『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
期末試験が終わってから、数日。
旭高校では、ようやく二学期の慌ただしさが落ち着きを見せ始めていた。
冬休みを目前に控えたある日の放課後。
悠飛はいつものように、風太郎と並んで校門を出ていた。
「なあ、悠飛」
「ん?」
「冬休みの予定は決まってるか?」
「まだだな。家族とどこかへ行くかもしれないけど」
「そうか」
風太郎は少し考える。
「うちも、らいはがどこか行きたいって言ってたな」
「らいはなら喜びそうだ」
「……問題は親父だ」
「上杉さん?」
「ああ。仕事が忙しいからな」
二人がそんな話をしていると。
「悠飛くーん!」
聞き慣れた声が響いた。
振り返る。
そこには一花、二乃、三玖、四葉、五月。
そして六華がいた。
「みんな」
四葉が元気よく駆け寄ってくる。
「悠飛さん、冬休みの予定は決まりましたか?」
「まだ」
「そうなんですか?」
「四葉は?」
「私もまだです!」
「それなら――」
悠飛が言いかけた、その時だった。
「悠飛」
六華が手を挙げる。
「実は、ちょっと話があるの」
「話?」
「うん」
六華は一花たちを見る。
「みんなも関係あるから」
「私たち?」
二乃が首を傾げる。
すると五月が一枚の封筒を取り出した。
「これです」
「何それ?」
一花が受け取る。
「旅館の案内?」
「はい」
五月が頷いた。
「父……いえ、マルオさんが、冬休みに家族旅行へ行こうと」
「家族旅行?」
四葉の目が輝いた。
「温泉ですか!?」
「はい」
「温泉!」
四葉が両手を上げる。
「行きたいです!」
「四葉、まだ誰も行くとは言ってないわよ」
二乃が呆れる。
「でも温泉ですよ!?」
「それは……」
二乃も案内を見る。
「悪くないわね」
三玖も覗き込む。
「旅館……」
一花が笑う。
「みんなで行くの?」
五月が頷く。
「はい。私たち五人と、六華さんも誘われています」
「私も?」
六華が少し驚く。
「ええ」
五月が答える。
「マルオさんが『六華君も家族同然だ』と」
「……」
六華の表情が柔らかくなる。
「そっか」
そして。
一花が悠飛を見る。
「悠飛くんも来ない?」
「俺?」
「うん」
「俺までいいのか?」
「もちろんです!」
四葉が即答した。
「悠飛さんがいない旅行なんて、寂しいです!」
「四葉……」
一花も笑う。
「私も賛成」
二乃は腕を組む。
「まあ、いつも勉強ばかりだったし。たまには息抜きも必要でしょ」
三玖も頷く。
「悠飛がいるなら」
「私も賛成です」
五月も言った。
六華は少し恥ずかしそうに。
「……私も」
「そういうことなら」
悠飛は笑った。
「参加させてもらうよ」
「やったぁ!」
四葉が飛び跳ねた。
◇
その日の夜。
如月家。
リビングでは、悠飛が家族に旅行の話をしていた。
「温泉旅行?」
明美が嬉しそうに聞き返す。
「ああ。中野家と一緒に」
明馬も新聞から顔を上げる。
「中野家か」
「うん」
「それなら行ってこい」
「いいの?」
「もちろんだ」
明馬は笑った。
「友人との思い出は、金では買えないからな」
「父さん……」
「ただし」
明馬が続ける。
「遊びすぎて勉強を忘れるなよ」
「分かってる」
「それに」
明美が口を挟む。
「莉々華も連れて行ってあげなさい」
「え?」
悠飛が妹を見る。
「私もですか?」
莉々華は目を輝かせていた。
「もちろん行きたいです!」
「……」
悠飛は苦笑する。
「じゃあ、一緒に行くか」
「はい!」
莉々華が満面の笑みを浮かべる。
「お兄ちゃんと旅行です!」
◇
旅行当日。
朝。
駅前には、大勢の人が集まっていた。
中野家。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
