

 

「何?」

 

二乃が返す。

 

「私たち、最初よりずっと変わったよね」

 

「そうね」

 

「勉強も」

 

三玖が言う。

 

「人間関係も」

 

四葉。

 

「考え方も」

 

五月。

 

五人は顔を見合わせる。

 

そして。

 

一花が言った。

 

「これからも、みんな一緒だね」

 

「当たり前でしょ」

 

二乃が答える。

 

「うん」

 

三玖も頷く。

 

「もちろんです」

 

五月。

 

「はい!」

 

四葉。

 

六華も微笑む。

 

「私もいるよ」

 

「六華も家族みたいなものだからね」

 

一花が言う。

 

六華は少し驚き。

 

「……ありがとう」

 

その言葉が。

 

胸に響いた。

 

 

同じ頃。

 

上杉家。

 

風太郎は答案を机に置いていた。

 

らいはが覗き込む。

 

「お兄ちゃん、どうだった?」

 

「普通」

 

「普通って?」

 

「五人全員、赤点回避」

 

「すごい!」

 

らいはが笑う。

 

「お兄ちゃん頑張ったんだね」

 

「……俺じゃない」

 

「またそれ?」

 

らいはが笑う。

 

「お兄ちゃん、最近変わったよ」

 

「何が」

 

「楽しそう」

 

風太郎は黙る。

 

そして。

 

少しだけ笑った。

 

「……そうかもな」

 

 

そして。

 

如月家。

 

「お兄ちゃん!」

 

莉々華が悠飛の部屋に飛び込んでくる。

 

「どうした?」

 

「五つ子さんたち、全員赤点回避したんですよね!」

 

「ああ」

 

「すごいです!」

 

「みんな頑張ったからな」

 

「お兄ちゃんも!」

 

「俺?」

 

「はい!」

 

莉々華は胸を張る。

 

「お兄ちゃんが頑張ったからです!」

 

悠飛は苦笑する。

 

「俺は手伝っただけ」

 

「それでもです!」

 

「ありがとう」

 

莉々華は満足そうに笑った。

 

「……でも」

 

悠飛が言う。

 

「次はもっと大変だ」

 

「三年生?」

 

「ああ」

 

「進路もありますもんね」

 

「そうだな」

 

莉々華は少しだけ寂しそうな顔をした。

 

「高校生活も、あと一年なんですね」

 

「……」

 

悠飛も窓の外を見る。

 

「早いな」

 

 

翌朝。

 

学校へ向かう道。

 

悠飛と風太郎が並んで歩く。

 

「三年生か」

 

風太郎が言う。

 

「まだ少し先だけどな」

 

「それでも、あっという間だ」

 

「ああ」

 

二人の前には。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人が歩いている。

 

一花が振り返る。

 

「悠飛くん!」

 

「ん?」

 

「早く!」

 

四葉も手を振る。

 

「置いていきますよ!」

 

六華は笑っている。

 

悠飛と風太郎は顔を見合わせる。

 

「行くか」

 

「そうだな」

 

二人は歩き出す。

 

 

今回の期末試験。

 

五つ子全員、赤点回避。

 

それは数字だけを見れば。

 

小さな出来事かもしれない。

 

しかし。

 

彼女たちにとっては。

 

大きな意味を持っていた。

 

最初は。

 

勉強から逃げていた。

 

自分の苦手なものから目を背けていた。

 

けれど。

 

今は違う。

 

自分たちで努力する。

 

分からなければ聞く。

 

失敗したらやり直す。

 

そして。

 

少しずつ前へ進む。

 

悠飛と風太郎との友情。

 

五つ子同士の絆。

 

六華との関係。

 

そして。

 

一花、四葉、六華の胸に芽生えた恋心。

 

すべてが。

 

少しずつ変化していた。

 

そして。

 

冬はさらに深まっていく。

 

高校二年生の終わりが近づいていた。

 

その先に待つのは――

 

高校三年生。

 

進路。

 

修学旅行。

 

そして。

 

それぞれの恋が大きく動き始める一年。

 

悠飛たちはまだ知らない。

 

この冬の先に。

 

忘れられない青春の日々が待っていることを。

 

 

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