そして。
悠飛。
莉々華。
さらに風太郎とらいは。
「……」
風太郎が人数を数える。
「多いな」
「家族旅行だからね」
悠飛が笑う。
「お兄ちゃん!」
らいはが悠飛のところへやってくる。
「久しぶり!」
「久しぶり、らいは」
「今日はいっぱい遊ぼうね!」
「ああ」
らいはは四葉たちを見る。
「五つ子のお姉ちゃんたちも元気?」
「元気だよ!」
四葉が答える。
「らいはちゃんも一緒に楽しもう!」
「うん!」
そこへ。
「皆さん、お待たせしました」
マルオが現れる。
「マルオさん」
悠飛が頭を下げる。
「悠飛君」
マルオも頷く。
「今回は娘たちのために来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘っていただいてありがとうございます」
「君がいると娘たちも安心する」
「……」
悠飛は少し照れた。
「それならよかったです」
そして。
マルオの隣には勇也もいた。
「おう、悠飛!」
「上杉さん」
「今日はよろしくな!」
「はい」
勇也は悠飛の肩を叩く。
「風太郎も、今日は勉強禁止だぞ!」
「分かってる」
「本当かぁ?」
「……」
風太郎は黙った。
「怪しいな」
勇也が笑う。
「お兄ちゃんは放っておくと参考書を開くからね」
らいはが言う。
「らいは……」
「本当のことだよ」
「……」
全員が笑った。
◇
電車。
長い旅路の始まり。
座席は自然と分かれた。
五つ子と六華。
悠飛と莉々華。
風太郎とらいは。
そして大人たちは少し離れた席。
「お兄ちゃん」
莉々華が窓の外を見る。
「雪、降るかな?」
「山のほうなら降るかもな」
「楽しみです」
その向かいでは。
四葉が窓に顔を近づけている。
「雪!」
「まだ降ってないよ」
一花が笑う。
「でも雪山が見えます!」
「本当」
六華も窓を見る。
悠飛はその様子を眺めながら笑っていた。
「楽しそうだな」
「悠飛さんも楽しんでください!」
四葉が振り返る。
「もちろん」
◇
数時間後。
一行は温泉旅館に到着した。
古くから続く、趣のある旅館。
門をくぐると、雪化粧をした庭園が広がっている。
「わぁ……」
一花が感嘆の声を漏らす。
「綺麗」
「すごいです!」
四葉は走り出しそうになる。
「四葉」
五月が止める。
「旅館の中では走ってはいけません」
「はーい」
二乃が笑う。
「子供みたい」
「二乃も少し嬉しそう」
三玖が言う。
「……そんなことないわよ」
「顔に出てる」
「三玖、うるさい」
六華は庭を眺める。
「綺麗だね」
悠飛が隣に立つ。
「ああ」
「こういう場所、久しぶり」
「俺も」
六華は悠飛を見上げる。
「……一緒に来られてよかった」
「俺もだよ」
六華の頬が少し赤くなる。
その様子を。
一花が遠くから見ていた。
「……」
そして。
四葉も。
「……」
二人とも何も言わなかった。
◇
部屋割りが決まる。
女性陣は大部屋。
男性陣は別室。
悠飛は荷物を置きながら。
「結構広いな」
風太郎が畳に座る。
「温泉旅館なんて久しぶりだ」
「らいはは?」
「女子部屋」
「そうか」
「……」
風太郎は窓を見る。
「こういうのも悪くないな」
「だろ?」
「たまにはな」
二人は少し笑った。
◇
その頃。
女性陣の部屋。
「温泉!」
四葉が叫ぶ。
「四葉」
五月が注意する。
「まだ入ってません」
「でも楽しみです!」
一花は荷物を整理している。
二乃は鏡を見る。
三玖は旅館の案内を読む。
六華は窓際に座っている。
「六華」
一花が声をかける。
「何?」
「楽しい?」
「うん」
「悠飛くんと一緒だから?」
「……」
六華が固まる。
「一花」
「ふふっ」
「からかわないで」
「ごめんごめん」
四葉が横から入る。
「でも私も楽しみです!」
「四葉は単純ね」
二乃が笑う。
「温泉と旅行があるだけで嬉しいんだから」
「それだけじゃありません!」
四葉は言う。
「悠飛さんと一緒だからです!」
「……」
一花と六華が四葉を見る。
四葉は自分の発言に気づいた。
「……あ」
「ふふっ」
一花が笑う。
「四葉、正直だね」
「うぅ……」
顔を真っ赤にする四葉。
◇
夕方。
温泉。
男子風呂。
「……」
悠飛が湯船に浸かる。
「温かいな」
「疲れが取れる」
風太郎も肩まで浸かる。
「試験の疲れもな」
「そうだな」
そこへ勇也が入ってくる。
「おう、お前ら!」
「上杉さん」
「どうだ、風太郎。少しは勉強以外のことも楽しんでるか?」
「楽しんでる」
「本当か?」
「本当だ」
勇也が笑う。
「悠飛、お前からも言ってやってくれ」
「何を?」
「風太郎に青春しろって」
「余計なお世話だ」
「ははは!」
勇也は豪快に笑った。
「青春なんてな、後から取り戻せないぞ」
悠飛はその言葉を聞いて。
少しだけ考えた。
「……確かに」
高校生活。
今しかない時間。
友達。
家族。
そして。
恋。
悠飛の頭に、一花、四葉、六華の顔が浮かぶ。
「……」
「どうした?」
風太郎が聞く。
「いや」
悠飛は笑った。
「何でもない」
◇
一方、女子風呂。
「はぁ……」
一花が湯船に浸かる。
「気持ちいい」
二乃も。
「たまにはこういうのもいいわね」
三玖。
「温泉、好き」
四葉。
「最高です!」
五月。
「温泉旅行は素晴らしいですね」
六華。
「……」
六華は湯気の向こうを見る。
「どうしたの?」
一花が聞く。
「ううん」
六華は笑った。
「ちょっと考え事」
「悠飛?」
「……」
「やっぱり」
一花が笑う。
「もう」
六華は恥ずかしそうにする。
「一花だって同じでしょう」
「……」
今度は一花が黙る。
二乃が呆れる。
「何よ、この二人」
三玖が静かに言う。
「恋愛相談?」
「三玖!」
「冗談」
四葉が笑う。
「みんな、悠飛さんが好きなんですね!」
「四葉!」
「え?」
四葉は首を傾げる。
「違うんですか?」
一花と六華。
二人とも答えられない。
五月が困ったように笑う。
「四葉は本当に素直ですね」
◇
夕食。
大広間には、豪華な料理が並んでいた。
「いただきます!」
五月が嬉しそうに手を合わせる。
「すごい料理ですね」
マルオが言う。
「今日は好きなものを食べなさい」
「はい!」
四葉も料理を見る。
「全部美味しそうです!」
「食べ過ぎるなよ」
風太郎が言う。
「風太郎くんもです!」
「俺は食べ過ぎない」
「本当ですか?」
「……」
一花が笑う。
「風太郎くん、四葉に完全に負けてるよ」
「うるさい」
勇也が笑う。
「いいなぁ。こういうの」
明馬も頷く。
「家族が揃うというのはいいものだ」
明美が微笑む。
「本当に」
莉々華は悠飛の隣に座っていた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「お料理、取ってください」
「はいはい」
「ありがとうございます」
「自分で取れるだろ」
「お兄ちゃんに取ってもらいたいんです」
「……」
四葉が笑う。
「莉々華ちゃんは相変わらずお兄ちゃん大好きですね!」
「はい!」
莉々華は即答した。
「お兄ちゃんは私の自慢ですから!」
一花が微笑む。
「仲良し兄妹だね」
「はい!」
◇
夕食後。
旅館の庭。
雪が降り始めていた。
「雪……」
六華が手を伸ばす。
白い雪が手のひらに落ちる。
「綺麗」
悠飛が隣に立つ。
「寒くない?」
「大丈夫」
「風邪引くなよ」
「悠飛こそ」
「俺は大丈夫」
六華は少し笑った。
「昔からそう」
「何が?」
「悠飛は自分より人の心配をする」
「……そうかな」
「そうだよ」
六華は雪を見る。
「変わらないね」
「六華も」
「私?」
「昔から、よく人のこと見てる」
「……」
六華の胸が高鳴る。
「悠飛」
「ん?」
「もし」
「うん」
「これからも、ずっと一緒にいられたら」
悠飛は笑う。
「もちろん」
「……」
「友達だろ?」
その言葉に。
六華は少しだけ目を伏せた。
「……うん」
「どうした?」
「何でもない」
六華は笑った。
けれど。
心の中では。
――いつか。
――友達以上になりたい。
そう思っていた。
◇
少し離れた場所。
一花と四葉がその光景を見ていた。
「……」
一花は何も言わない。
四葉も。
二人はしばらく六華と悠飛を見る。
「一花」
四葉が小さく言う。
「何?」
「私たち」
「うん」
「頑張らないといけませんね」
一花は少し驚く。
そして。
微笑んだ。
「そうだね」
「でも」
四葉は笑う。
「六華も大切な仲間です」
「うん」
「だから、喧嘩はしたくありません」
「私も」
一花は空を見上げる。
「……それでも、負けたくないけどね」
「はい!」
二人は笑った。
◇
翌朝。
朝食を終えた一行は、旅館を出る準備をしていた。
「楽しかったです!」
四葉が言う。
「また来たい」
三玖も。
「次は春がいい」
一花。
「桜とか綺麗そう」
二乃。
「その前に受験とか進路で忙しくなるわよ」
五月が少し寂しそうに言う。
「そうですね」
高校二年生の冬。
あと数ヶ月もすれば。
三年生。
そして。
卒業が近づいてくる。
「……」
悠飛はその言葉を聞いて。
少しだけ遠くを見る。
風太郎も同じだった。
「時間が経つのは早いな」
「うん」
悠飛は頷く。
「だからこそ」
「?」
「今を大切にしないとな」
風太郎は悠飛を見る。
「……そうだな」
◇
帰りの電車。
行きとは違い。
みんな少し疲れて眠っている。
四葉は座席で眠り。
五月も本を閉じて目を閉じている。
三玖は窓にもたれている。
二乃も静かに目を閉じる。
一花は寝たふりをしながら、悠飛のほうを見ていた。
六華も。
莉々華は悠飛の肩にもたれて眠っている。
「……」
悠飛は妹を起こさないように、そっと姿勢を変える。
その様子を見た一花が微笑んだ。
「優しいね」
「ん?」
「莉々華ちゃんに」
「妹だからな」
「……」
一花は小さく笑う。
「そういうところ、好きだな」
「え?」
「……」
一花は一瞬固まった。
「……今のは忘れて」
「?」
悠飛は首を傾げる。
一花は窓の外を見る。
「本当に鈍感だなぁ」
小さな声。
その言葉は。
悠飛には届かなかった。
◇
そして。
数時間後。
駅に到着。
「また学校で!」
四葉が元気に手を振る。
「うん」
一花も。
「じゃあね」
六華も。
「また明日」
悠飛は三人に手を振る。
「またな」
五つ子と六華が帰っていく。
悠飛はその背中を見つめる。
風太郎が隣に立つ。
「楽しかったな」
「ああ」
「……」
風太郎は悠飛を見る。
「お前」
「ん?」
「そろそろ自分の気持ちも考えたほうがいいんじゃないか」
「自分の気持ち?」
「何でもない」
「……?」
風太郎は歩き出す。
「帰るぞ」
「おい、待てよ」
悠飛も追いかける。
二人の後ろから。
「お兄ちゃん!」
莉々華の声。
「早く帰りましょう!」
「ああ!」
悠飛は振り返る。
笑顔で。
◇
家族旅行。
それは。
ただ温泉に入り。
美味しい料理を食べ。
楽しく遊んだだけの旅行ではなかった。
家族として。
友人として。
そして。
一人の大切な人として。
互いの距離を少しだけ縮めた時間だった。
一花は。
悠飛への想いを、より強くした。
四葉は。
悠飛と過ごす未来を夢見るようになった。
六華は。
自分の気持ちを、少しずつ認め始めた。
そして悠飛は。
まだ知らない。
自分の何気ない優しさが。
三人の少女の心を。
どれほど大きく揺らしているのかを。
冬の雪は。
静かに降り続いていた。
そして。
高校二年生の冬休みは。
ゆっくりと終わりへ向かっていた。